Interview

楽天で磨いた「武力」とグロービスで学んだ「知力」が支える、心の底から湧き出る志

ユアマイスター株式会社

代表取締役社長

星野 貴之さん

グロービス経営大学院 卒業生(2016年卒業)

慶應義塾大学経済学部卒業後、2010年楽天株式会社入社。楽天市場事業にて年間MVP、全社社長賞などを受賞。2013年には九州全域の責任者を担当。2014年楽天株式会社で初めての幹部候補生プログラムに最年少で選出。2015年よりIRに異動後、増資・決算・投資家対応を担当。楽天株式会社退社後、2016年8月ユアマイスター設立。クリーニングや修理などのサステナブルな世界を促進するプラットフォームを運営中。2014年グロービス福岡校入学、2016年卒業。

グロービス経営大学院

教員

大崎 司

電通国際情報サービスでITの企画営業に携わった後、グループ2社のコンサルティングファームの立ち上げに関わる。会社のマネジメントに携わりつつ、自動車、通信、エネルギー、中央省庁など、広範なクライアントに対し、中期経営計画、成長戦略、新規事業戦略などのコンサルティングを実施。
現在は、グロービス法人部門名古屋オフィス責任者として、大手自動車会社をはじめ、中部圏の様々なクライアントに対して、人材育成・組織開発面でのコンサルティングを行いつつ、経営・マーケティング戦略・事業開発領域のコンテンツ開発や講師、ビジネスコンテストの審査、起業家へのメンタリングも行っている。

肩書き・プロフィールは取材当時の情報です。

有限な命を誰かのために使いたい。学生時代に大病を患ったことをきっかけにそう考えた星野貴之さんは、楽天で営業配属後のわずか2年半で営業1位となり、若くして役員候補になるなどのキャリアを築きながら、人々が感動できるサービスの提供を目指して起業の道を選びました。ESG市場での成長とともに人々の生活を支える大きな責任を背負い、労働力不足という社会課題を解決すべく人々の思いを巻き込んで研ぎ澄まされていった、志の源泉について語ります。

闘病生活で気づいた
「命の有限性」

大崎:星野さんは現在、社会課題の解決に向けて力強く事業を推進されていますが、そこに至るまでの「原点」をお聞かせいただけますか?

星野:私の原点は、21歳の時に経験した「闘病生活」にあります。高校から大学にかけて、ずっとテニスに打ち込む毎日を送っていました。しかしある日、健康診断の結果から急に病院に呼び出されて。そこから2〜3ヶ月ほど、治療と療養で、人から隔離された状態で、孤独に過ごすことになりました。その時、「命は有限なんだ」という現実に直面しました。

それまでの自分は、好きなテニスをやっているようで、実はいつの間にかやらされている感覚になっていたと気付いたんです。それってダサいな、と。社会や誰かのために命を使う生き方をしていきたくて、退院後に政治家事務所でインターンを始めました。「25歳で政界へ」と決め、それまでの3年で徹底的に学べる会社に行こうと、楽天を受けたんです。

実は、楽天には一度面接で落ちていたのですが、8月頃に別のルートで説明会の案内がありまして。「いちばん行きたい会社だったのに、なぜ最初の面接で落としたのか」と掛け合い、結果的に「敗者復活」で内定をいただくことができました。闘病の影響でしばらく通院も必要な状態だったのですが、それも理解した上で決めてくださったようで、最終面接官が涙を流しながら「頑張れ」と言ってくれたのが忘れられません。そこで「営業やって3年間で1位を目指す」という強い気持ちで入社しました。

ところが、最初に、当時買収した金融事業の統括をしていく部署に配属されたのですが、わずか2ヶ月で当時の上司から「お前はいらない」と言われてしまって。そこから営業に異動になり、九州へ赴任しました。赴任当初は生意気な態度で社内から厳しく叱られることも多かったのですが、お客様にはすごく可愛がっていただき、社内にも支えてくれる人がいまして、「絶対に1位をとってやる」と覚悟を決めました。ここがターニングポイントとなって、結果として2年半でトップセールスになることができました。

見えないキャリアを選んだ日。2時間の面談で決めた起業

大崎:営業で結果を出されたあと、そこから起業を決意されるわけですが、そのあたりの経緯を教えていただけますか?

