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投稿日:2025年01月20日

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【卒業生インタビュー】武田薬品工業 大山尚貢氏「専門性を最大限発揮して『永遠に残る価値』を未来へ紡ぐ」

大山 尚貢
武田薬品工業株式会社 Japan Medical Office Head
武田薬品工業 大山尚貢氏「専門性を最大限発揮して『永遠に残る価値』を未来へ紡ぐ」

MBAの真価は取得した学位ではなく、「社会の創造と変革」を目指した現場での活躍にある――。グロービス経営大学院では、年に1回、卒業生の努力・功績を顕彰するために「グロービス アルムナイ・アワード」を授与している(受賞者の一覧はこちら)。

今回は2024年「変革部門」の受賞者、武田薬品工業株式会社 Japan Medical Office Head 大山 尚貢氏にインタビュー。授賞式のスピーチで語った「医師が創薬に関わることは、社会に大きなインパクトを与えることになる。日本人の健康に大きく貢献したい」という“志”に至った理由、そして今後の展望を聞いた(インタビュアー:武井 原野)。

グロービスMBA初の医師卒業生、アルムナイ・アワード変革部門を受賞

武井:まずは、アルムナイ・アワードの変革部門を受賞されたことについて、率直なご感想をお聞かせください。また、当日のスピーチで印象に残ったことなどがあれば教えてください。

大山:率直に言うと、非常に驚きました。私がグロービスを卒業してからだいぶ年月が経っていますし、まさか今さら私に声がかかるとは思ってもみませんでした。でも、こうして母校が声をかけてくれて、そして古い卒業生にも目を向けてくれていることに、感謝の気持ちが強いです。

当日のスピーチでは、グロービスで初めて医師としてMBAを取得した学生であったことを話しました。当時は医師がMBAを取得すること自体が珍しかったので、「なぜ医師が経営学修士課程に?」と周囲から疑問を持たれましたが、今では多くの医師がグロービスでMBAを取得しています。複数の専門性を持っている人が増えており、その変化が印象に残っています。

父への憧れから医師を目指し、より多くの人に貢献したいと製薬業界へのチャレンジを決断

武井:大山さんのキャリアについて振り返らせてください。まず、医師を目指された背景からお聞かせください。

大山:両親が医師だったこともあり、あまり他の選択肢を考えたことがなく、何か特別なきっかけがあったわけではありませんでした。ただ、漠然とした父への憧れはありました。彼が家族で食事をしている最中に急に病院に呼び出されることがあり、数回病棟まで一緒に連れて行ってもらう機会がありました。楽しい家族団欒の場を後にすることを残念がりながらも、患者さんの前に出ると一転して親身に対応していました。患者さんも「日曜日に教授が直接診察に来てくれた」と泣いて喜んでいました。技術的なこととか医学知識とかではなくて、「お父さんすごいな」と思ったのはとても覚えています。私が循環器内科を選択したひとつの理由のひとつはそこで、父に憧れて同じ専門科を選択しました。

武井:その後、Harvard Medical SchoolでPostdoctoral fellowとして研究活動をされていた大山さんですが、なぜ製薬業界へ転身されたのでしょうか?

大山:製薬業界に転身した理由の一つは、「より多くの人々に貢献したい」という想いがあったからです。臨床現場では1日に診ることができる患者さんの数には物理的な限界があります。私が専門にしていた心臓カテーテル治療も、1日で診られる人数は最大で十数人、年間でも数百~千人程度が限界です。そのため、より多くの人に影響を与えられる仕事に携わりたいと考えるようになりました。

また、もう一つの転機は、アメリカでの研究です。私はTranslational Researchと言って、Bench-to-Bedside(研究成果を臨床現場に応用する取り組み)を目指して研究に携わっていました。しかし、実際には研究成果が臨床応用に至るまでの距離や課題が多くあることを感じました。アメリカでの研究を通じて、より多くの人々に貢献したいと思うようになったのです。

こうした考えの中で製薬業界への転身を決意しましたが、両親には当初は反対されました。それでも、何万人、何十万人といった規模で影響を与えられる仕事をしたいという思いは揺るぎませんでした。

