Interview

起業は手段ではなく、世の中に価値を生む「生き方」正解なき時代を楽しむ「志」の育て方

Knot, Inc.

Co-Founder & CEO

小林 清剛さん

グロービス経営大学院 2011年卒業

大学在学中に食料品の輸入会社の共同創業者として参画。2005年に珈琲通販会社を設立し、2009年にはスマートフォン向けモバイル広告ネットワークを手がける株式会社ノボットを設立。国内2位の規模に成長させた後、2011年にKDDIグループへ十数億円で売却。2013年に米国シリコンバレーに拠点を移し、複数の事業立ち上げを経験。2015年よりTokyo Founders Fundのパートナーとして米国を中心に約40社への投資を行うほか、ベイエリアの日系起業家コミュニティの形成・運営も担う。2021年にKnot, Inc.を設立し、AIを活用したグローバル採用プラットフォーム「Noxx」のCo-Founder & CEOとして事業を牽引。2026年、DeNAグループに参画。グロービス経営大学院2011年卒業。

肩書き・プロフィールは取材当時の情報です。

手段としての起業から、世の中に価値を生み続ける生き方へ。大学在学中に起業した小林清剛さんは、2006年にグロービス経営大学院に入学し、起業家コミュニティ「GEC(グロービス・アントレプレナーズ・クラブ)」を仲間と立ち上げました。その後、ノボットを創業してKDDIグループへ売却。シリコンバレーへと拠点を移し、日本人起業家のエコシステムを育ててきた小林さん。「自分を使って、世の中にどれだけの価値を提供できるか」をぶれない軸に挑戦を重ね、2026年、DeNAグループへの参画を決断。事業を起こすことそのものを生き方とするシリアルアントレプレナー(連続起業家)としての歩みを、グロービス経営大学院 特任副学長の田久保善彦が聞きました。

起業を経験したからこそ、
必要だった「体系的な学び」

田久保:小林さんは大学時代にすでに起業されていたんですよね。そもそも、なぜ起業しようと思ったのでしょうか。

小林:大学3年生の頃に、インターンで営業職を経験しました。それまで営業をしたことがなかったのですが、やってみたら意外とできて。そこで一定の成果を出せたことがきっかけで、「自分は営業ができるんだ」という自信と成功体験を得たんです。

のちに起業家コミュニティを立ち上げて、多くの人の起業を後押しする立場になったときに感じたのですが、やはり一歩踏み出す前に成功体験を持つことはとても大切です。自分にもできるという確信があったからこそ、友人に「起業しよう」と誘われたときにも踏み出せたんだと思います。友人が起業したコーヒーの輸入会社に共同創業者として入り、1年ほどで抜けて、今度は自分でコーヒーの通販会社を立ち上げました。それが大学4年生の頃です。

田久保:自分で会社を経営しながら、大学卒業後すぐにグロービスに入学されましたね。2006年というと、まだグロービス経営大学院が設立されたばかりで、知名度も低い時代です。なぜグロービスを選ばれたんですか。

小林:当時経営をする中で、まだまだ自分には知らないことがたくさんあると痛感していました。失敗を繰り返して学ぶことはできますが、効率が悪いし、周りにも迷惑をかけてしまう。そこで一度、経営の体系的な知識を学びたいと思ったんです。

実は、他のMBAはほとんど検討していなくて、決め手は堀さんのブログでした。堀さんが一生懸命取り組まれていることや人となりがよく伝わってきて、なぜグロービスを作ったのかという志も書いてあった。そこに強く共感しましたね。

田久保:当時は最年少での入学でしたよね。どのような学生生活でしたか。

小林:当時は起業家が少なかったこともあり、皆さんから対等に接していただけました。経験も知識も豊富な方々が自分と同じように悩んでいることも分かりましたし、何を目指して仕事をするのかということを真剣に語り合える場でもありました。その過程で、グロービス・アントレプレナーズ・クラブ(以下GEC)を仲間と一緒に立ち上げました。

グロービス・アントレプレナーズ・クラブ(GEC):「日本を代表する起業家を輩出し、相互支援を果たす」ことを目的とした、グロービス経営大学院最大の公認クラブ。これまで数十億円規模に成長するベンチャーなど、100名以上の起業家を輩出している。

田久保:GECは今や5,000名を超えるグロービス経営大学院の公認クラブですよね。なぜ当時、そういうコミュニティを作ろうと思ったんですか。

小林:「起業に関心はあるけれど踏み出せない」という方がとても多かったんです。グロービス生がより起業しやすくなるよう支援できる場があるべきだと、当時の仲間と話し合って立ち上げました。インターンでの成功体験が自分の起業への第一歩を後押ししてくれたように、GECが誰かの第一歩を支える場になればという思いがありましたね。結果的に、GECは多くの起業家を生み出しただけでなく、私自身が後に立ち上げたノボットというモバイル広告会社にも、多くの仲間たちが参画してくれました。

