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投稿日:2022年10月17日
投稿日:2022年10月17日
思想としてのWeb3―Web3で変わる世界 Vol.1
- 森川 夢佑斗
- 株式会社Ginco 代表取締役・起業家
「Web3」が引き起こすWeb世界の地殻変動は、GAFAMという巨大テックを揺さぶるのか、真に非中央集権的なユートピアを実現するのか――ブロックチェーン黎明期より、同技術の本質的な価値と可能性に賭け、社会システムの構造展開に挑戦してきた株式会社Ginco代表取締役の森川夢佑斗氏に「Web3とは何か」を解説していただく。(全5回、第1回)
※本記事は、2022年6月9日にグロービスのテクノベート勉強会で実施した森川氏の講演「Web3で変わる世界」をもとに再編集しています。また、本稿は投資や購買の勧誘を目的とするものではありません。
世界的なトレンドになりつつあるWeb3
Web3はいま、世界的なトレンドになっています。この領域では数多くのスタートアップベンチャーが台頭し、ユニコーンも誕生するとともに、資金調達も過熱しています。日本でもWeb3を捉えた政策を推進する動きがみられ、大きな一歩だと思っています。
一方で懐疑的な意見もあります。たとえば、Twitter創業者のジャック・ドーシーは、「Web3とは誰かが所有するものではなく、インターネットに公平・平等を取り戻すことだったのではないか?」と疑問を呈しています。Web3は中央集権的なGAFAMへの反発から生まれた概念だったにも関わらず、次の既得権益の獲得競争に成り下がっているのではないかという批判です。
ではWeb3とは何か。私も含めて、皆それぞれが好き勝手に言っている感がありますが、これは恐らく多様な立場の人が多様な観点でWeb3を捉えているからだと思います。どういうことかというと、人々の願いや思想の観点から「これがWeb3だ!」と叫ぶ人もいれば、テクノロジーの観点からWeb3を捉える人もいる。また、新たなビジネスチャンスという観点で捉える人もいる。
これは、ひと昔前のAIや最近のメタバースという概念でもみられましたが、Web3も様々な観点や思惑が重なったところにあり、やがてこれらが合わさって大きなイノベーションが生まれていくのだと思います(図表1-2)。
インターネットの歴史とWeb3までの流れ
インターネットの歴史を振り返ると、1965年にその前身となる技術が誕生し、1991年にWorld Wide Webがローンチ、色々と端折りますが、その後Googleが誕生します。2014年頃からブロックチェーンという言葉が出始め、2021年から22年にかけて「Web3」という言葉が頻繁に耳に入ってくるようになります。
この流れをWeb1.0⇒Web2.0⇒Web3.0⇒Web3と捉えてみます。
Web1.0は、静的な一方向のコンテンツ掲載により、ユーザーは単純に通信して受動的にコンテンツを読むだけというのが基本的な状態でした。通信も電話回線が利用されていました。
Web2.0になると、動的な双方向のコンテンツ掲載が可能になります。いわゆるドットコムバブル以降のインターネットの進化を示す表現として使われており、Webサービスは、ユーザーがコンテンツを作成、投稿するなど、積極的にインターネットに参加できる場になりました。
私たちの世代が一番慣れ親しんでいるもので、ユーザーが受動的にコンテンツを享受するだけのWeb1.0とは異なり、誰でもコンテンツの作り手になれるという点が大きな特徴です。様々なWebサービスが生まれ、そのサービスを支えるAWSなどのクラウドサービスや開発を支援するツール、サービスを運営する会社も評価を得ていくことになります。
そして、Web3.0が登場します。これはインターネットの生みの親であるティム・バーナーズ・リー氏によって2006年に提唱された「セマンティック・ウェブ」が原型であるとされています。Webを単なるコンテンツの置き場としてではなく、AIが読み取りやすいXMLの形にして巨大な共有されたデータベースにしようという考え方です。
Web3.0の要素としては、人工知能、エッジコンピューティング、分散データベースが挙げられています。
