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投稿日:2019年06月25日
投稿日:2019年06月25日
医療×ブロックチェーンの起業家が説く、デジタルヘルス元年の創造と変革 ――グロービス経営大学院・公認クラブ「製薬ビジネスの会」 イベントレポート①
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- 製薬ビジネスの会 活動レポート
グロービスの学生が、共通の目的や問題意識を持つ仲間と自主的に取り組むクラブ活動の活動事例紹介。
先日行われたグロービス経営大学院 公認クラブ活動「製薬ビジネスの会」が主催する勉強会の内容をお届けします。
2019年2月8日、「医療×ブロックチェーン×起業」と題した勉強会が開催された。登壇したのは、グロービスの教員として「テクノロジー企業経営」を担当する前田琢磨氏。
医療情報や製薬企業向けのCRMツールの業界最大手企業であるIQVIAソリューションズ ジャパン株式会社で取締役バイスプレジデントを務めたのち、2019年1月にハッシュピーク株式会社を設立。ヘルスケア、コンサルティング、ブロックチェーンの3つの柱で事業を展開している。
本イベントでは、ブロックチェーンの概要からヘルスケア領域での活用事例までをわかりやすく解説。またブロックチェーン技術を活かした事業を考えるディスカッションも行われ、参加者一人ひとりがデジタルヘルスへの理解を深めた2時間となった。
ヘルスケアとデジタルが交差する現代
前田氏は近年の時代観を「ヘルスケアとデジタルの歴史的出会い」と表現した。
「ヘルスケアの中でも医療の技術は大きく分けて『医療機器』『医薬品』『外科』の3つがありますが、これらの3つの技術が大きく進歩し始めたのは今から500〜600年前。これはガリレオやニュートンが活躍しサイエンスの礎が築き上げられた時代と重なります。一方、デジタル技術が大きく進化し始めたのは60年ほど前です。たとえば、ジャック・キルビー氏が集積回路を発明したのが1958年で、ちょうど去年が集積回路誕生の60周年でした。こうしてみると600年ほどの歴史をもつ医療技術と60年ほどの歴史をもつデジタル技術が交差し、医療とデジタルの新しい技術応用の歴史が始まろうとしているのが、まさに今の時代なのです」
デジタル技術の進化は指数関数的でスピードも速く、インパクトも大きい。ここ30年でインターネット技術は飛躍的に発展した。また計算処理スピードやストレージの大容量化によって大規模な医療ビッグデータも扱えるようになってきた。こうした状況の中で、この10年で登場してきたのがブロックチェーン技術である。前田氏の専門であるブロックチェーンは、これまでは金融やゲーム業界を中心に発展してきたが、今後は医療をはじめとする他業界にも応用されていくであろう注目の技術である。
「もしかしたら数百年後には、ヘルスケアとデジタルが融合した元年は2019年と言われているかもしれません。その揺籃期(物事が発展する初期の段階)のタイミングに立ち会えるなんてとてもエキサイティングです」
ブロックチェーンを理解する3つのキーワード
そもそもブロックチェーンとは、仮想通貨ビットコインの中核技術となっている分散台帳技術のこと。2008年にサトシ・ナカモトが「ビットコイン:P2P 電子マネーシステム」と題する論文を発表し、翌年にはその理論を実現するソフトウェアが公開された。ちなみにサトシ・ナカモトの正体はいまだ不明で、国籍も性別も個人なのかグループなのかもわかっていない。
ビットコインのソースコードが公開されたのは2009年1 月8日。そのちょうど10年後に法人登記したという前田氏は、ブロックチェーンの可能性についてこう語った。「ブロックチェーン=仮想通貨ではありません。最近ではフィンテック領域以外でもブロックチェーンを応用できるのではないかという考えが広まり、さまざまな人や企業が実用に向けて動き出しています」
ブロックチェーンを理解するうえでは、「非中央集権の信用ネットワーク」「ピア・ツー・ピア(Peer to Peer / P2P)」「分散共有型台帳」というキーワードが不可欠である。
従来の「中央集権型の信用システム」とは、簡単にいえば銀行の考え方のこと。なんらかのサービスや財の取引が行われるとき、互いに見知らぬ人であっても銀行を介することで決済が成立する。私たちが銀行を信用しているからこそ、トランザクション(取引)が問題なく生じるのだ。このとき、取引の台帳は銀行が持っているということになる。
一方で「非中央集権の信用ネットワーク」とは、取引する人同士が同じネットワーク上に存在し、全員で同じ台帳を共有しながら決済をするというもの。台帳記入者は、喩えでいうと毎回公正なくじ引きのような仕組みでランダムに選ばれ、残りの人たちはその台帳のコピーを持つ。これが「分散共有型台帳」という概念であり、ブロックチェーンの仕組みである。
