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投稿日:2022年08月16日
投稿日:2022年08月16日
オプションと先物は何が違う? デリバティブの基礎知識を固めるvol.3
- 長田 善行
- GLOBIS知見録 編集部
日本取引所グループ(JPX)傘下の大阪取引所は6月、「日経225マイクロ先物」と「ミニ・オプション」を2023年4~6月期に上場する予定だと発表しました。「デリバティブ(金融派生商品)」の基礎知識を固める本シリーズでは前回まで先物に関する基礎知識を押さえてきましたが、今回から「オプション」について視点を移し、その定義や仕組みなどを紹介します。
オプションの定義
金融商品のオプション取引とは、「ある時点(期日)で、ある商品(原資産)を、取引する時点で決めた価格で売買する権利の取引」を意味します。
先物の定義(ある時点<期日>で、ある商品<原資産>を、取引する時点で決めた価格で売買することを約束する取引)と見比べると、期日と原資産は同じです。しかし、その後の「売買することを約束する取引」と「売買する権利の取引」に違いがあります。
買い手は「権利放棄」できる
権利の取引とは、具体的にはどういうことでしょうか。コメの売買に当てはめて考えてみます。ある人(Aさん)が9月末にコメ10kgを4000円で購入する権利を500円支払って「買った」とします。もし9月末のコメ実勢価格が5000円になっていたら、コメを買う権利を使って4000円でコメを調達し、5000円で売却すれば以下の儲けがでます。
コメ売却価格(5000円)- 権利を行使して調達したコメの価格(4000円)- 権利購入代金(500円)=500円(利益)
以下、実勢価格と損益の関係を図に表してみましょう。
コメ実勢価格 | 権利を行使した時に支払うコメ価格 | 権利購入代金 | トータルの費用 | オプション取引に 伴う損益 |
6,000円 | 4,000円 | 500円 | 4,500円 | +1,500円 |
5,000円 | 4,000円 | 500円 | 4,500円 | +500円 |
4,500円 | 4,000円 | 500円 | 4,500円 | 0円 |
4,000円 | 4,000円 | 500円 | 4,500円 | -500円 |
3,500円 | 4,000円 | 500円 | 4,500円 | -1,000円 |
ところで上の図のように、3500円で買えるコメを、わざわざ4000円で買う権利を行使したら、明らかに損と言えます。オプション取引では、権利の買い手は、権利を行使せずに「放棄」することができるという特徴があります。以下の図は権利を放棄した場合の費用と損失の関係を示しています。実勢価格が3500円以下の場合、権利放棄をすれば損失が500円に抑えられるようになります。
つまり「『権利を買った』側に、権利を行使するか否かについてのオプション(選択肢)がある」という点がオプション取引の肝となります。
権利を放棄して、コメを実勢価格で調達する時の代金 | 権利購入代金 | トータルの費用 | オプション取引に伴う 損失 |
4,000円 | 500円 | 4,500円 | -500円 |
3,500円 | 500円 | 4,000円 | -500円 |
3,000円 | 500円 | 3,500円 | -500円 |
買い手が権利行使する=売り手は「義務」を負う
これに対し、権利の「売り手」の置かれる立場は買い手とは異なります。オプションの売り手は、買い手が権利行使をした時、「権利」を売買する義務を負います。
先ほどの例で、Aさんに9月末のコメ10kgを4000円で買う権利を500円で売却したBさんは、売却時点では特に何をすることもなく、500円を受け取ります。
その後、9月末になり、コメの実勢価格が5000円になり、Aさんはコメ10kgを4000円で購入する権利を行使したとします。するとBさんは、実勢価格5000円のコメをAさんに4000円で売らなければなりません。
権利行使に伴う売却価格(4000円)- 調達したコメの価格(5000円)+ 権利売却による収入(500円)=-500円(損失)
コメの実勢価格には上限は存在しないので、実勢価格が上昇すればするだけ、Bさんの損失は膨らみます(「フリーランチは存在しない」ということが示されています)。
コメ実勢価格(=調達価格) | 権利行使に伴う売却価格 | 権利売却による収入 | オプション取引に伴う損益 |
6,000円 | 4,000円 | 500円 | -1,500円 |
5,000円 | 4,000円 | 500円 | -500円 |
4,500円 | 4,000円 | 500円 | 0円 |
4,000円 | 4,000円 | 500円 | +500円 |
3,500円 | 4,000円 | 500円 | +1,000円※ |
※この時、オプションの買い手のAさんは権利を放棄することが可能です。権利放棄となった場合、Bさんはコメを調達する必要に追われることはなくなります。Bさんのオプション取引に伴う損益は、権利売却による収入500円のみとなります。
「コール」と「プット」
ここで挙げた例はコメの「購入権」、すなわち「買う権利」です。オプション取引では「売る権利」も存在します。買う権利を「コール・オプション(コール)」、売る権利を「プット・オプション(プット)」と呼びます。それぞれに買い手と売り手が存在し、価格が付きます。オプション取引で買い手が売り手に支払う代金のことを「プレミアム」と言います。対象とする資産の価格が上昇した際の影響を以下にまとめます。
コール・オプション | 原資産価格が上昇 | 原資産価格が下落 |
買い手 | 利益が拡大 | 損失はプレミアム分のみ |
売り手 | 損失が拡大 | 利益はプレミアム分のみ |
プット・オプション | 原資産価格が上昇 | 原資産価格が下落 |
買い手 | 損失はプレミアム分のみ | 利益が拡大 |
売り手 | 利益はプレミアム分のみ | 損失が拡大 |
現実社会において、コールとプットでどのような取引があるのか、考えてみましょう。ストック・オプションをはじめとした新株予約権は、コールの一例と考えられています。権利行使価格1000円で勤務先の企業の株価を買う権利が与えられた従業員が、1株2000円に株価が上昇した際に権利を行使すれば、1000円で株式を調達し、株式市場において2000円で売却する(安く買って高く売る)ことができ、利益を得られるようになります。
一方、例えば子どもの習い事のためにピアノを購入する際、会員登録をして会費を支払えば、予め定められた価格で販売業者が買い取ることを保証するというサービスがあったとします。子どもがピアノの練習を続けられず売却しようとした際に、購入したピアノが大量に中古市場に溢れていたら、満足のいく価格で売却できなくなる恐れがあります。この時に支払った会費は、一定の価格で売却する権利を保障するもの、すなわちプットの一種であると考えられます。
「デリバティブの基礎を固める」の第1回では、先物の役割として、不確実性を解消するためのツールだと説明しましたが、オプションの役割も基本的には同じです。特に金融市場では、現物株や先物商品など、投資家が保有する金融資産の価格変動リスクを低下させるためにオプションが用いられています。次回は、株価指数を対象資産とする日経225オプションはどのように取引されているのかについて紹介します。
デリバティブの基礎知識を固めるシリーズ
長田 善行
GLOBIS知見録 編集部