Web3といま現在、言われているものは、Ethereum(ブロックチェーンプロトコルの一種)の共同創業者であるギャビン・ウッド氏が提唱する、管理者を必要としないトランザクション(取引・売買)の実行環境という要素が大きな特徴です。
2014年に提唱されたこの定義には、①Web1.0に該当する静的なコンテンツ、②Web2.0に該当する動的なメッセージ、③管理者を必要としないトランザクション、④統合ユーザーインターフェースが挙げられています。
プラットフォーマーの台頭によるWeb空間の「歪み」
2006年のWeb3.0からウッド氏がWeb3を提唱しはじめた2014年の間は、GAFAMの時価総額が著しく上昇しWebの「中央集権化」が進んだ時期と重なります。
それは、ユーザーインターフェースとしてのブラウザやスマートフォンのアプリ環境、クラウドにまで及び、BtoCでもBtoBでも、Web空間における活動で必要となるものの大半をプラットフォーマーが占有するようになりました。彼らは同時に、ライバル企業を買収し自分たちの寡占状態を進めていきます。一般企業からすると、ビジネスをしたり事業を成長させたりしていくうえでは、プラットフォーマーを利用せざるを得ない状況になりました。
結果として、スタートアップが資金調達をしても、その資金はユーザーグロースのためGoogleやFacebook上の広告活動にどんどん流れてしまう、あるいはアプリケーションによる課金の30%がプラットフォーマーに流れてしまうという例もあり、一般企業は成長すれば成長するほど、多額のマージンを支払わされるような状況になっていきます。
一方、Web2.0以降は、個人ユーザーの投稿がサービスのグロースに大きく影響するようになりました。つまり、ユーザーもサービスを成長させるための大きなドライバーとして位置づけられていくのです。しかし、ユーザーがいくら頑張っても、承認欲求を満たすだけの「いいね」をもらえるだけで、それ以上の対価はありません。
また、発信の内容によってはアカウントが凍結されるなど運営優位の側面があることから、様々な不満やユーザーの個人情報がマネタイズの手段に使われるといったプライバシー侵害への懸念も表面化します。このように、Web2.0が発展するにつれて一般企業、プラットフォーマー、ユーザーという三者関係に潜在的な歪みが発生していくのです。
このような歪みへの不平不満に加えて、コロナ禍を背景としたデジタルシフトの進行、そしてデジタルシフトと相性の良いデジタル通貨、クリプトマーケットの高騰にともない、ある種のユートピアとしてWeb3が掲げられていったのではないかと思います。
コロナ後にバーチャルへのシフトが加速
私たちの経済はフィジカルからバーチャルへと拡張を続けています。コロナ前に比べるとバーチャルな世界における繋がりや、価値のやり取りは格段に増えているのではないでしょうか。従来の法定通貨による経済に対して、クリプトカレンシーやブロックチェーン上でやり取りされる価値の総称であるデジタル通貨による経済も急激に広がっています。
図表1-7の法定通貨とデジタル通貨が合わさった部分が2017年ビットコインバブルに代表されるクリプトマーケットの盛り上がりです。ただし、これは為替取引なので、日常的な活動はあまり絡んでいませんでした。そのため、コロナ前まではWeb3という概念は、「面」にまでは発展しなかったというのが私の印象です。
その後、コロナ禍を起点として、フィジカルからバーチャルへと行動を伴った変化が加速します。VRのヘッドマウントディスプレイを着けてゲームをするだけでなく、バーチャルオフィスで仕事をしたりバーチャル空間でライブやイベント、友人たちと会話をする、そういった行動変化に発展していきました。
日本ではメタバースプラットフォーマーとして、clusterやHIKKYなど、もしくは「どうぶつの森」「フォートナイト」といったソーシャルゲームが盛り上がりました。
そこにブロックチェーン、クリプト、トークン、NFTなどが合わさっていく、バーチャルかつデジタル通貨による経済こそがWeb3なのではないか思います。たとえば、STEPN「Move to earn」は、「動いて稼ぐ」というコンセプトをもとにした仕組みのゲームで、歩くというフィジカルな行動によってデジタル通貨が得られます。フィジカルな行動にバーチャルが絡み、デジタル通貨によって経済的な要素が加わった
Web3サービスではないかと思っています。
森川 夢佑斗
株式会社Ginco 代表取締役・起業家