GLOBIS Articles

  • マーケティング
  • イノベーション
  • キャリア
  • 卒業生の活躍
  • インタビュー
  • 新規事業

投稿日:2023年04月17日

投稿日:2023年04月17日

「LIBERA」「熱さまシート」「バスロマン」開発者たちの“学ぶ力”と“突破力”

便利で魅力的な“モノ”たちがあふれ返っている世の中で、メーカーはどんな差別化ができるのか。ビジネス環境が大きく変化する中で、モノづくり企業にも新しいアプローチが求められている。

長期的にモノづくり企業が社会に価値を提供し続け、生き残っていくために必要なこととは何か。

グロービス経営大学院教員・垣岡淳氏が、同大学院で学んだビジネスの「型」を生かして新商品開発に取り組む江崎グリコの佐野有香氏小林製薬の合田隆久氏アース製薬の川口美香子氏に、メーカーが提供できる新しい価値とそれを生み出すために必要な視座やスキルについて聞いた。

新商品開発に必要なスキルとは何か

垣岡:皆さんは日用品や食品メーカーで、一般の方にもなじみ深い商品の開発を担っていらっしゃいます。モノづくりという仕事の魅力や醍醐味はどんなところにあると思いますか。

佐野:なんといっても、自分が開発を担った食品を店頭で選んで食べてくれる人が、目に見えることです。

私は『LIBERA(リベラ)』というチョコレートの開発を担いまして、まさにターゲット層として定めていた働く女性が店頭で手に取られる姿や、食べてくださっている姿を目にすると、頑張ってよかったなと思えます。

合田:よくわかります。私は入社5年目から『熱さまシート』という長寿ブランドの担当となりました。

熱があっても育児や家事を頑張らないといけない場面があるという話や、より強力な冷たさを求めるユーザーが冷凍庫で冷やして使っているという話をもとに、冷凍庫に入れても固くならず剥がれにくい新商品の開発に着手しました。

プロトタイプを試してもらった方に感想を聞きに行った際、「これこれ、こういうのが欲しかったんです!」という声をもらった時の喜びが、今も自分を支える原体験になっている気がします。

事前に立てていた仮説とぴったりハマったのがうれしくて、帰り道で仲間と喜び合ったことが忘れられません。

川口:私も初めて担当した『バスロマン bihada』という入浴剤が店頭に並んだ時の感動は、忘れることはないと思います。

その一方で、0から新商品を生み出すプロセスは困難の連続で、トラブルや壁に何度もぶつかりますよね。

どんなに素晴らしいアイデアでも、生産や品質保証、調達、マーケティングや営業、そして協力企業の人たちの、どの力が欠けても商品が店頭に並ぶことはありません。多くの方々の協力を得て、困難を乗り越えながらチームでやり遂げたと実感できる瞬間が、今は一番やりがいを感じます。

垣岡:なるほど、確かにやりがいは大きい半面、さまざまな難しさがあるでしょう。皆さんがこれまで取り組んでこられた経験から、商品開発にはどんなスキルが必要だと感じられましたか。

佐野:とにかく考え抜いて行動する、これに尽きると思っています。

チョコレートは脂肪と糖が多く含まれるので適量を守る必要がありますし、食べるときの罪悪感もあります。

そこで、私のようにチョコレートや甘いものが大好きな人が毎日安心して食べられる商品って何だろう?と、いろんな方向性について仮説を立て、議論するプロセスを繰り返しながら、本当に頭がもげそうになるほど考えました。

考えに考え抜いて絞り込んだコンセプトだからこそ、自信を持って送り出すことができたし、結果としてターゲット層に受け入れてもらえました。考え抜いて本当によかったと今でも思います。

ただ、どんなに考え抜いて出した結論であってもそれを成果に結びつけるには、行動が必要です。特に新商品の開発ではたくさんの壁にぶつかるので、それでも行動を止めることなくやり抜くことが必要だと思っています。

合田:まったく同感です。私はそれに加えて、「好奇心」も重要だと考えています。新しいものが好きで、常識を超えた領域にまで興味を広げていく力は、私たちのような身近な消費財を扱うメーカーには特に重要だと思うからです。

そしてもうひとつ、「学ぶ力」も不可欠だと感じます。私の場合、行動するほどに自分の中に不足しているものが見えてきたので、その都度さまざまな方法で新しいことを学び、自分に取り入れることが必要だと痛感しました。

川口:私が考える商品開発に求められるスキルは、「最終ゴールを明確にする力」「人を巻き込む力」そして「パッション」です。

研究開発はモノづくりのスタートラインではありますが、どんなお客様に、どんな価値をお届けしたいのか?をクリアにするため、ターゲットや使う局面、パッケージやネーミング、売り方のイメージまでを明確化して提案することを意識しています。

