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投稿日:2024年12月04日
投稿日:2024年12月04日
ESG経営を事例を踏まえて解説、企業成長に活かすためのポイントとは
昨今、ESG経営が話題になっています。企業経営を支える上級管理職のビジネスリーダーにとって、ESG経営とはどのような意味があるでしょうか。どんなことに気を付けて仕事を進めていけばよいでしょうか。
この記事では、ESG経営の意味やメリット、課題、そしてESG経営を実践している具体的事例などについて解説します。
ESG経営とは
ESGとは、環境(Environment)、社会(Society)、ガバナンス(Governance)の頭文字を指します。ESG経営とは、「環境、社会、ガバナンスの3要素を重視した経営」という意味です。
各要素の具体的なトピックとしては、
環境
- CO2排出抑制、水質汚染の防止など自然環境の保護
- 資源の浪費や生物多様性への配慮
社会
- ハラスメントや劣悪な労働環境などの人権侵害の禁止
- 人種やジェンダー等による差別の禁止
ガバナンス
- 取締役会の独立など経営の透明性確保
- 会計操作や不祥事の隠蔽など不正の防止
などが挙げられます。企業がこれらを重要な経営課題と位置付けて取り組むことで、環境・社会と調和した持続可能な発展を目指そうというものです。
ESG経営の必要性と注目される背景
ESG経営が注目されるようになった背景には、先に「ESG投資」が機関投資家の間で共通認識として定着してきたことがあります。機関投資家がESGを意識するようになったのは、1992年の「国連開発環境会議」が一つのきっかけでした。世界の持続可能な発展のために、経済成長一辺倒ではなく、地球環境の保全とのバランスが重要だと認識されたのです。
その後さまざまな機会を経て、機関投資家が投資決定の指針の中に、対象企業がESGの要素を経営に反映させているかどうかを組み込むようになりました(ESG投資については後述)。
こうした機関投資家からの眼に対応する流れで、とくにグローバルに展開する株式公開企業を中心に、ESG経営が重視されるようになったのです。もちろん、ESGに取り組むことは単に対投資家アピールだけでなく、従業員や地域社会などステークホルダーの期待に応えることで、企業の将来性自体にも好影響を及ぼすと期待されています。現在では、株式公開の有無や企業規模を問わず、関心が高まっています。
ESG投資とは
世界にESG経営が浸透するきっかけとなった、ESG投資の動きについて見ていきましょう。
ESG投資の起こりは、2006年、コフィー・アナン国連事務総長(当時)のイニシアティブにより打ち出された責任投資原則(PRI:Principles for Renponsible Investment)です。この中で、ESG要因を投資決定に反映させるガイドラインが示され、多くの機関投資家がこれにコミットしました。
主に長期運用を行う機関投資家は、環境問題、社会問題、企業ガバナンスに積極的に取り組む企業に投資し、これらの問題から生じる負の影響を減らしていくことが、長期的なリターン向上をもたらすと考えたのです。
日本では、2017年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG投資を開始したことが浸透の契機となりました。2021年には、東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コードを改訂し、その中でサステナビリティについての開示と、サステナビリティを巡る取組みについて基本的方針の策定を求めています。
主なESG情報開示基準
2024年現在、東証はプライム市場上場会社に対し、気候変動関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures, TCFD)またはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるよう求めています。
世界的には、TCFD以外にも複数のESG情報開示基準があります(下図参照)。
ESGスコアと評価指数
上記は株式公開企業が求められる情報開示の基準ですが、そこで開示された情報をもとに各企業のESGへの取組みを評価する機関があります。この評価のことを、ESGスコアといいます。
ESGスコアを出しているのは、たとえばMSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)、FTSE Russellといった、もともと株価指数などの金融情報を提供している企業が主です。このほか多くの評価機関が、各々の基準に基づいて各企業のESG取組み具合を評価し、スコアを出しています。ただし、スコアの世界的な統一基準は現時点で存在しません。
