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ヘルステックスタートアップの成長戦略~ヘルスケア巨大市場日本の可能性~

2020年01月07日

  • あすか会議
  • テクノベート
  • 創造
  • 変革
  • 最先端

モデレーター

廣瀬 聡 グロービス経営大学院 経営研究科 副研究科長/事務局長

パネリスト

遠藤 謙氏 株式会社Xiborg CEO
高橋 祥子氏 株式会社ジーンクエスト代表取締役
中尾 豊氏 株式会社カケハシ代表取締役 CEO

※あすか会議とは

「あすか会議」(ASKA=Assembly for Synergy, Knowledge and Ambition)は、グロービス経営大学院の教育理念である「能力開発」「志」「人的ネットワーク」を育てる場を継続的に提供するために、グロービス経営大学院の在校生・卒業生および教員、各界のトップランナーが一同に会する合宿型のカンファレンスです。第1回あすか会議は2005年、奈良県飛鳥荘にて80人の参加者を迎えて開催。第15回目となる2019年のあすか会議には、東京、大阪、名古屋、仙台、福岡、オンライン、英語MBAの学生1,500名が浜松に集い開催しました。

時代の変化とタイミングを見極めたスタートアップ

現在、市場規模30兆円にも達するヘルスケア産業では、テクノロジーによる革新でスタートアップが乱立する時代になっている。これまで行政や病院、製薬会社など巨大な事業体が担ってきた産業だが、テクノロジーの進化により数多くのスタートアップが参入し、続々とイノベーションを起こしている。人生100年時代と呼ばれる平均寿命の延伸と高齢化、予防医療への意識の高まりなどを背景に拡大するヘルスケア分野で戦うヘルステックスタートアップは、いかなる成長戦略を描いているのか。


モデレーターのグロービス経営大学院 経営研究科 副研究科長である廣瀬聡は、新市場を切り開くトップランナーたちに起業の背景について問いかけた。

ロボット技術による義肢を開発する株式会社XiborgCEOの遠藤謙氏は創業にいたった原体験を語った。


「大学院生のときに二足歩行のロボットの研究をしていました。所属していたバスケットボール部の後輩が骨肉腫という病気で足を切断することになって。そこでロボットと義足で何かできないかと考えていたときに、たまたまマサチューセッツ工科大学のメディアラボの先生で義足の研究をしている方と知り合い、翌年から義足ロボットを提供し始めました。ただ、当時は儲からなさそうだなと思いながらも、テクノロジードリブンで未来を変えられるのではないかという気持ちが勝った」


続けて、テクノロジーの進化によって、障害者と健常者の隔たりをなくしソーシャルインパクトを与えた事例について言及した。


「2012年ロンドンパラリンピックで、『障害者』を『スーパーヒューマン』だと再定義したCMが一躍世の中に知れ渡りました。今までの障害者=社会的弱者というイメージを払拭し、心理的バリアをなくした事例です。障害者と健常者の違いをテクノロジーが補完し、包括的な社会が実現できると思っている」


「病気の予防」をめざしてゲノム解析の研究に励んできた株式会社ジーンクエスト代表取締役の高橋祥子氏は、研究とサービスとのシナジーが起きるビジネスモデルを構想した。

「私は家族に医者が多く、初めは医者の道を考えた。だが、病気になってから直すよりも、そもそも病気になる前に予防はできないかと考え、生命科学の研究をするために大学院に進んだ。まだ解明されていない生命科学の発展には膨大な研究費・データ・時間を要する。そこでゲノム解析の研究成果を社会に提供するサービスを作って広めれば、データ収集しながら研究を進められサービスにフィードバックできると考え、大学院生のときに研究とサービスとのシナジーを生み出す手段として会社を立ち上げた」

「⽇本の医療体験を、しなやかに。」というミッションを掲げる株式会社カケハシ代表取締役CEOの中尾豊氏は、調剤薬局や薬剤師の市場と構造の変化に着目した。


「薬局のあるべき姿が『対物から対人ヘ』と変化し、『かかりつけ』という言葉が生まれ薬剤師が薬を渡すだけでなく、助言を通じて付加価値を提供する必要がでてきた。外部環境が変わり業界に圧力がかかり、うねりが生じているタイミングに、スタートアップとして入り込める余地を見出した」


続けて、「患者にとって価値になるもの」を追求する中で生まれたサービスについて説明した。


「私たちのサービスは、患者さんの年齢・性別・食生活・処方箋を分析することで、タブレット上により良い食事や運動、薬の服用方法などがサジェストされる。薬剤師さんは、それを患者さんに見せながら付加価値のあるコミュニケーションがとれ、カルテとしてデータも残せ、患者さんの健康意識や行動変容にもつながっている」

一番のリスクヘッジが「起業」

高橋氏は、ロジカルに考えてもっともリスクが低く最適な選択肢として、起業を決意したという。


「私の場合、大学に残った場合何年間で何本くらいの論文書いて、何歳で准教授になって、という未来が大体みえた。自分の努力だけでなくアカデミックポストの問題など外部環境の影響がとても大きい。自分の努力で変えられない道を歩むより、努力次第で変えられる起業の方がリスクは低い。失敗しても学生に戻るだけだと思った」