もちろん、実際にはその多くのプロセスは別の部署が担うことになりますが、最初にゴールを明確にしておかないと途中で道に迷ってしまうし、何より第二のスキルである「人を巻き込む力」が弱くなってしまうからです。

たくさんの人を巻き込んで協力してもらうには、そのゴールを達成した先にどんなよいことがあるのかを具体的にイメージしてもらい、絶対に達成したいという想いを共有する必要があります。途中でぶつかるさまざまな壁を突破するには、それが不可欠です。

その際には論理的に説得することも重要ですが、やっぱり最後は熱意がモノをいいます。商品はまさにわが子のような存在で、ひたすら愛し、強い想いを持って提案しながら、プロセスを進めていきます。

時には理屈では説明できないことや、絶望的なトラブルも起こるけれど、最後にはパッションが人を動かすんです。

従来通りのモノづくりは限界を迎えている

佐野:パッションがないと、やり遂げられないことはたくさんありますよね。私もリベラを世に出すまでに、3度も発売延期という壁に直面しました。当時は機能性食品の制度が始まったばかりで不確定な要素が多く、想定していなかった事態に陥ったんです。

当時の自社工場に余裕がなかったため製造部門には協力工場を手配してもらい、サンプルも作ってもらい、発売をアナウンスして営業部門にも伝えていたのに、一度ならず二度三度と延期になったわけですから、もう彼らに合わせる顔がありません。

社内でも社外でも、多くの人たちに何度も頭を下げながら、くじけそうになる局面がたくさんありました。

それでも、入社のきっかけになった私自身のチョコレート愛や、とことん考え抜いて価値ある商品をつくったという自信、そしてなんとしてでもこれを消費者に届けたいというパッションがあったからこそ、乗り越えられたのだと今でも思います。

合田:商品を上市した後も、さまざまな困難がありますね。

以前、日用品の新規事業を手がけていた時、商品の上市まではなんとかこぎつけたけれど、営業やお客様の新規開拓、アフターフォローに加え、ラインアップも増やす必要に迫られて、チームのメンバーに負担をかけすぎてしまったことがありました。

当初は商品開発という、0から1を生み出すことで頭がいっぱいでしたが、新規事業の組織は人員やリソースに限りがあるので、先のことまでしっかり見通しながら進めていく必要があると学びました。

垣岡:皆さん、さまざまな壁に直面しながらも、乗り越えてこられたわけですね。今、私がメーカーに対して感じているのは、果たしてモノづくりだけをしていればいいのか、それで本当にニーズに応えきれているのかという疑問です。

これまでのように新しい商品をつくって提供するという形のモノづくりには、限界があるのではないかと思っているんです。

モデレーターを務めた、グロービス経営大学院教員・垣岡淳氏

川口:おっしゃる通り、日用品の業界にはすでに商品があふれ返っています。

しかも、原材料は高騰し、販売してくださる小売店など、お取引先からのご要望も多岐にわたり、いくらメーカーが商品で差別化しようと知恵を絞っても、本当にお客様視点に立てているのか?というと、限界があるのも確かです。

こうした厳しい外部環境の中で、メーカーがどうしたら新しい価値を生み出していけるのかという課題感は、私も強く感じているところです。

合田:当社はまだ誰も見つけていないニッチな市場を発見し、ユニークなアイデアで新しい市場を生み出すことを大切にしてきました。

それでも、卸を通して商品を小売店の店頭に並べていただき、TVCMを中心としたマス向けの広告で商品の魅力をわかりやすく伝える、というプロセスは基本的には変わっていません。このような関わり方だけで、本当に生活者のことを理解できているのだろうか、という課題感はあります。

だからといってD2C(生産した商品を消費者に直接販売する販売方式)で直接お客様と接点を持てば、それだけで解決するほど単純な問題だとも思いません。

私は今、ヘルステック開発グループという部署のマネジャーとして、モノを売るだけで終わらない価値を提供するための新規事業にトライしているところですが、まだ答えを見つけられていない状況です。

あらゆる可能性を排除せず、すべてやり切る

垣岡:アカデミックな側面では、「サービスドミナントロジック」が参考になります。顧客はモノを買って終わりではなく、そのモノを通じて初めて価値を得ることができるという理論です。

このフレームワークのいいところは、継続的に顧客との共創関係を築いていくことを重要視しているところです。顧客の声を聞いて応えるのではなく、双方にとって新しい価値を一緒につくっていくわけです。

モノづくりは買ってもらうことをゴールにしがちですが、ユーザーからすれば実はそれがスタートなのです。プロダクトの差別化は重要であるという前提は変わらないけれど、やはり何らかの新しいチャレンジは必要になるでしょう。

