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投稿日:2024年09月18日
投稿日:2024年09月18日
【実務家教員が語る】次世代リーダーに求められる能力とMBAの真価
テクノロジーの急速な進化とともに、ビジネスの現場は日々変化し続けています。価値観や働き方も多様化する中で、将来マネジメントを志すビジネスパーソンには、新たな価値を創造し、変化に対応するスキルが求められています。それでは、こうした時代に必要なマインドセットやスキルとは何でしょうか。この時代においてMBAが持つ真の価値とはどのようなものでしょうか。
グロービス経営大学院の教員であり、ビジネスの第一線で活躍する3名の実務家、
- KDDI、外資系戦略コンサルKearney、スリーエムを経て、現在はNECで、全社を挙げてのコーポレート・トランスフォーメーションを推進する、井手 伸一郎氏
- ベンチャーキャピタリストやベンチャー企業経営を経て、KIBOW社会投資ファンドでの代表パートナーとして、インパクト投資ファンドの運営・投資を行う、山中 礼二氏
- 事業会社での執行役員や共同COOとして既存事業の変革、新規事業の立ち上げを担い、現在はグロービス経営大学院(英語プログラム)研究科長を務める、廣瀬 聡氏
以上3名とモデレーターの君島 朋子(グロービス経営大学院 研究科長)が、この問いに正面から向き合い、パネルディスカッションを行いました。
※本記事は当日の書き起こし記事です。動画版はこちらよりご覧ください。
君島「それでははじめに、教員の皆さんが今どんな時代だと感じているかをお聞きしたいと思います。まずは井手さん、お願いします」
井手「今の時代は、一言で言うと『変化が当たり前』になっている、です。例えば、生成AIが登場してから、わずか2年でこれほど普及し、ここまで業務の在り方を大きく変えることになるとは、多くの人が予想していなかったのではないでしょうか。これからもこの変化のスピードは加速すると感じています」
「一方で、多くの企業、とくに大企業は、この変化に対して弱い部分があると思います。これまでの戦い方の延長で物事を考え、これまでの業務を継続してしまうことが問題です。企業の規模が大きいほど、変化に直面していない部署のメンバーにて、この変化に気付くことが遅くなり、手遅れになってしまうケースもあります」
「重要なのは、環境変化をいち早く察知し、適応できるかということ、さらにはその変化を先取りしていけるかということです。さらに日本企業は、個々の事業は強いものの、全社的な機能として、変化を認識し、投資やリソース配分を機動的に行う仕組みが弱いと感じています。逆に外資系企業は、こうした全社的な対応力が比較的強いですよね」
「『不易流行』という言葉があります。いつまでも変わらないものの中に新しい変化を取り入れることを意味しますが、私は、経営において、変えてはいけない部分と、変えなければならない部分があると解釈しています。大企業に求められているのは、この両者を見極めて、変わり続けることを受け入れる体制を整えることだと考えています」
君島「山中さん、スタートアップの視点からはどのように感じていらっしゃいますか?」
山中「私が感じる変化は大きく4つあります。まず1つ目は、スタートアップに求められる経営のサイエンスが急激にレベルアップしている点です。10年前と比べて、経営者のスキルも投資家とのコミュニケーション能力も大きく向上しました。ビジネスプランのクオリティも非常に高くなり、スタートアップのプロセスが体系化され、セオリーも明確になってきました。また、データドリブンな経営が進んでおり、大量のデータを使って投資家を説得することが当たり前になっています」
「2つ目は、スタートアップが巨額の資金調達を行えるようになってきたことです。以前は考えられなかったような10億円、50億円、さらには100億円といった資金を調達するスタートアップが増えてきました。しかし、すべての企業がこれを実現できるわけではなく、大きな差が生まれていることも事実ですね」
「3つ目は、テクノロジーの使い方が変わってきたことです。かつては、インターネットを使って何かを始めればトレンドに乗れる、AIを導入すればイケてるスタートアップになれる、という時代がありました。しかし、今ではテクノロジーを使うことが当たり前になり、単にトレンドに乗るだけでは不十分です。テクノロジーをどのように取捨選択して活用するかが、成功の鍵を握る時代になっていると感じます」
