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投稿日:2021年07月16日

投稿日:2021年07月16日

ストックを増やせ 思考の「瞬発力」を高める急所

嶋田 毅
グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

今年6月発売の『グロービス流 あの人頭がいいと思われる 考え方のコツ33』から「11.別の事例で妥当性を考える」の一部を紹介します。

なんとなく違和感を抱きつつも、上手く反論ができずにモヤモヤされたという経験をお持ちの方は多いでしょう。一方で、「それって、〇〇の事例と同じことですね。だったらやはりダメではないですか」などと良い切り返しをできたというケースもあるはずです。当然、後者のような切り返しができると議論をリードできますし、主張の説得力も増します。その差をもたらすのは、端的に言えば持っている「ケースの数」とそこからの「教訓の数」です。つまり、より多くの事象を知っていること、さらにはそこからどのような教訓が引き出せるかを知っていると、他の事例でもそれを応用しやすくなるのです。これらを増やす近道はありません。常日頃から情報収集しつつ、「これとこれって類似だな」などと考えるトレーニングを積んでおくことが、いざという時の瞬発力につながるのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

レベルの差に着目する

ある根拠を出されたときに、レベルの差を意識することは非常に効果的です。たとえば、「インターネット企業(フェイスブックやツイッターなど)はもっと悪質な投稿を取り締まるべきだ」という意見がありますが、皆さんがこれに賛成/反対するとしたらどのような根拠を出すでしょうか?

これに対しては、「道路や電話の施設者が、いちいちすべての交通や通信を取り締まりはしない。よってインターネット企業がすべての投稿を取り締まるのは現実的ではない」という意見があります。

一方で、インターネットの特性(情報がいつまでも残る、コピーしやすい、いつまでも検索に引っ掛かりやすい)を鑑みたときに、道路や電話と同様には考えられないというのも、説得力のある意見でしょう。「道路や電話などとは異なり、不法な投稿を放置することの害悪は比較にならない」と言えれば、インターネット企業にある程度の監視をさせるべきだという意見にも説得力が出るはずです。

もう一つ例を考えてみましょう。新聞の軽減税率(消費税が8%に据え置き)の根拠としていわれた「新聞は生活必需品」はどうでしょうか? このケ一スでは、「生活必需品」の度合いがまず問題になるでしょう。食品が8%なのは分かるとしても、新聞がそれと同様といわれたら違和感を抱くのももっともです。女性にとって生理用品はなくてはならない生活必需品ですが、それが消費税10%であるのに対して新聞が8%というのはやはり妥当性に欠けるでしょう。

もちろん、このケ-スではそれ以上に「政権を監視すべき新聞が、政権に恩を売られるのはいかがなものか」という。さらに強力な反対の根拠もあります。まずは相手の根拠の妥当性に対する疑問を示し、加えてそれ以外の反対の根拠を出せれば、説得力は大きく増すのです。

それが本質的なポイントか、違和感を抱いたら考えてみる

たとえば、商店や定食屋などで支払いをするときに、546円の支払額に1101円を出す人がいます(筆者も現金払いしなくてはいけない場合は、そうした行動をとる人間です)。その狙いは、このケースであればお釣りが555円と、きりのいい額になるということです。

一方で、こうしたやり方を好まない、あるいはイラッとくる人もいるようです。特に自動レジではなく、電卓などで計算が必要な場合にはその傾向が強まります。そうした人の言い分は以下のような感じです。

「支払いで両替をするのは自分勝手で迷惑」

「自分中心に考えるのは社会人としては不適切」

「そうした支払い方をされたら、101円は突き返して、1000円だけを受け取り、454円のお釣りを計算して渡す」といった「過激」なことを言う人もいます。

さて、この根拠に皆さんならどう反論するでしょうか。私なら多分こう言い返すでしょう。

「901円の会計に1001円出すのと本質は同じですよ? あなたはそれを否定するんですか? 先に1円だけ突き返して、残り99円を払うんですか?」

先のような根拠を出した人はここで反論できなくなります。

実はこの問題の本質は、「多くの人は、5円、50円、500円の繰り上がり(あるいは繰り下がり)計算が得意ではなく、特にそれが複数重なると暗算が追いつかない」ということなのです。546円の会計に対して、551円くらいなら対応できても、601円(お釣りは55円)になると「?」となり、1101円だとお手上げになってしまうのです。

相手の根拠に疑問を持ったら、単純化した例でそれが本質的な根拠になっていないことを示せれば、その価値は大きいものがあります。

グロービス出版
グロービス電子出版

グロービス流 「あの人、頭がいい! 」と思われる「考え方」のコツ33
:グロービス 発行日:2021年6月16日 価格:1,650円 発行元:ダイヤモンド社

より深く学ぶには

グロービス経営大学院では、社会人に必要不可欠な論理思考力を鍛える科目「クリティカル・シンキング」があり、1科目(3ヶ月)から学び始めることができます。

嶋田 毅

グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。

グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。