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ゴディバジャパンの売却額1000億円は高いのか?事業価値を考える

2018年12月11日

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斎藤 忠久 グロービス経営大学院教員(ファイナンス理論)

ベルギーの高級チョコレート会社・ゴディバの日本、韓国、オーストラリアなどでの事業を対象として入札が始まったと報道されている(2018年11月27日付け産経新聞)。


売上高は平成29年度で398億円。平成22年度に比べ3倍弱(年平均17%弱の成長率)と、少子高齢化の中、昨年の日本でのチョコレート販売額が4.6%増と健闘している中で、その高成長ぶりはうかがえる。三菱商事は、出資するシンガポールの農産物商社や国内のコンビニ子会社ローソンとのシナジーを武器に入札に応じた。一方、国内の菓子メーカーは投資余力も小さく、「1千億円規模の(高額な)買収金額では統合効果は少ない」と静観の構えである(同上)。


「売却額は1千億円超となる可能性もある」(同上)との報道であるが、売上高398億円の事業になぜこれほどの高値が付くのであろうか?


ファイナンス理論によれば、事業の価値は、「その事業が生み出すキャッシュフロー・収益を、そのキャッシュフロー・収益のリスクの大きさに見合った割引率で現在価値に割り戻した額である」とされる。


収益が安定的な事業の評価には収益還元法がよく使われる。式で表すと、「事業価値=年間収益x(1+永久成長率)÷(割引率-永久成長率)」となる。したがって、価値に大きな影響を与える要因は、(1)収益(今回であれば、ゴディバジャパンの398億円の売り上げに対しいくらの当期純利益が得られるのか)、(2)収益の永久成長率(これは直近の成長率ではなく、事業が成熟し実質的に成長しなくなった時点での成長率を指す)、そして(3)割引率(ここでは、高級チョコレート事業に係るリスクの大きさに見合った期待収益率)となる。


まずは、ゴディバジャパンの平成29年度の当期純利益の推定から入ろう。日本の代表的な菓子メーカーである、明治ホールディングス、森永製菓、そして規模は小さいがチョコレート売上比率の高いモロゾフの平成29年度の売上高当期純利益率は、それぞれ4.9%、5.0%そして5.6%である。ゴディバは高級チョコレートブランドなので、当期純利益率は若干高めの7.5%程度と想定してもよいであろう。


次に、事業のリスクの大きさに見合った期待収益率であるが、リスクの尺度としてβ値という指標がある。株式市場全体の変動に対して、それぞれの株式がどの程度追随しているかという相対的なリスク指標である。


上記3社のβ値の平均は0.18(出典:東京証券取引所 「TOPIX & β値」:2012/10~2017/09の60カ月間)、つまり株式市場全体(例えば日経平均とかTOPIX)が1%上昇した際に、これらの銘柄は平均的に0.18%上昇するという傾向を持っているということである。上記3社の有利子負債比率は小さいので、このβ値は事業そのもののリスクの大きさを示しているといってよいであろう。


このβ値をCAPMというリスク性資産の期待収益率を算出する式に代入すると、その期待収益率は2.8%となる(rE=rF+βxマーケットリスク・プレミアム:rF=2.0%、マーケットリスク・プレミアム=4.5%と想定)。


最後に、ゴディバジャパンの当期純利益の永久成長率であるが、事業は成熟していくとその成長率は減衰し、ついにはその実質成長率はゼロに収斂していく。ただし、実質成長率がゼロであっても、インフレがあれば、名目成長率はインフレ率を加えたものとなる。CAPMの前提としている長期国債の利回りは2.0%で、これは1%の実質GDP成長率と1%のインフレ率を加味したものである、したがって、ゴディバジャパンの標準的な永久成長率はインフレ率と同等の1%と想定できる。


標準的な当期純利益率である7.5%を基準とし、「割引率(期待収益率)」そして「当期純利益の永久成長率」で事業価値をシミュレーションしたものが、下記の表である。

標準である、期待収益率(2.8%)、当期純利益の永久成長率(1.0%)を基準に、期待収益率は2.8%~3.8%の範囲、当期純利益の永久成長率は0%~1%の範囲が、諸般の条件を加味した場合に想定される妥当な事業価値の前提条件となろう。標準である、期待収益率(2.8%)、当期純利益の永久成長率(1.0%)を採用すると、ゴディバジャパンの事業価値は1680億円となる。一番低いのが、期待収益率(3.8%)、当期純利益の永久成長率(0%)で786億円となる。この2つの平均値は1233億円。若干高めの期待収益率(3.3%)と若干低めの永久成長率(0%)をとると、その事業価値は906億円となる。


この企業価値は、ゴディバジャパン事業単体としての価値であり、買収によって新たな価値が生まれるのであれば、その価値(シナジーの現在価値)を加算する必要がある。三菱商事は、シンガポールの農産物商社オラム・インターナショナル社に出資している。同社のカカオの加工事業は世界大手の一角を占めており、ゴディバのブランド力を手に入れられれば顧客目線の商品開発や販売網の強化につながる(同上)。さらには、三菱商事の子会社であるコンビニ大手のローソンは、2017年6月からゴディバと共同で、一般的なコンビニスイーツを上回る価格帯での高級スイーツの投入を始めており、人気を博していると言われている。


報道されている1000億円超の買収価格というのは、上で試算した事業価値、そして買収によって生じるシナジー効果も含めると、妥当な金額のように思えるが、いかがであろうか。

斎藤 忠久グロービス経営大学院教員(ファイナンス理論)

東京外国語大学英米語学科(国際関係専修)卒業

米国シカゴ大学経済学部留学

フランス・リヨン大学経済学部留学

米国シカゴ大学経営学大学院修士課程修了(High Honors)

学位:MBA


株式会社富士銀行(現在の株式会社みずほフィナンシャルグループ)を経て、株式会社富士ナショナルシティ・コンサルティング(現在のみずほ総合研究所株式会社)に出向、マーケティングおよび戦略コンサルティングに従事。その後、ナカミチ株式会社にて経営企画、海外営業、営業業務、経理・財務等々の幅広い業務分野を担当、取締役経理部長兼経営企画室長を経て米国持ち株子会社にて副社長兼CFOを歴任。その後、米国通信系のベンチャー企業であるパケットビデオ社で国際財務担当上級副社長として日本法人の設立・立上、日本法人の代表取締役社長を務めた後、エンターテインメント系コンテンツのベンチャー企業である株式会社アットマークの専務取締役、株式会社エムティーアイ(東証1部上場)取締役兼執行役員専務(CFO)を経て、現在グロービス経営大学院教授(ファイナンス理論)。

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