起業を「手段」から「生き様」へ変えた転換点

田久保:小林さんはご自身の会社を経営する一方で、GECの設立をはじめ、誰かの背中を押す仕組みをつくる活動もずっと続けられていますよね。なぜ、そこに意識が向いたのでしょうか。

小林:世の中に対して、自分を使ってどのような価値を提供できるか。それを考えたときに、最高のチームを集めて達成するというのが、自分の起業家としてのスタイルなんだと思います。目的を持ったコミュニティを作ることも、スタートアップを作ることも、結局は同じ方向を目指している。どちらも起業家としての生き方の一部なんです。

しかし、最初からそう考えていたわけではありません。そこに至る大きな転換点がありました。それは、先ほどお話ししたノボットを、KDDIグループに売却したときのことです。

それまでは正直、起業を「手段」として捉えていました。苦しい時期もあって、自分が起業家として本当にやっていけるのか、起業家としての力を証明しなければという焦りがあった。30歳までに大きな結果を出したいという気持ちもありました。

田久保:それが売却をしたときに変わった、と。

小林:そうですね。当時、日本ではスタートアップのExit(創業者が投資回収を実現すること)といえばIPO(株式上場)が主流で、M&A(企業の買収・合併)での成功事例はほとんどなかった。この売却をきっかけに、IPO以外の選択肢でも資金調達ができるという認識が広がって、実際にその後M&Aの件数も増えていきました。自分の挑戦が業界全体にポジティブな影響を与え、歴史の転換点をつくれるということを初めて実感した瞬間でした。

田久保:起業が手段から、世の中に影響を生み出す生き方そのものに変わったということですね。

小林:グロービスの学びを通じて出会った『後世への最大遺物』という本に、「生き様こそが最大の遺物だ」という言葉があります。手段として起業を捉えている間は、どうしても成果で価値を測ってしまう。でもあの経験を通じて、起業家として生きるプロセスそのものが世の中に価値を提供できるのだと気付きました。起業は手段ではなく、生き方なんだと。

シリコンバレーに日本人起業家の居場所をつくる

田久保:売却後はKDDIグループでの広告事業などを経て、2013年にサンフランシスコ・シリコンバレーに渡られましたね。何がきっかけだったのでしょうか。

小林:ノボットが日本でGoogleに勝てず二番手に終わったことが悔しくて、アメリカに行って勝負したいという思いがずっとありました。世界中の優秀な人材、資金、メディアの注目が集中しているシリコンバレーは、世界で勝負できるプロダクトを作る上で最も効率的な環境です。世界で戦うには、ここに身を置く必要がある。当時からそう考えていましたし、今もその思いは変わっていません。

ただ、渡米当初はカフェでコーヒーもうまく頼めないくらいの英語力で。東京ではスタートアップ業界で会いたい人にはだいたい会えたのですが、シリコンバレーではまったくのゼロからの再スタートでした。

語学学校に通いながら、現地の起業家や投資家に毎日3〜5人ほど会い続ける日々。その中で気付いたのは、まずは自分からギブし続けることが何より大切だということでした。日本に旅行する人においしいお店を教えたり、日本の投資家を紹介したり、自分にできることは全てやる。シリコンバレーでは「誰からの紹介か」「誰とつながっているか」が信頼の証になります。その輪の中に入って初めて、コミュニティの一員として認めてもらえるんです。

田久保:ご自身がそうやってゼロから現地コミュニティを切り拓いていく一方で、2015年にはTokyo Founders Fundを共同設立されるなど、日本人起業家の支援にも注力されていきましたよね。ご自身の挑戦で手一杯になりそうな時期に、なぜ「日本人の居場所」をつくろうと思ったのでしょうか。

小林:当時、シリコンバレーには日本人の起業家がほとんどいませんでした。ビザの取り方も分からないし、日本人同士で固まることに抵抗を感じる人も多くて、助け合う空気があまりなかった。なので、なぜシリコンバレーなのか、なぜここで勝負するのかということを一人ひとりに伝えて、共感してくれた人は徹底的に支援しました。

田久保:そこまでして他者に「ギブ」し続ける、根っこにある想いは何なのでしょうか。

小林:使命感という言葉は「命を使う」と書きますが、それはつまり自分の時間を使うことと同じだと思っています。自分の時間を使って世の中にどう価値を提供できるか、それを最大化することを常にピュアに追求しています。

そして、見返りを求めずに価値を提供し続けると、運が高まっていくんです。運というのは、自分が準備していたものに機会が合うこと。GECを立ち上げた過程でノボットに仲間が集まったように、自分が提供した価値は思いがけないかたちで事業にも返ってきます。事業はどれだけ計算を尽くしてもコントロールできない部分が必ず残る。その部分を支えてくれるのが運なので、結局のところ、世の中に価値を提供し続けることが一番大切なんです。