上で挙げたMSCIやFTSEらは、ESGスコアのよい企業を組み込んだ株価指数を開発し、投資家は投資先の選定にその指数を活用しています。
上場企業としては、こうしたESGスコアの評価項目に対応することで、グローバルな機関投資家から選ばれる可能性が増えることになります。単なる株価対策にとどまらず、グローバルな視点からみて期待される経営ができているか、適切に開示しているかをチェックする重要な機会と言えるでしょう。
ESGと類似の用語との関係
ESGに関する話題では、意味合いの似た略語が頻繁に登場します。代表的なものについて、その意味とESGとの関係を解説します。
①ESGとSDGs
SDGsは「Sustainable Development Goals」の略語で、持続可能な開発目標などと訳されます。2015年の国連サミットで採択されたもので、2030年を期限とした17のゴール(目標)とゴールを達成するための具体的な169のターゲットがあります。世界各国が協力してこれらのゴールに向かって努力するとコミットした姿勢を示したものと言えます。
ESGとの違いとしては、ESGが企業経営を対象としているのに対し、SDGsは貧困や飢餓といった、企業の枠を超えた国単位の問題も含まれる点が挙げられます。一方で、人権や環境・資源などESGと共通の課題も多く言及されているように、両者には密接な関係があります。
「SDGs達成に企業が貢献するためにはESG経営が必要だ」という形で、SDGsはESG経営の重要性をより裏付ける存在となっています。
②ESGとCSR
CSRは「Corporate Social Responsibility」の略語で、企業の社会的責任と訳されます。文字通り、企業活動において、従業員、取引先、地域社会、投資家といったステークホルダー(社会)に対して責任ある行動・姿勢をしていこうというものです。
2010年に国際標準化機構(ISO)が定めた国際規格ISO26000では、社会的責任の中核主題は「組織統治」「人権」「労働慣行」「環境」「公正な事業慣行」「消費者課題」「コミュニティへの参画及びコミュニティの発展」の7つとされています。ここから分かるように、ESG経営で求められる要素と大きく重なっています。
歴史的には、公害や不正慣行の防止や利益の社会還元が強調された面があり、そのためCSR活動といえば法令順守体制の確立や地域に貢献する慈善活動などのことだとイメージされる向きも一部ありますが、現在では上記の定義にまとまっています。
③ESGとSRI
SRIは「Socially Responsible Investment」の略語で、社会的責任投資と訳されます。投資家の立場から、単に財務的なリターンだけでなく、社会的に望ましい貢献があるかどうかに着目して投資するという考え方を指します。
ESG投資よりも歴史は古く、米国で宗教的倫理観からギャンブルやアルコールに関わる企業を投資対象から外す投資家がいたことが起源と言われます。その後、たとえば反戦活動や環境保護など、その時代で重視される価値観に従って投資企業を選別する動きがありました。
社会への影響という非財務的な基準で投資を判断する面では、ESG投資と共通する考え方です。一方SRIは、上記のような倫理的価値観での選別であり実際に該当する(弾かれる)企業が一部にとどまりがちなところがあります。その点ESG投資は、汎用的に全ての企業に当てはまるところが違いと言えます。
ESG経営のメリット・効果とは
より直接的には、ESG投資が機関投資家のスタンダードになりつつある中で、ESGを経営に組み込み、効果的にそれを開示していくことで、グローバルな主要機関投資家から選ばれる対象に入ることが挙げられます。将来、株式市場を通じた資金調達の自由度が増しますし、安定的に機関投資家に選ばれるようになれば株式価値の向上にも資するでしょう。
また、とくに環境・社会への取組みが地球規模のトレンドであると考えると、そこに市場機会が多数あるということでもあります。具体的な例としては、再生可能エネルギーや抜本的な省人化、汚染物質の除去、衛生環境の改善などのテーマに向けて、新しいテクノロジーの応用、新規事業の開発が活発となるでしょう。製造業向けだけでなくサービス業においても、グローバルに目を向ければ貧困層の購買力向上による市場拡大などが考えられます。
同時に、ESGに注力していくことで社会的な失態を犯し、それが損失をもたらす可能性を未然に防ぐ効果もあります。言い換えれば、ESGを軽視すると社会から指弾される危険が増してしまうのです。
ESG経営の課題・注意点とは