「4つ目は、強いインパクト志向を持つ起業家が増えてきている点です。とくに若い世代の起業家は、巨大な経済的成功を追求するのではなく、社会課題の解決を目的としています。自分の身の回りで起こった問題を解決したい、社会をよりよくしたいという強い意志を持つ起業家が増えてきていると感じます」
君島「廣瀬さんは、今の時代についてどのように感じていらっしゃいますか?」
廣瀬「私自身、1980年代後半にビジネスキャリアをスタートさせて以来、ブラックマンデー、インターネットバブルの崩壊、リーマンショックといった数々のピンチを経験してきました。しかし正直なところ、今が一番怖い時代だと感じています。なぜかというと、テクノロジーの進化やビジネス環境の変化がこれまでにない速さで進んでおり、企業が生き残るための競争が激化しているからです」
「例えば、世界的なレンタカー会社のハーツや、イギリスの旅行会社トーマス・クックなど、かつては名を馳せた企業が次々と倒産しています。しかし、これを単に脅威と見るだけでなく、大きなチャンスと捉えることもできるんです。テクノロジーを理解し、活用してビジネスを進化させることで、大きな成功を収めることができる時代になっています」
君島「そんなこれからの時代で求められるスキルとして、何が重要でしょうか?」
井手「ひとつは、先ほどもお話しした『不易流行』を自分の中に持つということです。リーダーは、自分の中に確固たる信念や価値観を持ち続ける必要がありますが、これが『不易』に該当します。ただし、それは頑なに変えないというわけではなく、自身の価値観として磨き続けていくことが重要です。もう一つの『流行』は、周囲の環境や技術、そして多様な人々と連携する柔軟さにより、最新のものを取り入れていくことです。この2つを併せ持つことが、リーダーにとって必要だと思います」
「もうひとつは、『企画力』と『実行力』です。『企画力』というのは、何か新しい価値を生み出すか、課題を特定し解決することを目的に、コンセプトを作り磨き上げていく力です。これには様々な業界や企業のベストプラクティスを知り、それを応用していくことが有効です」
「それと同じくらい重要なのが、『実行力』です。優れた企画が必ずしも成功するとは限りません。関係者には、さまざまな想いを持つ人たちがいて、すでに確立されたオペレーションが日々まわっています。その中で、効果的なコミュニケーションにより、新しい企画や変化の必要性を理解してもらい、リーダー自らが伴走して一緒に進めていくことで実現性が高まります」
君島「続いて、山中さんにお伺いします。スタートアップのシーンが大きく変わっているとおっしゃいましたが、その中でどのような人材が起業家として成功できるのでしょうか?」
山中「心技体で整理して説明しますね。まず『心』の部分ですが、課題解決にかける強い意志、折れない意志が必要です」
「次に『技』ですが、これをもう少し具体的に説明すると、国語、算数、理科、社会といったスキルに分けられると思います。『国語』は伝える力、井手さんがおっしゃっていたように、コミュニケーションの取り方が重要です。『算数』は定量分析の力、ファイナンスを含めた数字を扱う能力です。『理科』は新しいテクノロジーをクイックに学び、それを活用する力、さらにその技術を適切に使う専門家を活用する力も含まれます。『社会』は、とくに社会課題を解決しようと志す起業家にとって非常に重要で、社会をどう捉え、どのように力を加えればその社会が変わるのかを考える力が求められます。とても高度な力であり、何が正解なのか分からない分野でもありますが、だからこそ必要とされる力だと思います」
「最後に『体』ですが、これは行動力です。行動力というのは、新しい情報やナレッジをつかむために積極的に動く力のことです。この力が突出している起業家は、非常に高い確率で大きな成功を収めることができると感じています」
君島「廣瀬さんにもお伺いします。グローバル化やテクノロジーの進化が進む中で、ビジネスパーソンにはどのような力が求められるとお考えでしょうか?」
廣瀬「シンプルに言うと、これからのビジネスパーソンには『ほかと違う』ことが求められます。学生時代は、ほかと同じであることが良しとされていましたが、ビジネスの世界では逆です。競合と同じことをしていては、顧客や市場から認めてもらえません。ですから、ほかと違うことを考えなければいけません。しかも、地球の裏側で起きていることもインターネットを通じてすぐに分かりますし、翻訳技術も進化しています。そのような中で、どうやってユニークなことをするかが、経営の本質になってきていると思います」
