GLOBIS Articles
- 志
- テクノロジー
- イノベーション
- グローバル
- リーダーシップ
- イベント
- テクノベートMBA
投稿日:2024年02月29日
投稿日:2024年02月29日
【対談】「何度もバッターボックスに立ち続ける」―仲間を巻き込みイノベーションを生みだす成長戦略
昨今、AIやテクノロジーの進化など社会変動は過去に例を見ないほど激しくなっています。この激動の「テクノベート*時代」を、私たちビジネスパーソンはどのように捉え、何を学び行動していく必要があるのでしょうか。
「テクノベートセミナー」では、計4回にわたり、第一線で活躍し次代を築いているビジネスリーダーをお招きし、テクノベート時代を生き抜くための様々な知見をお伺いします。ビジネスパーソンとして必要なスキルとは何か、テクノロジーを活用し社会にイノベーションを起こすにはどう行動することが望ましいのか。これからの学びやキャリアに関わるヒントをお届けしていきます。
第1回のテクノベートセミナー「ナレッジの越境時代 -『知見と、挑戦をつなぐ』ビザスクがテクノロジー×イノベーションで創る未来」には、端羽英子氏(株式会社ビザスク)をお招きしました。起業に至った経緯や組織づくり、今後のビジョンについても詳しくお聞きしました。
本記事は当日の書き起こしです。動画版はこちらよりご覧ください。
*テクノベート:テクノロジー(Technology)とイノベーション(Innovation)を組み合わせたグロービスの造語。詳しくはこちらをご覧ください。
端羽 英子氏(株式会社ビザスク 代表取締役 CEO)
ゴールドマン・サックスにて投資銀行業務、日本ロレアルにて予算立案・管理を経験、ユニゾン・キャピタルにてPE投資に5年間携わった後、2012年3月に株式会社walkntalk(現株式会社ビザスク)を創業し、2013年10月にビザスクを正式リリース。東京大学経済学部卒、マサチューセッツ工科大学にてMBAを取得。
山中 礼二(グロービス経営大学院 教員)
キヤノン株式会社で新規事業の企画・戦略的提携に携わった後、2000年にグロービスに参加。グロービス・キャピタル・パートナーズ、ヘルス・ソリューション(専務取締役COO)、エス・エム・エス(事業開発)を経て、グロービス経営大学院の専任教員に。2015年に、社会起業家向けのインパクト投資ファンドであるKIBOW社会投資ファンドを設立(代表パートナー)。
非常勤で、愛さんさん宅食株式会社 取締役。認定NPO法人STORIA(理事)
一橋大学経済学部卒、ハーバード・ビジネス・スクール修了(MBA)
どれだけ早く、何回バッターボックスに立てるか
「この1時間にお金が払える」。自身で感じたアドバイスの価値
山中礼二:まずはビザスクがどのようなサービスか教えていただけますか?
端羽英子氏(以下、敬称略):我々は現在、グローバルで60万人以上の、ビジネス知見を持つ個人の方々に「エキスパート」としてご登録いただいています。そこで、企業様のさまざまなニーズに、1時間のインタビュー形式で知見を提供したり、数ヶ月の伴走支援という形でお手伝いしたり、さまざま手法で個人の知見を企業のニーズにつないでいます。
たとえば、新規事業を考えている企業が特定業界のニーズをその業界の方にインタビューしたり、初のWebサービス立ち上げについてノウハウ提供を受けたりするわけですね。知見を伝える側も、クラスルーム形式よりインタビュー形式のほうがやりやすいと思いますし、そこで自分の強みも見つかります。ですから、我々のミッションは「知見を、挑戦につなぐ」でなく「知見と、挑戦をつなぐ」。知見と挑戦を双方向で結ぶプラットフォームとしてサービスを提供しています。
山中:端羽さんはどのような経緯で起業に至ったのでしょうか。
端羽:私の場合はまず「起業したい」という思いがあって、そこから「あったらいいな」と思う事業アイデアを考えていきました。なかでも興味があったのは働き方です。私は新卒1年目で子どもができて、そこからずっと子どもがいる中でキャリアを築くことがテーマだったこともあり、「働き方って、なんとかならないのかな」と。
そんなとき、『シェア <共有>からビジネスを生みだす新戦略』という本に出会いました。UberやAirbnbもまだ話題になっていなかった時期ですが、そうしたサービスがあることを同書で知って、「個人が個人のまま売り手になれる時代が来た。ひとつの働き方革命では?」と思いました。
当時は自分の経験からモノをおすすめするようなECサイトを考えたのですが、同僚や、同僚が紹介してくれた起業家の方は「うまくいく気がしない」と。それで、ご自身でECを立ち上げた方を紹介していただいたので会ってアドバイスを求めてみると、すごく細かく、なぜうまくいかないかを1時間にわたって説明してくださいました。
私はその1時間の最後に「ECはやめます。むしろこの1時間に対してお支払いができます」と。これはお金を払えるサービスだと感じ、ビジネス知見をマッチングする「ビザスク」の起業を考えたという流れです。初めての起業ですし、当時はいろいろ手探りで失敗もしましたが、「どれだけ早く、何回バッターボックスに立てるか」と考えて、どんどん試していましたね。
山中:初期のチームはどのようにつくりあげたのですか?