ESG経営の注意点としては、方針が抽象的にとどまり具体的な成果に結び付かないことや、(とくに環境・社会に関する)方針が本業と乖離してしまうことなどが挙げられます。
これを避けるためには、元々の企業戦略とESG要素とをしっかり関連付けた上で、ESGの進捗についての定量的な評価指標を設定し、定期的にフィードバックを得ていくことが課題と言えます。
定量的な指標については、女性管理職比率や育児時短勤務制度利用者割合といった非財務的な指標が、将来の損益やPBR(株価純資産倍率)に及ぼす影響を統計的に分析したエーザイの実証研究が知られています。
こうした社内のKPIに着目したものに加え、社外へ及ぼした影響を定量的に測定しようとする動きもあります。「インパクト加重会計」は、環境面・社会面への効果を意味する「インパクト」を金銭的な価値に置き換え、財務諸表に反映させることを目指すものとして研究が進んでおり、注目されています。
ESG経営導入のアプローチ方法
では、ESG経営を企業に実装していくにはどのような方法がよいでしょうか。
まずESGに関する情報開示体制を整える点については、東証が「ESG情報開示実践ハンドブック」の中で、ESG情報の開示に至るまでのプロセスを以下の4ステップに整理しています。
<Step1>ESG課題とESG投資
- ESG課題とESG投資を理解する
<Step2>企業の戦略とESG課題の関係
- 企業の戦略への影響を考える
- マテリアリティ(重要課題)を特定する
<Step3>監督と執行
- 意思決定のプロセスに組み込む
- 指標と目標値を設定する
<Step4>情報開示とエンゲージメント
- 開示内容の整理
- 既存の枠組みの利用
- 情報提供時の留意点
- 投資家と双方向のエンゲージメント
また、ESG課題と自社の経営とを結び付けるための方法としては、SDGsに掲げられているような「将来、こうなっているべきという状態」を定義し、それが実現するために必要な条件や技術を考え、それに対して自社の事業が関与できる領域を探していくという、「バックキャスティング」などが提唱されています。
ESG経営の具体的な事例
ESG経営の事例として、具体的な重要課題(マテリアリティ)の設定や施策のあり方をみてみましょう。
日立グループ
日立グループは、製造業を中心とした日本を代表する多角化企業グループであり、掲げているESG重要課題も多岐にわたっています。2024中期経営計画では、「環境:脱炭素と資源循環への貢献」、「レジリエンス:社会インフラの維持と迅速な回復に寄与」「幸せな生活:心身ともに健康で豊かな人生に貢献」などの重要課題を掲げ、それぞれにCO2排出削減貢献量、従業員エンゲージメント(肯定的回答率)などの目標/KPIを設定しています。
丸井グループ
丸井グループは、「小売・フィンテック・未来投資の三位一体のビジネスモデルの中心に『好き』を応援するビジネスを据え、インパクト実現に向けて社会実験に取り組んでいます」と宣言し、インパクト実現に向けた取り組みを記載した「IMPACT BOOK」と、パフォーマンスデータを記載した「ESG データブック」を発行してステークホルダーに発信しています。
滋賀銀行
ESG経営を行うのは、必ずしもグローバル企業ばかりではありません。地域に密着した施策の例として滋賀銀行の取組みがあります。同行では、ESGに関連する野心的な事業挑戦目標を借り手が設定し、その達成状況と融資条件が連動する「サステナビリティ・リンク・ローン」や、「持続可能な社会づくり」に貢献可能な社会的課題の解決につながる事業を対象とする融資商品「ニュービジネスサポート資金(SDGsプラン)」などを推進しています。
環境に適応するためのビジネススキルを学ぶなら、グロービス経営大学院
グロービス経営大学院では、2025年度より、経験豊富なビジネスパーソンを対象に激変する環境に適応するための経営教育プログラム「エグゼクティブMBA(EMBA)」を開設しました。同プログラムには、優先履修可能科目として「サスティナブル経営とリーダーシップ」があり、持続可能で責任ある経営と企業価値創造の両立について、ケースを通じて対話を重ね、学生自らが変革を厭わない企業経営のあり方について考えを深め、新たなリーダーシップを身に付けることができます。
まとめ
ESG経営は、21世紀に入って急速に浸透した経営課題です。ビジネスリーダーとしてこれに取り組むには、単に環境変化に対応するべく情報を集めるにとどまらず、自社ならば、自部署ならばどう取り組むべきかの見識と展望を持っておく必要があります。そのためには、第一線で活躍し多様なキャリアを有する仲間との対話を通じて学ぶことが最適です。グロービス経営大学院のエグゼクティブMBAを、ぜひご検討ください。
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