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投稿日:2020年02月26日

投稿日:2020年02月26日

基礎から学ぶ「不動産投資」と「新築マンションの市況」 ――グロービス公認クラブ「不動産ビジネス研究会」 イベントレポート

クラブ活動
不動産ビジネス研究会 活動レポート

グロービスの学生が、共通の目的や問題意識を持つ仲間と自主的に取り組むクラブ活動の活動事例紹介。

前回の幹事インタビューに続き、先日行われたグロービス経営大学院・公認クラブ「不動産ビジネス研究会」が主催する勉強会の内容をお届けします。

幹事や外部有識者が講師役となり、年4回の勉強会を行っている不動産ビジネス研究会。新たな不動産ビジネスの創出や、起業・経営・投資などに役立つ情報を共有しており、グロービス経営大学院の在校生だけでなく卒業生の参加も目立つ。

2019年5月に開催された勉強会では、クラブの幹事2名がそれぞれのテーマについて講演。第1部は小宮哲朗氏(2016期)による「不動産投資の基礎」、第2部は西牧耕平氏(2012期)による「新築マンションの市況」。今回はそれぞれの講演内容をレポートする。

(※肩書きはインタビュー当時のものです)

不動産投資の基礎 〜幹事・小宮哲朗氏〜

IT業界のエンジニア、大手不動産情報企業のシステム開発エンジニアを経て、父が経営する不動産系企業の専務取締役を務めている小宮氏。賃貸管理・コンサルティング・不動産オーナー事業などを手がけており、来年には父から経営を引き継ぐ予定だ。

不動産の資産運用やマイホーム購入について頭を悩ませるクラブメンバーは多く、今回の「不動産投資の基礎」は、過去にも何度か講演してきた人気テーマである。講演では、不動産投資の基本的な仕組みから実際に始めるステップまで、わかりやすく語られた。

(小宮氏)

「まず不動産を取り巻く外部環境から説明します。少子高齢化により世帯数が減り、家に住む人そのものが減っていますが、デベロッパーは新築をどんどん建てるため需給バランスが崩れている状態です」と小宮氏。

国勢調査によると、2010〜2015年で人口が増加したのは8都県のみ(東京・埼玉・千葉・神奈川・愛知・福岡・滋賀・沖縄)。市区町村で見ると全国1,719市区町村中、増加したのは300ヶ所にとどまり、230ヶ所が1割以上の減少となった。それにともない各地で空き家が発生し、住宅としての再利用、高齢者施設や保育園へのリノベーション、駐車場や更地にするといった対策が講じられている。

「投資するなら、いい立地であることが条件。東京や主要都市の都心部で、駅から7分以内が目安です。一方で、先ほど申し上げた通り主要都市は人口が増加しています。ただし需要が高い分、良い物件はなかなか売り出されませんし、また物件価格が高く利回りも低いため、今が投資に最適な時期かといえばそうではありません。ただ、投資の基本的な知識を身につけておくことでリスクを抑えられるので、知っておいて損はないと思います」

不動産投資を勧める営業トークとしてよく耳にするのは、「楽して儲かる(不労所得)」「税金対策になる(節税)」「保険代わりになる(団体信用生命保険に加入)」「現物資産が持てる」などがある。ほかにも「相続対策になる」「株やFXよりリスクが低い」といったイメージをもつ人もいるだろう。

「これらは間違ってはいませんが、基本的な仕組みとリスクを理解した上で投資しなければ、取り返しのつかない失敗をしかねないので注意してください」と小宮氏は念を押す。

不動産投資の基本的な仕組み

不動産投資とは、月々の家賃収入を目的とした投資である。

株式投資の場合、株価が上昇しても売却しなければ利益が出ないが、不動産投資は入居者さえ維持できれば年中キャッシュが生み出され、毎月安定した収入が得られる。株などに比べて不況の影響を受けにくく、また不動産そのものを担保として融資を受けることも可能だ。

一方で、換金性が悪く、売却時には各種手続きや時間を要することも。さらに、減価償却による節税効果が高いと思われがちだが、節税分は売却時に固定資産売却益への課税として税金に化けるため、実際は税金の繰り延べに過ぎないという。

「不動産投資は高額なのでハイリスクと捉えられがちですが、価格変動がそこまで大きくないためミドルリスク・ミドルリターンに分類されます。定期預金はローリスク・ローリターンで、投資信託、不動産投資、株式投資、FXの順でハイリスク・ハイリターンとなっていきます」

不動産投資におけるリスクには、経済・運用・建物という3つの側面がある。経済面は、金利や税金の引き上げによる返済額・不動産所得税の増加。運用面は、空き家や家賃滞納、地価下落などの問題。そして建物面は、天災や火事による建物損壊や老朽化。これらのリスクを念頭に置いておく必要があると小宮氏は言う。

投資対象となる不動産の種類としては、1棟マンション・アパート、区分マンション(1部屋のみ購入など)、戸建。区分マンションからスタートし、利益を元手に1棟購入するといったケースが多いようだ。