父への憧れから医師を目指し、より多くの人に貢献したいと製薬業界へのチャレンジを決断した大山氏

ドラッグラグを無くし、日本に住む人たちに貢献するために新たなチャレンジ

武井:アメリカから日本に拠点を移されたのには、何か理由があったのでしょうか。また、製薬業界に移られた後のキャリアについて詳しく教えてください。

大山:日本に良いことをしたいという想いは持っていて、特に日本に住む人々に貢献したいと考えていました。例えば、「ドラッグラグ」という問題があります。世界の主な規制当局は、日本の厚生労働省、PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)、FDA(アメリカ食品医薬品局)、EMEA(欧州医薬品審査庁)などです。アメリカで薬が承認されると、東南アジアの一部の国ではすぐに発売される場合もあります。しかし、日本では独自の審査を行うため、承認のタイミングが違うことが起こりえます。90年代には、アメリカと日本で同時に薬が発売されないケースが少なからずあり、医師としてこのようなドラッグラグを解消したいと思いました。

一方で、現在働いている武田薬品に入社した理由は、単に日本に貢献したいという想いだけではありません。私が所属していたアストラゼネカやノバルティスといった企業にいても、日本に優れた医薬品をもたらすことは可能です。そのため、どこにいても日本への貢献はできると考えていました。武田薬品に入社した理由のひとつは、CEOのクリストフ・ウェバーに、日本を含むアジア人特有の病気に対する薬に関してどうするか尋ねたところ、「必ず開発する」「日本に貢献する、我々は日本ベースだから必ず開発する」と答えが返ってきたことです。この考え方は、非常に印象的でした。

武田薬品が成功するかどうかは、日本にとって大きな意味を持ちます。歴史的には日本の製薬業界は内需に大きく依存してきました。特に、かつては長期収載品(特許が切れたり再審査期間が終了したりして、同じ効能・効果を持つ後発医薬品が発売されている薬)が売れ続ける市場でしたが、その状況は変わりつつあります。大手製薬企業が存在する国は全世界で見ても限られており、日本が創薬における重要な拠点のひとつであることは間違いありません。そこで、武田薬品での挑戦を決めました。

「自分が手掛けていることは永遠に価値が残る」という想いを軸に、仕事と向き合う

武井:ありがとうございます。これまで多様なキャリアを歩まれてきた中で、一貫してお持ちの価値観や、キャリアを通じて変化した価値観があればお聞かせください。

大山:「自分が手掛けていることは永遠に価値が残る」と信じて取り組んでいます。特に製薬業界に入ってから、この想いはさらに強くなりました。

私たちは、誰もがいつか病気や障害を経験する可能性を持っています。だからこそ、「今だけ良ければ良い」という考えではなく、自分の大切な人、自分自身、そして未来の子孫につながる普遍の価値を提供したいと考えています。

そう考えるようになったきっかけの一つが、北海道にある救命救急センターで働いていた際の出来事です。大阪から北海道への旅行中に急性心筋梗塞を発症した患者さんを治療したところ、その方は偶然にも、かつて大阪で私の祖父に治療を受けていた方だったのです。そのとき祖父はすでに亡くなっていましたが、祖父が生涯を通じて取り組んだ医療における足跡が、時空を超えて私に戻ってきたと思いました。この方とのつながりを通じて、祖父が成し遂げた仕事が人々の心に残り、長い時間を経てもなお価値を持っていることに驚きと深い感動を覚えました。この患者さんが大阪に移られる際、私は大阪で循環器内科医をしている父に紹介状を書きました。その後、父がその方の主治医となり、彼が亡くなるまで診療は続きました。

この経験から学んだのは、自分の仕事がその場限りの治療や短期的な成果にとどまらず、長期的に人々の人生に大きな影響を与え、時間が経っても思い出されるものだということです。当時の私は、患者さんのデータや短期的な治療結果だけを見て「良い仕事ができた」と満足していましたが、それは浅い考えだったと気付きました。一過性の成功ではなく、未来に価値が残るようなことを手がけているという想いを持って、今の仕事に取り組んでいます。

「自分が手掛けていることは永遠に価値が残る」という想いを軸に仕事と向き合う、大山氏が愛用していた聴診器

日本では馴染みのなかった「育薬」の概念を、メディカルアフェアーズと共に社内外に浸透させる

武井:アルムナイ・アワードの受賞理由として、育薬の概念の浸透などが挙げられています。育薬(※)の取り組みについて、詳しくお伺いできますでしょうか。

※育薬:厚生労働省の承認を受けて薬が販売開始された後、薬の効果や安全性をより高めるために研究と開発を継続していくこと。

大山:かつては、プロダクトアウト型の医薬品開発が多くありました。治験を経て医薬品が承認され、市場に出た後は医師の裁量で使用されます。治験は第1相、第2相、第3相と3つの過程に分かれますが、これらの試験では特定の条件を満たした集団を対象に仮説検証を行います。しかし、実際の臨床現場における使用実態は多様であり、一人一人は条件が異なるため、治験結果がそのまま全ての人に当てはまるわけではありません。

