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投稿日:2020年12月15日
投稿日:2020年12月15日
夫馬賢治氏に訊く、金融市場と気候変動の関係 ――グロービス経営大学院・公認クラブ「グロービス・ソーシャルビジネス・クラブ東京(GSC東京)」 イベントレポート
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- グロービス・ソーシャルビジネス・クラブ東京(GSC東京)活動レポート
グロービスの学生が、共通の目的や問題意識を持つ仲間と自主的に取り組むクラブ活動の活動事例紹介。
「グロービスの学生とソーシャルビジネスをつなぎ合わせ、社会の幸福を創発する」をミッションに掲げ、2019年12月に設立したグロービス・ソーシャルビジネス・クラブ東京(以下、GSC東京)。ソーシャルビジネスに興味をもつグロービスの学生を対象に、学びの機会や情報提供を行っている。
本記事では、GSC東京が外部の協力者(的場優季氏、西村創一朗氏)と共に企画したイベントのうち(イベントは計4回、330人を動員)、6月5日「世界環境デー」に開催したオンラインセミナーの様子を一部ご紹介したい。スピーカーは、ESG投資(※)の第一人者である株式会社ニューラル代表取締役CEO 夫馬賢治氏。
※環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)に配慮した経営を行う企業を対象とした投資方法
夫馬氏は、アメリカでMBA取得、加えてサステナビリティ専攻の修士課程を修了したのち、2013年に起業。東証一部上場企業や大手金融機関に対し、サステナビリティ経営やESG投資のコンサルティングを行うほか、環境省が主催する「ESGファイナンス・アワード」選定委員も務める。2020年4月には、『ESG思考 激変資本主義1990-2020、経営者も投資家もここまで変わった (講談社+α)』を出版。
ESGが広く知られるようになったのは2006年。国連が機関投資家に対し、ESGを投資プロセスに組み入れるよう提唱したことがきっかけだ。
そして、ESG投資の国際的なプラットフォームがPRI(Principles for Responsible Investment:国連責任投資原則)である。ここに署名した機関は、投資にあたり6つの原則を順守しなくてはならない。たとえば、投資を決定する上で環境要素や社会要素を勘案すること、株主として議決権を行使する際はESGを考慮することなどが挙げられる。また、署名機関はPRIに対して投資活動を報告する義務があり、内容の評価が低い場合は除名となる。要件が厳しいにもかかわらず、署名機関数は伸び続けており、その数は約2,300に及ぶ(2019年10月現在)。
「グローバル金融市場では、ESGへの注目度がますます高まっている」と夫馬氏。企業が長期的成長を実現する上で、ESGの観点は非常に重要なものとなってきている。
日本企業は気候変動リスクに耐えられるか
世界経済フォーラムが毎年、ダボス会議で公表する「グローバルリスク報告書」には、「今後10年間に起こり得るグローバルリスク」について世界のリーダーら750人以上が回答した結果が掲載されている。2020年の報告書では、上位5件すべてが環境問題・気候変動に関するものであった。これは2007年の調査開始以来はじめて。
「グローバルリスクの計測開始以来、海外の経済界のリーダーたちは、気候変動に対する意識を非常に高めています。機関投資家たちは、こうしたリスクを踏まえて企業の予測分析をしなければなりませんが、『この企業は気候変動に耐えられるか』という視点で予測するのは非常に難しい。これまでのトレンドだけで未来の業績を予測できないというのが最近の状況です」
2020年グローバルリスクの展望
(出典:「The Global Risks Report 2020」/WORLD ECONOMIC FORUM)
そんな中、海外投資家は日本企業をどう見ているのか。
「日本のESG投資額は、2014年はゼロ、2016年は3%、2018年は約18%まで上がってきましたが、他国と比べるとまだまだ低い。さらに、日本企業のESG改善度(長期的なリスクに対応するための改善速度)」は低く、他国にどんどん追い抜かれています。海外投資家は、『日本企業は将来のグローバルリスクに耐えられない』と判断しているのです」
気候変動が世界に与える影響
気候変動がもたらすリスクと補償について、夫馬氏は警鐘を鳴らす。
「『地球の気温は、2100年までに4.8度上がる』と言われおり、気温が上がると台風や集中豪雨などの自然災害が増えます。そして自然災害により企業の活動が停止すると、損害保険で補償することになります。世界の自然災害による補償額は1970年代から伸び続けており、保険会社は悲鳴をあげています。いずれ、火災が起きても全額自己負担しなくてはならないような、厳しい時代がやってくるでしょう」
このほかに懸念されているのが、海面上昇による土地の水没や洪水リスクだ。2016年時点では「2100年に水位が1.2 m上昇する」となっていたが、この予測は年々悪くなっている。
欧米では、海面上昇による洪水のリスクマップを自治体が公表し、リスクの高い土地での産業開発や住宅開発の回避、すでに建っている建造物の内陸への移転を推奨している。当然、金融市場もこの動きをフォローしており、リスクの評価を始めている。気候変動に関するデータを金融業界に提供するアメリカのフォー・トゥエンティー・セブン社は、自然災害リスクが高いディベロッパーの物件を発信しており、そこには日本のディベロッパーの名前も挙がっている。