不動産投資の収入構造

収入源には「インカムゲイン」と「キャピタルゲイン」がある。

インカムゲインは家賃収入のこと。一般的には新築がもっとも高価格で、築年数とともに徐々に下落していく。ただし下落率は地域性や建物の仕様などにより異なり、リフォームを通じて家賃を上げることも可能だ。

キャピタルゲインは売却益のこと。購入時よりも高く売却できなければ利益は出ない。とくに頭金+ローン残高より安価で売却してしまうと、物件は手放せたが借金が残る状態になってしまう。インカムゲインとキャピタルゲイン、トータルでプラスになればいいという考え方もあるが、売却時に損をするケースは実は非常に多いという。

また、不動産投資の収益性の指針として、利回りがある。利回りには「表面利回り」と「実質利回り」がある。

<表面利回り>
年間家賃収入÷物件価格×100で算出される。たとえば3,000万円で購入した物件を月10万円で貸していれば、表面利回りは4%。投資用不動産のチラシなどに書かれている数字は基本的にこれだ。

<実質利回り>
実質年間家賃収入÷実質物件価格×100で算出される。実質年間家賃収入とは、家賃収入から税金・管理費・保険料などを差し引いた額。実質物件価格とは、物件価格に仲介手数料・登録免許税・不動産所得税などを加えた額で、購入時の諸経費は物件価格の6〜8%ほどにのぼる。結果、実質利回りは表面利回りからだいたい2〜2.5%は下回るそうだ。

「個人的には、表面利回り7%以下の物件は儲からないと考えています」と小宮氏。「満室でも手元に残るのは15%くらい。安易には儲からないと考えたほうがよいです」

不動産投資のステップ

実際に不動産投資を始めるときの流れは以下。

▼情報収集
▼物件の詳細確認(入居率、想定家賃など)
▼収支計画の作成
▼物件申し込み
▼契約
▼融資手続き
▼決済
▼物件管理を委託する場合は不動産管理会社との管理委託契約

とくに最初の「情報収集」について、小宮氏からポイントが語られた。

「買ってはいけない物件を見極めることが重要です。買ってはいけない物件とは、先ほど申し上げた表面利回り7%以下の物件に加え、毎月のキャッシュフローがマイナスになる築古(築年数の古い物件)、そして自分だったら住みたくないと思う物件です。駅から遠い、周辺環境が悪い、設備が古いなどの物件は入居者があまり望めないので、常に入居者視点をもって物件を選ぶことが重要です」

また情報収集手段については、ネット、セミナー、有識者に聞く、スクールに通う、書籍を読むなどがある。セミナーは1回の参加で得られる知識が断片的なため、とくに理解を深めたい分野のセミナーに絞るほか、税理士の無料相談があるセミナーであれば参加するメリットがあるとコメントした。

最後に、小宮氏から参加者へオススメの書籍が紹介されたので記しておく。

■図解 知識ゼロからはじめる 不動産投資の入門書
(小峰悟/2018年/ソシム)
図とイラストによる解説がわかりやすい。

■Excelでできる 不動産投資「収益計算」のすべて
(玉川陽介/2017年/技術評論社)
Kindle版では、DL特典としてオリジナルのExcelシートがついてくる。

■不動産投資専門税理士が教える 不動産投資の「収益計算」 本格入門
(稲垣浩之、中川理/2018年/ソシム)
収益計算シミュレーションができるExcelシートの無料特典あり。

新築マンションの市況 〜幹事・西牧耕平氏〜

第2部のスピーカーは、大手不動産企業で用地仕入れを手がける西牧氏。マンション購入を考えている人や、不動産ビジネスに関わる人に向けて、新築マンションを取り巻く市況について語られた。

今後、新築マンションの価格が高騰するか否かという疑問に対し、「誰にもわかりません」と断言して会場の笑いを誘った西牧氏。「ただ、3年後くらいまでなら想像できるので今日はその話をしたいと思います」と述べた。

そもそも分譲マンション事業は、販売価格を100%とするならば、内訳はだいたい利益10%、販売経費10%、土地代30%、建物代50%。資金回収サイクルは約3年で、建築費支払いの大半は竣工後となる。つまり、土地代には3年分の金利、建物代には竣工から完売までの金利が加算されるため、本来なら竣工時までに完売していることが収支上は理想だ。

金利が事業に与えるインパクトは大きいが、仮に販売価格を3%上げられたなら、3年後の完売でも当初予定利益を上回る。

「用地取得は3年前に行われているということですから、デベロッパーに求められるのは『3年後の販売価格がどうなるか』を見極めること。他社のマンションの販売価格、自社と比べていいか悪いかを知る必要があります」。近年で言う「良いマンション」とは、駅に近いこと、世帯数が多いこと、眺望がよく採光がとれることが条件だと西牧氏は言う。

