Interview

「ミガキイチゴ」を生んだ起業家が語る、
社会に新たな流れをつくる力

株式会社GRA

代表取締役CEO

岩佐 大輝さん

グロービス経営大学院 卒業生(2012年卒業)

2002年:大学在学中にITコンサルティングを主業とする「株式会社ズノウ」を設立
2011年:東日本大震災後に「特定非営利活動法人GRA」「農業生産法人GRA」を設立
アグリテックを軸とした「地方の再創造」をライフワークに。
故郷のイチゴ農業に変革を起こし、ひと粒1000円の「ミガキイチゴ」を開発。
2012年~2013年:インドに進出しイチゴ生産を開始。初収穫を実現
2014年:「ジャパンベンチャーアワード」(経済産業省主催)にて「東日本大震災復興賞」を受賞
2014年3月:初の著書『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)を出版

株式会社グロービス

ベンチャーサポートチーム

内丸 瑞希

早稲田大学政治経済学部卒業。経営共創基盤にて海外進出・新規事業・M&Aのコンサルティング業務、投資先ベンチャー企業で事業開発・経営企画に携わる。その後、グロービスで法人向け経営者育成・組織開発 に法人営業として携わる。同じくグロービスにてKIBOW社会投資ファンドのキャピタリストおよびアクセラレーションプログラムG-STARTUPの企画・ファンドマネジメントを担当。

肩書き・プロフィールは取材当時の情報です。

IT企業を経営しながらグロービスで経営を学び、東日本大震災後には故郷・宮城県山元町でいちご農園を立ち上げた岩佐大輝さん。地域に働く場所をつくるため、農業にスタートアップ経営の考え方を応用し、ブランドいちご「ミガキイチゴ」を展開。アグリテック領域に新たな流れを生み出してきました。社会課題を前に、起業家は何を学び、どのように行動へ移していくのか。地域に根ざして事業をつくる岩佐さんの歩みから考えます。

起業家としての経験や感覚を、
体系的な経営知へつなげる

内丸:まず、グロービスに入学される前に感じていた課題や、入学された理由について教えていただけますか。

岩佐:もともと起業したのは24歳くらいの頃です。ITコンサルティングを手がける会社を経営していました。2000年代はIT業界がとても伸びていた時期で、比較的順調に経営していたんです。

しかし、その後にリーマンショックが起き、会社の業績が大きく落ち込む時期がありました。幸い、会社が立ち行かなくなるようなことはありませんでしたが、このままでは常に行き当たりばったりになってしまうのではないかという漠然とした不安を感じました。経験や感覚だけで意思決定するのではなく、いちど経営を体系的に学ぶ必要がある。そう考えたのが、MBAを検討し始めたきっかけです。

内丸:すでに会社を経営されている中で、大学院に通うのは簡単ではなかったと思います。時間の面での葛藤はありませんでしたか。

岩佐:時間は本当になかったですね。ただ、起業家はみんな基本的に時間がないので、「落ち着いたら行こう」と思っていたら、いつまでも行けない。仕事の時間は変わらないわけですから、それ以外の時間を学びに投資するしかないという感覚でした。

当時、働きながら通える大学院を探したのですが、土日や平日夜に授業が受けられるのはグロービスぐらいしかなかった。そこで、グロービスで学ぶことを決めました。

多様な学生との学びを通じて、自分の現在地を知る

内丸:グロービスに入学してから、どのような変化がありましたか。

岩佐:私のように若くして起業した人は、自分が社会の中でどのくらいのレベルにいるのかを知る機会がありません。周りに比較できる相手がいないんです。スキルにしても、人との関わり方にしても、自分がどのあたりにいるのかが分からないまま走り続けている。

グロービスに入って、それが初めて見えました。大企業で働いている人、起業家の人、業界も年齢もさまざまな人たちと一緒に学び、議論する中で、自分の現在地が分かった。クラスでもリーダーシップを取ることができて、走りながら身に付けてきたものが、ちゃんと力になっていたんだと実感できたのは大きかったですね。

そのうえで、経営を体系的に学ぶことで、それまで感覚的にやっていた判断の解像度が上がったんです。例えばアカウンティングは、実務で使っていたことを一般化して学ぶと「自分がやっていたのはこういうことだったのか」と腑に落ちる。「クリティカル・シンキング」を学んで、自分の判断を俯瞰できるようにもなりました。起業家としての経験と、経営の体系知がつながった感覚は、最初の1年間でかなりありましたね。