星野:トップセールスを取った後はマネジメントを任されるようになり、24歳のときには40人ほどのメンバーを見ていました。その後、「若手から役員を育てたい」という号令が出て全社5,000人の中から5人という役員候補のひとりに選んでいただき、財務部に異動して財務を学びながら、ヨーロッパを担当したりしました。IRを通じて世界中のEコマースや当社サービスの原形を見るなかで、「日本はこのところ経済成長が停滞しているけれど、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資という潮流や、人々が感動できるサービスを提供するという方向ならば、ニッチではあってもきっと成長可能性がある」と考えるようになり、そういう会社を探して転職活動を始めたんです。

大崎:転職活動から、起業へと舵を切られたのはどういう流れだったのでしょうか?

星野:生意気にも転職エージェントの方に「三木谷さん(浩史氏、楽天社長)を超える経営者はいませんか」なんて言っていたら、「それなら、そういう人を探す仕事に就くか、自分がそういう人になればいいのでは」と言われ、あるベンチャーキャピタルをご紹介いただきました。そこで自分のやりたい事業モデルを熱く語ったら、わずか2時間の面談のうちに、「君は起業したほうがいい。1億出すよ」と言われたんです。

起業で失うものは、楽天で築いたキャリアだけ。でも、そのキャリアは自分の中ですでにイメージできてしまっていました。人間は保守的で、見えないものよりも見えているものを選びやすい。だからこそ、見えないものを追いかけたほうが自分は成長するはずだと考えたんです。28歳のとき、事業計画もほぼないまま、起業を決めました。

現場で培った「武力」と、
グロービスで得た「知力」

大崎:そうした動きと並行して、グロービス経営大学院に入学されていますね。その時の学びは、実際のところいかがでしたか?

星野:先ほどお話しした、40人のチームを任されるようになった中で、学びが少なくなっていると感じ始めたんです。営業の頃は経営者のお客さまから多くを学べたのに、管理職になると会話する相手は社内で、しかも部下の関係にある人ばかり。これは危機的な状況だと思いました。当時は成果も出していましたし、正直、天狗になっていた時期でもあります。

さらに、周りを見てみると楽天の幹部はハーバードなどでMBAを取得していて、それなら自分も経営を学んでおいたほうがうまくいくのではないか。そう考えて、グロービスの門を叩きました。

いざ入学してみると、頭を打たれるような衝撃でしたね。授業でのディスカッションについていけず、発言しても滅多打ちにされる感覚で。でも、そんなふうに鍛えられることこそ私が求めていたものでした。答えを教わるのではなく、答えのないところに自分で答えを出して、それが周りから鍛えられていくという経験が、本当に魅力的だったんです。

学んでみて、「ヒト・モノ・カネ」で経営を俯瞰する視点が身についたのはもちろんですが、何より大きかったのは、どんなに国際社会の情勢や経営環境が変わっても、売上・利益・企業価値といった変わらない原理原則があると気づけたことです。おかげで、日々のニュースを見ても「これはこういうことか」と理論に落とし込んで、「この先はこうなるんじゃないか」と読めるようになった。この、未来を予測する力と、それを人に説明する力の両方が、経営にはとても大事なんだと思います。

こうした学びは、仕事にもそのまま活きました。当時は財務部としてグローバルな投資家の方々と向き合っていたのですが、その方々に納得していただくには、ロジックがすべてです。この説明する力には、グロービスでの学びが役立ちました。現場で培った「武力」に、グロービスで得た「知力」が加わったな、と感じています。

大崎:グロービスのネットワークは、創業後の事業にどう役立ちましたか?

星野:利害関係のない友人が数多くでき、相談に乗ってもらうことが増えました。とくに大きいのは、正しい判断やアドバイスをくれる仲間が増えたことです。私は目的に向かって手段を選ばず突き進んでしまうところがあるのですが、そんなとき「一度落ち着いて考えよう」と立ち止まれるのは、率直に意見をくれる人たちのおかげだと思っています。

志は、責任とともに
研ぎ澄まされていく

大崎:ユアマイスターの事業にかける思いや志もお聞かせいただけないでしょうか?