端羽:まず、個人が信用を貯めていけるプラットフォームとしてWebサービスをつくろうと考えました。それで当時、日本初のシェアリングエコノミー的サービスだと感じたプラットフォームをつくった方にアドバイスを求めると、その方もエンジニアではなかったのでサービスづくりで苦労したそうで、「信頼できる人にアドバイザーになってもらった方がいい」と言われたんです。
そこで、「この人に受託して大丈夫かという点で目利きをしてくれる人」を知人づてに紹介してもらったところ、「こんなふわふわした人に依頼されるエンジニアが気の毒だ」と(笑)。「でも、面白そうだし、アイデアが固まってプロトタイプをつくるところぐらいまで付き合います」と言ってくれました。結局、その方はCTOとして上場時までいてくれることになるのですが、そのあとしばらくして「やはり本格的にやりたい」と、もうひとり連れてきてくださいました。
引く手あまたなエンジニアの方に、フルタイムでコミットメントをお願いしてもなかなか難しいですよね。今考えると、「まず1回、一緒にやってみましょう」と、フレキシブルに始めたからよい人が来てくれたのかなと思います。
山中:テクノベートを目指す上で、エンジニアの巻き込み方が分からず悩む方は多いと思います。
端羽:私自身、「誰と気が合うかもわからないから、1~2人に断られてもたくさんの人と会うように」と、起業の先輩に言われていました。「ちょっとプロジェクト的にやってみよう」という感じでもゼロよりプラスですし、まずはディスカッション相手になってもらうとか、なんらかの形で知り合いを増やすことが大事だと感じています。
当初は働き方について文化の違いもあり苦労しました。M&Aのディール真っ最中は土日も休まなかったファンド出身の私だけに、「え? 土日休むの?」と。でも、長い戦いをするからこそ、きちんと休まないといけない。また、エンジニアからは「どうつくるかは“つくるプロ”(であるこちら)が考えるから、(企画側である私は)どんなサービスをつくり、誰に届けたいのか、正しい日本語で伝えて欲しい」と言われていました。そういうコミュニケーションもチームづくりの中で学んでいきました。
山中:資金調達はどのような組み合わせで上場まで走り抜けたのでしょうか。
端羽:まず経産省の「多様な『人活』支援サービス創出事業」に応募しました。ベンチャーキャピタル(VC)さんからの調達が何回か断られていた当初の話ですが、経産省による補助金があると聞いて同省のHPにアクセスしたら、間違って公募案件のページに辿り着いたんです。で、それは1週間前後しか応募していない案件だったんですが、「経験を持つ人が新しい領域に挑戦できるような新事業に対し、実証実験の費用を出す」というものでした。
「まさに私たちじゃないか」と、締め切り日にダッシュで霞が関に書類を持参して(笑)、最終的に採択され2,000万円ほどいただきました。それで経産省のロゴをいただき信用も確保しながら、改めてVCさんを回って出資いただけたという流れになります。その後、しばらくしてVCさんから2回目の調達を行った後、日本政策金融公庫の無担保・無保証ローンを活用し、同時にメガバンクさんからも借り入れをして上場を行いました。
山中:調達で困難にぶち当たったことはありますか?
端羽:私は前職のファンドで非上場化のお手伝いをしていたこともあり、上場はコストがかかるものだと思っていました。でもVCさんは、とくにシード期はホームラン案件を狙う人に投資したい。当時はそこがよく分かっておらず、最初のラウンドでは「上場は高コストなので」なんて(消極的な)話をして断られていました。
そうした“作法”を勉強した後、何を目指すか聞かれて「上場です!」と元気に答えるようになったりして、まずはユナイテッドさんとサイバーエージェント・キャピタルさんから調達させていただきました。VCさんもLP投資家さんから預かったお金を運用するわけで、「これは大きくなる」と、実現可能だと信じていただけるような説明をすることで調達できたのだと思っています。
山中:続いて、組織づくりで端羽さんが大切にしていることも伺いたいと思います。
端羽:まずはリスペクトのある組織をつくること。我々が掲げる7つのバリューのひとつに「プライドはクソだ」というものがあります。汚い表現ですが、「謙虚に学び合い、遠慮し過ぎず建設的に意見を交わそう」と。自分がどんな組織で働きたいかと考えると、やはり年齢や得意領域の違いを超えて互いにリスペクトし、万物から謙虚に、高速に学ぶ組織をつくることが一番大事だと思っています。
山中:上場後のM&A戦略についても教えていただけますか?
