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投稿日:2022年09月02日

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「日経225ミニ・オプション」とは? デリバティブの基礎知識を固めるvol.4

長田 善行
GLOBIS知見録 編集部

「デリバティブ(金融派生商品)」の基礎知識を固める本シリーズの前回(vol.3)は、オプション取引の定義や身近な例などに触れました。最終回は、国内の金融市場において代表的なオプション取引である日経225オプションに視点を移し、その概要について押さえていきます。

日経225オプションの価格

日経225オプションとは、原資産を日経平均株価とするオプション取引を指します。先物と同じく決済にあたって期日が存在し、差金決済の形をとっています。日経225オプションの場合、期日が到来した場合、未決済の建玉はSQ(特別清算指数)を用いて決済します。期日は日経225オプションは毎月第2金曜日となっています(毎週金曜日を期日とする日経225ウィークリー・オプションも存在します)。

日経225オプションには、9月限、10月限、11月限…といった限月ごとの区分があり、それぞれコールとプットが存在します。先物と同様、最も取引が活発に行われているのは期近物です。さらに日経225オプションでは「2万5000円、2万5125円、2万5250円…」というように、125円刻みで「権利行使価格」が決められています。

例えば、権利行使価格2万6000円の日経225コール・オプションを買うということは、「日経平均株価で2万6000円に相当する現物株のバスケットを『買う権利』を買う」とほぼ同義になります。

前回の「オプションと先物は何が違う?」で触れたように、コール・オプション(買う権利)の買い手は、原資産価格が上昇すると利益が拡大します。ただし実際の金融市場ではオプションだけ売買する投資家は少数派で、株式や先物商品などとセットで投資をするのが一般的となっています。

株式や先物商品とオプションを組み合わせて投資をする場合、オプションは「保険」の役割を持つと言われています。具体的には、日経平均株価の下落時に利益が得られるよう、日経平均先物を2万5000円で売り建てた投資家が、あわせて2万6000円のコール・オプションを購入しておくと、思惑とは反対に日経平均が2万6000円に向かって上昇した際の先物の損失を抑えることができます。

決済形式は差金決済のため、実際には現物株の引き渡しは行われません。それぞれの限月における権利行使価格は「銘柄」と位置付けられ、権利行使価格の値が変化することはありません。変化するのは、権利行使価格ごとのプットとコールの取引価格(プレミアムと呼ばれます)の方です。

現物株指数や先物の場合、「日経平均株価は前日比200円高の2万5000円となった」「TOPIX先物9月限は前週末比19.00ポイント高の1984.00となった」などと表現できます。しかし、日経225オプションの場合、オプション市場全体の値動きを示す数字は存在しません。例えば「7月限の日経225オプションでは、権利行使価格2万5000円のプット・オプション(売る権利)のプレミアムが前日比15円高の150円に上昇した」というように、銘柄ごとでしか値動きを表現できません。

経済ニュースとしてオプションを取り上げる場合、このように銘柄ごとに価格変動を取り上げるとキリがありません。このためオプションの相場概況に関する記事では、期近物で活発に取引された権利行使価格におけるコールとプットのプレミアムの変化の傾向について触れる形にとどまっています。

(記事例)日経225オプション9月物は、コール(買う権利)に値上がりが目立った。プット(売る権利)は総じて下落した。

※日経225オプションは日経平均株価オプション、日経平均オプションなどと表記されることもあります。

オプションの決済

権利行使価格2万6000円のコールを10枚、プレミアム100円で買い建てた後、しばらくたってからプレミアム150円に上昇したところで10枚売却し、ポジションを解消した時、損益計算は以下のようになります。権利行使価格がいくらであろうが、プレミアムの価格差が反映される形となっています。

(例1)上記のような形で期日前にポジションを解消する時

(150-100)×10×1000=50万円 ※日経225オプションの取引単位は1000

同じ権利行使価格のコールを同量、プレミアム100円で買い建ててから、反対売買をしない場合はどうでしょうか。期日まで建玉を持ち続けた場合、先物と同様に特別清算指数(SQ)で決済されることになります。オプション取引においては、コールであれプットであれ買い手は、権利行使をして利益が発生する「イン・ザ・マネー」の銘柄については、権利行使価格とSQの差額分を受け取ることができます(支払ったプレミアムは決済時に差し引かれます)。

(例2)日経225オプション9月限、権利行使価格2万6000円のコールを期日まで10枚買い建てたケースで、プレミアムは150円

→SQが2万7000円の場合

(27,000-26,000)×10×1000-150×10×1000=850万円

→コールの買い手はSQにより850万円を受ける

※権利行使価格2万6000円コールを10枚売り建てた投資家は、買い手側の権利行使を受け、850万円の損失を被ります。

日経225オプションの状態と損益の関係について、以下の表にまとめてみます。

日経225オプションの状態
SQが権利行使価格を権利保有者(買い手)が
権利行使すると
イン・ザ・マネーコール上回っている利益が出る
プット下回っている
アウト・オブ・ザ・マネーコール下回っている損失が出る
プット上回っている
アット・ザ・マネーコール/プットほぼ等しい損益はほぼゼロ

