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投稿日:2022年12月26日

投稿日:2022年12月26日

[DeNA・カゴメの事例から]企業と個人両者の思惑―副業を通じてWin-Winになるには?Vol.1

研究プロジェクトメンバー
押田 悠・榎本 睦郎 ・澤村 亮・ 矢形 宏紀・山本 まどか
竹内 秀太郎
グロービス経営大学院ファカルティ本部主席研究員

副業を国が後押ししています。ですが、副業を認める企業と、副業を始める個人では思惑が異なるようです。本連載では、副業の現状を明らかにしたうえで、従業員の副業を、従業員個人と企業、双方の成長につなげている成功事例をもとに、双方がwin-winになるためにはどうしたらいいのかを探っていきます。(全3回、第1回)

※本稿は、グロービス経営大学院教員の竹内秀太郎の指導のもと、社会人大学院生5名(押田 悠・榎本 睦郎 ・澤村 亮・ 矢形 宏紀・山本 まどか)が行った研究結果に基づいています。

副業とは

最近、Webニュースなどで「副業」というワードを目にしない日の方が珍しいのではないでしょうか。「副業」とは一体どのような仕事や働き方を指すのでしょうか。副業は「主な仕事以外の仕事」と定義されています(平成14年「就業構造基本調査」総務省統計局による)。大きく捉えると、ロート製薬などで盛んな社内副業や、外資系企業でよく推進されているボランティア活動も副業ということになります。

それだと話題がぼやけてしまうので、本稿では副業の定義を「当事者の属する企業以外の場をフィールドとし、かつ金銭的対価を得られる活動」とします。例えば、終業後にコンビニでアルバイトすることは副業ですが、自身の知見で友人のスタートアップ企業を手伝っても、金銭的対価が得られなければ副業とは言わないことにします。

副業が流行っている背景~国の後押しが大きい

副業が流行っている理由を分析すると、景気の停滞やコロナ禍等が労働環境に変化をもたらす中、法令改正や働き方改革、テクノロジーの進化で副業のハードルは大きく下がったこと、それにより、雇用者・被雇用者双方が副業の活用に目を向け始めている、と言えるのではないでしょうか。要は個人(被雇用者)視点では、「副業したいのに環境のせいでできない」ということは言えなくなってきたわけです。副業に関心がある人なら、できる環境は整ってきました。

図1 PEST分析

Politics政府が働き方改革の一環として副業を積極的に推進したことにより、副業を解禁する企業が増加中である。そのため、以前に比べ副業にトライしやすい環境に変化しつつある。
Economy長期間にわたるデフレ経済を背景に、雇用者・被雇用者の双方が、リスクヘッジ(守り)や更なる成長の切り札(攻め)としての役割を副業に求めるケースが増加している。
Society少子高齢化による労働力減少、長寿化(人生100年計画)、コロナ禍による労働環境の変化、価値観の多様化していく中で副業の存在感が拡大している。
Technologyテクノロジーの活用により個人が副業をしやすい環境が時間・場所・企業とのマッチングの面で整い、それを推進するプレーヤーの参入により副業が活性化している。

副業を認める会社の思惑~エンゲージメント向上とイノベーションを期待?

実際に副業を解禁したカゴメとディー・エヌ・エーの例を、2021年10月に公表された経団連レポート「副業・兼業の促進」をベースに、副業を解禁した経緯や目的を見ていきます。

このレポートのサブタイトルは「働き方改革フェーズⅡとエンゲージメント向上を目指して」です。

ちなみに、働き方改革フェーズⅠは「労働時間削減や年休取得促進などによってインプット(労働投入)を削減する」フェーズとされています。労働生産性を、アウトプット(付加価値)をインプット(労働投入)で割ったものとすると、労働投入は分母の位置になります。

フェーズⅡは分子の部分(アウトプット=付加価値)を表しており、飛躍的な労働生産性向上を目指してエンゲージメント向上によりアウトプットの最大化(質の向上・多様化)に注力するフェーズとなります。ここで言うエンゲージメントとは「働き手にとって組織目標の達成と自らの成長の方向性が一致し、『働きがい』や『働きやすさ』を感じる職場環境の中で、組織や仕事に主体的に貢献する意欲や姿勢を示す概念」と定義しています。

従業員のエンゲージメントが向上することによりアウトプットが最大化し、最終的には企業のイノベーションにつながっていく・・・こういった良いスパイラルを加速していくためのひとつの手段として、企業は副業・兼業を位置付けています。

カゴメ株式会社~労働時間短縮の効果は大きい

・企業の狙い

カゴメは会社視点の「働き方改革」と働き手個人の視点である「暮らし方改革」の両輪によりすべての人がイキイキと働く「生き方改革」を実現するべく、さまざまな人事施策を打ち出してきました。その中のひとつに「副業制度」があります。一箇所に限定されないキャリア構築の機会提供を目的に2019年に導入し、カゴメ内での総労働時間を削減して可処分時間を副業にあてられるようにしています。それにより社員がカゴメの外で経験を積んだことで得た知識を本業に還元することを期待しています。