内丸:グロービスでの学びを通じて、仲間とのつながりも生まれていったのでしょうか。

岩佐:仲間はたくさんできました。ただ、人脈をつくろうと思ってやっていたわけではないんです。意識していたのは、とにかく学びにコミットすることでした。

勉強会があれば必ず自分が発起人をやる。授業での学びや気付きを積極的にみんなにシェアする。授業では誰よりも早く発言する。別に誰かのためにやっていたわけではなくて、自分のためにやっていたんです。ただ、そうやって本気で向き合っていると、周りとの信頼関係が自然に積み重なっていくんですよね。

振り返ってみると、それは「信頼貯金」のようなものだったのだと思います。何かを一緒にやろうとしたときに、急に信頼関係ができるわけではありません。日々の学びや議論の中で、この人は本気で向き合っている、この人とは一緒にやっていけそうだという感覚が積み重なっていく。それが、のちに大きな意味を持つことになりました。

人生の時間をどこに使うのか。
震災後の行動を支えた問い

内丸:グロービスに入学されてから約1年後に、東日本大震災が起きました。ご自身の会社を経営されている中で、すぐにボランティアチームを立ち上げ、活動を続けられています。なぜそこまで動くことができたのでしょうか。

岩佐:グロービスに入ってから、志やパーソナルミッションについて考える時間が増えていたんです。最初は正直、違和感がありました。自分はスキルを身につけたくて入ったのに、「志を考えろ」と言われても、ちょっと大げさだなと。

ただ、途中から感じ方が変わっていきました。人生は一回しかないし、やれることもそんなに多くはない。時間はあっという間に過ぎていく。この人生の時間において、自分はどこに身を置いて、何をやるのがよいのだろうか。そう考えるようになっていたんです。

そこに震災が起きて、故郷が甚大な被害を受けた。人生について、より深く考えざるを得なくなりました。

加えて、それまでの起業家としての経験があり、グロービスでスキルも鍛えられた。一緒に動ける仲間もできていた。今振り返ると、挑戦するための土台ができていたんですよね。普通であればすぐには動けなかったかもしれませんが、幸運にもそういう準備ができていたから、すぐに動けた。グロービスの力はすごく大きいですよ。

「ここで勝負しなかったら、生きてる意味があるのか」

内丸:震災後、最初はボランティアとして活動されていたと思います。そこから、いちご農園の立ち上げという事業づくりへは、どのようにつながっていったのでしょうか。

岩佐:最初はボランティアとして間接的な支援をしていました。ただ、地域社会に入っていく中で見えてきたのは、外部からの支援はたくさんある一方で、地域の中に入って実際にものごとを動かしていく人がいないということでした。支援者ばかりが増えても、それを受けて事業を担う主体がない。そういう状況だったんです。

町の方々からも「働く場所がなかったら地域は栄えないだろう」と言われましたし、私自身もそう思いました。地域が賑やかであり続けるためには、人がいい環境で働ける場所が必要です。だったら自分たちでリスクを取って、雇用を生み出す事業を作るしかない。そう考えて、事業の立ち上げに踏み込みました。

内丸:とはいえ、農業は未経験ですし、何億円という個人保証を背負うリスクもあったと聞いています。恐怖はなかったのでしょうか。

岩佐:今振り返ると、かなりのリスクでしたよね。よく踏み切ったなと思います。でも当時は、不思議とそういうことを考えなかった。

千年に一回と言われるような大震災の時期に生きていて、その地域にゆかりがあって、投資できるお金もあった。「ここで勝負しなかったら、生きてる意味があるのか」という感覚だったんです。だから、もう全てを賭けてやろうと。その時に自分が一番やるべきことは何かを考えたら、やっぱりそうなった。

内丸:著書の中で、初めていちごが収穫できたとき、あまりの感動に「まずは地域の方々に食べてもらいたい」と思ったというエピソードが印象的でした。その体験が、社会起業家として生きていく覚悟につながったとも書かれています。

岩佐:実際に地域でいちごが育ち、収穫できたとき、自分たちがやろうとしていることの意味を強く実感しました。まだ大きな売上になっていたわけではありません。

でも、そこで人が働き、いちごが実り、それを地域の方々が喜んでくれる。そのソーシャルインパクトによって自分自身も豊かになるし、人々も楽しそうになる。それは、時価総額至上主義みたいな考え方よりも、はるかに私にとって豊かでしたね。

農業に、スタートアップの論理を持ち込んだ

内丸:いちご農園を立ち上げるにあたって、グロービスで学んだことはどのように活きましたか。

岩佐:一番役に立ったのはファイナンスですね。農業の世界には、当時、スタートアップのように資本を集めて成長させていくという発想がほとんどありませんでした。基本的には借入のビジネスなんです。