「もうひとつ重要なのは、そうした正解がない環境の中で決断を下す力です。経営者として、社員とその家族の生活を守る責任がありますよね。よい経営とは、社員とその家族を幸せにすることだと私は考えています。一方で、悪い経営は社員とその家族を不幸にしてしまう。だからこそ、決断は慎重に行う必要があります。しかし、正解がない中で、人と違う決断をするには、ファクトとロジックをしっかりと整理し、顧客の声を理解しながら、実現可能性をステークホルダーに説明する力が必要です。そして、自分自身がその決断を心から信じ、周囲と一緒に取り組むことが大切だと思います」
君島「続いて、MBAがビジネスパーソンに何を提供できるのかについてお伺いしたいと思います。山中さん、MBAで学んだ知識やスキルが、実際にスタートアップや社会インパクト投資の分野でどのように役立っているか、教えていただけますか?」
山中「MBAは、成功確率を上げることに寄与すると考えています。具体的な事例として、グロービスで学んだ起業家の話をします。彼は数学科を卒業後、医学部に進学して脳外科医になったのですが、グロービスに入学した際には、とくに明確な志があったわけではなかったようです。しかし、グロービスで『あなたの志は何ですか?』と何度も問われる中で、彼は脳外科手術での事故の多さをビジネスで解決できないかと考えるようになりました」
「そして脳血管内治療中に起こる事故を減らすために、AIを活用したソリューションを開発することを思いつきました。このアイデアを実現するために、グロービスで出会ったテクノベート科目の教員とともに起業し、ベンチャーキャピタルから資金を調達し、医療機器としての承認を得て商品を市場に投入するまでに至りました。この過程で彼が得たのは、まず志を立てる力です。また、失敗確率を下げるためのファイナンスやベンチャーのマネジメントの知識、そして成功確率を上げるためのネットワークも、MBA期間中に得ることができました」
君島「なるほど、ありがとうございます。社会に貢献するスタートアップ、とくに社会インパクトを生み出すような企業を目指している方にも、MBAの学びが役立つと思いますが、いかがでしょうか?」
山中「グロービスの卒業生の中には、NPOを立ち上げて活動している方も多いですが、そのような場合にも、MBAでの学びは確かに役立つと感じています。社会課題に取り組む場合、明確な答えがない問いに向き合う場面が多々あります。社会がどのように変わるべきか、そもそも社会の変革とは何かを考えながら、経済的な持続性も確保するビジネスモデルを構築する必要があるのです。これらは非常に難しい課題ですが、MBAではそのような課題に向き合い続ける力を鍛えることができます」
君島「難しい課題を乗り越える力や、答えを出し続ける力が磨かれるということですね。山中さんはご自身もMBAで学ばれましたが、MBAのどんな側面がその力を養うのに役立つのでしょうか?」
山中「経営は意思決定の連続ですが、グロービスのようにケースを基にしたディスカッションを中心に行うMBAでは、まさに自分が経営者として意思決定を繰り返し行うことが求められます。その過程で、適切な問いを立て続ける力が養われるのではないでしょうか」
「一方で、実際にグロービスを卒業した起業家の方々にヒアリングを行ったところ、最も役に立った科目のひとつとして挙げたのは『クリティカル・シンキング』でした。起業のためには、『クリティカル・シンキング』の力が不可欠であり、ケースメソッドを通じてその力がさらに磨かれるのだと感じます」
井手「私は初期の頃に受けていただく経営戦略と、卒業間際の応用展開のクラスを担当しているため、同じ学生の2年間の成長過程を伴走することがありますが、その成長に本当に驚かされます。初期の頃は問いを立てる力も弱いですし、知識も乏しいため、発言も思いつき感の中での空振りも多いです。しかし、2年経つとかなり力がついてきて、問いの質も高いですし、さまざまな科目を通して学んだ知識が自分の引き出しに整理され、その中から適切なものを取り出し、さらにそれらを組み合わせて新しい意見を言えるようになります。この訓練・反復練習がとても大きいと感じます」