例えば、糖尿病患者さんが食事指導通りに食事をとらないこともあり、現実の臨床では想定していなかった結果が出ることもあります。また、治験では併用禁止薬としていた薬剤との併用が、臨床現場では行われるケースがあり、その影響を把握することも重要です。メディカルアフェアーズは、こうした現場の情報を収集し、医薬品の実際の使用状況を反映させる役割を担っています。

取り組みを進めるにあたって、挑戦も課題も多くありました。当初、社内では育薬の活動が浸透しておらず、同僚から「何をやっているのか分からない」と言われたり、営業活動の延長線上にあると誤解されたりすることもありました。しかし、育薬は非営利かつ、販促を目的としない活動であり、こうした誤解を解き、正しい理解を得ることを通じて道が開けてきたと感じています。

この過程において、「もっと議論をしよう」と促しても、自分の意見を主張できない場面もあり、意識の変革には苦労しました。このような意識を変革するのは簡単ではなく、現在も取り組みを継続しています。

医療従事者側の認知も同様で、「メディカルアフェアーズとは何をする部門なのか」を説明しても、「支店の学術担当ですか」と誤解されることがありました。当時は何度も「企業側からも、こうした活動をしないと医療は発展しない」と繰り返し説明し、少しずつ理解を得る努力をしていました。さらに、「充足していないニーズを見つけ出し、科学的な議論を通じてインサイトを得ること」の重要性を伝え続けました。私自身、医療従事者側の立場だったので、製薬企業の人たちの行動が分かるからこそ、そうした従来のスタイルとは異なる方向性を目指し、一緒に現場で取り組んでいくことができました。

このように、社内外の理解を得るための活動は非常に挑戦的でしたが、育薬の重要性を伝え続けることが最も大切だと実感しました。

日本では馴染みのなかった「育薬」の概念を、メディカルアフェアーズと共に社内外に浸透させた大山氏

異業種の学生との交流が、仕事観も人生観も変えた

武井:育薬の浸透などのチャレンジを、グロービスでの学びをどのように活かして乗り越えられたのでしょうか。

大山:当時、製薬企業の臨床開発部門にいた私は、有効性の高い薬は全て世に出すべきだと考えていました。しかし、経営会議では採用されない提案も多く、その判断基準を理解できなかったことがきっかけで、ビジネス知識を身につけようとグロービスに通い始めました。教員の村尾さんに「判断基準が分かるようになりますか?」と聞くと、「なりますよ!」と力強く言われ、その言葉を信じて入学しました。実際に学んでみると、経営における意思決定の仕組みや数字の背景が理解できるようになり、医学知識が経営資源やリソース配分にどう反映されるかを知ることで、仕事が一層面白くなりました。

また、科学者として「仮説は採択か棄却しかない」と考えていた私にとって、グロービスの同級生からの「世の中のほとんどはグレーや。イチゼロではないねん」という言葉は衝撃的でした。勝ち負けも決着もつかない「グレーな世界」の存在を知り、その重要性を認識できたことは大きな学びでした。

また、仕事でリスクを取っても、「自分自身や大切な人の命の危機には直結しないし、必ず解決策が見つかる。」と、気づいてからは、「思い切ってやってみよう」と考えるようになりました。医療現場でのリスクは生死に関わることもありますが、製薬企業での仕事では取るべきリスクを取って、挑戦した場合には失敗も許容され、サポートも得られます。だからこそ、思い切りやってみようと考えられるようになりました。グロービスでは「迷ったら難しいほうを選べ」とよく言われていました。難しい道を選んで失敗しても、周りには助けてくれる人がいる。そうした取るべきリスクを取る姿勢を養えたのは大きな収穫でした。

グロービスでの学びは、単なる仕事のスキルを超えて人生観にまで影響を与えました。医療の世界は専門性が高いため、ときに内向きな思考になりがちです。以前の私はその中に閉じこもっていましたが、グロービスでの異業種の人々との交流を通じて、その枠を超えた視点を持つことができました。自分を変えるきっかけをくれたグロービスに感謝しています。

