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コマツの日本版デジタルトランスフォーメーション組織のつくり方――属人性に頼らない組織作りのポイントとは?

2019年05月10日

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御代 貴子 グロービス・コーポレート・エデュケーション アセスメントチーム チームリーダー

コマツが2015年より手がけているスマートコンストラクション事業。建設プロセスのあらゆるデータを見える化し、安全で生産性の高い施工現場を実現する、というものだ。スタートから4年、デジタルトランスフォーメーションをして「お客様の課題解決」を実現する組織をどう作っていったのか。そして社員はどのように変わったか。執行役員 スマートコンストラクション推進部長の四家千佳史氏に話を伺った。

デジタルトランスフォーメーションはあくまで「手段」

スマートコンストラクションのイメージ画像。ドローンを使うことで工事前には現況測量の時間を短縮したり、進行中は工事が予定通り完了しているか検査することもできる


御代:ここまでの成果をどう評価していますか?


四家:この事業は、自分たちがデジタルトランスフォーメーションをしようということではありません。お客様の課題解決の手段が、技術革新が起きているデジタルだったのです。「自分たち」が主語ではないのがスマートコンストラクションです。


2015年から始めて、これまでに7,500を超える現場で導入されています。毎年2ケタ成長し、海外でのパイロット導入も始まりました。お客様のオペレーションがデジタルトランスフォーメーションをしつつあります。何をもって生産性と言うかは色々ありますが、現場の効率がおよそ30%は改善しました。


そして我々もさらに変わっていかなければならないと思ってきたことが、今の成果だと考えています。

社内で200名ものコンサルタントを育成

御代:現場のお客様と対峙しているのは、社内のコンサルタントですか?


四家:そうです。270名ほどが全国の支社にいます。それまで建機の営業、建機レンタルの営業、サービスマン(建機故障時の修理担当)だった社員がほとんどですが、270名中およそ70名は、中途採用をした現場監督などの経験者です。彼らがコンサルタントの「先生役」になり、社内でコンサルタントをどんどん増やしています。


御代:70名の「先生役」は、どのような教育をしたのでしょうか?


四家:コンサルタントがお客様に課題をお聞きして解決するプロセスを、20ほどに細かく分けました。各プロセスで目指すべきレベルについて3段階の基準を作り、さらには一つひとつ営業の記述書もあります。


このプロセスを元に集中的に教育をして、お客様の現場でOJTをするという育成内容です。半年〜8ヶ月ほどでコンサルタントの育成をしていきます。


御代:育成の体制やプロセスはどのようになっていますか。


四家:70名の経験者には、まずプロセスを作ることに注力してもらいました。彼らは自らコンサルタントとしてお客様訪問もしたし、経験の浅いメンバーとの同行、集合教育も担当しました。幅広く活動してもらっています。


御代:元々社内でキャリアを積まれてきた方は、心理的な反発はなかったのでしょうか?


四家:何のために建機を売っているのかあまり考えていなかった人や、建機を売ること自体を目的だと思っていた人は、抵抗があったかもしれません。


ですが、建機もお客様が儲かってもらう生産活動をするために売っているものです。この点を理解していれば、会社が向かっている方向への違和感はないでしょう。


お客様の我々に対する認識が「建機屋さん」「レンタル屋さん」だと「価格が安ければそれでいい」となりがちです。しかし課題解決のパートナーとして接することができるようになると、どんどん深く関係を築くことができ、非常にモチベーション高く仕事ができています。

開発者が自らお客様を訪問、直接ニーズを聞く

御代:コンサルタントが吸い上げてきたお客様の声を、開発のメンバーと共有していると伺いました。どのような体制で連携していますか?


