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日本の教育改革~未来を生き抜く資質と能力を育てるには~

2019年12月02日

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  • あすか会議
  • 思考
  • 創造
  • リーダーシップ
  • 先進事例

モデレーター

安渕 聖司氏 アクサ生命保険株式会社 代表取締役社長 兼 CEO

パネリスト

高濱 正伸氏 株式会社こうゆう 花まる学習会 代表取締役
中室 牧子氏 慶應義塾大学総合政策学部 教授
福武 英明氏 株式会社ベネッセホールディングズ 取締役
水野 雄介氏 ライフイズテック株式会社 代表取締役 CEO

※あすか会議とは

「あすか会議」(ASKA=Assembly for Synergy, Knowledge and Ambition)は、グロービス経営大学院の教育理念である「能力開発」「志」「人的ネットワーク」を育てる場を継続的に提供するために、グロービス経営大学院の在校生・卒業生および教員、各界のトップランナーが一同に会する合宿型のカンファレンスです。第1回あすか会議は2005年、奈良県飛鳥荘にて80人の参加者を迎えて開催。第15回目となる2019年のあすか会議には、東京、大阪、名古屋、仙台、福岡、オンライン、英語MBAの学生1,500名が浜松に集い開催しました。

STEAM(スティーム)教育の可能性―これからの学びに必要なことは

科学技術の発展に伴い社会が急激に変化する中で、社会で必要とされる人材も変化している。科学技術を理解するだけではなく、それを活用できるクリエイティビティを養うための教育として、STEAM(スティーム)教育への関心が高まっている。


STEAM教育とは、 Science(科学)、 Technology(技術)、 Engineering(工学)、Mathematics(数学)を統合的に学習するSTEM(ステム)教育に、 Art(芸術)を加えて提唱された教育手法である。


文部科学省でも高等学校時代からSTEAM教育を導入していく方針で、高等学校を社会の変化に対応できる能力を身につける場にしようと推進している。

このような変革期の中で、「教育は長期的に最もリターンの高い社会投資である」と捉え国内外の様々な教育活動を支援してきた、モデレーターのアクサ生命保険会社の代表取締役兼CEOの安渕聖司氏。これからの学びに本当に必要なものはなんであるのかをパネリストに問いかけた。


中高校生を対象に、IT・プログラミング教育を手掛けるライフイズテック株式会社代表取締役CEOの水野雄介氏は、「STEAM教育の1つであるプログラミング教育の本質は、クリエイティビティを養うことにある」と語った。

「インターネットの活用やプログラミングは、人類がサステイナブルに進化し繁栄するために発明した紙や火と同じ。人間が幸せになるためにはさまざまな課題を解決する必要があるが、その手段としてプログラミングを使っている。私たちは中・高校生にプログラミング教室を運営していますが、受講者には『半径2メートルから世界を変えよう』と話している。身近な『おばあちゃんのために、お母さんのために、友達のために』とか家族の抱える課題解決が世界を変えていく」


加えて、アントレプレナーシップ(起業家精神)との繋がりについて述べた。


「アントレプレナーシップは、誰かのせいにせずに自分で行動して社会をよくしたいと未来を切り開く力。それを養うには、子どもたちに多様性を理解してもらう必要がある。『人と自分が何が違うのか?』が分かってその上でどう共存しあうのか、多様な社会を知り課題を見つけどのように解決するか。そこにアントレプレナーシップというマインドと、プログラミングというスキルがセットで活かされる」


通信教育や育児、語学、グローバル人材育成、シニア・介護など多様な領域でビジネスを展開するベネッセコーポレーション取締役の福武英明氏は、もともとSTEM教育だったところにArt(芸術)が入ってSTEAM教育となったことを評価している。

「個人的にはとても面白いと思う。Artは異質なもので一番扱いが難しいが、評価軸や制約を持たせないことが大事だと思う。『明確な答えがない』ところに価値があるので、究極的には評価しなくてもよく、Art芸術が入ったことによって、STEM教育がよりレバレッジが効いてくる。今の社会の仕組みのほとんどは、クリエイティビティを疎外したり制約したりする流れにある。そのような中で、いかにクリエイティブ・コンフィデンス(自分の創造力に対する自信)を育むかが今後のポイントだと思う」

最前線の教育現場に携わる者に求められる要素

教育で獲得した能力を数値化し、将来の成果への影響を経済学的視点から研究してきた慶應義塾大学総合政策学部教授の中室牧子氏。小学校教育へのプログラミングや英語教育の導入において「不易と流行をどう捉えるか」が重要だと語った。


「日本人は削ることが本当に苦手で、流行に乗って増やすばかりで『たくさんの兎を追った結果なにも手に入らない』という状況に陥るのではなかと懸念している。24時間という限られた時間の中で、新しい教育を導入するのならば、削る部分も必要でありその取捨選択には、教育者の力量が必要となる。」


また、Windows95が発売された時代を振り返り、教育において押さえるべき2つの側面について述べた。


「当時、1日400万台売れてインターネットが一気に普及していった。その翌年、慶応義塾大学湘南藤沢キャンパスで、インターネットの父と称された村井純教授が、『インターネットの重要性については充分伝えた。この後の社会はみんながその重要性に気付いて変えていってくれるだろう』と語っていた。大学生だった私には何を言っているのかがよく分からず、その後20年30年先どう社会が変わっていくのか想像できなかった。この経験から教育には2つ側面があると痛感した。1つ目は、新しい技術や知識やスキルを習得していくこと。2つ目はそれらをどのように活かして社会を変えていくか、先を見通す目を養うこと。村井教授が社会を変えていく現場を間近で見てこれらを叩き込まれてきたので、次世代の教育を担う教育者には、まさに将来を見通す力が求められる。」