星野:当社は、掃除や修理などのサービスを職人さんに依頼できるECサイトを運営しています。創業当時は、何もないところから、「こうした世界があったらいいな」という願望と、それを成し遂げたいという意欲で進んでいました。ただ、サービスのご利用が累計100万件を超えるような規模になると、加盟いただいている職人さんの仕事や生活を支える比重も大きくなり、生半可なことはできなくなります。そうした責任を背負ってビジネスができる状態まで来られたのは、大きな意味があると感じています。事業にかける思いは、責任を伴うことで研ぎ澄まされ、より確固たるものになってきました。

大崎:責任が大きくなることで、志もよりクリアになる感じでしょうか。

星野:志そのものは変わりませんが、「太く」なったと感じます。応援してくださる方や関わる人が増えるにつれて、その方々の志や思いまで自分が受け継ぐようになりました。創業者や経営者は、関わってきた人たちの過去を引き受けて未来をつくる立場ですから、背負うものが増えるほど志も大きくなる。逆に言えば、志がズレず、ブレずにいるからこそ、会社を続けてこられたのだと思います。

大崎:最初からそこまで、志の大切さを確信できていたのでしょうか。

星野:私は子どもの頃から、生徒会やキャプテンなど、リーダー的なポジションに就くことが多くありました。そのなかで、人に動いてもらうには、人間性やビジョン、ミッションといったものが大事なのだと、なんとなく感じてきた経験があります。頭が特別良かったわけでも、ずば抜けた能力があったわけでもありませんが、それでも私についてきてくれる人がいた。振り返ると、私を通して“何か”を見てくれた人がいたのではないかと思います。加えて、楽天時代に間近で見た三木谷浩史さんの志にも、大きく影響を受けました。あれは「リーダーの上のリーダー」の志だと感じるほどのスケールで、それを見て、志の大切さをより強く意識するようになったんです。

志は教えて身に付くものではありません。ただ、人間の心の底から出てくる志であれば、人に伝播していくものだと、私は仮説のように思ってきました。グロービスで志について学んだことで、その考えは間違っていなかったのだと腑に落ちました。自信が確信に変わり、これからも大事にしていこうと思うようになったんです。

「G-GROWTH」の一環で堀学長との対話から刺激を得る

大崎:ユアマイスターは、グロービス経営大学院が在校生・卒業生のベンチャー企業を支援する投資プログラム「G-GROWTH」からの出資を受けています。プログラムの一環として、学長の堀義人とは年に1度ディスカッションをされているそうですね。刺激を受けることはありますか?

星野:学長という立場と、投資家という立場と、両方の顔を持っているので、そこがまず面白いなと思っています。堀さんは、1の話から一気に10、20まで飛ぶような、細かい過程を飛ばして本質を語る話し方をするんです。最初は「何を言っているんだろう」と思っていました。それが、ある時期からついていけるようになった気がしていて、自分の経営者としての視座が上がってきた証だと感じています。年に1度こうしてお話しすることで、自分の成長を測ることができています。

それに、ベースでは応援してくれつつ、経営者でもあるので、率直な意見をズバリと言ってくれるんです。たとえば、「この取り組みはやめたほうがいい」といった話まで、その場できちんと伝えてくださいます。会社として、経営者個人として、いろいろな角度での踏み込んだフィードバックや助言をしてくださいます。堀さんは良いことも悪いことも関係なく、的確な判断を伝えることに徹していてありがたいです。

出した答えが正解かどうかではなく、その答えをどれだけ良いものにできるか

大崎:起業後、これまでで最も大きな手応えや喜びを感じたのは、どんな場面でしたか?

星野:ひとつは、電車のなかで当社のサービスを使ってくださっている方を見かけたときですね。スマホの画面にユアマイスターが映っているのが目に入って、「自分たちがつくったサービスが、こんなに身近なところまで届いているんだ」と実感しました。たまたま乗り合わせた一人の方が使ってくださっている。その光景に、サービスが社会の日常に溶け込みつつあることを感じたんです。最近移転をしたのですが、宅配業者の担当の方が、弊社のユーザー様だったことは、とても嬉しかったです。

もうひとつは、加盟してくださっている職人さんから「星野さんのおかげで、生活が成り立っています」と言っていただいた時です。自社で雇っている社員だけでなく、サービスを通じてつながった全国の職人さんの暮らしまで支えられている。これは、プラットフォームという事業の形だからこそできることだと感じています。

私は楽天時代、地方の中小企業に全国の市場をつなぎ、田舎にいくつもの仕事が生まれていく様子を間近で見てきました。雇用を生み、社会に貢献するモデルを、今度は自分たちの手で実現できつつある。それを感じられたときが、何より嬉しかったですね。