四家:まず各地域の責任者から、お客様からのご意見、解決できない課題、競合先のサービスなどに関するレポートが毎週あがってきます。


私の部署がレポートの内容を精査し、ソフトウエア開発では週次で改善要望一つひとつに対応していきます。長期間かかる開発要望でも、最低1ヶ月に1回は進捗共有を行います。今すぐ実現できないご要望、技術的に難しいご要望でも全てストックしておきますね。


御代:開発の方々も、お客様の声をダイレクトに聞く機会が増えましたね。


四家:開発のメンバーは、当初お客様のところへ行くことを躊躇していました。「行っていいのかな?」「行くと怒られるのではないか?」と。しかしお客様は、開発者が直接来て声を聞いてくれることは大歓迎なのです。


今ではまったく躊躇せず、お客様のところへ自分たちで行っています。精神的な壁があったかもしれませんが、それが取り払われました。


お客様の声がいちばん開発部隊を動かすパワーにもなります。会議で迷ったときや議論になったときは、私がその場でお客様の社長に電話して、スマートフォンをスピーカーフォンにして「今みんなで話しているから、要望を言ってくれ」と言うこともありますよ。


御代:社員の心理的な変化も大きかったでしょうか?


四家:大きいし、スピード感が変わりました。要望をまとめて、商品化の検討をして、開発に入って、テストをして…ではありません。お客様は「とにかく20点でも30点の出来でもいいから早く持ってきてくれ」とおっしゃるので、アジャイル的な開発になります。


コマツの商品すべてでこのやり方はできませんが、ソリューション系の事業は、いきなり答えに辿り着かないので、いろいろ試しながら早くアクションを取ることが重要です。お客様も我々を信頼して何でも教えてくれますし、コマツに対する見方が変わっていると感じています。

外部連携は「2つ目の時計」を持つことが成功のカギ

御代:コマツを含む4社で設立した株式会社ランドログについて伺います。デジタルトランスフォーメーションを実現するためには、外部連携も有用な選択肢になります。日本の多くの製造業にも共通すると思いますが、自前主義が強い風土の中で、どのように外部連携の話を進めていったのでしょうか?


四家:以前から、社長の大橋がリードする形でオープンイノベーションを進めていて、その段階で自前主義は捨てていました。


今回も大橋から「もうオープンにしてしまえ」という話が出ました。スマートコンストラクションの道のりはまだまだ長いのに、こんな手前のニッチな段階で囲い込んでしまったら、他の潜在的な競合が大きなエコシステムを作ってくるかもしれない、という意図だと思います。


社員も、戦略としてはさほど抵抗はなかったのではないかと思っています。


御代:大橋社長が明確に意思決定をして、社員にメッセージを出されていたことも実現の大きな要因でしたか?


四家:そうですね。トップが社員の予想を上回るオープン化を指示するので、どちらかというとワクワクした期待感があったと思います。


御代:外部連携している企業も、大企業からベンチャーまで様々だと思います。社風が違う企業との連携は難しいところがありませんか?


四家:社風の違いよりも、大企業の「時計」とスタートアップの「時計」、つまりスピード感が違うことが最も大きいですね。どのようなプロトコルで、どのような時間軸で会話するのかがいちばん難しいです。


御代:多くの大企業と多くのベンチャー企業が悩まれているポイントですね。


四家:そうですね。私はこちら側が変わるべきだと思っています。自分たちの時計を早くする、ということですね。ただし大企業ゆえに時計を早められないこともあるので、もうひとつの違う時計を持って、2つのスタンダードを作ります。


今までの時計を全て壊そうとすると、絶対に抵抗されます。従来のものづくりは、これまでと同じ時計で良いのです。全部変えようとすると会社が機能しなくなるし、抵抗もあるでしょう。


稟議や承認のプロセスはガバナンスの関係もあるので、基本的には同じです。それらにはさほど時間はかかりません。トップが意思決定をして方針を決めるところに時間がかかるので、その時計を早くするのです。

社内浸透のために、「何回も丁寧に説明する」

御代:スマートコンストラクション事業の社員は、全社でどのくらいの割合ですか?


四家:中心となって推進している部隊でいうと、まだ1%未満です。


御代:それ以外の社員へ、どのような形で発信をされていますか?


