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投稿日:2023年04月05日

投稿日:2023年04月05日

自分で“幸せ”を模索する時代―コミュニティの力とは Vol.1

研究プロジェクトメンバー

植松 絵里
大内 鉄平
古仲 研一
僧野 大介
多田 歩美

教員

田久保 善彦
グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長

VUCA、人生100年時代といわれる今、「自分の人生はこのままでいいのだろうか」というモヤモヤを抱え、「自分にとっての”幸せ”とは何か」という問いを抱える人が増えているのではないでしょうか。

こうした状況の中で、「コミュニティに参加することで人生が変わった/自分なりの幸せを見つけた」と感じている人がブログやSNSなどをつかって、コミュニティへの参加を促す発信を行っていることを見かけることも多くなりました。

本連載ではこうした人生を”幸せ”にするコミュニティの力とは何なのか、自分の人生を幸せにするためにコミュニティをどのように活用したらよいかについて、全4回にわたってお伝えしていきます。

本連載はグロービス経営大学院に在籍した5名(古仲、多田、僧野、植松、大内)が、田久保善彦講師の指導の下、研究した成果をまとめたものです。

「新たなコミュニティ」を通じて“自分なりの幸せ”を模索する時代

まずは、現在において、コミュニティと幸せの関係性は、どのようになっているのか、時代の変遷と共に見ていきます。

戦後は、コミュニティといえば、「会社」と「家族」の2つが代表的なものでした。そこで、経済成長をする中で「幸せ」を追い求めてきた人が多かった時代です。特にビジネスパーソンは、終身雇用で、「会社」への帰属意識が強く、逆にいえば「会社」と「家族」以外のつながりは希薄になりやすい状況でした。

一方、経済が成熟してきた現代は、生活に必要なモノは十分に満たされており、これまでのような成長や拡大も限界を迎えたことにより、幸せを感じにくくなってきました。同時に、雇用形態や就業形態の多様化により、急速な経済成長を果たすうえで中心的な役割を果たしてきた「会社」というコミュニティへの求心力も低下しつつあります。

現在の人々は「会社」や「家族」とは異なる「新たなコミュニティ」との関わりを通じて、自分なりの「幸せ」を模索しなければならない時代に入ったと言えるのではないかと思います。

図1:時代に応じて変化してきたコミュニティと幸せの関係性

広井良典著「コミュニティを問いなおす」をベースに当研究グループにて作成

そもそも「コミュニティ」および「幸せ」とは?

コミュニティや幸せという言葉は日常生活で耳にする機会が多いものの、その概念は曖昧であり、様々な使い方がされています。本連載では、この「コミュニティ」と「幸せ」を以下のように定義して使用していきます。

・コミュニティの定義:3人以上でn:nの関係性があり、継続性、双方向性のある人の集まり

コミュニティには家族や会社といったものも含まれますが、本連載では会社や家族以外のコミュニティ、たとえば同じ趣味を持つ人達の集まり、何らかの学びを目的とした集まりといったコミュニティに焦点を当てていきます。

・幸せの定義:幸せには「地位財に基づく幸せ」と「非地位財に基づく幸せ」の2種類があり、後者は長続きする

地位財(positional goods) とは社会的地位、お金、物的財のように周囲との比較により満足を得るものです。一方で、非地位財は(non-positional goods)は健康、愛、自由といった他人との比較とは関係なく、満足が得られるものです。 「地位財」「非地位財」を幸福と結び付けた心理学者のダニエル・ネトル*は、地位財による幸福は長続きしないが、非地位財による幸福は長続きするとも論じており、この2つの幸せは持続性という観点でも大きな違いがあります。

図2:幸せの種類と持続性

出典:前野隆司著 「幸せのメカニズム」をベースに当研究チームにて作成
  https://president.jp/articles/amp/22327?page=3
  *地位財、非地位財という言葉は経済学者のロバート・フランクがつくった言葉であり、幸せを感じる上での視点という意味では心理学者のダニエル・ネトルが、著書 Happiness The Science Behind Your Smile(邦訳『目からウロコの幸福学』)にて提示したものです。

幸せを評価する指標としての4つの因子

様々な研究者が幸せを評価する指標を提唱しています。その中で、私たちは日本人を対象に幸せを研究している前野隆司氏が提唱する「幸せの4因子」を活用することとしました。

前野氏の研究の特徴は、自分が幸せだと感じるのに大きく寄与している”心的要因のみ”に着目しているという点が挙げられます。前野氏は自身の著書である「幸せのメカニズム 実践・幸福学入門」で心的要因のみに着目した理由として以下の2つを示しています。
①心的要因は非地位財であることが多いのに対して、外的要因は地位財である場合が多い。
②心的要因以外の幸福の要因は、外的ないしは身体的要因であり、自分でコントロールできないことが多々ある。

前野氏はこの考えのもと、自身の研究の中でアンケートを実施し、自分が幸せだと感じるのに大きく寄与している心的要因が大きい4点、「やってみよう」「ありがとう」「なんとかなる」「ありのまま」の因子に分類できることを突き止めています。

図3:前野氏による幸せの4因子

図3:前野氏による幸せの4因子参考画像出典 「「幸福学」から目指すべき働き方を紐解く」から抜粋
  https://www.adeccogroup.jp/power-of-work/135

前野氏はこの4つの因子を計測するための「幸福度テスト」を提案しています。私たちは、この幸福度テストを活用して、コミュニティが人生を幸せにするためにどのような影響を与えているのかを探りました。次回は、そのアンケート結果やインタビューを通じて「コミュニティに参加することで人は本当に幸せになるのか」、「コミュニティに参加して幸せになっている人はコミュニティとどのような関わりをしているのか」について詳しく述べていきます。

vol.2につづく(4月12日公開予定)

研究プロジェクトメンバー

植松 絵里

大内 鉄平

古仲 研一

僧野 大介

多田 歩美

教員

田久保 善彦

グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長