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投稿日:2021年12月31日

投稿日:2021年12月31日

2022年の注目トピック 『マーケット・事業戦略』編

金子 浩明
グロービス経営大学院 教員
嶋田 毅
グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

グロービス経営大学院教員が2022年の注目トピックを取り上げるシリーズ。今回は「マーケット・事業戦略」編です。新型コロナウイルスの感染拡大は世界の経済活動の大きな足枷となった一方、企業活動においてはDX(デジタルトランスフォーメーション)化の促進など、新たな変革がもたらされました。次の1年の事業環境を展望するうえでのキーワードは何でしょうか? 「経営戦略」などの講座を担当する教員2名にそれぞれ挙げていただきました。

「メタバース」

金子 浩明

2022年注目のトピックは「メタバース」です。メタバースとはインターネット上に構築された3Dの仮想空間です。2020年10月には米フェイスブック社が社名を「メタ」に変更したことで話題になりました。メタバース市場は近い将来100兆円市場になると期待されています。GPU(リアルタイム画像処理に特化した半導体チップ)の進化やデータ通信量の拡大により、2000年代の仮想空間と比べて、没入感が高まりました。

現在、世の中に普及しているのはゲームが中心ですが、メタバースはビジネスの世界での普及も期待されています。米マイクロソフト社がMR(Mixed Reality:複合現実)技術を用いた会議ツールを発表するなど、大手企業も力を入れ始めました。長引くCOVID19の影響とテレワークの普及、脱炭素で飛行機や車での移動を控える風潮も、ビジネス領域での導入を後押ししています。ただし、本格的に普及させるには、乗り越えなければならないハードルがいくつもあります。

カギを握るのは、3Dコンピューターグラフィックスの性能や、映像処理の遅延をカバーする技術などの「認知や感覚に関する技術」です。この分野は日本企業も技術開発に力を入れています。21年12月、ソニーは8Kの超高精細VRゴーグルの開発を発表しましたが、これにはVR酔いの原因となる映像の遅延を低減する技術も搭載しています。8K画像の解像度は人間の目で見る上で実物とほぼ変わらないので、没入感はかなり高まるでしょう。これらに加えて、交流の基盤となるソーシャルネットワークの整備、財の取引や仮想空間上の所有権を保護するブロックチェーン技術の向上も必要です。

これらの課題が解決されれば、自分のアバター(分身)がバーチャルタウンにあるバーチャルオフィスに出社して、遠く離れた土地に住む同僚と一緒に働くような日が来ると思います。そして、その日は遠くありません。2022年はメタバースに注目です。

「リスクマネジメント」

嶋田 毅

2022年はこれまでにも増してリスクマネジメントの能力が必要となるでしょう。典型的なリスクとしては、1)コロナがどの程度収束するのか、あるいはあまり変わらないのか、2)アメリカ経済の行方(インフレ等)、3)中国のビジネスへの規制の動向、4)地政学的問題などから生じるサプライチェーンの混乱(それに伴うコスト増や供給不足)、5)デジタル化進展に伴う、競合となる破壊的なビジネスモデルの登場などがあります。

これらは正確に予測できるというものではないため、どのようなシナリオになったとしても対応できる代替案を複数用意すること、そして経営環境により敏感になり、俊敏に意思決定を行うことを企業に要請します。2021年に好調だったからといって2022年以降も安心できない、というのが近年の経営の難しさです。リスク要因を見極めたうえでそれを回避、コントロールできる企業はサバイブできる可能性が高まる一方で、そうでない企業は時代に取り残されます。

戦略や戦術の速やかな変更も必要ですが、経営者や従業員の意識が変わらないことにはこうした対応は不可能です。VUCAの時代と言われて久しいものがありますが、2022年はその次元がさらに上がっていきます。VUCA時代に必要な戦略的マネジメントや組織変革をしっかり行える企業とそうでない企業の選別がますます進みそうです。

金子 浩明

グロービス経営大学院 教員

東京理科大学 総合科学技術経営研究科 修士課程修了。株式会社リンクアンドモチベーションを経て2005年にグロービス入社。ファカルティ本部(教員部門)のディレクターとして部門の立ち上げを経て、シニア・ファカルティ・ディレクターとして、教員、研究開発、教員育成に従事。また、企業に対する人材育成・組織開発やコンサルティング、政府機関や大学等のアドバイザーを務めている。専門領域は、経営戦略、テクノロジー・マネジメント、オペレーションズ・マネジメント、組織開発。

文部科学省・国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)「PM育成・活躍推進プログラム(APPROACH)」事業推進委員・メンター(2015~)、国立大学法人 信州大学 学術研究・産学官連携推進機構 信州OPERAアドバイザー(2019~)、順天堂大学 医学部、順天堂大学 医学研究科、信州大学大学院 総合医理工学研究科 生命医工学専攻 でも教鞭を執る。

嶋田 毅

グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。

グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。