DeNA参画の決断に込めた想い、終わりのない「起業道」

田久保:シリアルアントレプレナー(連続起業家)としてずっと歩んできた中で、苦しい時期もあったと思います。起業家としてメンタルを保つために、普段意識されていることはありますか。

小林:ひとつは、日々の積み上げを大事にしています。人から教えてもらったこと、グロービスで学んだこと、本で学んだこと、自分の経験から気付いたこと。それらを全てメモしていて、そのリストは今や3,000〜4,000項目に上ります。できるようになったものは消して、自分が直したい習慣や大切にしたい価値観をチェックリストにして、毎日確認しています。

「人生最高の瞬間はいつですか」と聞かれたら、常に「今」だと言えるような生き方をしていきたいんです。ちゃんと積み上げていれば、今が最高になるはず。そうして磨き続ければ、心は折れにくくなっていきます。

もうひとつは、評価軸を自分の中に持つということです。名声やお金、地位といったものにアイデンティティを置くのではなく、自分がどう生きたいかという軸を持つ。自分を客観的に見たくなったときは、妻や本当に身近な仲間に聞きます。それで「小林さんらしいですね」と言ってもらえたら、それが一番うれしいですね。

田久保:その「自分がどう生きたいか」という軸が、最近のDeNAグループへのジョインという選択にもつながっているんですよね。外から見ると意外な選択にも映ったかもしれませんが、お話を聞いたときに「小林さんらしいな」と思いました。

小林:自分でも少し前には全く予想していなかった決断でした。判断の軸はシンプルで、「自分をどう使えば世の中への価値を最大化できるか」ということです。自分が手がけているNoxxというグローバル採用プロダクト1社に集中するよりも、DeNAがAIに取り組む大きな流れの中で、DeNAの資本と人材と共に、日米で新規事業を作ったり、スタートアップエコシステムに貢献したりするほうが、より大きな価値を生み出せると判断しました。もちろんNoxxのCEOは続けますし、起業家であり続けることに変わりはありません。

田久保:ゼロからイチをつくる人だけを起業家と呼ぶ必要はなくて、どこかの会社に所属していても起業家ではいられる。小林さんがやっていることには一貫性があって、それは「起業家であることを生き方にする」ということと、「自分の存在に最大のレバレッジをかける」ということの2つだと思います。

松下幸之助さんが晩年に「素直道を極めたい」とおっしゃっていたそうですが、小林さんの場合は「起業道」なのかなと。終わりのないものに「道」という名前をつけるのは日本的な概念ですが、まさにそれを歩んでいるのだと思います。

小林:おっしゃる通りです。起業家というのは事業を起こして価値を生み出すという生き方なので、ゼロからスタートアップを創業するだけでなく、大きな組織の中で事業を作ることも、投資を通じて事業に関わることも、全てその生き方の中にあると思っています。

他人の人生ではなく、
自分の「志」を生きる

田久保:これからのグロービス生、そして起業やスタートアップの道を志すビジネスパーソンに向けてメッセージをいただけますか。

小林:グロービスにいる期間、そして卒業した後も含めて、「志」について考えることができるというのは、本当に特別な機会だと思います。グロービスに入らなければ、志という言葉を全く知らないまま過ごす方もいますし、それについて考えたり語り合ったりする機会もない。志は心が指す方向で、それを突き詰めていくと、自分の時間をどう使うか、自分はどうすれば幸せになれるかという話につながっていきます。

仕事と志がリンクしたとき、それは本当の意味で自分の人生を生きることになる。「何のために生きているのか」「どうやって自分は幸せになるのか」を仕事に重ねていけば、自然と熱中して打ち込めることに出会えるはずです。グロービスという環境にいる人や、そのきっかけに触れている人には、ぜひ志を深く考えてほしいと思います。

もちろん、仕事に関係ない志を持つ方もいると思います。家族と過ごす平日の夜や週末が幸せだという形もある。それも一つの志だと思いますし、それに早く気付くことができれば、人生をその形に最適化していける。何が自分の幸せなのかを早めに理解することが、とても大切なんじゃないでしょうか。

田久保:最近は、卒業式で「成功と幸せの定義を、自分の言葉でしてくださいね」と伝えるようにしているんです。AIの進化が凄まじい時代になり、あっという間に世の中が変わってしまうような状況です。だからこそ、日々の変化をただ追いかけるだけでなく、変わらない軸である志を持つことが、今の時代に求められていることだと思います。

小林:本当にそう思います。日々のテクノロジーの表面的な変化をただ追うだけでは、自分の中に積み重なるものはありません。激動の時代だからこそ、普遍的な「志」について深く考えること。それこそが、グロービスで学ぶ最大の価値だと思います。

体感するから、気づけることがある。
体験クラス&説明会

「自分の仕事に活かせる、視点を得た」「ディスカッションを通じた学びが楽しく刺激的だった」などの声をいただく体験クラス。グロービスの学びが本当に仕事で役に立つのか、不安を解消できるのか。自ら体感するからこそ、納得できる答えが得られる。