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『「ついやってしまう」体験のつくり方』 ――感情を意図的に設計する方法

2019年10月01日

  • 書籍
尾花 宏之 グロービス・コーポレート・エデュケーション シニアコンサルタント

“体験”という言葉がビジネスの世界で重要なキーワードになって久しいですが、体験が価値を持つのは、その裏で“感情”の設計が緻密にされているから。感情を理解し、ビジネスに応用できている方は果たしてどれほどいるでしょうか。


本書は、元・任天堂のデザイナーであり、1億台以上売り上げた家庭用ゲーム機「wii」の企画担当者である玉樹真一郎氏による2作目の著書です。


ゲームに取り入れられた“つい”行動してしまう仕掛けをビジネスに生かすためのメソッドが本書には散りばめられています。

本書の特長

本書は特に以下のポイントで「体験デザイン」を学ぶ書籍として優れています。


(1)学問として未確立の「体験デザイン」を体系化&具体化している点
体験デザインは、まだ学問として単体で確立していません。そのうえ、対象となる領域は心理学・文化人類学・文学・経営学・経済学など非常に多岐にわたっており、初めて体験デザインを学ぼうとするビジネスパーソンにとって極めて高いハードルになります。


ですが、本書は玉樹氏の体験デザインの経験をもとに体系化された内容になっており、体験デザインの全体像だけでなく、ビジネスに応用できる具体的なメソッドが示されています。


(2)まさにゲームのように“体験”しながら読み進められる点
本書では全編にわたって“読者への実験”が行われます。


1+1=?
39271÷23=?


例えば、上段の計算式を見た時、無意識に「2」をイメージされませんでしたか?
さらに、下段の計算式を見た時、解こうとする気は起きましたか?


体験デザインは、体験する人間の気持ちに寄り添うことからスタートします。その人間の心理を、上記のような実験を通して読者自らが体験しながら理解することができる仕立てになっています。


つまり、本書では体系的な理解に加え、同時に直感的なイメージを得ることができます。

体験デザインを構成する、3つのデザイン

本書では、体験デザインの構成要素のうち、3つのデザインとその関係性について述べられています。


(1)直感のデザイン
「直感のデザイン」とは、脳・心の性質等を利用したシンプルで簡単な手法により、以下3つのサイクルを繰り返し体験させることをいいます。


仮説:「〇〇するのかな?」と相手に仮説を立てさせる(=直感)
試行:「〇〇してみよう」と思わせ、実際に行動で確かめさせる
歓喜:「〇〇という自分の予想が当たった!」と喜ばせる


直感のデザインの大きな役割は、ユーザーに“ユーザー自身の直感で試行した結果、歓喜にたどり着いた”という体験を繰り返してもらうことです。積み重なった歓喜によって、ユーザーは「おもしろい!」と評価し、心を動かされるようになります。


(2)驚きのデザイン
直感のデザインは、ユーザーの「疲れと飽き」を招くという欠点があります。それを補うのが「驚きのデザイン」です。


「驚きのデザイン」は、ユーザーにあえて誤解を抱かせ、最終的にその誤解を明らかにすることを通し、疲れや飽きを拭ってもらうためのデザインです。「直感のデザイン」で溜まった疲れや飽きを「驚きのデザイン」により緩和することで、より長時間にわたる体験へ誘導することができます。


以上2つのデザインに、「物語のデザイン」を加えた3つのデザインを組み合わせていく事で、ユーザーの心を動かし、ついやってしまう体験をデザインできる……ということが本書の主張です。

ビジネスへの応用――「つい学んでしまう」研修をデザインする

筆者は、コンサルタントとして企業研修の設計・講師登壇をしています。企業研修の目的は、受講生が「目指すべき姿」と「現状」とのギャップを埋めることです。


研修内容は、そのギャップを埋めるために受講生の成長ステップを細分化し、各ステップの受講生の心理状態や思考・認識レベルを予見した上で設計していきます。これまでも心理や感情に配慮した設計をしてきましたが、本書を通じて学んだ緻密な感情の設計の手法は受講生の学びを最大化させる為にとても役に立つと考えています。


例えば、受講生への問いかけ1つとっても「直感のデザイン」を応用しながら、参加者の頭の中に何を想起させて回答させようか?、「驚きのデザイン」を応用しながら、どのような誤解を解くストーリーを組み立てようか?と考えることで、「つい学びたくなってしまう」研修の場をデザインする意識が高まっています。


ビジネスには体験のデザインを応用できる場面が多々あります。本書には、巻末に“実践編”として、日々の会議のファシリテーションや、プレゼンテーションに応用する際のポイントが書かれています。


体験デザインについて思考を整理するだけでなく、自分のスキルとしてすぐに実践したい方にとって、とても分かりやすい1冊目の指南書となるのではないでしょうか。


『「ついやってしまう」体験のつくり方――人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ』
著者:玉樹真一郎 発売日:2019/8/8 kindle:1,312円 単行本:1,620円 発行元:ダイヤモンド社

尾花 宏之グロービス・コーポレート・エデュケーション シニアコンサルタント

学習院大学経済学部卒業、グロービス経営大学院修士課程(MBA)修了。


大学卒業後、三菱UFJ銀行に入社し、企業に対する融資支援業務や再生コンサルティング業務に従事。現在はグロービスにおいて、経営課題解決を目的とした、人材育成体系の構築支援、経営人材育成、新規事業開発支援等のプログラムの企画・実施を担当する傍ら、アカウンティング領域の研究やコンテンツ開発、論理思考領域の講師を担う。

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