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投稿日:2024年01月23日
投稿日:2024年01月23日
良書を読み議論することで組織文化を醸成する
- 嶋田 毅
- グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長
昨年11月発売の『経営を教える会社の経営』から「CHAPTER8 組織文化醸成 3.社員交流による風土醸成の場」の一部を紹介します。
グロービスでは読書会と呼ばれる独自の営みがあります。通常の勉強会とは異なり、会社が指定した良書を読み合わせることで、①一人ひとりの心の陶冶、②共通認識づくり、③相互理解、④学ぶ風土づくりなど、さまざまな効用を得ようというものです。
自分も読書会のファシリテーターを務めることがありますが、読書会で出てくる意見は毎回異なり、常に新しい発見があるものです。また、数年前に読んだ本を改めて読むと、当時とは違う感想を持つことも少なくありません。読書会はよく「著者と語り、自分と語り、仲間と語る」などと言われることもあります。読書会を通じて改めて自分自身やその成長を実感できる点も大きな効用と言えるでしょう。 (このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
読書会
グロービスが大切にしている営みの1つに、「読書会」という場があります。この読書会とは、皆である特定の書籍を読み込み、感じたこと(学び、気づき、違和感)や今後の自分に活かしたいことを共有し合い、その内容に対して他者からの感想を重ねたり、質問をし合ったりする営みを指します。 グロービスには、「グロービス8選書(前節で触れたプレジデント・ランチの際に取り上げる『吾人の任務』を入れると9冊になります)」と呼ばれている良書群があります。
グロービス8選書
- 『ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則』(ジム・コリンズ/日経BP)
- 『創造と変革の志士たちへ』(堀義人/PHP研究所)
- 『創造と変革の技法』(堀義人/東洋経済新報社)
- 『人を動かす』(デール・カーネギー著・山口博訳/創元社)
- 『EQ こころの知能指数』(ダニエル・ゴールマン著・上屋京子訳/講談社+α文庫)
- 『代表的日本人』(内村鑑三著・鈴木範久訳/岩波文庫)
- 『修身教授録』(森信三/致知出版社)
- 『新装版・真説「陽明学」入門』(林田明大/ワニ・プラス)
グロービスの社員であれば、入社後3年以内には全員がその全書籍の内容を理解している状態にするべく、人事部が主導で読書会の場をアレンジしています。
グロービスでは、この読書会を次の4つの目的に基づき実施しています。
- 一人ひとりの心の陶冶
- 共通認識づくり
- 相互理解
- 学ぶ風土づくり
まず1つ目に掲げている「一人ひとりの心の陶冶」から説明します。書籍というのは、読者とは異なる人生を歩んできた著者によって、その方の経験や考えに基づき書かれたものなので、必ず何かしら自分とは異なる考え方やものの見方に触れることができるものです。そういった自分にとって新たな視点に触れることで多様なものの見方ができるようになりますし、著者の価値観に触れることを通じて自らの価値観を上塗りしていくことができます。読書というのは人の心を豊かにしてくれるものだと思いますが、まさにその効用を存分に堪能すべく、深く読み込むことによって、自分の心を磨いていってほしいと考えています。
2つ目の「共通認識づくり」ですが、これがまさに組織で読書会を行う大きな意義になります。グロービスは基本的に全員中途入社で入ってきた方で構成されており、CHAPTER3(採用)で説明した通り「異質の効用」を追求した採用としているため、各人のバックグラウンドは全員が異なるものを持っています。これにより、それぞれが持つスキルや視点が異なることは組織としては多様性の価値を享受できるため、それはそれで良いことなのです。
ただ一方で、お互いに何の共通認識もないままでいると、何かを協働しようとした時にコミュニケーションや合意形成に時間がかかってしまいます。組織とは人の集合体であるが故に、それぞれの認識がいかに揃っているかによって、そのスピード感には大きな違いが生じてきます。要は、何かを伝える際に、ゼロから十まで全て伝えないと伝わらない場合と、極々一部のキーワードを伝えるだけで「あー、その話ね」と相手が理解してくれる場合とでは、歴然としたスピードの差が生まれてくるわけです。このことから、グロービスでは、全員がしっかりと時間をとって、組織として犬切にしたい考え方に対する共通認識を持てる状態をつくっています。
3つ目の目的は、社員同士の関係性に纏わる「相互理解」です。社員同士がお互いのことを深く理解していればしている程、日々のコミュニケーションや協働はスムーズにいくわけですが、普段仕事を共にしている/したことがある程度では、必ずしも相手のことを深く理解できるわけではありません。なぜなら、日常業務というのはTO DO(やるべきこと)ベースで進んでいくためです。当然、それぞれの業務ごとに納期もあるでしょうから、あまり悠長に相手の考え方や価値観等について確認し合う時間というのは取りにくいものです。この読書会では、比較的ゆったりとした時間を使ってお互いが書籍を読んで感じたことを共有し、それに対して他者が「なぜ、そう感じたのか?」「その考えに至ったのは、何が影響しているのか?」といった相手の内面や背景に思いを馳せながら、自分の気持ち・考えを吐露し合う時間となります。そうすると、普段業務を共にしているだけでは知り得ない相手の想いや価値観に触れることができるため、今後のより良い協働に繋がるのです。よって、この読書会では、単に書籍の内容を深掘りするのみならず、共に読書会に参加している仲間についても深く理解し合うことを意図しています。
4つ目の目的は、「学ぶ風上づくり」です。読書会は、書籍の内容を通じて著者から多くのことを学ぶことができますし、共に参加している他者の考え・価値観に触れることで更に多くの考え・視点を学ぶことができます。こういった参加者同士でお互いを高め合う良き学びの場を継続的に持つことで、“学ぶ”ということを組織の当たり前にしていくことができます。特に、グロービスは、“経営を教える会社”なので、自分たちが他の誰よりも学び続けていなければ良い学びを提供し続けることができなくなってしまうでしょう。よって、“森羅万象、様々なものから学ぶ”ことを当たり前にした風土を醸成し、いつまでも学習し進化し続ける組織であるためにも、この読書会を定期的に開催しています。
著:グロービス、内田圭亮 発行日:2023/11/8 価格:1,980円 発行元:東洋経済新報社
嶋田 毅
グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長