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「風を待つか。風になるか。」――横浜DeNAベイスターズ流人材育成

2019年11月20日

  • 創造
  • 変革
  • 先進事例
木村 洋太 木村 洋太 株式会社横浜DeNAベイスターズ 取締役副社長 兼 事業本部 本部長
田久保 善彦 グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長

近年、事業成長が目覚ましい横浜DeNAベイスターズ。一般企業の経営と比較してどのような違いがあるのか、社員のモチベーションをいかに高めているのか。前編に続き同社取締役副社長の木村洋太氏にお話をうかがいました。(文=荻島央江)*全2回 後編

企業経営と球団経営に違いはあるか

田久保:木村さんは外資系戦略コンサルのご出身です。一般企業と比較して、球団経営をしていく上での難しさはありますか。


木村:本質的な部分はあまり変わりません。BtoCのビジネスならさほど構造に違いはないですね。お菓子メーカーでも化粧品メーカーでも、ユーザーがファンになって、いくつかあるメーカーの中から「これが好き」となるのと一緒だと思う。ただ、スポーツの場合は、一度ファンになったらなかなか離れない。


唯一、大きく違うのは商品価値的な部分、チームの強さのコントローラビリティが低いということです。テコ入れしてすぐに何とかなるものではなく、数年かけてつくっていく必要があります。我々がチームの強さにかかわらず、成果を出すことを目指したとしても、やはり引きずられます。そこに難しさは感じます。


田久保:ベイスターズの社員は野球経験者がほとんどなのですか。


木村:経験者は半分もいないです。私自身は野球が大好きで、中学生の頃は1人で新幹線に乗って観に行っていたほどです。ただ周りを見ると、必ずしも野球が好きだからベイスターズに入ったわけじゃない。


田久保:野球ファンではない人は、どんなことに魅力を感じて入社したのでしょうか。


木村:「成長局面で自分のストレッチになりそうだから」とか、「年齢に関係なくチャンスを与えてもらえるから」といった理由のようです。最近は横浜スポーツタウン構想を打ち出しているので「街づくりに携わりたい」という人も増えています。

1週間で状況が変わっていることも

田久保:総合エンターテイメント産業的な側面もある中で、社員にはどうあってほしいですか。


木村:社員には仕事を楽しんでほしいですよね。そこがお客さんに伝わる部分は当然ある。グラウンドに立っている人にはつまらなそうにしてほしくない。それが結局、お客さんの楽しさにもつながると思います。

フラットな組織で、社員との距離は近いし、風通しもいい。ジャッジも速いと思います。議論のために寝かせている間に「やっておけばよかった」みたいなことありますよね。大してお金がかからないなら、やっちゃおうと。「お客さんが欲しているのは1週間後じゃなくて、ここだよね」って。社内の議論のために、お客さんの熱が下がってしまうのはもったいない。その意味でこのビジネスで気をつけないといけないのは即応性ですね。


田久保:1週間で状況が変わっていることがありますよね。


木村:そこは一般消費財とは違う部分かもしれないですね。混戦状態だと、首位争いをしていると思ったら、Bクラスに落ちていることもある。「首位争いをしているときなら意味があるけど、今なら意味がない」みたいなことは多々あります。


田久保:確かに「今やらないで、いつ踏ん張るのか」みたいな瞬間がありそうですね。ただ働き方改革などもあり、踏ん張ってばかりもいられなくなりました。


木村:そうですね、当社も就業時間はしっかり管理しています。一方で踏ん張ってやることが成長の糧になることもあります。ルールを守った上で、そういう経験をいかに若い人たちに積んでもらうかは、我々が考えていかないといけない部分ですよね。「短い時間の中でアウトプットを出す」ことで、似たような体験をつくることは可能かなと思っています。


あとは、いかに仕事外の時間でうまく仕事につながるインプットを得られるかも今後、会社が成長するために求められてくる気がします。我々のような総合エンターテイメント産業の場合、外で「面白かったな」と感じることをメモするだけでも変わるかもしれない。

いかに社員をワクワクさせるか

木村:プロ野球の場合、開幕があって、シーズンがあって、オフがあって、その時々でやることが決まっています。ある意味毎年同じことをやるので、いかに社員をワクワクさせるか、既存の流れだけにとらわれないものをいかにつくっていくかは重要なポイントです。


田久保:人をワクワクさせてお金をいただこうとしている産業だから、当人がワクワクしてなかったらワクワクを生み出せないよねって、当たり前のようですけど、すごく大事ですよね。