マンション販売価格は今後上がるのか

他社のマンションの販売価格、自社のマンションと比べた際の良し悪しに加え、現実的に購入してもらえる価格になっているかも販売価格を判断する上で重要だという。

住宅ローンの金利が事業収支に与えるインパクトは大きい。たとえば8,000万円(頭金1,000万円)の物件を購入し、残り7,000万円を35年ローンで返済する場合、借入金利が0.63%であれば月々返済額は18万6,000円だが、金利が2.20%に上がると返済額は23万9,000円となる。つまり、金利1.6%の差が月5万3,000円に相当し、同じ返済額でも金利が0.63%であれば物件価格は+2000万円まで引き上げられるというわけだ。物件平均価格を8,000万とすると、これは事業収支の実に25%にも相当する。

ただしここで考えたいのが、現実的に購入可能な層がどれくらいいるか。たとえば物件価格8,000万円(頭金1,000万円)を35年ローン・金利1.35%で返済する場合、年間の返済額は251万1,000円(月々返済額は約21万円)となる。返済比率(年収に占める年間返済額の割合)は通常35〜40%が上限となっており、仮に40%の層をターゲットに設定すると、額面年収は820万円。これは年収倍率9.8倍(住宅購入価額が年収の何倍に相当するかを比率で表したもの。東京都は10.7倍)であり、年収上位21.4%に相当する。

一方で、物件価格9,000万円(頭金1,000万円)の場合は、同じローン年数・金利だったとしても返済比率40%にあたる層は額面年収960万円、年収倍率は9.4倍。年収上位16.3%となり、物件価格8,000万円の場合と比較して購入可能な層が4分の3にまで激減するのである。であれば8,000万円のまま占有面積を減らし、世帯数を増やすことで調整するほうが懸命かもしれない。

「そのためとくに首都圏では、物件価格よりも平均単価(物件価格÷占有面積)が高騰している傾向にあります」

建築費・土地代は今後上がるのか

建築費が確定するのは用地取得後1年弱。では今から1年弱後の建築費はどうなるのか。

西牧氏によれば、材料費は近年横ばいだったが、2018年秋以降に一部建材の需給逼迫(需要に対して、供給に余裕がなくなること)により着工時期が延期するケースが目立った。人件費も働き手不足や働き方改革により高騰している。しかしオリンピック特需終了により、受注減の業者が増加してきているという。「建築費はピークからは若干下落傾向にあるのでは」と西牧氏。

また土地代については、高止まりすると西牧氏は予測する。首都圏の分譲マンションの供給戸数は減少しており、2017年には3万5,898戸と4年前の64%にとどまった。そもそも新築を建てる土地がなくなってきており、とくに千代田区、港区、中央区では区内全域の法定容積率を使い切っているというデータを示した。

現在、デベロッパーは整理統合が進み寡占化が進んでいる。各社は都心部を中心に用地取得を試みるものの、大型の土地は取得が望めないため、賃貸や学生寮など分譲マンション以外の用途へシフトするケースが増えているそうだ。なかには郊外の用地取得に踏み切るデベロッパーもあるが、立地や規模を見誤り、凍結・減損を出すケースも少なくないという。

都心部の建設余地が少なくなる一方で、大手デベロッパーは都心部での事業を望むため用地が高騰する。マンション以外の事業展開も増えるが、都内への人口流入・核家族化により依然都内の世帯数は増え続けており、戸建からマンションへの住み替え需要も相まって一定のマンション需要は有り続ける。一方で、都内の世帯収入が増加しない以上は物件価格を一定水準に抑えざるを得ないうえに、専有面積を縮小効率化することにも商品企画上限界が来るため、高騰する土地代や高止まりする建築費を価格転嫁出来なくなることで物件を凍結するケースが増え、都心部物件の供給が逼迫。中古物件の価格も下がりにくくなる。

「デベロッパーの視点から見て現状、事業化が見込めるのは、建築費単価の下げられる大型物件か、販売価格を保てる駅近好立地物件。郊外物件についても低価格帯の受け皿として需要はあるでしょう。総じて言えば、3年後の新築マンション販売価格は、都心部は横ばい、郊外は二極化。3年後の新築マンション供給量は、都心部は大きく減少、郊外は微増から減少傾向になると思われます」

最後に西牧氏はこう言い添えた。「ただし、不動産は一物一価(同一市場の同一時点における同一商品は、同一の価格であること)。購入時の判断はくれぐれも自己責任でお願いします」

「不動産ビジネス研究会」とは

  • MBA+不動産による新たな付加価値創出
  • 学びとビジネスの融合による不動産系人脈形成
  • 不動産ビジネスを通じた持続的なLearning Community形成
  • グロービス生の不動産リテラシー向上への貢献

上記4つを目的に掲げ、不動産業界に新風を吹きこむために勉強会やフィールドワークを定期的に行うクラブ。

クラブ活動とは

社会の「創造と変革」に貢献することをテーマに掲げ、グロービスの学生が自主的に取り組む活動です。共通の目的や問題意識を持った同志が集い、それぞれのクラブが多彩なテーマで独自の活動を展開しています。学年の枠を超えて、在校生と卒業生が知識や経験を共有し合うクラブ活動は、志を実現につなげるための場として、大きな意味を持つものとなっています。

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