グロービス経営大学院に入学し、「異業種の学生との交流が、仕事観も人生観も変えた」と語る大山氏

世界で通用する新たな価値を創り、日本の存在感を高めたい

武井:大山さんの今の志と今後のチャレンジを教えてください。

大山:今後のチャレンジは、社会に影響を与える価値創造を追求し、自分が最も力を発揮できる場を常に模索し続けることです。

武田薬品は、日本の企業として、世界市場で日本の存在感を高める役割を担うべきだと考えています。日本の医療や科学技術は依然として高い競争力を持ち、革新的な価値を生み出す力も備えています。だからこそ、日本国内の市場だけにとらわれず、広い視野を持ち、製薬業界が国際的なリーダーシップを発揮するための役割を果たすことが重要です。

例えば、スイスのノバルティスやイギリスのアストラゼネカのように、国内市場のみに依存せず、世界で影響力を持つ企業があります。同様に、武田薬品も海外での展開を通じて、日本と世界に貢献する意義があると信じています。そのためには、「日本でどれだけ売れているか」だけではなく、世界でどれだけ価値を提供できるかを同時に追求するべきだと考えています。

単に日本市場での売上規模を追求するだけでなく、武田薬品が医療やビジネスの世界でどれだけ価値を生み出せるか。そのために私自身も、医療や科学という専門分野を活かしながら、業界や会社のリーダーとして挑戦し続け、日本の存在感を高める役割を果たしたいと強く思っています。

武田薬品で「世界で通用する新たな価値を創り、日本の存在感を高めたい」と語る大山氏

MBAは専門性という強みを、社会で活かすための道具

武井:業界における日本の存在感を高めたいというお考えに、とても共感します。最後に、これからMBAを目指す方やグロービスの在校生や卒業生に向けて、ぜひメッセージをお願いします。

大山:私はMBAを専門性そのものではなく、自分の持つ専門性をさらに活かすための道具だと考えています。誰しも得意なことや尖った分野が1つ、2つ、あるいは3つあると思います。その専門性を社会に実装するために、MBAは非常に役立つと感じています。

もし、そういった勉強をするかどうか迷っているのであれば、ぜひ挑戦してほしいです。時間も費用も必要ですが、投資以上のリターンが必ずあり、豊かな人生を築けると思います。これからの時代、何でも少しずつできるジェネラリストではなく、「ここだけは誰にも負けない」と言える強みを持つ人が競争力を持つはずです。その強みを社会に活かすための学問が経営学であり、MBAの学びがその橋渡しをしてくれるはずです。

武井:MBAは目的ではなく、自身の専門性を発揮するための手段ということですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

「MBAは専門性という強みを、社会で活かすための道具」というメッセージを送る大山氏

体験クラス&説明会日程

体験クラスでは、グロービスの授業内容や雰囲気をご確認いただけます。また、同時開催の説明会では、実際の授業で使う教材(ケースやテキスト、参考書)や忙しい社会人でも学び続けられる各種制度、活躍する卒業生のご紹介など、パンフレットやWEBサイトでは伝えきれないグロービスの特徴をご紹介します。

「体験クラス&説明会」にぜひお気軽にご参加ください。

STEP.1参加方法をお選びください

ご希望の受講形式と同じ形式での参加をおすすめしています。

STEP.2参加を希望されるキャンパスをお選びください

STEP.3日程をお選びください

絞り込み条件:

  • 2/6(木) 19:30~21:30

    体験クラス&説明会

    開催:オンライン(Zoom開催)
    本科(MBA)への進学を検討している方・進学を視野に単科で1科目から学び始めたい方向け

  • 2/15(土) 14:00~16:00

    体験クラス&説明会

    開催:オンライン(Zoom開催)
    本科(MBA)への進学を検討している方・進学を視野に単科で1科目から学び始めたい方向け

  • 2/26(水) 19:30~21:30

    体験クラス&説明会

    開催:オンライン(Zoom開催)
    本科(MBA)への進学を検討している方・進学を視野に単科で1科目から学び始めたい方向け

該当する体験クラス&説明会はありませんでした。

※参加費は無料。

※日程の合わない方、過去に「体験クラス&説明会」に参加済みの方、グロービスでの受講経験をお持ちの方は、個別相談をご利用ください。

※会社派遣での受講を検討されている方の参加はご遠慮いただいております。貴社派遣担当者の方にお問い合わせください。

※社員の派遣・研修などを検討されている方の参加もご遠慮いただいております。こちらのサイトよりお問い合わせください。

大山 尚貢

武田薬品工業株式会社 Japan Medical Office Head