・制度

上長と人事部長の許可があれば副業をすることができ、競業避止義務などあるものの副業の内容に大きな制限はありません。ですが、本業の時間外労働時間と副業での労働時間が月45時間以内にすることを要件としています。また、副業従事者は健康確保の観点から優先的に健康管理士の指導を受けることが可能です。

・効果

制度導入時から継続的に申請があり、副業従事者は自律的なキャリア設計ができているだけでなく労働時間を削減する意識が非常に高いです。担当者は本業と副業に一定の労働時間の要件を設けていることが要因であると分析しています。

株式会社ディー・エヌ・エー~本業と副業の相乗効果を期待

・企業の狙い

ディー・エヌ・エーは「多様な働き方を経験したい」といった社員のニーズに応え、エンゲージメントを高めていきたいといった強い思いから、社員が業務委託やフリーランスとして他社で働ける副業を2017年10月に導入しました。社内ではすぐに実現できない仕事に従事することで社員の自己実現や自己研鑽をサポートするだけでなく、幅広い経験が結果的に本業にも寄与することを期待しています。

・制度

他社で雇用される二重雇用は禁止していますが、副業解禁というと、入社複数年目以降の正社員のみが対象といった企業が多いなかで、同社は新入社員や時短勤務者も対象としています。始める際は上長とHR部門の副業事務局の承認が必要ですが、ガイドラインが詳細に規定されているため承認不可となるパターンは少ないです。ガイドラインのひとつに前述のカゴメ同様「健康面に問題はないか」といった項目があります。

副業先として主なものは、スタートアップやベンチャー支援、執筆活動、起業、企業のコンサルティングなどが挙げられます。例えばエンジニア職種の社員が他社のシステム開発やその実装、業務アドバイスをおこなうといったことです。3ヶ月ごとに状況報告することを義務付けており、本業に支障はないか、健康面に問題はないか、といった内容以外に申請時に確認した副業の目的(スキルアップなど)が達成されているかを確認しています。

・効果

現状、正社員の2割程度が副業をおこなっており、HR部門はリテンションにつながっているだけでなく、副業従事者の視野が広がったり本業に還元できたりしているといった導入効果を実感しているとのことです。

副業を始める個人の思惑~実態として一番多いのは小遣い稼ぎ?

では、社員側はどういう思惑で副業を始めているのでしょうか。2021年8月に公開されたパーソル総合研究所シンクタンク本部による「第二回 副業の実態・意識に関する定量調査 調査結果」をもとに考察したいと思います。

従業員側の調査によると、現在副業をおこなっている正社員は9.3%で、現在はしていないが過去にしたことがある人を含めると18.8%と、約2割の方が副業を経験しています。副業従事者の本業を多い順に職種別に見てみると、コンサルタント(29.8%)、Webクリエイティブ関連(20.1%)、人事・教育(19.9%)、と副業で自身の本業における経験や知見を活かせそうな職種が上位を占めています。また、現状副業をおこなっている方の傾向値として、若年層および高所得者であるということが言えます。

出典:『第二回 副業の実態・意識に関する定量調査 調査結果』パーソル総合研究所 シンクタンク本部(2021.8)をもとに編集部作成

出典:『第二回 副業の実態・意識に関する定量調査 調査結果』パーソル総合研究所 シンクタンク本部(2021.8)をもとに編集部作成

しかし「副業意向があるか」といった観点で見てみると、状況が変わってきます。非副業従事者で副業の意向がある割合は40.2%で、先ほどとは逆に低所得者が多い傾向にあります。また、コロナ禍で収入が減った方の52%が副業意向がある、と回答しており、その割合は収入が増えた(うちの38.7%が副業意向があると回答)、および変わらない(同36%)方々よりも多いです。コロナ禍で減った収入を補填したいという意思があるのだと考えられます。

副業動機を詳しく見ていくと、1位は「副収入(趣味に充てる資金)を得たいから」で、あてはまると答えた人が70.4%、2位は「現在の仕事での将来的な収入に不安があるから(61.2%)」、3位は「生活するには本業の収入だけでは不十分だから(59.8%)」でした。つまり上位3位の動機がすべて「収入補填」となっているのです。

前述の企業側のレポートでは副業制度導入の目的として従業員の自己実現や研鑽をサポートすることを挙げ、その結果企業へのエンゲージメントを高めたり外で得た経験や知見を本業に還元したりすることを期待していましたが、企業側の思いと個人の思惑は必ずしも合致していないようです。

次回は、副業制度を活かして従業員の自己成長を実現させた豊商事の事例を取り上げ、その境地に達するまでの紆余曲折についてインタビューをもとに紹介します。

#Vol.2に続く(12/27公開)

研究プロジェクトメンバー

押田 悠・榎本 睦郎 ・澤村 亮・ 矢形 宏紀・山本 まどか

竹内 秀太郎

グロービス経営大学院ファカルティ本部主席研究員