木村:年初に社長の岡村から「風を待つか。風になるか。」という社内スローガンを社員に伝えました。追い風を待ちますか、それとも自分たちで風になりますか。僕たちは風になる側にいきましょうという意味を込めています。その際、より意図が伝わるように、動画もつくり、全社員に伝えました。


田久保:いいコピーですね。さすが人の心を盛り上げる、盛り上がった場をつくることが生業だけあって、社員の心を盛り上げることにもきちんと時間とエネルギーを割いているのですね。


木村:「風になれ」と言うと「まだそんな無茶言うのか」といった温度感で伝わりかねないので、どうやって伝えようかを話し合い、動画で伝えることにしました。この中のメッセージをたぶん言い続けないといけないのでしょうね。社内にもう1回見せてみよう(笑)。

最大の地方都市だからできること

田久保:実はグロービスは2年前、横浜に特設キャンパスを開設していて、これまで累計で800人近くの受講生が横浜で学びました。受講生が急増していることから、来年5月にこれを移転・常設化し、新たに常設のキャンパスとして開校する予定です。横浜でビジネスを展開している先輩としてうかがいたいのですが、横浜の地域性をどんなふうに捉えていますか。


木村:横浜市の人口は現在、374万人ですが、爆発的に増えたのは戦後ですよね。いろいろな地域から横浜に移り住んできた人が多いせいか、変化に柔軟な地域性はあるような気がします。とはいえ、みなさん横浜に強い愛着がありますね。


田久保:横浜にお住まいの方は、東京ではなく、横浜に住みたくて住んでいる人が多いですよね。


木村:東京を選んでいない時点で、王道を好まない人たちが多そうです。ちょっとずつズレるのを好む方々と言いますか。


田久保:ちょいずらしですよね。そういった部分をくすぐるような仕掛けが横浜においては有効なのでは、と個人的には思っています。その点では、ベイスターズのオリジナルクラフトビールの「横浜でしか買えない」「僕たちだけの」といったところが、ハマっ子に響いていそうですよね。


木村:そういう部分はありますね。たぶん横浜の人は、横浜で生まれたものがその後、全国区になったら、それはそれでハッピーなのだと思います。


田久保:最後に、グロービス横浜校で学ぶビジネスパーソンに向けて、よりいっそう横浜を盛り上げていくためにどんな貢献をしてほしいですか。


木村:東京で始まったことは、そのほとんどがやがて日本のスタンダードになります。横浜の場合、必ずしもそうはならないかもしれませんが、ここで生まれたものは名古屋や大阪や福岡に横展開できる可能性があります。東京とは異なる何かを見いだして、そこにフォーカスして頑張るといいかもしれません。ナンバーワンの地方都市という横浜の特性を生かして、王道ではないことにぜひ挑戦してほしいと思います。


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木村 洋太木村 洋太 株式会社横浜DeNAベイスターズ 取締役副社長 兼 事業本部 本部長

田久保 善彦グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長

慶應義塾大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科修了。スイスIMD PEDコース修了。株式会社三菱総合研究所にて、エネルギー産業、中央省庁(経済産業省、文部科学省他)、自治体などを中心に調査、研究、コンサルティング業務に従事。現在グロービス経営大学院及びグロービス・マネジメント・スクールにて企画・運営業務・研究等を行なう傍ら、グロービス経営大学院及び企業研修におけるリーダーシップ開発系・思考科目の教鞭を執る。経済同友会幹事、経済同友会教育問題委員会副委員長(2012年)、経済同友会教育改革委員会副委員長(2013年度)、ベンチャー企業社外取締役、顧問、NPO法人の理事等も務める。著書に『ビジネス数字力を鍛える』『社内を動かす力』(ダイヤモンド社)、共著に『志を育てる』、『グロービス流 キャリアをつくる技術と戦略』、『27歳からのMBA グロービス流ビジネス基礎力10』、『創業三〇〇年の長寿企業はなぜ栄え続けるのか』(東洋経済新報社)、『日本型「無私」の経営力』(光文社)、『21世紀日本のデザイン』(日本経済新聞社)、『MBAクリティカル・シンキングコミュニケーション編』、『日本の営業2010』『全予測環境&ビジネス』(以上ダイヤモンド社)、『東北発10人の新リーダー 復興にかける志』(河北新報出版センター)、訳書に「信念に生きる~ネルソン・マンデラの行動哲学」(英治出版)等がある。

グロービス経営大学院では、MBAプログラムの実際の授業に参加できる「体験クラス」を開催しています。

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