理論価格の算出モデル

先物の回で理論価格の算出方法について説明しましたが、オプションにも算出モデルがあります。経済学者のフィッシャー・ブラックとマイロン・ショールズが発案したことから「ブラック-ショールズ・モデル」と呼ばれています。方程式はここでは割愛しますが、端的に言えばオプションのプレミアムは主に6つの変数で決まるというものです。

すなわち(1)原資産価格<日経225オプションの場合は日経平均株価>、(2)金利、(3)配当利回り、(4)権利行使価格、(5)ボラティリティ(価格変動性)、(6)期日までの残存期間の6つです

このうち(1)~(3)は先物と共通しています(関連記事:デリバティブの基礎知識を固める vol.2)。(4)が変数のひとつとなるのは、プレミアムが権利行使価格ごとに決まる訳ですから、イメージしやすいのではないでしょうか。目新しいのは(5)ボラティリティと(6)残存期間でしょう。

ボラティリティ

ボラティリティとは、価格変動性の大きさを示すものです。過去の相場データから将来の変動率を算出した「ヒストリカル・ボラティリティ(HV)」と、現在のプレミアムを使って、ブラック-ショールズ・モデルで逆算した「インプライド・ボラティリティ(IV)」の2つがあります。理論価格の算出にはHVが活用されます。

一方、実際のオプショントレードで語られるボラティリティはIVの方です。つまり「ボラティリティの変動がプレミアムを決定する」ではなく、「プレミアムがボラティリティを決定する」という逆の関係となります。

相場の変動性が高くなりそうだと考える投資家が増えると、株式や先物など保有資産の価格変動リスクに備え、コールやプットを「保険的に」購入するニーズが一段と拡大します。

日経平均先物を2万5000円で売り建てた投資家の場合、日経平均の目先の上下動が100円程度なら、オプションを保険として活用することを手間と思うかもしれません。ところが大きな政治・経済イベントなどが近く予定されており、目先の上下動が1500円近くになりそうだというケースなら、コール・オプションを買って日経平均上昇時の損失を限定させようという動機も強まりやすくなります。

オプションのプレミアムが上昇すると、IVも上昇します。逆にプレミアムが下落すると、IVも低下します。IVがHVに比べ高い場合、そのプレミアムは「割高」である、あるいは「取引が過熱している」などと判断することができます。

タイムディケイ

残存期間とプレミアムにも関係性があります。例えば期日までの残りの日数の方が長いほうが、オプションの「時間的価値」が高いとみなされます。期日に近づくとオプションの時間的価値は失われ、プレミアムは低下します。時間的価値の減少を「タイムディケイ」と呼びます。

残存期間が25日の場合と5日の場合を比べると、後者の方が前者に比べ期日までに何が起きるのか、不確実性は小さく、相場の上下動の幅も小さくなりそうだと受け止められます。つまり株や先物など保有資産の価格変動リスクをヘッジしたいとの需要も、後者のほうが低下しやすく、プレミアムに占める「時間的価値」は小さくなると考えられます。

なおブラック-ショールズ・モデルは、日経225オプションをはじめ、期日に権利行使ができるヨーロピアン・タイプのオプションに適用されるものです。オプション取引には、権行使期間ならいつでも権利行使できるアメリカン・タイプも存在します。日本の国債先物オプション取引はアメリカン・タイプをとっています。

日経225ミニ・オプション

オプションは資産の価格変動リスクを低減する手段として用いられます。日経平均先物を買い建てた時、先物価格が下落した際の損失リスクは、プットの買い建て(またはコールの売り建て)で、ある程度は軽減できるようになります。

今回、大阪取引所が発表した日経225ミニ・オプションは、取引単位をこれまでの1000から100と小さくし、オプションを売買する際の1枚あたりの代金が抑えられるように設計されています。個人投資家のリスク回避目的の利用などが想定されているようです。先ほどの「例1」と同じケースで、ミニ・オプションで取引をすると以下のようになります。

(例3)権利行使価格2万6000円のコールを10枚、プレミアム100円で買い建てた後、しばらくたってからプレミアム150円に上昇したところで10枚売却

(150-100)×10×100=5万円 ※日経225ミニ・オプションの取引単位は100

ミニ・オプションでは買い建て時に必要な金額は10万円と、通常のオプションの100万円に比べ少なく済みます(利益は通常のオプションの50万円と比べ少なくなります)。

ところでオプション取引においては、プットの売りは株価急落時、コールの売りは株価上昇時に、損失が理論上、無限大に拡大する仕組みとなっています。投資は自己責任であることは言うまでもありませんが、本シリーズで触れた内容はあくまで基礎的なものにすぎません。実際にオプション取引をするには、株式・先物との合成ポジションの例や、リスクファクター(デルタ、ガンマ、セータ、ベガ、ロー)など、さらなる知識が必要となるということを付け加えて本シリーズを終わりにしたいと思います。

長田 善行

GLOBIS知見録 編集部