「実際の仕事では、全く同じ課題に遭遇することは無いですが、問いを立てる力や、それに対処する知識を体系的に整理できる力、さらにそれらを再結合できる力があれば、だいたいの課題を解くことができます。大事な点は、これらの力を卒業後も鍛え学び続けることです。2年間のプログラムの目的は、2年間での学びだけでなく、卒業後も成長し続ける力を身につけることなのだと感じています」
君島「今度は廣瀬さんに、MBAの意義について伺いたいと思います。グローバルな視点で見た場合、世界でのMBAの価値と、日本でのMBAの捉え方には違いがあるように感じます。グローバルでは、経営者になるためにMBAを取得することが当たり前ですが、日本では必ずしもそうではないですよね。この点について、どうお考えでしょうか?」
廣瀬「最近、MBA不要論やYouTubeで経営を学べるという議論を耳にしますが、まず考えるべきなのは『経営を学ぶ』という観点そのものだと思います。例えば、日本で毎年MBAを取得する人数は約3,000人程度ですが、アメリカでは毎年8万人がMBAを取得していると言われています。この差は非常に大きいですし、さらにアジアからも多くの学生がアメリカで経営を学んでいるのが現状です。このような状況を考えると、日本のビジネスパーソンがグローバルな競争力を持つために、経営を学ぶことの重要性を再認識すべきだと思います」
「また、ビジネスにおいては、例えばマーケティングなど、ひとつの分野だけを学べばよいというわけではありません。マーケティングを行うためには、人を雇い、組織を作り、資金を調達し、給与を支払う必要があります。新しい商品を売るためには、販売チャネルを構築し、ロジスティクスをどう構築するかも考えなければなりませんし、株主への説明や会計の知識も求められます。これらすべてを理解して初めて、経営全体を把握し、実践に移すことができるのです。これをYouTubeなどで個別に学ぶのは難しいのではないでしょうか」
「また、経営を学ぶのであれば、実践性の高い学校を選ぶことをおすすめします。私は30年前にアメリカのビジネススクールを卒業しましたが、当時は分厚い教科書を読むといったアカデミックな学びがメインでした。しかし、グロービスでは、実際に企業で経営を行っている方や事業投資経験者が教えており、ケースメソッドを通じて、実践的な議論が行われています。そういう点では、皆さんにとってとてもよい選択肢なんじゃないかなと思っています」
君島「MBAが提供できることについては、私たち教員が語ってきましたが、井手さんは卒業生でもありますので、ぜひご自身の経験から、なぜグロービスのMBAを選ばれたのか、そしてグロービスのMBAで得たものについて教えていただけますか」
井手「まず、グロービスのMBAには3つのユニークな特徴があると思っています。1つめは、創造系・ベンチャー系と変革系の科目が双方ともしっかり揃っていることです。ビジネスにおいて、創造と変革は切り離せない要素であり、どちらも深く学ぶことが求められます。例えば、ベンチャー企業が大企業と連携して、大企業が抱える課題を解決しながら自社を成長させていく戦略もあり、この場合 変革系科目は有効です。逆に大企業にとっては、自分達が苦手なイノベーションを、ベンチャーの力を借りて実現する方法もあり、創造系科目を学ぶことも有効です。これら双方を同時に実務で学ぶのは難しいですが、グロービスではどちらも体系的に学べるのが魅力です」
「2つめは、グロービスの規模感と多様性です。グロービスには1,000人以上の学生が在籍しており、年齢や業種、バックグラウンドも多岐にわたります。この多様性こそがイノベーションの源泉であり、異なる視点や経験を持つ学生同士が交流することで、新しいビジネスのアイデアが生まれる場となっています。また、学校としてもさまざまなイベントを支援しており、それがさらなる学びの深さにつながっているのではないでしょうか」
「最後に、教員陣のバランスです。ビジネスの第一線で活躍している教員が、リアルな課題や最新のトレンドを授業に取り入れることで、理論だけでなく実践的な知識を学ぶことができます。また、グロービスに所属する教員陣は、教えることに長けており、それを体系的に整理して伝える能力にも優れています。この2つの要素が融合することで、常にアップデートされた血の通ったコンテンツが提供されるのです。私自身、今は教員としてこの仕組みの素晴らしさを再認識しています」
