Interview

医療の未来を支えるキャピタリストが語る、
社会課題とビジネスをつなぐ学び

株式会社キャピタルメディカ・ベンチャーズ

ディレクター

後町 陽子さん

グロービス経営大学院
英語MBAプログラム 卒業生(2021年卒業)

薬学部卒業後、薬剤師免許を取得。青年海外協力隊として2年間ガーナに赴任し医療活動に従事。帰国後、夜間大学院で学び直した後に薬剤師として実務を経て、病院経営コンサルタントへ転身。コンサルタント在職中にグロービス経営大学院(英語MBAプログラム)を修了。現在はインパクト投資ファンドにてキャピタリストとして医療・ヘルスケア分野、地域課題解決のスタートアップ投資・支援をしている。

グロービス経営大学院

教員

朱 子青

フューチャーアーキテクト株式会社、アビームM&Aコンサルティング株式会社、株式会社マーバルパートナーズを経てグロービスに参画。グロービスでは、グロービスデジタルプラットフォーム部門にて、グロービス学び放題中国語版である「顧彼思無限学」の事業責任者として中国オンライン事業の立ち上げをし、現在はグロービス学び放題のコンテンツ企画に従事。また、創造ファカルティグループに所属し、カリキュラム開発・講師などを務め、卒業生向けファンドのG-GROWTHの運営に携わる。

肩書き・プロフィールは取材当時の情報です。

青年海外協力隊として訪れたガーナで、後町陽子さんが感じたのは、一時的な支援だけでは医療をその地域に根付かせることの難しさだった。帰国後は薬剤師、病院経営コンサルティングを経て、現在はキャピタリストとして医療・ヘルスケア領域のスタートアップ支援に携わる。必要な医療を持続可能な形で届けるには、何が必要なのか。現場・経営・投資へと視座を広げてきた後町さんの歩みから、社会課題とビジネスをつなぐ学びの意味を考える。

医療の知識はある。
でも、ビジネスが分からなかった

朱:後町さんがこれまでどのようなキャリアを歩まれてきたのか、教えていただけますか。

後町:もともとは薬学部で学び、薬剤師の免許を取りました。大学時代から国際保健や途上国医療に関心があり、卒業後は青年海外協力隊としてガーナに行きました。

現地で医療に関わる中で感じたのは、医療は本来、必要な人に持続的に届く仕組みでなければいけないということです。一時的に支援することにも意味はあります。ただ、それだけでは、医療をその地域に根付かせることは難しい。そこに大きな課題感がありました。

だからこそ帰国後は、ガーナで見てきた医療のあり方や、そこで感じた課題を、もう一度自分の中で深めたいと思いました。それで一度国際協力の道から離れ、日本に戻って大学院(金沢大学大学院医学系研究科)に進学しました。その後は薬剤師として2年ほど医療現場で働き、病院経営コンサルティングに携わるようになりました。現在は、ベンチャーキャピタルで医療・ヘルスケア領域のスタートアップ投資・支援に携わっています。

朱:病院経営コンサルティングに携わる中で、グロービス経営大学院の英語MBAプログラムで学ぶことを決められました。当時、どのような課題感があったのでしょうか。

後町:当時、病院経営のコンサルティングファームに転職をして、医療のことはある程度は分かるけれど、ビジネスのことが分からないと感じる場面が増えたんです。

病院の現場には、医師や看護師、薬剤師をはじめ、本当に一生懸命働いている人たちがたくさんいます。ただ、医療を持続的に提供していくためには、現場の努力だけではなく、組織としてどう動くのか、経営としてどう成り立たせるのかも考えなければいけない。

そのときに、自分には医療の専門性はあっても、ビジネスを体系的に捉える力が足りないと感じました。病院経営に関わる以上、医療と経営の両方を理解していないと、本質的な支援はできないのではないかと思ったんです。

仕事を辞めて学ぶという選択肢は、あまり考えていませんでした。仕事を実践の場として持ちながら学びたかったんです。授業で学んだことを、すぐに実務へ引き寄せて考えられる。その往復ができることは大きいと思いました。

また、もともと海外に関心があり、実際に海外で活動してきた経験もありました。当時は国内の仕事をしていましたが、その後の可能性を考えたときに、英語で学べる選択肢があるならそちらがよいと思い、グロービスの英語MBAプログラムを選びました。

社会課題とビジネスを
つなぐ視点に出会った

朱:グロービスで学ぶ中で、特に印象に残っている科目や学びはありますか。

後町:一番印象に残っているのは、「ソーシャル・ベンチャー・マネジメント」です。

ガーナで医療に関わったときに感じていたのは、医療を一時的に届けるだけではなく、現地に根付く形で続けていくことの難しさでした。だからこそ、社会課題をビジネスで解決し、事業として続けていくという考え方を学べたことは、自分の中ですごく大きかったです。

授業では、実際のケース(企業事例)をもとに、どのような課題に対して、どのようなビジネスモデルで向き合い、それがどう事業として成立しているのかを学びました。毎回さまざまな事例に触れられたので、自分がそれまで知っていた一般的なビジネスモデルとは違うやり方もあるのだと分かったんです。

それまで私は、社会課題に向き合うことと、ビジネスとして成り立たせることを、どこか別のものとして捉えていたのかもしれません。でも、「具体的にこういうふうにできるんだ」と思える事例に触れたことで、ビジネスを捉える幅が広がりました。

