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投稿日:2020年09月11日
投稿日:2020年09月11日
SDGsを経営に実装するための3つの思考法
- 本田 龍輔
- グロービス・コーポレート・エデュケーション シニアコンサルタント/SDGパートナーズ コンサルタント
前回は、SDGsが示しているのは、2030年に人類が目指す未来予想図であり、SDGsに取り組むことは企業の生存戦略であることを説明した。今回は、企業がSDGsを経営に実装するために必要な3つの思考法について取り上げたい。
時間的逆算思考:ムーンショット理論とバックキャスティング
米国のジョン・F・ケネディ大統領は1961年に「アポロ計画」を発表し、1960年代のうちに人類を月に着陸させると宣言した。ケネディは残念ながらその翌々年に暗殺されてしまったが、計画は続行し、その宣言通り1969年7月20日、2名の宇宙飛行士がアポロ11号で月面に着陸した。このように、現状の延長線上では実現困難であっても、達成すれば大きなインパクトをもたらす壮大な目標を掲げることを、ケネディの宣言になぞらえて「ムーンショット」と呼ぶ。
SDGsには2030年までに人類が実現したいムーンショットが多く含まれている。例えばHIV/AIDS・マラリア・結核を2030年までに根絶する、あるいは2030年までに若者や障がい者を含む全ての男性及び女性の完全雇用と同一労働同一賃金を達成するといった目標がある。こうしたムーンショットの達成には、フォアキャスティングではなく、バックキャスティングで考え、必要なイノベーションを起こしていくことが必要だ。
フォアキャスティングが、現在の統計やデータ分析から、今後の予測を立て、必要な施策を実行することに対し、バックキャスティングは、定義した未来が実現されるための必要条件や前提となる技術を考え、未来を基準に必要なプロセスを設定していく。
SDGsに包含される多くのムーンショットとそれを実現するためのバックキャスティングを参考にすれば、自社が取り組むべき課題の輪郭は自ずと見えてくるだろう。
論理的逆算思考:演繹的イノベーションとデザイン思考
論理的逆算思考は、顕在化している問題に対し、本来のあるべき姿から演繹的に解決方法を考え、イノベーションを導き出す思考方法だ。現在、社会課題解決のために考えられているイノベーションの多くは、その根本原因の解決ではなく、目の前にある状況を改善するための対症療法になってしまっている場合が多い。
例えば、貧困状況にある子どもに食事を提供する子ども食堂は大切な取り組みであるが、貧困そのものをなくさなければ根本的な解決にはならず、支援を必要とする子どもの数は減らすことができない。このような対処療法的なイノベーションは帰納的イノベーションと言える。これに対し、問題の根本原因に応えるのが、人間が本来ありたいと思う姿から逆算して起こす演繹的イノベーションだ。
演繹的イノベーションは「デザイン思考」という別の言葉で主流化しつつあり、人間の本質的なニーズや直感、感性、共感などを発想の源泉とし、そこから逆算してイノベーションを起こす方法論として認知され始めている。デザイン思考をSDGsに応用してみると、これまで見えなかったアプローチが見出せることがある。
先の子ども食堂にデザイン思考を用いると、「そもそも子どもの貧困を発生させない社会を実現するにはどうすべきか」という発想で考えることになる。そうすると不安定な雇用状態にある保護者への教育支援やひとり親世帯への支援といった分野でイノベーションを起こす必要性が明らかになってくる。子ども食堂のような一時的なサポートと演繹的イノベーションをつなげていくことでよりよい社会の実現ができるはずだ。
リンケージ思考:レバレッジ・ポイント理論とSDGドミノ
SDGsが提示する3つめの付加価値は、様々な目標が相互に結びついていることだ。SDGsの17目標、169ターゲットはバラバラのものではなく、どこか1つを実現しようとすると他の目標が達成しにくくなる場合もあれば、あるいは2つ3つ同時に取り組んだ方が実現しやすいこともある、いわば連立方程式のようなものである。
SDGsには、目標を実現するための梃子の力点(レバレッジ・ポイント)が存在する。例えば、国連世界食糧計画(WFP)は、途上国の村全体の状況を改善するために「学校給食プログラム」を実施している。学校で給食を提供することは、(1) 子どもを物理的に学校に呼び寄せ、(2) 飢餓や栄養失調から救い、(3) 子どもの就業の機会を拡大し、(4) 給食の材料を近隣の農家から購入することにより地域経済を活性化させる、というように、一気に様々な状況の改善に繋がるのだ。
ビジネスにSDGsを取り入れる上では、目標間の相互連関(リンケージ)に着目し、あるSDG目標を起点に他の目標がドミノ倒しのように連鎖する「SDGドミノ」が重要だ。企業が自らの強みで変化を起こせるレバレッジ・ポイントを見つけ出し、そこから起きる連鎖により、いっそう大きな社会的インパクトを創出することは、企業価値を高めることに直結するだろう。
3つの思考方法については、以下の書籍に具体的な事例と合わせて紹介されている。興味のある方はぜひ、手に取ってみてほしい。
『SDGs思考 2030年のその先へ 17の目標を超えて目指す世界』
著者:田瀬和夫、SDGパートナーズ 発行日:2020/9/11 価格:1980円 発行元:インプレス
本田 龍輔
グロービス・コーポレート・エデュケーション シニアコンサルタント/SDGパートナーズ コンサルタント
日本福祉大学大学院国際社会開発研究科卒業(開発学修士)
大学卒業後、地域活性に取り組むNPO法人での活動を経て、独立行政法人国際協力機構(JICA)の実施する青年海外協力隊事業に参画し、パプアニューギニア独立国へ派遣。農村地域において生活改善や植林を中心とした環境保全活動に取り組む。帰国後はJICA東京にて、行政や教育機関、NPO/NGOとの協働を通じた国際協力の裾野拡大や人材育成に携わる。グロービス入社後は、法人営業部門にて、顧客企業の人材育成・組織開発に関わる設計・提案活動に従事。SDGパートナーズでは、企業のサステナビリティ方針策定・実施、ESG情報開示、価値創造モデルの設計プロセス等を支援している。