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投稿日:2023年11月08日

投稿日:2023年11月08日

【スタートアップ王国への進路①】米テック株、二極化進む IPOに復調の兆し

仮屋薗 聡一
グロービス・キャピタル・パートナーズ 共同創業パートナー/一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会 最高顧問

米国のテック銘柄の株価が復調しています。特にGAFAMと呼ばれる5大ビッグテック企業の戻りが力強いです。

2022年の初頭からテック銘柄は低迷し、様々なメディアで「スタートアップ冬の時代」と言われました。特にクラウド経由でソフトを提供するSaaS銘柄の低迷が顕著で、未公開株式、ベンチャーキャピタル(VC)投資にも大きな影響を与えました。22年9~12月期の米国のVC投資は前年同期比60%超減と急激に落ち込み、いまだに復調の兆しは見えていません。日本にもその影響は波及しており、投資ペースでは米国ほどではありませんが、冴えない状況が続いています。

23年になって株価は徐々に復調してきています。ただし、注目すべき点はテック銘柄で「二極化」が見られることです

まずGAFAMに代表されるプラットフォーム型の収益力がある企業は強く、株価はほぼコロナ時の高値と同水準に戻りました。もう1つは世界中で大ブームを巻き起こした「Chat(チャット)GPT」関連のAI(人工知能)銘柄です。半導体大手エヌビディアや、ビッグデータ分析のパランティア・テクノロジーズが該当します。ただ、現在は期待で買われているため、いずれは適正価格に見直される可能性があります。

一方で、ビデオ会議大手ズーム・ビデオ・コミュニケーションズのような主力の製品・サービスが1つのSaaS銘柄や、研究開発系のディープテック銘柄の戻りは道半ばのようです。この差は一体、何でしょうか。

筆者の見解では、その企業の持つイノベーションが技術由来なのかビジネスモデル由来なのかが影響しているのではないかと考えています。

製品とビジネスモデルの変革が継続成長生む

イノベーションは大きく2つに分けられます。1つはプロダクト、もう1つがプロセスです。新技術によるプロダクトイノベーションで突き抜けた企業は、そのユニークさで一時期を席巻するでしょう。しかし、技術の動向が目まぐるしいため、陳腐化が早いのもまた事実です。

一方で、技術のみならずビジネスモデルそのものを変革し、プロセスイノベーションを起こしているプラットフォーム型の企業は、強固な参入障壁を築けている企業が多く、競争優位性がサステナブルとなります。

例えば、アップルはiPhoneという製品を世に送り出し、イノベーションを起こしました。さらにはApp Storeを中心としたデジタルコンテンツのプラットフォームとなることで、イノベーションの域に到達するビジネスモデルも発明しました。

アップルのビジネスモデルでは、プラットフォームが盛り上がるほど、その顧客やネットワークが爆発的に拡大し、膨大なデータが蓄積されます。またApp Storeに出品するアプリ事業者は、ユーザー課金の一部(15~30%)をアップルに支払います。プラットフォームの参加料のような形で、収入を生み続ける収益逓増型のビジネスモデルはまさにイノベーションです。

このように高い参入障壁を築くことで、収益性の向上と継続的な成長が見込めます。また、プラットフォームになることで支配的なポジションを築ける可能性が極めて高まります。

日本のプラットフォーマーは戻り弱く

米国の話ばかりしてしまいましたが、日本はどうなのでしょうか。日本株に目を向けてみると、日経平均株価は戻っているものの、テック株はさえない状況が続いています。プラットフォーム型を目指している日本のテック銘柄はたくさんありますが、本質的に実践できている企業は限られます。

日本のプラットフォーム銘柄といえば、エムスリーや楽天グループでしょうか。ビジネスモデルの価値ではなく業績で評価されているのか、株価の戻りは弱いです。GAFAMのように産業横断的でなくとも、せめて各業界に特化したプラットフォーム型企業が日本にも育ってほしいと思っていますが、まだ少ない印象です。

そんな中、日本のスタートアップ企業として、ビジネスモデルを中心としたイノベーションを継続していて、注目している企業がマネーフォワードです。

ビジョンに「すべての人の、『お金のプラットフォーム』になる。」を掲げ、プラットフォームを目指しています。中小企業向けのファクタリング(売掛債権の買い取り)サービスやオウンドメディアの運営、個人向け家計簿アプリなどの事業を展開しており、課金ユーザーも順調に増加しています。

中長期目線で革新的技術に投資を

以前、有力な機関投資家から聞いた言葉ですが、「資本市場において景気の上下に連動しない価値創造サイクルを持つのがイノベーションであり、それを投資に組み込むことがリターン創出の妙味」なのだそうです。つまり、短期の浮き沈みに惑わされず、いかに中長期的目線で革新的テクノロジーやビジネスモデルに投資をできるかどうかが、投資ポートフォリオの鍵のようです。

いま、日米ともにベンチャーキャピタル投資は軟調が続いています。スタートアップに必要な成長資金が必ずしも十分に供給されていないようです。そのような中、日本政府はスタートアップ5か年計画を発表しました。これから5年間で10兆円規模を投資していく計画です。現在は民間からの資金供給が力不足で、株価も軟調ですが、もし日本政府の大胆な投資戦略がうまく合えば、タイミングとしては良い逆張りとなる可能性があります。中長期的に高い成果へとつなげたいところです。

この秋の注目イベントは、米国市場での久しぶりの大型上場でしょう。ソフトバンクグループ傘下の英アームに続いて、BtoC(消費者向け)プラットフォームユニコーンの雄であるインスタカートが上場しました。これらの大型上場で新規株式公開(IPO)環境の潮目が変われば、バリュエーションがある程度落ちてきてしまった現況下での投資は良い仕込みになるはずです。

グロービス・テクノベート経営研究所では、好不況にかかわらず継続成長を実現するビジネスモデルでのイノベーションを起こし、世界へ発展するスタートアップの経営手法について研究を深めています。我々の研究を日本のスタートアップに還元し、明日の日本を担うユニコーン、デカコーンの創出を後押ししていきたいと考えています。

※本記事は、日経ヴェリタスにて連載された「スタートアップ王国への進路①」を転載したものです(2023年9月24日掲載)

仮屋薗 聡一

グロービス・キャピタル・パートナーズ 共同創業パートナー/一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会 最高顧問

慶応義塾大学法学部卒、米国ピッツバーグ経営大学院修士課程修了(MBA)。1996年にグロービスのベンチャーキャピタル事業を設立。独立系ハンズオン型VC国内最大手へと導き、ファンド累計額は1800億円を超える。2015年より日本ベンチャーキャピタル協会会長、現在は最高顧問。官公庁関連委員会等の委員を歴任、スタートアップ関連著書多数。グロービス・テクノベート経営研究所所長、グロービス経営大学院教員も務める 。著書に、『機関投資家のためのプライベートエクイティ』(きんざい)、『ケースで学ぶ起業戦略』(日経BP社)、『MBAビジネスプラン』(ダイヤモンド社)、『ベンチャーキャピタリストが語る起業家への提言』(税務研究会)がある。

※プロフィールは投稿日時点のものです