君島「井手さんも山中さんも、卒業間際の学生が受ける科目をご担当されていますよね。マーケティングやリーダーシップなど単一科目の知識だけでは得られない、まさに総合格闘技的な学びを提供されていると思いますが、これまでの学びがどのように結びついているのか、お話しいただけますか?」
井手「私はイノベーションと企業再生をテーマとする2つのクラスを担当しています。イノベーションの科目では、企業が新しい価値を創造し、社会から認められ続けるための方法を学びます。とくに焦点を当てているのは、大企業の中でイノベーションを成功させるためにはどうすればよいのか、です。大企業には多くのリソースがあるにもかかわらず、なかなか新しいアイデアが生まれにくいという現実があります。この科目では、そのような課題をどう解決し、イノベーションを実現するかを学びます」
「企業再生の科目では、今までのビジネスのやり方が通用しなくなった企業が、どのようにして再生し、V字回復を果たすかを学びます。日本企業が次のステージに進むために何が必要か、どうすれば迅速に変革を進められるのか。その戦略を具体的に探っていきます」
山中「私が担当しているのは、主にベンチャー系の科目で、『ベンチャー戦略プランニング』や『ベンチャー・キャピタル&ファイナンス』、そして『ソーシャル・ベンチャー・マネジメント』があります。とくにベンチャーのファイナンスの分野では、グロービス・キャピタル・パートナーズに蓄積された経験を活かした実務的なロールプレイングを多く取り入れています。起業家がどうやって資金を調達し、投資家と交渉するのか、その具体的な方法を学びます。この過程で、クリティカル・シンキングやネゴシエーションスキルが非常に重要になってきます」
「『ソーシャル・ベンチャー・マネジメント』では、社会課題をビジネスで解決する方法を学びます。小規模な取り組みではなく、社会全体に影響を与えるようなベンチャーをどのように規模拡大していくか、その戦略を学ぶ科目です。社会課題がなぜ解決されないのか、その構造的な理由を理解し、それを解決するビジネスモデルを構築するためのスキルを身につけます。また、ソーシャルベンチャーならではのファイナンスや全国展開の方法についても学びます。最終的には、『自分はどう社会を変えたいのか』という問いに向き合い、その答えを見つけることを目指します」
君島「お二人の話を聞いて、どの科目もビジネスの課題をどう解決するかという総合的な学びを提供していることがよく分かりました。実際のビジネスの現場では、マーケティングやリーダーシップだけを切り離して考えることはできません。意思決定の場面では、さまざまな分野の知識とスキルを総合的に活用することが求められるのですね」
会場「先ほどお話しされていた『不易流行』について、どのようにそれを実践しているのか、具体的なポイントや意識していることがあれば教えてください」
井手「最終的には、自分の価値観に紐づくことなのかなと思います。私自身、最近『自分は何のために生きているのか』『何をすれば死ぬ間際に良い人生だったと思えるのか』ということをよく考えます。これらの問いを突き詰めて考える中で、自分は何をなすべきか、何は他の人に委ねるべきかという判断軸が徐々に育ってきたと感じています」
「私は32歳のときにグロービスに入学しましたが、実はそのとき『志』という言葉に対して苦手意識がありました。それでも無理やり出した答えが、『触媒になる』でした。私が関わることで、その場や人々が、以前よりも美しく、そしてよい方向へ変化する、そんな存在になりたいと思いました。その意味でコンサルにもなりましたので、一応その通りに生きてきましたが、触媒の対象が何かについては、ずっと答えを持てていませんでした」
「一方、あれから日本の経済はどんどん弱くなり、どんどん国際競争力が低下し、グローバルで取り残されていく現実を目の当たりにして、日本を盛り上げるために自分は何ができるのか、この歳になってようやく自分が直接取り組むべき対象が見えてきました」
「私は15年掛かりましたが、解を見つけるのにそれくらい時間をかけてもいいのではないかと思います。それがまさに『不易』に該当するのかなと。自分の使命や価値観は本質的に変わらない中で、常にアップデートし続ける。一方、Howな部分は、どんどん変わっていってよくて、変化を積極的に学び、自分に取り入れていくことが大切です。その両者をうまく組み合わせて進めていくことが、不易流行の実践だと思っています」