「こうしたリスクを日本の環境省も『気候変動影響評価』としてまとめています。農業、水環境、自然生態系、健康や産業といった各項目について『重大性』『緊急性』『確信度』の3つの尺度から評価していますが、どれも高リスクです。さらに、こうした状況を日本人がほとんど知らないことを海外投資家は不安視しています」
気候変動の影響について、海外でとくに深刻視されているのが小麦だ。干ばつによって中近東やアフリカで小麦の生産量が激減した場合、社会不安の高まりから大量の難民がヨーロッパに押し寄せるのではないかと危惧されているのだ。同様に、メキシコの小麦の生産量が激減した場合も、アメリカに移民が流入するのではないかと不安がささやかれている。
「海外で小麦がとれなくなれば、当然日本への輸出もなくなります。日本は小麦の供給の90%以上を輸入に頼っていますから、うどんもパンもお好み焼きも食べられなくなってしまうかもしれません」
気候変動を食い止めるべく、温室効果ガス削減に向けた国際的な取り決めをまとめたのが2015年に締結された「パリ協定」だ。このパリ協定の進捗だが、「地球の温度は、2100年までに4.8度上がる」と危ぶまれていたところから、現在は、3.1~3.7度まで下がっているという。しかし、目標値に設定されている1.5度ラインにはまだ遠い。
「この現状をもどかしく感じているのが投資家と経済界です。彼らは二酸化炭素を減らすために2014年に『RE100』という団体を発足。アップルやグーグル、ゴールドマン・サックス、ソニーをはじめ、加盟企業は全世界で220社を超えています(2020年3月現在)。彼らは、自分たちの事業活動に用いるエネルギーを2025年までにすべて再生エネルギーに切り替えると宣言しています。さらに、そのうち177社は2050年までに二酸化炭素の排出量をゼロにするとしています。状況は、それほどまでに切迫しているのです」
ここで夫馬氏は、再生エネルギーのコストについても言及した。夫馬氏によると、2030年までに石炭燃料よりも再生エネルギーのほうがコスト安になると経済学者らは予測しているのだと言う。EUはすでに100%に届く勢いで再生エネルギーのコスト安を実現しているが、日本はわずか1%ほど。日本が再生エネルギーに懐疑的で、ほとんど力を入れてこなかった結果が如実に表れている。
「近い将来、各国が再生エネルギーを新たな燃料として享受する中、日本は割高な火力発電や原子力発電を使い続ける構図になるだろうと、世界の経済学者たちは予測しています」
なお、排出される二酸化炭素のうち、発電によるものは全体の15%ほど。発電以外にも、工場の稼働や流通など、さまざまな産業において二酸化炭素の削減は喫緊の課題なのだ。
「たとえば自動車業界では、電気自動車へのシフトが世界中で加速度的に進んでいます。イギリスやフランスは2040年までに、ZEV(zero emission vehicle:無公害車)の販売を100%にすると宣言しました。将来的に、ガソリン車やディーゼル車を製造する企業は淘汰される可能性が高いでしょう。日本もなるべく早く産業転換をしなければいけないのですが、反応はいまひとつ。結果、日本のメーカーの競争力は落ちています。
このように環境と産業はいろいろな形でつながっています。それぞれがどのように影響するのか、広い目で見て考え、自分たちの事業のライフサイクルやバリューチェーンを変えていく必要があります」
最後の質疑応答タイムでは、「日本には昔から『三方よし』というESGに通ずる考え方があるが、他国よりも環境問題に出遅れた理由を知りたい」と質問があった。夫馬氏は、「残念ながら『三方よし』になっていない」と回答。
「本当の意味で『三方よし』をするのであれば、自分たちの企業の営みが気候変動に対してネガティブなのか、ポジティブなのかを自覚しなければなりません。本日、集まっている皆さんにしても、自分たちの企業と気候変動がどう関係しているのかを日常的に考えたことがある人は少ないのではないでしょうか。この状態で『三方よし』と言っても説得力がありません。実情にともなっていないのが、日本の悲しい現実です」
夫馬氏は「今回のイベントが、これらの危機を知るきっかけになれば嬉しい」と参加者にメッセージを送り、イベントは終了した。
待ったなしの現状を前に、我々一人ひとりの確かなアクションが、いま強く求められている。
「グロービス・ソーシャルビジネス・クラブ東京(GSC東京)」とは
ソーシャルビジネスに興味関心をもつ学生を対象に、学びの機会や実践の場を提供することを目的としたクラブ。クラブメンバーによる事例研究発表やビジネスプラン発表会のほか、ソーシャルビジネス起業・運営に関する情報提供などを行っている。
クラブ活動とは
社会の「創造と変革」に貢献することをテーマに掲げ、グロービスの学生が自主的に取り組む活動です。共通の目的や問題意識を持った同志が集い、それぞれのクラブが多彩なテーマで独自の活動を展開しています。学年の枠を超えて、在校生と卒業生が知識や経験を共有し合うクラブ活動は、志を実現につなげるための場として、大きな意味を持つものとなっています。
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