モデレーターの安渕氏は、ビル・ゲイツの例をあげてまとめた。


「ビル・ゲイツは『ムーアの法則が本当ならば、近い未来コンピューターがすべて無料になる。ハードウェアに価値はなくなるからソフトウェアで勝負した』とある本で言っています。今もう既にある技術だけれども、それが20年後どうなるのか、なかなか予測できないし、突き詰めて考えることは難しい。コンテクストから未来を想像する力が、いかに重要かがわかるコメント」


先を見通す視点という文脈で、「花まる学習会」を運営する株式会社こうゆう代表取締役の高濱正伸氏はこのように述べた。


「先ほど、別プログラムの登壇者の松山大耕氏と話していて、彼は数十年前に中学3年生でたった一人アメリカに行ったことで『英語が話せるお坊さん』となった。その経験が後にものすごく役に立ったが、娘に強要するつもりはないという。なぜなら当時は『希少な価値』だったが今は違うからだ。ここに本質の見極めがある」


プログラミングも同じ様に考えていると続けた。


「プログラミングは、すぐに誰もが標準装備するスキルとなるだろう。そんな中で、我が子たちにどんな価値を持たせることが必要かというと『希少性』である。その変わらない本質を見る目が大事」

世界でも注目される非認知能力

数理的思考力・読書と作文を中心とした国語力に加え、野外体験を三本柱として、「メシが食える大人」を育てることを理念にかかげている高濱氏は、幼少期に養われる非認知能力について語った。

「やる気や集中力、やり抜く力、など人間として生きていくために必要な力である非認知能力を養うことが重要である。それらを養うことができるのは、幼少期の小学4年生くらいまでだと現場をみてきた経験から思う。それらを養う機会は、クリエイティブな野外体験など遊びの中にある。例えば、何もない野原に秘密基地をつくる体験によって、『答えのないところに自分で決めてやり切る』力が育まれる。また、親が変わらないといけないと思っていて、私の時間の9割はそこにさいている。お母さんがハッピーで、子育てにちょっとした工夫をするだけで、子どもはのびのびと遊ぶことができ、集中力や物事をやり切る力が養われる。」


教育に統計データを活用することを提唱している中室氏は、2000年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のジェームズ・ヘックマン氏の研究について言及した。

「この研究は、大規模な実験データに基づいて、幼少期に非認知能力が修得できる質の高い教育を受けると、将来において社会経済的状況が良くなることを明らかにした。幼少期の非認知能力の修得が将来にわたって有利になることが示された。なので、高濱さんの『幼少期に質の高い教育が重要』という現場感は様々な研究からも言えることだと思う。ただ、注意すべきは教育の効果は年齢に反比例する傾向にはあるが、幼少期を過ぎても修得量が止まってしまうわけではないということだ。成人後くらいまでは多くのチャンスはある」


加えて、日本の教育改革を推し量る上で、教育者のアップグレードが必要だと説いた。


「学力テストで測れる認知能力と測りきれない非認知能力は、別々の方法で鍛えられるものではなく、組み合わせによるものである。それ故、教育者は、社会が必要とする能力や資質を見極め、教育活動において認知能力と非認知能力をどう組み合わせ、どう取捨選択するかが問われる。」


福武氏は、自身の生活から非認知能力の鍛え方を示唆した。


「人間が本来持っている能力は無限で、蓋をされているのをいかに引き出すかが重要。そのためには、意味のないものや毒になる要素もある程度吸収しておかないと、本来持っている能力が引き出されないと思っている。例えば、情報社会の中では、フェイクニュースなどがあるからこそ、本質を見抜く力が養われる。私はこの頃よくワクチンの予防接種を受けています。『適量の菌を身体にいれることによって抵抗力を呼び起こす』という考え方が面白い」


また、STEAM教育のArtについても触れられた。


「『ヴィジュアル・シンキング・ストラテジー』という美術鑑賞方法があります。みんなで絵をみながら、ファシリテーターが『あなたはこの絵を見てどう思いますか?』と問いかけて、対話をしながら美術館をまわったりするのがトレンドになっている。答えのない中でディスカッションを通じて、クリエイティビティが育まれる」

水野氏は何かに没頭した経験や人との出会いによって夢や目標を持つと、能力が伸びることがあるという。


「DNAと幼児教育で、その人の8割位は決まってしまうという感覚があるが、中高時代以降にも、人生を変えるチャンスはある。中高生は、1つことにギュッと集中したときにグッと伸びる瞬間がある。ただ、そのときに夢や目標を持っているかどうかが大切。もし持っていないとすると、それはとても勿体ないことだと思うし持たせてあげたい。人生が変わる瞬間が皆さんにもあったかと思います。この恩師に出会えたから、部活でこれをやれたからとか。そういう瞬間を作ってあげることがすごく大事だと思っている」


一方で、まだまだ教育現場でデータ化されていない現状も指摘した。


「ディープラーニングの技術を活用して、生徒たちのさまざまなデータを分析できれば、自分が得意なものが何なのかレコメンドされるようになる。レコメンドされた後、また自分なりの生き方を考えたらいい。親御さんや教師の勘に頼るばかりだけでは、不幸せだと思っている」

変化の激しい社会の中で未来の担い手たちを輩出していくには、幼少期の教育環境や大人になるまでの経験がますます重要になってきているといえる。

「あすか会議」は、グロービス経営大学院の教育理念である、能力開発、ネットワーク、志を培う場を、在校生・卒業生に継続的に提供することを目的として、各界で活躍する経営者や政治家、学者および教員などを招待して開催するビジネスカンファレンスです。

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