会場「グロービスで学ぶことで大きく成長する学生の特徴について伺いたいです。平凡な人やとくに優秀とは言えない人がグロービスでどのように成長していくのか、具体的なエピソードを交えて教えていただけますでしょうか」
山中「グロービスで大きく成長する学生の特徴について、1つ目は、愚直に問い続けること。そして2つ目は、経営を実践の場として活用することです」
「愚直に問い続けるというのは、基本的な問いを常に自分に問いかけることです。例えば、損益分岐点はいくらか、この業界で勝つためのKSF(キー・サクセス・ファクター)は何か、といった基本的な問いを、どんなケースでも考え続ける学生がいます。こうした基本的な問いを愚直に追求することで思考が深まり、成長を遂げる姿をよく目にします」
「もうひとつの特徴として、グロービスを経営の実践の場として活用することが挙げられます。グロービスのある学生は、青年海外協力隊としてニジェールに行き、現地で子供が命を落とす場面を目の当たりにして、大きな衝撃を受けたそうです。その経験から『どうすればこうした状況を改善できるのか』と問題意識を持ち、グロービスに入学しました」
「最初はクラスでの発言も控えめでしたが、彼女は自分の問題意識を積極的に共有し、次第に考えが深まっていきました。彼女が最終的に思いついたのは、富山の薬売りモデル、いわゆる置き薬モデルをアフリカに導入し、現地のヘルスケアを劇的に改善するというアイデアでした。彼女はこのアイデアをもとに、グロービスの『研究・起業プロジェクト』という科目で実際にプロジェクトを立ち上げ、今では『AfriMedico』というNPOの代表として注目されています。さらに、このプロジェクトを進める過程で、彼女がもともと所属していた製薬会社での業績も向上し、成果にもつながったと聞いています。プロジェクトを通じて経営を実践することで、彼女はますます経営スキルを高めていったのだと思います」
井手「私は『斜に構えないこと』と『全てを鵜呑みにしないこと』が重要だと考えています。社会人経験が長くなると、授業で扱うケースに対して、自分の過去の経験をそのまま持ち込んでしまいがちです。そうすると、なんとなくできているような気がしてしまうかもしれませんが、それでは本質にはたどり着きません。本当に大切なのは、その裏にある真理を学ぶことです」
「そのケースでは有効だったとしても、条件が少し変われば、その答えが通用しなくなることがあります。そのため、プロセスをしっかりと学ぶことが重要です。学びに対して貪欲であり、謙虚な姿勢で臨み、斜に構えずに取り組むことが大事だと考えます」
「一方で、何でもかんでもメモして覚えるだけでは不十分です。学んだことが自分のロジックに合わないと感じたときには、なぜその結論に至ったのか、どうして自分の考えと違うのかを自問する必要があります。そして、必要に応じて教員に質問し、納得がいくまで考え続けることが何よりも重要だと思います」
会場「MBAで提供されるものや得られるものについては理解できましたが、社会的な価値、とくに日本におけるMBAの価値について、現実的にはどう捉えられているのでしょうか。海外での仕事経験から、MBAは弁護士やエンジニアと同様に非常に高い価値を持つものだと考えていましたが、日本における現実はどうなのでしょうか」
廣瀬「MBAをブランドや勲章として捉えるのか、あるいはビジネスで問題解決ができるスキルを身に付けたと捉えるのかで、その意味は大きく変わります。ある大手企業の方が『MBAを取得した社員が戻ってきても、すぐに辞めてしまう』と話していました。そこで『MBAホルダーをどのように扱っていますか?』と聞くと、『ほかの社員と平等に扱っています』という答えが返ってきました。一方で『御社では、問題解決に貢献した社員は昇進させますか?』と尋ねたところ、『当然、昇進させます』という回答がありました」
「このやり取りに全てが詰まっていると思います。MBAを取得したからといって特別扱いを期待するのではなく、MBAで学んだスキルを最大限に活用して会社に貢献すれば、その成果は適切に評価されていくのだと思います。一方で、もっと早くキャリアを進めたい、夢を実現したいと考えるなら、人事と相談するのもひとつの方法です。それでも意見が合わなければ、最終的には自分の人生ですから、自分で決断するしかありません。転職を推奨しているわけではなく、自分のキャリアに対して自分自身が責任を持つということが重要だと考えています」
実践力を加速させるグロービスの仕組みは?