続けて、今感じているリスクについて語った。


 「ゲノムの世界は物凄い可能性があるが、分析にとても時間がかかる。私が生きているうちに達成できるか分からないことに挑戦しているので、余計なことに時間をかけていられない。20年、30年かけてこんなことしかできなかった、とはなりたくない。それは自分の命を失うこと一緒だと思っている」

起業に関して、「チャレンジしないことがリスク」だと中尾氏も続けた。


「ある企業からオファーをもらったことキッカケに、初めて人生の岐路に立たされ自分の命について考えるようになった。そっちの道に進めば、比較的お金持ちになる。一方で経営に携わるまでに10年ほど費やす可能性がある。その間にAmazonや楽天のようなEコマースで遠隔の服薬指導が解禁されたら、リアル店舗が淘汰される可能性もある。そのような時代や環境の変化に自分が合わせに行くのではなく、環境を変える側になった方がリスクヘッジになると考えた。加えて、約10年を企業での出世に費やすよりも、患者さんの利便性や安全性が高まる仕組みをいち早く作ったほうが、社会的意義があると考えた」


高橋氏は、起業を選択したことで人生がより豊かになったと述べた。


「人類の可能性は、思考できるところにある。思考することはエネルギーを物凄く使い、思考しなくてもよい環境にいると人はおのずと思考停止になる。思考しなくてもよい環境とは、問いがないということ。起業するとたくさんの問いが降りかかるので、常に思考を巡らせることになるが、その結果さまざまな可能性が広がり、人生を豊かにする。」

ヘルステックを日本で展開する上での鍵とは

廣瀬は、最後に日本におけるヘルステックスタートアップのハードルとその乗り越え方について三者に問いかけた。


「義足で儲けようとは思っておらず、どのような変革を起こせるかにフォーカスをあてている」と遠藤氏は語った。


多くの研究者が、研究から実用化されるまでに資金が足りず「死の谷」を迎えるという。遠藤氏は、研究開発のための資金調達において、投資や融資以外の方法を独自に考え出してきた。

オリンピック・パラリンピック関連イベントへのスポンサー募集や、障害者と健常者の境目をなくすプロモーション提案がそれだ。


「作ったものに社会性のあるメッセージを載せて付加価値をつけ、資金を集める仕組みとしてイベント屋をしている。エンジニアリングだけれど、やっていることはアートに近い。例えば車椅子で生活している乙武さんに義足ロボットをつけて歩いてもらうと、世の中はビックリする。私はこのように障害者をテクノロジーの力で補完して健常者と同じように生きることは当然の未来だと思っている。また、義足を作って売るに留まらず、他の産業も巻き込むことでマーケットを拡大できると考えている」

高橋氏は、海外と日本での新興領域に対する捉え方の違いを述べた。


「ゲノム解析技術はこの15年で飛躍的に進歩し、コストが10万分の1になった。個人にも提供できるようになり、アメリカで個人向け遺伝子解析サービスが爆発的に広がった点に着目した。新しいがゆえに、ビジネスモデルの勝ちパターンはいまだ模索中。そのような中、アメリカや中国は1社あたりに数百億とか投資が集まっているが、日本では新興領域に資金が集まりにくいことがハードル」


一方でそうした状況に置かれていても、ゲノム研究の社会的意義と生命科学の可能性が自分を突き動かしていると語った。


「ゲノム研究を行う研究者の8割以上が欧米人だが、欧米人の世界人口に占める割合は16%に留まる。欧米人とアジア人では遺伝的な背景がまったく異なることや日本人は遺伝的な背景が均質であることから、日本を基盤に研究を行う意義は非常に大きい。私はゲノム関連のバイオテクノロジー、生命科学の可能性を信じている。日本の超高齢化社会の問題をサイエンスの面から解決したいと思って取り組んでいる」

中尾氏は、ハードルの乗り越える際に一番重要なことは「自分の幸せを定義すること」だと答えた。


「ハードルが見えたときに、それでもやりきりたいと思えるミッションを明確に持っているかが大切。そして、今やっていることが、自分の幸せにつながる道なのか?を確認してほしい。そのためには、自分にとって幸せとは何かを定義しておくことが重要」


また、ヘルスケア産業に非医療従事者としてビジネスを仕掛けた自らの経験から、専門外の人間が業界で共感を得るために重要なことがあると語った。


「まず、業界やそこで働く人々へ敬意を持つこと。彼らがどんな想いで活動しているかを徹底的に理解することが重要。次に、その業界のあるべき姿を解像度高く把握し、めざす世界観を明確にすること。最後に、現状でそこに至らない環境要因が何か、課題発見をする。この3点を確実に行えば、一緒に解決策を考えようという仲間が増える」


ヘルステック業界で奮闘するリーダーたちが何を意識し事業を起ち上げ、どのようにイノベーションを起こそうとしているのか。未来のイノベーターたちにとって、ヒントが凝縮したセッションとなった。

「あすか会議」は、グロービス経営大学院の教育理念である、能力開発、ネットワーク、志を培う場を、在校生・卒業生に継続的に提供することを目的として、各界で活躍する経営者や政治家、学者および教員などを招待して開催するビジネスカンファレンスです。

モデレーター

廣瀬 聡グロービス経営大学院 経営研究科 副研究科長/事務局長

パネリスト

遠藤 謙氏株式会社Xiborg CEO

高橋 祥子氏株式会社ジーンクエスト代表取締役

中尾 豊氏株式会社カケハシ代表取締役 CEO

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