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投稿日:2023年08月22日

投稿日:2023年08月22日

世界に良いインパクトを与えながら利益を創出するには?――『PURPOSE+PROFIT パーパス+利益のマネジメント』

五十嵐 剛志
グロービス代表室ベンチャーサポートチーム/KIBOW社会投資 インベストメント・プロフェッショナル

パーパスと利益の両立は可能である

ESG投資の世界的権威、ハーバード・ビジネス・スクールのジョージ・セラフェイム教授は、過去10年の50を超える学術論文や現地調査、起業家・取締役・投資家としての実務経験に基づき、パーパスと利益の両立は可能であることを示しています。

しかし、パーパスと利益の両立は簡単なことではなく、成功の保証もありません。その実行にはリスクも伴います

本書は「なぜ」パーパスと利益の両立が可能であるのか、「どのように」それを実現することができるかについて実例とともに説明しています。

本書の全体像(『PURPOSE+PROFIT パーパス+利益のマネジメント』より筆者作成)

インパクト加重会計がゲームチェンジャーになる

本物のビジネスリーダーとは、利益を出すと同時に社会にプラスのインパクトを生み出せる人だと著者はいいます。そのためにはインパクトの透明性が欠かせません。

筆者は財務的リターンと共に社会・環境にポジティブな変化(=インパクト)を生むことを意図する「インパクト投資」の父、ロナルド・コーエン卿らとともにインパクト加重会計イニシアチブを立ち上げました。インパクト加重会計では、利益の再定義を行い、インパクトの真の透明化と財務情報との統合を行うことで、経営者や投資家の意思決定に革新を起こそうとしています。するとどのような影響が起こるのでしょうか。例えば、私たち消費者、従業員はインパクト加重会計の数値をもとに購入先や就労先を選ぶこともできます。また、政府がインパクト加重会計を用いることで、マイナスのインパクトに課税したり、プラスのインパクトに経済的なインセンティブを与えたりすることもできます。

インパクト加重会計は、パーパスと利益の両立を実現するためのゲームチェンジャーになり得るのです

イノベーションのための5段階のフレームワーク

善行をしたからといって利益が得られるわけではありません。善行をしつつ、利益を生み出すには戦術的手法が必要です。著者は研究から以下のように、パーパスと利益の両立というイノベーションを起こすための「6段階のフレームワーク」を示しています。

  1. ESGを戦略として導入
  2. 結果責任を問う仕組みを構築
  3. パーパス中心の企業文化を醸成
  4. 信頼に向けた業務運営の見直し
  5. 信頼できるコミュニケーション

本書では、それぞれの具体的内容や実例が掲載されています。

例えば、「信頼できるコミュニケーション」とは、企業が投資家と関係を構築し、信頼を得ることであり、インパクト加重会計の導入も含まれます。これらを実行することで、スタートアップでも大企業でも「パーパスと利益の両立」が可能となり、業界のリーダーとなり、世界に貢献することができます。

価値創造の6パターン

著者の研究によれば、パーパス主導型の企業は競合他社より年3%以上も高い株式リターンを毎年達成しています。この「3%」はどこから来ているのでしょうか?著者は成功企業の事例から6つのパターンを見つけ出しました。

  1. 新モデルと新市場:未来を見据える
  2. ビジネスの変革:サステナブルな変化に注力する
  3. 専業によるニューアラインメント:新天地を征服する
  4. 製品代替:既存製品に取って代わる
  5. 業務運営の効率性:既存の価値をさらに高める
  6. 価値認知:市場の先を行く

本書では、それぞれの具体的内容や実例が掲載されています。例えば、「新モデルと新市場」は環境問題や社会的に懸念される問題に関わる新商品・新機軸によって収益が増えるケースです。具体例としてはテスラが挙げられます。実行リスクが最も高いですが、価値創造の潜在力も最も大きいです。

あなたが大企業の経営者や従業員でも、スタートアップの起業家や従業員でも、それらに投資を行う投資家でも、これらの成功事例から学ぶことができるでしょう。

何のために仕事をするのか

私たちは仕事や人生に意義(パーパス)を見出したいと願っています。あなたの仕事とパーパスは調和しているでしょうか。仕事を通じて世界をより良くしていくためには、どうすれば良いのでしょうか。

著者はハーバード・ビジネス・スクールの教授として、教え子からキャリアについて助言を求められるといいます。筆者は必ずしも仕事とパーパスの調和が取れた組織を就職先として推奨していません。なぜなら優れたビジネスリーダーであれば、もともと環境・社会と調和した組織ではなく、まったく調和していない組織を改善へと導く方が地球全体にとってインパクトが大きいと考えているためです。

このような考え方は、私たちを自由にしてくれます。もしあなたの仕事とパーパスの調和が取れていなくても、世界をより良くしていくことができます。必要なのは、未来への希望とそれを実現するための知恵ではないでしょうか。本書がその一助となることを願っています。

書籍:『PURPOSE+PROFIT パーパス+利益のマネジメント
著:ジョージ・セラフェイム 翻訳:倉田 幸信 発行日:2023/7/5 価格:2,200円 発行元:ダイヤモンド社

五十嵐 剛志

グロービス代表室ベンチャーサポートチーム/KIBOW社会投資 インベストメント・プロフェッショナル