会場「グロービスは理論だけでなく、実践にも大きな焦点を当てている印象があります。今日のディスカッションでも、そのような話題がいくつか出てきました。そこでお伺いしたいのですが、クラスの運営において、実践力を加速させるための仕掛けや工夫があれば教えていただけますでしょうか」
廣瀬「学生の方に、目をつぶってケースの情景が浮かぶまで考え抜いてほしいとお願いしています。そして、その状況で自分が主人公としてどのような決断を下すかを、クラスでは徹底的に議論してもらいます。ディスカッションでは、対立する部門のリーダー役を学生に割り振るなどして、みんなで議論を深めていくのです」
井手「例えばイノベーションの科目では、新規事業と対立する部署からどんな意見が挙がり、その中で自分の考えや意志をどう伝え、実現していくかを再現しながら学んでいきます。また、企業再生は綺麗ごとでは済まないわけですよね。その中で、リアルな場面を引き出しながら、最終的に何をすべきかを徹底的に追求するクラス設計を行っています」
山中「私も実践性に対して強いこだわりを持っており、実践できないものは教えないという方針です。実践のために必要なものであれば、Excelの使い方でも教えます。例えば、『ベンチャー・キャピタル&ファイナンス』の科目では、財務モデルの作り方やExcelでの組み方などを動画教材にして、学生が実際に見て学べるようにしています」
君島「最後に、教員の皆さんからメッセージをお願いできればと思います」
井手「2つお伝えしたいことがあります。まず1つ目ですが、最近強く感じているのは『日本を強くする』という想いです。今、多くの方がさまざまな形で活動されていますが、その危機感を共有し、皆さんと一緒に『自分の環境で何ができるのか』を考えたいと思っています。皆さん一人ひとりがどう振る舞うかが、日本全体を変える力になります。これを一緒に考え、明日の行動に結びつけていただければと思います」
「2つ目は、学びに取り組むことについてです。皆さんは社会人として忙しい日々を送られていると思いますが、学ぶという行動は早ければ早いほど、その後得られるものが大きくなるんです。学びは積み上がるものなので、早く始めることで生涯にわたって大きな成果を得ることができます。ですから、ぜひすぐに学び始めて、一緒に日本を良くしていきましょう」
廣瀬「楽しみましょう。それが一番大切です。グロービスのクラスでは、自分の思いを本気で語り、真面目に笑い、真面目に泣ける空間があります。社会人になってから、こうした空間はなかなかないと思います。酔っ払っていないとできないようなことを、シラフでできてしまうほど心理的安全性が保たれたコミュニティです。こういう環境を経験すると、胸を開いて本当の仲間と語り合い、助け合うことができると思います。ですから、難しいことはさておき、まずは楽しんで学びましょう」
山中「皆さんの中で『社会を変えたい』という思いがある方はどのくらいいらっしゃいますか?ぜひ、どうすれば社会を変えられるのかを一緒に考え続けましょう。私自身、グロービス仙台校を卒業した方が立ち上げたNPOの理事を務めていますが、子どもの貧困問題を解決するために、いまだに何が正解なのか分かりません。しかし、グロービスコミュニティの仲間たちと協力し、考え続けています。こうした問いを、皆さんと一緒に考え続けていければと思います」
体験クラス&説明会日程
体験クラスでは、グロービスの授業内容や雰囲気をご確認いただけます。また、同時開催の説明会では、実際の授業で使う教材(ケースやテキスト、参考書)や忙しい社会人でも学び続けられる各種制度、活躍する卒業生のご紹介など、パンフレットやWEBサイトでは伝えきれないグロービスの特徴をご紹介します。
「体験クラス&説明会」にぜひお気軽にご参加ください。
STEP.3日程をお選びください
体験クラス&説明会とは
体験クラス
約60分
ディスカッション形式の
授業を体験
学校説明
約60分
大学院・単科生の概要や
各種制度について確認
グロービスならではの授業を体験いただけます。また、学べる内容、各種制度、単科生制度などについても詳しく確認いただけます。
※個別に質問できる時間もあります。
説明会のみとは
学校説明
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※個別に質問できる時間もあります。なお、体験クラスをご希望の場合は「体験クラス&説明会」にご参加ください。
オープンキャンパスとは
MBA・入試説明
+体験クラス
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確認やディスカッション形式の
授業を体験
卒業生
パネルディスカッション
卒業生の体験談から
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大学院への入学をご検討中の方向けにグロービスMBAの特徴や他校との違い、入試概要・出願準備について詳しくご案内します。
※個別に質問できる時間もあります。
該当する体験クラス&説明会はありませんでした。
※参加費は無料。
※日程の合わない方、過去に「体験クラス&説明会」に参加済みの方、グロービスでの受講経験をお持ちの方は、個別相談をご利用ください。
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