皆さんはこれからのモノづくりや商品開発に対して、どう向き合っていきたいとお考えですか。

合田:私の部署が今取り組んでいる新規事業のひとつに、デジタルテクノロジーを活用してお客様の健康トラブルを解決するアイデアがあります。

当然ながら、私たちに電機メーカーのようなデバイス製造に関するノウハウはないので大変なのですが、それでもこうしたテクノロジーを活用して小林製薬らしい新しい価値を届けたい。

チャネルはドラッグストアではない可能性もあるし、マネタイズの仕方やデータ活用に至るまで、あらゆる面で従来とは異なる課題がありますが、より広い意味で、当社にとって新しいモノづくりを実現させるために、毎日ワクワクしながらチャレンジしているところです。

佐野:当社もお客様とダイレクトにつながって、健康に役立つ習慣を継続していくサポートができないかと模索しているところです。

私自身、かつて別のブランドでD2Cを模索しながらも、事業化を断念した経験があり、当時やれることを本当に全部やり切ったかというと、そうではなかったという後悔があります。

新しいチャレンジをするときはあらゆる可能性を排除せず、可能な分析と行動はすべてやり切るという想いでいます。

川口:私たち日用品メーカーは、人々の暮らしを快適に、そして便利にすることに注力してきましたが、今後はワクワク感とか楽しさを提供していくことも重視していきたいですね。

当社には、『らくハピ バブルーン』シリーズというお掃除商品のブランドがあります。泡の量や出し方に限界までチャレンジして、お客様が楽しみながらお掃除でき、ラクしてハッピーになってもらいたい想いを込めて、新商品を生み出しています。

面倒なお掃除をラクにするという価値にエンタメ性を上乗せする。お客様がSNSで楽しそうな動画をあげてくださることが多く、開発する私たちも、それを見てもっとワクワクするモノをつくろうと勇気づけられています。

垣岡:新しいプロダクトが画期的であればあるほど、提供方法やマネタイズの方法も従来とは異なるでしょう。

皆さんはグロービス経営大学院を卒業されましたが、新しいマーケットのインパクトを享受するまでに立ちはだかる壁を突破するには、その学びが力になるはずです。

顧客の期待に応えるモノづくりと価値提供を実現していくためには、どんな学びが役立つと思いますか。

佐野:どんな学びがヒントになるかはわからないので、とにかく学びを継続することが重要だと思っています。私は4年前にグロービスを卒業しましたが、戦略を担うようになって当時の学びが生きていますし、改めて見直したりもしています。

それでもまだまだ新しいインプットが必要だと実感しますし、これまでの蓄積を生かしながらどんどん新しいことを吸収していきたいと思っています。

ビジネスの「型」を知ったことで、直面していた課題に新しい選択肢が

合田:私がグロービスで学んで最もよかったと感じることは、ビジネスの「型」を知ったことです。

新規事業やチームマネジメントには失敗しやすい局面や難所のパターンがあって、過去に他社がどうやって乗り越えてきたかを知ることで、煮詰まっていた自分のビジネスに新しい選択肢やヒントをもらえました。

もし自分の経験だけでマネジャーをしていたら、視野が狭くなってしまい、乗り越えられなかったのではないかと思うこともあります。

とはいえ、すべてがセオリー通りに動くわけではありません。学んだ「型」を活用しながら自らの経験でそれを深掘りし、原理原則と目の前にある問題をどうミックスして、自分なりの戦略を実行していくかが課題だと思っています。

グロービスには、大企業で新規事業を手がける人もいれば起業家やスタートアップで働く人もいて、彼らと話していると自分ひとりの知識や経験がどれだけ狭いかを実感できます。

人脈や視野を広げることは大学院に行かなくてもできますが、グロービスでは損得勘定なしでそれができるところがよかったと思います。

川口:周りの人を巻き込んでビジネスを成功させていくには、相手を理解する力が必要です。その相手というのは、お客様であり、一緒に働く仲間やパートナー企業でもあります。

以前の自分には相手を理解する力が不足しているから仕事がうまくいかなかったのだと、グロービスで学んで痛感させられました。

グロービスでは、ヒト・モノ・カネというフレームワークにとどまらず、それを使って人を巻き込み、実際にどうやってやりたいことを達成していくかというリアルな方法論を学びました。でも、「わかる」と「できる」は違います。

だからこそ学んだことを、実務で実践することが大切だと感じています。私はこの春から執行役員として、どの部門にも属さずに社長直轄で、新しい価値の創出を促していく新しい役割を拝命しました。

さまざまな部門の強みと課題を理解し、自分はもちろん仲間にも「わかる」の先にある「できる」を実現できるよう、チームの力を最大化していきたいと思っています。

(制作:NewsPicksBrandDesign、執筆:森田悦子、撮影:合田慎二、デザイン:小鈴キリカ、編集:奈良岡崇子)