また、クライアント同士がサーバを介して間接的に通信する「クライアント・サーバ・システム」に対し、端末同士が直接通信方法を「ピア・ツー・ピア」と呼ぶ。以前、著作権問題などで話題となった音楽や動画のファイル共有ソフトにも、この技術が応用されているといえばわかりやすいかもしれない。ブロックチェーンの「非中央集権の信用ネットワーク」「分散共有型台帳」は、まさにこの「ピア・ツー・ピア」により成り立っている。
ただし、これだけを聞くといろいろな疑問が湧いてくると思います。
「台帳記入者を決める公正なくじ引きはどうやって行われるのか、ネットワーク内の人が結託して悪巧みをしたらどうするのか、二重支払いは防げるのか。しかし、これらをすべて解決したとされるのがブロックチェーン技術です。」
改ざんができないブロックチェーンの仕組み
「まずは実際に見てみましょう」と前田氏が開いたのは、『ブロックエクスプローラ』というサイト。ブロックチェーン上のトランザクション履歴を確認できるサイトのひとつだ。
ブロックチェーンは、ブロックというデータの単位をチェーンのようにつなげていくことでデータを保管する。ビットコインでいうと、ブロック内には「いつ」「誰が」「どれくらいの量を」取引したかという情報が書き込まれていく。最初のブロックができた2009年1月3日から2019年2月現在までに50万以上ものブロックが数珠つなぎにされており、停止したり改ざんされたりしたことは一度もない。
改ざんが不可能である理由は、ハッシュ関数という暗号方式を使ったブロックチェーン特有の構造にある。
「ビットコインに使われているハッシュ関数はどんな値を入力しても64桁の16進数のハッシュ値が出力されます。入力値が1文字でも違えばまったく異なるハッシュ値になります。このハッシュ関数は出力から入力を推定することは確率的にほぼ不可能です。」
「では悪意のある人が、過去のブロックチェーン台帳を改ざんして、最新の台帳を自分の都合の良いように辻褄を合わせようとすると何をしなければいけないでしょうか?」
「この人は改ざんした過去の台帳以降の台帳に記載されている数珠繋ぎになったハッシュ値をすべて再計算した上で、ブロックチェーンネットワークに参加している全ての人の台帳を書き換えてもらわなければなりません。」
「ハッシュ関数の出力値から入力値を推定することはほぼ不可能ですので、この悪意のある人はすべての入力値を片っ端から試して出力値と合致するものを探すしかありません。そのためには膨大な計算量が必要で、しかも、その間にも新しい取引が記録されたブロックチェーンの台帳が生成され続けているので、ブロックチェーンネットワーク参加者のだれよりも速く計算し出し抜かなければいけないのです。」
「結局、改ざんの労力でえられる報酬が見合わないため改ざんが行われません」
また、先ほどから出ている「くじ引き」とは、取引データを台帳に記帳する当選者を決める作業のことだ。くじの当選者にはビットコインが新規発行され報酬を受け取れる。当選するためには、事前に決められた特定のハッシュ値を出力する入力値(すなわち当選番号)を探し当てなければいけない。ハッシュ関数の出力値から入力値を推論することはほぼ不可能なので、当選番号となるハッシュ値を見つけるには、片っ端から絨毯爆撃方式でハッシュ関数に値を入力する作業をする。これがマイニング(採掘)とよばれるもので、これらのマイナーたちは膨大な数のASICという採掘専用のコンピュータを走らせて採掘に励んでいる。
ビットコインの場合、2019年2月現在の報酬額は12.5ビットコイン(BTC)。報酬額は約4年ごとに半減していくように定められている。ビットコイン発行上限数は2100万BTCに決められておりインフレが起きにくいようにもなっている。2019年2月現在は1BTC=40万円ほどで、取引データの記帳(くじ引き)は約10分ごとに行われるため、マイニングに一度成功すれば10分で500万円ほどの報酬がもらえるということになる。(本稿記載のタイミングでは1BTC=95万円)
「『ブロックエクスプローラ』のトップページにある『鉱夫』という項目が、マイニングに成功した人を指しています。たまに同じ人が高頻度で表示されますが、これはそのマイナー(採掘者)がコンピュータパワーを持っている証拠です」
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「製薬ビジネスの会」とは
本クラブには、製薬企業を中心に、医療、IT、コンサルなど幅広く製薬ビジネスに関わるメンバーが400名近く在籍しております。各分野の取組み事例を共有、議論することで、既存ビジネスの変革および新規ビジネスの創造を促進するとともに、会員相互のネットワークを構築し、会員それぞれの自己実現を目指しております。
クラブ活動とは
社会の「創造と変革」に貢献することをテーマに掲げ、グロービスの学生が自主的に取り組む活動です。共通の目的や問題意識を持った同志が集い、それぞれのクラブが多彩なテーマで独自の活動を展開しています。学年の枠を超えて、在校生と卒業生が知識や経験を共有し合うクラブ活動は、志を実現につなげるための場として、大きな意味を持つものとなっています。
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