大崎:起業してから、「壁」と言えるような試練はありましたか。そして、それをどのように乗り越えてこられましたか。

星野:想定していない事態が起きた時ですね。コロナ禍がまさにそうでした。教科書に書かれていないことが起きると、答えの探し方も未来の予測も難しい。ある時期、2社の投資家のどちらから出資を受けるか、両方とも良いと思えてしまって決めきれなかったことがありました。それでも、答えが出ないなら出るまで動き続けると決めて、とにかく情報を集めて回った結果、最終的に別の投資家との出会いに至り、最良の道にたどり着けた経験があります。この経験から、まず情報収集をして「決めきれる状態」を作ることを最優先にする、という考え方に変わりました。

大崎:意思決定をするうえで、どんなことを大事にされていますか?

星野:私はオーナーなので、5年、10年という時間軸で「この判断は取り返せるかどうか」を常に考えています。短期の「点」で見れば自明に見えたことも、未来を含めた長期的な軸で見れば、選択が変わってくることがあります。また、タイミングも重要で、みんなが「良い」と思ったときはもう遅くて、経営者はそれより早く決めるものだと思っています。だからこそ損切りの判断もできますし、目先の評価に左右されずに済むのだと思います。出した答えが正解かどうかではなく、その答えをどれだけ良いものにできるかが、経営者にとって本当に問われている力だと思っています。

グロービスでの学びもまさにそうで、ただ正解を教わるのではなく、徹底的に自分の頭で考え抜いて一つの答え(仮説)を出してから、ディスカッションに臨みますよね。他人の意見を聞いてから同調するのではなく、まずは自ら決断を下すことが重要です。

大崎:まずは自ら答えを出し、それを行動によって「正解」にしていく実行力が必要だということですね。

星野:その通りです。新しい事業に投資をする判断も同じで、絶対に成功するかどうかは誰にも分かりません。しかし、不確実な未来に対してベストな選択をし、一度決断したならば、あとは自分の行動と執念で「その決断が正解だった」と証明していくしかない。

答えのない未来を恐れるのではなく、自分が背負った責任を原動力にして、自ら正解を創り出していく。それこそが、経営者の醍醐味であり、志を実現するための最大の力だと思っています。

学びを止めず、「結果が出るまでやり抜く」

大崎:今後の事業展望を教えてください。

星野:清掃業界で蓄積してきたデータは、私たちの運営するマッチングプラットフォーム、ひいては将来の日本にとって、とても貴重な価値があると思っています。サービスの担い手が人である以上、労働力不足は大きな社会課題と言えます。清掃はどんな暮らしの中でも必ず発生するもので、労働力不足が加速するほど、こうした需要はさらに高まっていくはずです。楽天は、Eコマースで「届く・買える」という体験をつくり、20年で当たり前のサービスへとなりました。目の前でサービスが提供され、ビフォーアフターをはっきり実感できる体験は、これからも色あせない価値です。これを楽天のように全国規模で届けられる会社にしていきたい。

そのうえで、しっかり利益を作り、トヨタ自動車のように大きな納税をする会社にしたい。スタートアップは赤字を掘ってでも売上成長を追うフェーズがありますが、これからは利益を生み、納税という形で社会に貢献したいんです。それが、自分がいてもいなくても人々の生活に残り続ける会社になる道だと考えています。

大崎:その先に、政治家という選択肢も見えているのでしょうか。

星野:選択肢としてはあります。今も毎週木曜19時半から、大臣経験者など第一線の政治家から学べる勉強会に通っています。いつか会社を誰かにバトンタッチするタイミングが来れば、政治の道に進むこともあるかもしれません。ただ、今は政治で変えるよりも、自分が創り上げた会社を通じてビジネスで人々に良い影響を与えられると感じています。自分より会社経営に長けた人材がいれば、その人に渡すべきだとも思っていて、そういう人に出会えたら、それは幸せなことだと思いますね。

大崎:星野さんは、経営の第一線にいながら学びを止めない方ですね。

星野:楽天で鍛えられた「武力」と、グロービスで得た「知力」が噛み合って回っていく――このサイクルによって、学んだことが何倍にも拡大する感覚を掴みました。トップである自分が学ぶことを止めたら、そこで組織の成長も止まってしまう。それを一番よくわかっているからこそ、学び続けているんだと思います。それをまさに、起業し、経営をしながら、日々実践をしているのではないかと考えております。