端羽:上場して1年半ぐらいで自分たちより大きな会社を買いました。上場を目指した理由のひとつは、新しいプラットフォームとして「怪しくないよ」と言える方法が上場だったためですが、M&Aのための資金調達がしやすいからでもありました。では、なぜM&Aしたいのかと言えば、グローバルに行きたいから。我々はバリューでも「初めから世界を見よう」と言っています。知見をつなぐプラットフォームなら、日本人が日本人から学ぶだけでなく、世界中の知見の中でベストをマッチングしなければいけない。そのためには海外のエキスパートのデータベースも重要です。おかげさまで、今は日本のお客様に海外のエキスパートもかなり紹介できるようになってきました。
山中:経営者としての端羽さんは、どのようにご自身を成長させてきたのでしょうか。
端羽:私は本当に多くの人にアドバイスをもらいに行きました。人に聞いて、やってみて、そして間違ったと思ったらすぐ変える。大切なのは、そういうことをどれほど高速に回せるかだと考えています。また、本を読むのも悪くないですが、私は「これが自分のビジネスにどう活かせるか」を毎回考えながら読むので、何冊も読むというより1冊読んだら影響されて、すぐ実践したくなります。
あと、自分がやるに越したことはないですが、時間もかかるので、やったことのある人に聞くのは大事だと思います。学びたい気持ちが強過ぎて、上場近くでも起業の先輩に「 “教えて教えて”って、なんでいつまでもそんなに素人っぽいんだ」なんて言われていましたが(笑)、それも褒め言葉だな、と。目指すことの中で実現していることはまだほんの少しですから、常によいものは真似して、学べるものは学ぶ。そんな姿勢が自分をじわじわ成長させてくれるのだと思います。
山中:マサチューセッツ工科大学にてMBAを取得されていますが、MBAプログラムの学びで1番役に立ったことはなんですか?
端羽:「WHY」を説明可能な理屈で考えるケースを用いた授業スタイルは、現在の経営で、「なぜその意思決定をしたのか」を答えられるようにしなければいけない点に通じると思います。今は「WHY」を自問しているイメージですね。あと、仲間ができたこともよかった。バックグラウンドが異なる人たちと学び合い、その後も仲間でいられるのはすごくいいなと感じます。
山中:日本企業がテクノロジーを活用して創造と変革を進めるためには何が大切でしょうか。
端羽:変化の速い世の中でどれほど速く意思決定できるか。何か分からないとき、まず「調べます」となるケースは多いですが、「やったことのある人に聞けばいいじゃん」と、私はよく言います。たとえば海外M&Aで未経験の話が出ても、「同じことで悩んだ人は絶対いるはずだから聞いてみよう」と。
また、誰もがよいものを持っていると思うし、何かと何かを組み合わせるのがイノベーションです。私も「面白そうだから手伝うよ」と言ってもらえたわけで、エンジニアでなければ何もできないわけではありません。自分が誰と組み合わされるべきかを見極め、その相手から見て素敵な自分でいることも大事だと思います。
あとは大きな目標を置くこと。大きなプラットフォームでビジネスを動かせれば社会にインパクトを与えやすくなります。苦手なことでなく得意なことを活かして頑張るべきというのは個人も会社も同じ。ですから、会社として「こういう強みがあって、こういう人と組みたい」という部分を言語化していけば、ビジネス同士のマッチングもできるようになると感じます。
間違ったらやり直せばいい。まず一歩目を
このよいサービスをより多く人に届け、社会にインパクトを
会場:現在はどのような目標を持っていますか?
端羽:「起業したい」という想いから立ち上げた会社ですが、実際に始めてみると、綺麗ごとでなく、ユーザーさんに「よかった」と言われて嬉しくなります。当初「自分にエキスパートなんて務まるかな」なんて言っていた方が、2回3回とアドバイスを重ねるうちに自信をつけていく様子を見たりして、自分たちでも「これはよいサービスだ」と。そう思えば思うほど、このサービスをより多くの人に届けることで大きくなって、社会にポジティブな変化を起こせる存在になりたいと考えるようになりました。
あと、今はよいチームをつくるモチベーションもより高まっています。当初は「社員はプロ野球選手のように毎年契約更改を」なんて言っていたんです。でも、いよいよ新しく社員を採用しようという頃、一緒に始めてくれたエンジニアに、「1年では終わらないプランへのコミットメントを求めていく人に、1年の契約更改だなんておかしくない?」と言われ、「たしかに」と。事業会社として1年で終わらない仕事に向かっているわけで、今はみんなが長期にコミットできるチームづくりを考えています。
会場:どのようにして多くの方にアドバイスをいただいたのでしょうか。
端羽:「知り合いの知り合いの知り合い」の方を紹介していただいたり、「ソーシャルランチ」のようなサービスを活用したり、とにかくたくさんの人にアドバイスを求めました。後者は本来そういう目的のサービスでもなかったと思いますが、新サービスには起業家の方が集まったりするので、積極的に登録して出会いを探したりもしていましたね。
会場:組織化を進める上で、(業務の)属人性をなくすために気をつけている点はありますか?