医療の未来を変えるため、
スタートアップ支援の道へ

朱:病院経営コンサルティングに携わった後、現在はベンチャーキャピタルで医療・ヘルスケア領域のスタートアップへの投資・支援に携わられています。そこには、どのような問題意識があったのでしょうか。

後町:私はずっと医療・ヘルスケア領域に関わってきました。アフリカにいたときも、日本に戻ってからも、医療は誰もが必要なときに、必要な医療へ適切にアクセスできるものであるべきだと考えていました。人々が希望を持って生きるための基盤になるのが医療だ、と。

病院経営コンサルティングの仕事は、とても好きでしたし、やりがいもありました。ただ、その中でまた課題感が芽生えてきたんです。個々の病院を改善していくことはもちろん大事です。しかし、その積み重ねだけで、医療全体が良くなる未来が本当に来るのだろうか。そう考えるようになりました。より根本的に変えるには、新しいテクノロジーを医療に取り入れていく必要があるのではないかと考えるようになったんです。

もう一つ大きかったのは、病院経営コンサルティングの仕事を通じて、スタートアップやベンチャーキャピタルの人たちと関わる機会があったことです。私はそれまで、投資やファイナンスを、どこかドライで無機的なものとして捉えていた部分がありました。でも実際に関わってみると、その印象は大きく変わりました。

もちろん事業性や市場性は重要ですが、最終的に事業が伸びるかどうかは、起業家や経営者がどんな課題意識を持ち、どんな未来を描き、どのように意思決定していくかに大きく左右されます。投資家もまた、その人やチームを信じて伴走していく。スタートアップも投資も、思っていた以上に人に向き合う、とてもウェットな世界だったんです。

それが一周回って面白いと思ったんです。医療をより根本的に変えていくために、新しいテクノロジーやスタートアップの力が必要になる。その事業を支える側に関わることにも、大きな意味があるのではないかと思うようになりました。

短期的な売上ではなく、社会課題解決につながる価値を作り込む

朱:医療・ヘルスケア領域でインパクト投資に携わる中で、やりがいを感じる点と、難しさを感じる点をそれぞれ教えてください。

インパクト投資:利益創出とともに社会課題解決をめざす企業を対象に行う投資のこと

後町:日々いろいろな起業家とお会いしますが、皆さん「この課題をどう解決するか」「いま困っている人をどうすれば支えられるか」を考え続けているんです。未来をよくするために実践し続けている人たちと日々会い、一緒に仕事ができることは、自分にとってすごく幸せなことだと思っています。

一方で、医療・ヘルスケア領域は、成果が出るまでに時間がかかります。ただ、私は医療業界にずっと関わってきたので、それを「長すぎる」とはあまり思っていません。

すでに世界中に多くのプレイヤーがいて、技術も進んでいる。それでもまだ満たされていない課題があるということは、複雑性が高く、難しい要素が組み合わさっているということだと思います。だからこそ、社会課題解決をしっかりと前に進めるには、プロダクトやサービスを丁寧に作り込み、何度も検証しながら進める必要があるのです。

投資としては、一般的に「より早く、より大きく」成長することが望まれます。ただ、医療・ヘルスケア領域では、ある程度の時間を使ってでも、きちんとアウトカムが出るものを作り込むことが大事だと考えています。短期的に売上を作ることはできたとしても、これまでの解決策と結果が変わらないのであれば、せっかく新しく取り組む意味が薄れてしまう。だからこそ、顧客と向き合い、アウトカムを出すことにこだわる感覚を強く持っています。

そのうえで、良いものを作ったからといって、それが自然に必要な人へ届くわけではありません。どうすれば本当に必要としている人に届くのか、事業として続けていく形にできるのか。良いものだからこそ、届ける仕組みをつくるところまでやりきらなければいけない。そのために、起業家やチームと一緒に事業をつくっていくことが、今の仕事だと思っています。

社会課題解決に必要な
資金が回る流れをつくる

朱:今後の展望について教えてください。

後町:私は一貫して、医療を必要な人に届けることに関わっていきたいと思っています。そのためのひとつの手段として、いまインパクト投資の仕事をしています。

社会課題の解決に対して必要な資金を循環させることの必要性は、10年前に比べると少しずつ知られるようになってきたと思います。インパクト投資という考え方も、以前よりは耳にする機会が増えました。

ただ、実態として十分にそうなっているかというと、まだ発展途上だと感じています。「社会的に良いことをしています」というだけでは、資金の流れは大きく変わりません。投資先の方々と一緒に、社会的な意義だけでなく、事業としての成長や投資としての結果も示していく必要があると思っています。

経済としても、金融としてもきちんと回り、その結果として、より救われる人が増える。インパクト投資をそうした投資スタイルとして確立していくために、きちんとやりきっていきたいと思っています。

数字の先に、
人を見ているか

朱:最後に、グロービスで学ぶ方や、VC・スタートアップ支援に関心のある方に向けて、学びを実務につなげるうえで大切だと思うことを教えてください。

後町:知識と実務を切り離さないことは、とても大切だと思います。学んでいるときも、実務に向き合っているときも、知識と現場が分かれてしまうことがあります。でも本来は、つながっているはずです。

例えば、数字の先にちゃんと人を見ているか。逆に、人々の生活や困りごとが、どう数字に表れているのか。そうした接続を意識できると、ビジネスでできることの可能性はもっと広がると思います。

VCやスタートアップ支援の仕事も、数字だけを見る仕事ではありません。起業家が何を見て、どんな人たちと、どう事業をつくっていくのかに向き合う仕事です。だからこそ、学んだ知識を現場の人や課題と結びつけて考えることが大切なのだと思います。