四家:2つあります。まず、こうやって取材を受けるなどして、外部の評価から認識してもらうことです。


そしてもう1つは、組合や新入社員が集まる場など、いろいろな場所で説明することです。社員が自分のこととして理解することが重要なので、事あるごとに丁寧に何度も説明しています。社員にとって、どこに向かっているのか分からないと「勝手にやってるな」と感じます。自分だけが先へ進んでいても、社員がついてこないと何の意味もありません。


さらには、コンセプトビデオを必ず毎年1本は作っています。外部向け、社内向けの両方の目的があります。理解してもらうツールとしては非常に有効だと思っています。

属人性に頼らない仕組み作りが重要

御代:これからスマートコンストラクション事業をどうしてきたいと考えていますか?


四家:もちろん普及を進めることは続けますが、現状からの拡大ではなく、お客様のありたい姿やあるべき姿と、その時に我々はどうあるべきかの絵を描いています。私は、そういう夢さえきちんと語っていれば技術なんて絶対寄り添ってくると思っています。1年、2年という単位で実現できるだろうと信じています。


多くのお客様は現状起点から課題を出されます。ただ、デジタルトランスフォーメーションが起きると、仕事の進め方が根本的に変わってしまうケースがあります。現状起点の課題だけをつぶしていても、ゴールには行きません。最初はがむしゃらに全部やっていましたが、あるべき姿が見えてきたからこそ、取捨選択が必要になってきました。


御代:社員の皆様にとっても仕事の仕方ががらっと変わる可能性がありますね。これまで以上に自己成長の必要性があるのではないでしょうか。


四家:そうですね。ただ、あまりにも一人ひとりの属人的なスキルアップに頼っていると不確実性が高すぎます。社員にはもちろん成長してもらわなければいけないとは思いますが、社員の自己成長だけに頼らないよう全体設計をしていくことが重要です。

スピード感を失わないリーダーは、たくさん失敗もしている

御代:大きな組織で立場もある四家さんが、スピード感を落とさないように心がけていることや、行動していることを教えていただけますか。


四家:まず、こういうスピード感で動く人間をバックアップしているトップが必要です。社長の大橋からは「四家の好きなように、スピード感をもって走らせろ」と言ってもらっています。


ただ、スピード感と、社員の理解を得ることはトレードオフになりがちです。そのためには、先ほど申し上げたように、丁寧な説明が何より重要なのです。


あとはスピード感があると失敗が見えにくいですね。実はその間にたくさん失敗していますよ。


御代:ご自身の中でPDCAを高速で回して、 早く動けば早く失敗も見えるので、早くリカバーもできるということですね。デジタルトランスフォーメーションを実現するにはそのような姿勢が重要だと感じます。


四家:「全部失敗してるんじゃないか?」とも言われます(笑)。今までやったことを全て書き出したら、意外と3勝500敗ぐらいかもしれません。


御代:その3勝が大きいですね。


四家:そうです。「宝くじだって当てるためには買わなきゃいけないんだ」といつも言っています。1枚だけ当てようというのは無理です。500回の失敗が3回の勝利に繋がるのです。


御代:多くの大企業にとって学びの大きいお話を伺いました。デジタルトランスフォーメーションを推進する際に、意思決定や社外連携においては「2つ目の時計」を持つこと。実行フェーズでは、属人性に頼らない体制作り。さらに社員を巻き込むために、何回も丁寧に説明することを惜しまない。


特に属人性に頼らない体制作りは、社員の勤務年数が長く定期異動も行われる日本企業にとって、重要なポイントだと感じました。


本日はありがとうございました。

御代 貴子グロービス・コーポレート・エデュケーション アセスメントチーム チームリーダー

慶應義塾大学文学部人間関係学科心理学専攻卒業。グロービス経営大学院(MBA)卒業。システムエンジニアとして、大手小売業のシステム開発・保守に従事した後、グロービスに入社。グロービス・オーガニゼーション・ラーニング部門にて法人向け人材育成・組織開発の企画、設計、コンサルティングを経験した後、グロービス経営大学院オンラインMBAのマーケティング、新規学生募集を担当。現在は、グロービス・コーポレート・エデュケーション部門にて、アセスメントチームのリーダーとして事業企画を担う傍ら、人事組織系領域の研究やコンテンツ開発、論理思考領域の講師も担当している。

『一流ビジネススクールで教える デジタル・シフト戦略――テクノロジーを武器にするために必要な変革』共訳(ダイヤモンド社)。


※肩書は公開当時のものです

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