端羽:上場の際、「端羽さんが死んだときのリスク」について多くの人に聞かれます。「そんなに殺さないでください」と言いたいほど(笑)、「死んでも大丈夫です」と言える組織をつくらなければいけないので、上場を目指すといいです。あと、情報共有も大事にしています。会社のSlackは基本的に全てパブリックチャンネル。徹底して情報共有すると、みんな、ある程度は同じ結論に達しますし、あとから入って来た人も検索してキャッチアップできるようになりますので。
会場:AIというテクノロジーのインパクトについてどうお考えですか?
端羽:ワクワクしています。ビザスクでは、多岐にわたるお客さまのご要望を受け、人がデータベースからおすすめのエキスパートを探し、ご提案するプロセスがあります。そこで、たとえば最初のリストをAIに提案してもらった後、そのあと人が「この人がいい」と絞るのはどうか、と。「同じ情報でも詳しい人はどう解釈するか」など、人でなければできないところに我々自身は注力しつつ、生産性を改善し、マッチングをより高度にするという意味でAIが大きな役割を果たす気がしています。
山中:もし創業期のご自身に今会えるとしたら、どんなアドバイスをなさいますか?
端羽:「なぜこの社名にしたの?」と(笑)。「ビジョンをアスクするクエスチョン」ということで英語表記はVISASQですが、もともとは「ビジネスをアスクする」でBIZASKでした。でも、「BIZ」でなくビジョンの「VIS」にして、かつ「最後はQにしたら可愛くない?」と言ってVISASQにしましたが、当初はサービスがなかなか流行らなかった。読めないと口コミも広がりにくいんです。それをカタカナのビザスクとしたあたりでやっと広がってきましたが、海外企業を買収する際も海外の機関投資家や社員の方々に英語表記を「ビザスキュー」と読まれたりして。「初めから世界を見る」なら、日本人も覚えやすく、かつ英語で読める名前がいいと思いますね。
山中:では、今日聞いてくださっている皆さんに最後のメッセージをお願いします。
端羽:ゼロよりプラスという精神がいつも大事だと思っています。一歩踏みだすまでは何もないのと同じですし、間違ったらやり直せばいい。ぜひみんなで新しいものをつくっていけたらと思っています。それも全て1歩1歩から。ゼロよりプラスということで歩みだせる人が世の中に増えることを願っています。
執筆:山本 兼司
体験クラス&説明会日程
体験クラスでは、グロービスの授業内容や雰囲気をご確認いただけます。また、同時開催の説明会では、実際の授業で使う教材(ケースやテキスト、参考書)や忙しい社会人でも学び続けられる各種制度、活躍する卒業生のご紹介など、パンフレットやWEBサイトでは伝えきれないグロービスの特徴をご紹介します。
「体験クラス&説明会」にぜひお気軽にご参加ください。
STEP.3日程をお選びください
体験クラス&説明会とは
体験クラス
約60分
ディスカッション形式の
授業を体験
学校説明
約60分
大学院・単科生の概要や
各種制度について確認
グロービスならではの授業を体験いただけます。また、学べる内容、各種制度、単科生制度などについても詳しく確認いただけます。
※個別に質問できる時間もあります。
説明会のみとは
学校説明
約60分
大学院・単科生の概要や
各種制度について確認
グロービスの特徴や学べる内容、各種制度、単科生制度などについて詳しく確認いただけます。
※個別に質問できる時間もあります。なお、体験クラスをご希望の場合は「体験クラス&説明会」にご参加ください。
オープンキャンパスとは
MBA・入試説明
+体験クラス
大学院の概要および入試内容の
確認やディスカッション形式の
授業を体験
卒業生
パネルディスカッション
卒業生の体験談から
ヒントを得る
大学院への入学をご検討中の方向けにグロービスMBAの特徴や他校との違い、入試概要・出願準備について詳しくご案内します。
※個別に質問できる時間もあります。
該当する体験クラス&説明会はありませんでした。
※参加費は無料。
※日程の合わない方、過去に「体験クラス&説明会」に参加済みの方、グロービスでの受講経験をお持ちの方は、個別相談をご利用ください。
※会社派遣での受講を検討されている方の参加はご遠慮いただいております。貴社派遣担当者の方にお問い合わせください。
※社員の派遣・研修などを検討されている方の参加もご遠慮いただいております。こちらのサイトよりお問い合わせください。