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投稿日:2024年09月19日
投稿日:2024年09月19日
気づけばMTGだらけ?「コラボ疲れ」から抜け出す――自分にやさしいリーダーシップのすすめ
- 若杉 忠弘
- グロービス経営大学院 教員
コラボは増え続けるばかり
「気がついたら、カレンダーに朝から晩までみっちりと、ミーティングが入っていた……」あなたも心当たりがありませんか。
今、リーダーが参加しなければいけないミーティングは増えるばかりです。定例のチームミーティングや部門のミーティングはもちろんのこと、メンバーとの定期的な1on1ミーティングもあります。
部門、チーム、地域横断のコラボレーションも減ることはありません。部門横断のプロジェクトが数多く立ち上がります。また、コラボレーションは、組織の中に閉じているだけではありません。組織の外のプロフェッショナルやパートナー、ときには顧客とも協働することも増えてきました。その上、すきま時間には、大量に押し寄せてくるEメールやチャットへの対応に追われます。Eメールやチャットは24時間、途切れることなくリーダーを追いかけ、インターネットの向こう側の相手は、即時的なレスポンスを待っています。
1日の仕事の8割を占めるコラボレーション
こうした社内外の関係者とのコラボレーションに疲れてしまうことを、「コラボ疲れ」と言います。今、このコラボ疲れが猛威を振るっています。
ある調査によれば、コラボレーションに費やしている時間は、 1日に働く時間の8割も占めていると言われています。そして、この時間は、過去20年間で50%以上増えているというのです。それは疲れます。
さらに、コラボレーションの負荷は、優秀な人に、とくに集中しやすい傾向にあります。誰もが、知識も経験もあり、かつ、協力的なリーダーとコラボレーションをしたいものですよね。そうすると、そのリーダーに情報が集まり、ますます組織のかなめとなり、コラボレーションの依頼が増えるのです。実際、企業の中で起きているコラボレーションの20~35%は、社員のわずか3~5%で回しているというデータもあります 。
どんなに優れたリーダーもそれぞれのキャパシティがある
しかし、どんなに優れたリーダーでも、自分のキャパシティを超える負担を抱えてしまっては、いずれ燃え尽きてしまいます。これは、起きるかもしれないリスクを警告しているのではありません。すでに企業の現場で起きているリアリティです。
たとえば、20の企業を調査したあるデータでは、周りから頼りにされ、様々なリクエストを受けているリーダーであればあるほど、仕事の熱意も低くなり、自分のキャリアにも満足をしていなかったというのです 。
リーダーは、コラボ疲れが蓄積してくると、周りに冷たくなり、批判的になりやすくなります。燃え尽き症候群の症状が現れてくるのです。リーダーの性格が急にひねくれたわけではありません。ただでさえ枯渇しているエネルギーをこれ以上消耗しないよう、心の自己防衛機能が作動しているのです。リーダーは自分を守ることに、ただただ必死なのです。
でも、誰が、冷たくて、批判的なリーダーとコラボレーションしたいと思うでしょうか。誰も思いませんね。
周りから、もっともコラボレーションしたいと思われていたリーダーが、その期待に応え続けていると、皮肉にも、もっともコラボレーションしたくないリーダーに変わり果ててしまうとしたら、あまりにも残念な末路です。
だから、リーダーのキャパシティを超えないよう、コラボレーションの量と質を最適化させる指針が、今、切実に、私たちに求められていると思うのです。
その指針として、どうぞセルフ・コンパッションの考え方を活用してほしいというのが、私からのメッセージです。
コラボ疲れから抜け出すためには?