農業を専門にお金を出す金融機関はたくさんあって、設備投資や運転資金にはデット(借入)がつく。でも、我々のようにゼロから研究開発をしたり、ブランドをつくったりするところにはお金がつかないんですよね。

中長期で価値をつくり出すためには、エクイティ(株式による資金調達)を何億、十億単位で入れないと勝負にならない。そう考えて、農業という特殊な業界にスタートアップ的な論理を持ち込むことに挑戦しました。グロービスで学んだファイナンスのスキルは、そこでダイレクトに役に立ちましたね。

内丸:もともとは「石橋を叩いても渡らない」タイプだったと著書に書かれていました。そこから大胆にリスクを取れるようになったのはなぜでしょうか。

岩佐:とにかく大事なのは時間なんです。限られた時間の中で、社会にインパクトを出すということに強いこだわりを持つようになると、健全にリスクを取ることが、自然にできるようになっていきました。

株で資金を集めるというのは、いわば営業利益の前借りなんですよね。将来の営業利益の何年分かを時価総額として集めて、一気に投資できる。つまり、時間を買えるんです。とくに地域社会の場合は、衰退していくスピードと常に相対的に見なければいけない。普通にやっていたのでは間に合わないんです。普通の何倍ものスピードで勢いをつけていかないと。

内丸:その後、事業を成長させていく中で、M&Aという選択もされています。創業者として会社を手放すことへの葛藤はなかったのでしょうか。

岩佐:そもそも会社の成り立ち自体が、パブリックなものをつくろうという思いから始まっています。資本が自分に集中すること自体が不健全だと思っていましたから、手放すことに対する葛藤はなかったですね。

地域社会にインパクトを出し続けるためには、会社が持続的に成長し続けなければいけない。でも、自分ひとりの資本で持ち続けていると、後継ぎの問題が出たり、事業の成長が創業者個人の力に縛られて、それ以上広がらなくなったりする。地域のインフラとして社会の財にしていくためには、資本の面でも広く開いておく必要があると考えていました。

IPO(株式上場)をするか、M&Aをするか。そこはかなりドライに考えましたね。投資家にとってどちらがよいか、農業という事業にどちらが合っているか。起業家はきちんと投資家にリターンを返さないと信用が積み上がっていかないですから、いかによい形でそれをやれるかを考えて、M&Aを選択しました。

起業家の役割は、
社会にモメンタムをつくること

内丸:これまでの挑戦を通じて、手応えを感じていることはありますか。

岩佐:農業にスタートアップとしてチャレンジするということが、当たり前の時代になってきたことですね。以前は農業といえば後継ぎビジネスのような見られ方をしていました。

でも今では、アグリテックの会社がどんどん出てきて、我々と同じように資金調達をする会社も増えている。若い人たちがそういうことを当たり前にできるようになったというのは、大きな手応えです。

結局、モメンタム(勢い)をつくるということが、起業家が社会を変えるうえで最も重要な役割だと思うんです。誰かが旗を立てることで、社会の中で刺激になる。「あいつもやっているぞ」と。嫌われるかもしれないし、尊敬されるかもしれない。でも、いろんな人たちに刺激を与える存在であること自体が、起業家にとってすごく大事な役割だと思います。

内丸:これからの時代、起業家にはどのような力が求められると思いますか。

岩佐:今は、構造的に思考できる人が、テクノロジーを活かしてものすごいレバレッジをかけられる時代ですよね。そのような中で起業家に求められるのは、「構造的に思考する力」や「人間らしい直感」だと思います。「クリティカル・シンキング」のような思考の訓練に意味があるのかと問われることもありますが、ものすごく意味がある。レバレッジの一番の起点になるからです。

ただ、構造的に整理できることは、もう人間よりもテクノロジーの方が強い時代でもあります。だからこそ、論理では捉えきれない感覚の部分、たとえば愛情やワクワク、ドキドキといった人間らしい直感が、これからますます価値を持つようになると思います。

内丸:岩佐さんご自身が、経営者として大切にしていることはありますか。

岩佐:自分の思考が自由であるかどうかは、常に意識しています。何かに囚われていないか、盲信していないか、ポジショントークになっていないか。自分が常にオリジナルであるか。そこは大事にしていますね。

内丸:最後に、起業家やこれから起業をする方にメッセージをお願いします。

岩佐:社会を創るという感覚を持って自分の事業に取り組むとき、人は、それまで発揮できなかったような力を発揮できるようになったり、周りから応援を得られるようになったりするものだと思います。自分のためだけでなく、社会のために何かを創ろうとするとき、見える景色は変わってくる。一緒によい社会を創りましょう、と伝えたいですね。