GLOBIS Articles

  • テクノロジー
  • イノベーション
  • 知見録PICK UP

投稿日:2023年06月21日

投稿日:2023年06月21日

日米経済格差の要因、テクノベート時代に必須のデジタルプラットフォームを考える

髙原 康次
テクノベート経営研究所(TechMaRI) 副所長/グロービス経営大学院 教員

かんじんなことは 目に見えないんだよ (サン=テグジュペリ)

経済産業省の産業審議会資料によると、2010年~2020年の日米の経済成長の差は、GAFAMの大きな成長にあると指摘されています[1]。そして、ヤフー株式会社の安宅CSOは、GAFAMを「AI ×データ活用するプラットフォームを持つ会社」と位置付けています。
このデータ活用をするプラットフォーム、つまり「デジタルプラットフォーム」は、テクノベート(Technology×Innovation)時代のビジネスの成功における重要な要素となってきています。今回は、このデジタルプラットフォームについてビジネスパーソンが理解しておきたい基本とその導入について考えます。

デジタルプラットフォームとは何か

デジタルプラットフォームとは、コンピューターを用いた「場」であり、多くの個人や会社がインターネットなどで利活用するもの程度と、実務上は理解しておけば良いでしょう[2]

基本的な理解のために、まずは、コンピューターの基本的な、情報の流れをおさらいします。コンピューターには、データのインプットとなる「収集する」、収集したデータを「管理・分析・処理する」、そしてデータをユーザーが使いやすいように「アウトプットする」という大きく3つの役割があります。

私たちが毎日のように使うパソコン上の文書作成ソフトをイメージしましょう。キーボードや音声で入力します。それを、コンピューターが処理して、かな漢字変換を行います。アウトプットは、指定によって変えることができます。例えば、文字を大きくしたり、紙に印刷したレイアウトでみたり、スマートフォンで見るように自動調整したり、です。

デジタルプラットフォームは、このデータの収集、管理・分析・処理、アウトプットを個人の中で完結するのではなく、インターネットなどを用いて個人間や企業内外、グローバルに大規模に行うことができます

例えば、企業内で行うものであれば、経費管理システムがあります。社員としてみなさんが使った会社経費(電車代や接待交際費など)を入力します。入力された情報は、経理部に集約され、デジタルプラットフォームを通じ情報が処理されます。処理される際、利用者に応じてアウトプットが変化します。例えば、利用した社員に1円単位で支払処理が行われ、明細に反映されます。支払い業務担当者は、金融機関に振込依頼できるように情報を加工します。会社の経営者は、経費に異常な動きが無いか確認していますが、この際は、各人がいくら使ったかという細かい情報よりも、会社全体で合算した上で、分析しやすいように売上高に対する比率や前年同時期の比較を行います。

デジタルプラットフォームがなぜビジネスに成功をもたらすか?

①取引コストの最適化

効果的なデジタルプラットフォームでは、データ処理にかかる時間を短縮すると同時に、価値を感じられる使いやすい形でアウトプットします。経済学でいう「取引コスト[3]の最適化」が行われるのです。
すると、サービスやプロダクトを探して、契約して、価値を感じることがスムーズに行われるようになります。例えば、上記の経費管理システムであれば、支払い担当者が銀行への支払い指示をひとつひとつ手入力すると、時間も、手間もかかるし、ミスにつながります。社内だけではなく、銀行ともデータ連携することで、取引がスムーズになります。

先ほどの事例のように、デジタルプラットフォームの接続先が、社内や取引先を超えて、国家的な標準が作られることで、取引コストが最小化し、多くの人たちが便利になります。例えば、エストニアで2001年に採用された行政サービスを提供するデジタルプラットフォームX-Roadは、公務員の労働時間を毎年1345年分削減しているとされています。このシステムは、エストニアを超えて20か国で採用され、52,000の団体と繋がり、3,000以上のサービスが展開されています[4]。日本でも市川市が2019年6月に採用しています[5]

②新規事業創出の基盤になる

デジタルプラットフォームは、コスト削減のみならず、新規事業創出の重要な基盤となります。例えば、金融包摂型Fintechサービスを提供するGlobal Mobility Serviceというスタートアップがあります。同社はデジタルプラットフォームを構築しており、「車両データ(走行状況、速度等)と、金融機関と連携して取得した金融データ(支払い状況等)を分析することで、ドライバーの信用力を可視化し、従来の与信審査には通過できなかった方々へ、ローンやリースなどの金融サービスを活用する機会を創出」(同社HP)しています。もう少し具体的に同事業の特徴を整理してみれば、支払の延滞や契約条項の違反に繋がる情報をデジタルプラットフォーム上で管理し、場合によっては同社の装置を取り付けた車やバイクは外部から遠隔で停止させることが可能という点にあります。結果として、デジタルプラットフォームが通常では信用力が足りないドライバーへの信用補完をすることで、事業としての新たな価値を創造していると言えるでしょう[6]

ちなみに、デジタルプラットフォームがもたらす顧客情報の活用度合いでも、日米では大きな差が出ています。例えば、フェイスブックやGoogleが、顧客の行動履歴を用いて、広告を提供したり、AmazonやNetflixがユーザーの次に欲しそうな商品やサービスを提案したりするのは身近な事例です。『DX白書2023』(独立行政法人情報処理推進機構) によると、日本では顧客への価値提供に関する自社のDX関連取組みについて「評価対象外」とする会社が3割半ば~7割程度であり、8割超の企業が何らかの評価をしている米国とは対照的になっています。

デジタルプラットフォームを日本でも前向きに活用していく

以上2点の要素をはじめとして、デジタルプラットフォームは、テクノベート時代の企業の競争力を左右する大きなポイントとなっています。この導入にはトップの関与と同時に、デジタルプラットフォームの導入の必要性を理解して協力するミドルや現場スタッフが欠かせません

一方で、デジタルプラットフォームは目に見えない存在であり、また、優れたデザインであればあるほど、ユーザーにデジタルプラットフォームの存在を意識させることが少なくなります。現に私たちは、GAFAMのデジタルプラットフォームが何かを理解しなくても、容易にそのサービスを利用することが可能です。

もちろんセキュリティやエラーの問題はあり、デジタルプラットフォームも万全ではありません。事故が起こった際の責任の所在が曖昧になるリスクもあり、環境整備が急がれます。一方で、人が行った時と比較してエラーの発生度合いを考えると、コンピューター技術の成長とデータ蓄積で次第に信頼度は増してきています。今まで人で行ったことで起きていた無意識に抱えているリスクとデジタルで行うリスクを比較して考えることの重要性は、首長などによっても既に提起され始めています[7]

テクノベート時代に生きるビジネスパーソンはデジタルプラットフォームの重要性や必要性とそのリスクを理解し、積極的に学習し、その導入を全社どの立場からも前向きに関与する必要性があると言えるでしょう。

髙原 康次

テクノベート経営研究所(TechMaRI) 副所長/グロービス経営大学院 教員