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投稿日:2023年12月19日  更新日:2024年01月11日

投稿日:2023年12月19日
更新日:2024年01月11日

自分の仕事は自分で決める

嶋田 毅
グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

今年11月発売の『経営を教える会社の経営』から「CHAPTER4人材配置・キャリア開発 3. 自己実現の場を提供する具体施策」の一部を紹介します。

多くの企業では、従業員、特に若手の従業員に仕事の選択余地がないということが少なくありません。多少の希望は言えるとしても、結局は会社が出した辞令に従わざるを得ないという企業も多いでしょう。それが、自分の希望しない仕事や赴任先だったとしても断れない、というケースも多いはずです。それに対してグロービスは、個の爆発を促すべく「自己実現の場を提供する」ことを謳っているため、ジョブ・ポスティングや異動希望などの制度を積極的に活用しています。これによって従業員は、より自分のやりたい仕事に就ける(あるいは作り出す)可能性が増すのです。グロービスではまた、社内の他部署の仕事内容を知る場を設けるなど、「自己実現の場の提供」を様々な取り組みによって加速しています。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

自己実現の場を提供する具体施策

グロービスでは、主体的なキャリア形成を支援するためにも、年に一度、自分の所属部門や所属チーム、そして業務内容を変えることのできる機会を全社員に与えています。その機会は、「ジョブ・ポスティング」と「異動希望」という2つの制度によってもたらされます。この「ジョブ・ポスティング」と「異動希望」は毎年交互に実施されるため、グロービスの社員は、毎年必ず所属や業務内容を変える機会を得られることになります。

ジョブ・ポスティング

まず、ジョブ・ポスティング制度から説明します。ジョブ・ポスティングというのは、各部門から異動希望者を募りたいポジションを提示してもらい、そのポジションを社内に開示することで、全社員から異動希望者を募る制度です。

各部門からすれば、社外から採用しようとしていたポジションをすぐに社内で補充できるチャンスにもなります。異動してくるメンバーは、グロービスのことをよく分かっている社員であるため、育成に要する期間は短くなり、早い立ち上がりを期待することができます。ジョブ・ポスティングに応募する社員からすれば、社内転職の機会が得られる形になります。よって、自身の今後のキャリアや成長を考えると今のままの仕事を何年も続けるのではなく新しい機会に身を投じたいと考えており、かつ、グロービスの組織やカルチャーが好きな方にとっては、もってこいの制度になっています。

このジョブ・ポスティングのプロセスは、外部からの採用プロセスと同じように、書類審査があり、面接審査があり、それらに通過して初めて異動が実現します。よって、応募をすれば必ず異動が叶うというわけではありません。あくまで、募集をかけている部門から、そのポジションに応募した人に期待役割を果たしてもらうだけの能力が備わっているかどうかの審査が入るため、それに足る能力を身につけている必要があります。

もちろん、応募者が既にその業務に就いたことがあるというケースは稀なので、直接的な能力が完全に顕在化されている必要はないのですが、少なくとも外部から採用する場合と同じレベルの能力基準が求められるため、応募しても必ず審査を通過できるとは限りません。また、一人の募集枠に対して、複数名からの応募があった場合には、その中から1名のみが選ばれる形になるため、競争原理は働いています。これがまさに、就きたい仕事があるのであれば自由に選択してもらって構わないが、それに必要な知識・能力を磨き自己研鑚を続けるのは本人の責任である、という「自由と自己責任」原則が適用されている事例です。

異動希望

次に、異動希望制度について説明します。この異動希望というのは、自身の今後のキャリアに関する希望を示してもらうことから始まります。その上で、組織的にその希望を叶えられるポジションを用意できるかどうかを検討し、是と判断されれば異動が叶います。

個人と組織の希望が合致すれば異動が叶うという意味では、異動希望はジョブ・ポスティングと似たところがあるのですが、明確にジョブ・ポスティングとは異なる点があります。ジョブ・ポスティングは、まず組織発で募集ポジションが明示され、個人がそれに応ずる形で応募するプロセスとなるのですが、この異動希望は個人発でプロセスがスタートするのです。つまり、組織からの募集ポジションや募集枠数の明示なき中で、個人がやりたいと思っている仕事内容を希望として出すところからプロセスが始まります。

この異動希望は、より個人の意志を示すことに主眼を置いているため、まず個人にとっての利点が大きいです。ジョブ・ポスティングとは違い、組織が求めていようといまいと関わりなく、もっと言うとこれまでに社内でそういった役割やポジションを用意していなかったとしても、自分が好きなように自分の意志を組織に示すことができるのです。それにより、場合によっては、その想いを実現させるべく、新たに希望に叶う仕事を生み出し機会付与することができることがあります。

これはまさに、自己実現の場の提供を具現化するための制度である、と言って差し支えないでしょう。もちろん、組織としても、その組織が提供できる価値領域が広がるきっかけになることもあるため、とてもグロービスらしい良い取り組みだと感じています。

この異動希望のプロセスは、まず異動希望者が、異動希望先部門、異動希望理由、異動先にて自分が取り組みたい業務内容のそれぞれについて纏めて申請を出すところからスタートします。次に、希望を出された部門先でその中請内容を確認し、異動を受け入れる可能性を模索してもらい、面談の機会を設けます。その面談にて、本人の想いを実現させられる可能性があるかどうかを擦り合わせ、合意に至ればそのまま異動してもらいますし、合意に至らない場合は異動が見送られます。

よって、ジョブ・ポスティングと同様、こちらも希望を出せば必ず通るという類のものではありません。ただ、ジョブ・ポスティングでは募集要件が明確にあるところへの応募につき、能力面が面接で評価される重要事項となっているのに対して、異動希望では具体ポジションが無い中での応募につき、部門と個人双方の創り上げたい世界観やビジョン・目標の合致点を見出せるかどうかがポイントになるため、スキル以上に志向性が問われる、という言い方ができるでしょう。

経営を教える会社の経営: 理想的な企業システムの実現

著:グロービス 、 内田圭亮 発行日:2023/11/8 価格:1,980円 発行元:東洋経済新報社

嶋田 毅

グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長