もし、読者のみなさんもコラボ疲れを起こしているとしたら、まず考えていただきたいのは、コラボレーションの量を減らすことです。
セルフ・コンパッションとは、一言でいえば、自分の大事なニーズに気づき、それを満たしてあげることです。
もし、自分の心身を壊すまで働き続けてコラボ疲れを起こしているとしたら、心身の健康というニーズに気づけず、そのニーズを満たす行動がとれていないということになります。
なぜ、このようなことが起きてしまうのでしょうか。じつは、私たちの心には、自分のニーズを無視するように仕向ける魔物がいるのです。
コラボ過剰を引き起こす9つの心理
コラボレーションを20年以上研究しているバブソン大学のロブ・グロスは、コラボレーション過剰を引き起こす9つの心理を洗い出してくれています 。
【エクササイズ1】
次の①~⑨の心理をもっていると、コラボ疲れが起きる可能性があると言われています。自分に当てはまるものがないかどうかを確認しながら、読んでみてください。
- 人助けをして、役に立ちたいと思っていると、自分が処理できないほど、たくさんのリクエストを受けてしまうことになる。
- 何かを達成したときの充実感を追い求めていると、数多くのプロジェクトに関わるようになり、自分のエネルギーを重要な仕事に集中させることができない。
- 自分の専門性を活かして、影響力を高めたり、認められたりしたいと思っていると、必要以上にまわりが自分に依存してしまう。
- 協力しないと、まわりから非協力的だとみられるのが怖くて、もうキャパシティが一杯なのだけど協力してしまう。
- いつも正しくありたいと思っていると、完璧を求めすぎて、必要以上に準備に時間を使ったり、調整業務に時間をとられたりしてしまう。
- プロジェクトの主導権を失うのが怖かったり、自分が一番仕事ができると思い込んでいると、周りに仕事を任せることができない。
- 解決を急ぎたいと思っていると、夜遅くにメンバーにメッセージを送ったり、まだ練り切られていないタスクをメンバーに振ったりし、プロジェクトに悪影響を及ぼし、結局、その交通整理のために自分の仕事が増えてしまう。
- 混沌とした状況や、その場に臨機応変に対処することへ苦手意識をもっていると、計画を無理に完璧にしようとしたり、メンバーのコンセンサスを得るために余計な作業を増やしたりしてしまう。
- あれもこれもやらないと、後れをとってしまうと思っていると、必要以上にいろんなことに手を出してしまい、どれも中途半端になってしまう。
いかがだったでしょうか。
上記の心理にまかせるままに、タスクをひとつ、またひとつと引き受けているとどうなるでしょうか。タスクはどんどん膨れ上がり、リーダーは、気づいたときにはその量に圧倒され、疲弊してしまうのです。
この心理こそが心にひそむ魔物です。こうした心理が、私たちをコラボレーションへと無意識に向かわせ、自分のキャパシティさえも超えて、いつの間にかスケジュールを一杯にさせるのです。
もちろん、こうした心理や考えそのものが悪いのではありません。当然、人助けも、専門性を活かすことも重要です。しかし、この考えだけで突き進むと、いずれ、自分の心身を崩してしまい、最終的には、人助けも専門性を活かすことができなくなってしまうことが問題なのです。
コラボ疲れを減らすためには「内省」がポイント
では、この問題にどう対処すればよいのでしょうか。
それは、心の魔物に自覚的になり、自分の心身の健康というニーズを大切にすることです。
では、実際にコラボ疲れから抜け出す行動について考えてみましょう。次のエクササイズを試してみてください。
【エクササイズ2】
今後、コラボレーションの量を減らすために、どのような行動をとりたいでしょうか。次の行動の例を参考に考えてみてください。
- コラボレーションに関わるタスクのいくつかをメンバーに任せる
- 自分が対応しなくてもよいタスクを断る
- どのコラボレーションに関わるかについて、ガイドラインを事前に作っておく
- 優先順位の高い予定は、準備時間も含めて先にスケジュール上で確保し、残された時間でやりくりをする
- 自分の空いているスケジュールを見える化するなどして、自分のキャパシティを周りに知らせる
- 自分の時間を使うのではなく、人の紹介や情報の共有で対応できないかを考える
- 個別に相手に対応するのではなく、まとめて対応できないかを考える
セルフ・コンパッションを取り入れるには、このように、一度立ち止まって、内省をすることがとても効果的です。
この記事で紹介したエクササイズに慣れてくると、コラボ疲れの早い段階で、手を打てるようになります。「もうぐったりだ」という段階にまできてしまうと、回復に時間がかかりますが、「ちょっと疲れがたまってきたな」という段階で手を打てれば、回復も早いものです。
自分の心身を大事にするセルフ・コンパッションの指針をもつことで、みなさん自身が疲れ切らずに、効果的なコラボレーションを進めることができるようになるでしょう。
※「自分にやさしいリーダーシップ」のススメ、前回はこちら
『すぐれたリーダーほど自分にやさしい 疲れ切らずに活躍するセルフ・コンパッションの技術』
著:若杉忠弘 発行日:2024/8/7 価格:1,760円 発行元:かんき出版
若杉 忠弘
グロービス経営大学院 教員