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投稿日:2022年12月13日
投稿日:2022年12月13日
ターゲットと商品を絞らない無印良品。新業態「無印良品500」の戦略は?
- 山本 知子
- グロービス・ファカルティ本部研究員
2022年9月、無印良品は価格を訴求した新業態、「無印良品500」を出店しました。東京・三鷹の駅ビル内にオープンした1号店は、生活必需品である洗剤各種をはじめ、掃除用品、キッチン用品、スキンケア用品、シャンプーやコンディショナー、文房具、食品、菓子類などを扱います。そしてその商品のほとんどが、500円以下です。
無印良品とは
無印良品は、ターゲットと商品を絞らない戦略をとっていることで知られています。
マーケティングでは限りある経営資源を有効に使うという観点から、ターゲットを選定し、製品開発や販売、プロモーションの最大化を図ると考えられているため、無印良品の戦略は、セオリーに囚われない独自の戦略と言えるでしょう。
独自の戦略を貫き、ブランドとしても高く評価されており、日本最大級のブランドランキング、日経BPコンサルティング主催ブランド価値評価プロジェクト「ブランド・ジャパン2020 一般生活者編」では第3位に選ばれました。
ご存知の方も多いと思いますが、1980年、無印良品の母体であった西友の「商品科学研究所」は、味は変わらないが割れている、形が不揃いという理由で正規の流通に乗らない『われシイタケ』をお手頃な価格で販売しました。以降、「わけあって、安い。」をキャッチコピーに、生産工程で捨てられていたスパゲッティの切れ端や、鮭の頭と尻尾だけを詰めた缶詰、歯ブラシ、ティッシュなど、食料品や日用品を販売したのが無印良品の原点です。現在は食料品と日用品に加え、衣料品、家具、家電、さらには「無印の家」を含む約7,000品目を扱っています。
ディスプレイを見て真っ先に思ったのは「こんなに多くのリーズナブルな商品があったのか」ということです。さらに店内を覗くと乾電池やトイレットペーパーの1個売り、分度器、ご祝儀袋と幅広い商品群が並んでいました。シンプルでおしゃれなブランドというイメージが先行している無印良品ですが、今回、価格別に切り分けられたことで存在を知った商品も多々ありました。
実際、無印良品も、日用品の訴求が弱いことを課題として認識していた※ようです。
店舗戦略と製品戦略の整合
ではなぜ、日用品の訴求が弱かったのでしょうか。そのひとつの要因は、無印良品の店舗戦略にあると推測します。
同社はこれまで大都市の商業施設や繁華街を主戦場にし、各店舗では食料品や日用品を数多く扱ってきました。食料品や日用品であれば、週に何度か購入機会があるはずですが、既存の立地では顧客が店舗を訪れるのは、月1,2回程度に留まります。つまり、店舗戦略と製品戦略が整合していなかったと考えられます。
無印良品500による効果
無印良品500は今後、駅構内や駅近辺、街中など日常的に来店しやすい場所に出店していくと発表されています。すると例えば、月に1、2度、都心の商業ビルにある無印良品の店舗で衣料品やインテリアといった特別な買い物をしていた顧客が、平日、通勤通学の途中に立ち寄り食品や日用品を買い物する機会が生まれると予想できます。さらに、今まで無印良品を利用したことのない新たな顧客が、生活圏内にある無印良品500に食品や日用品を買う目的で来店する可能性も高まります。つまり、既存顧客一人当たりの購入金額と買い物頻度の増加が見込め、新たな顧客獲得も見込めるということです。
整理してみると、ターゲットと商品を絞り込んだことで、誰に・何を・幾らで・どのように伝えるかが見えてきました。
ターゲットと各施策の整合がとれ、経営資源を効率的に投下できれば、筆者のような「こんなに多くのリーズナブルな商品があったのか」と感じる顧客の増加が見込めます。無印良品の課題であった日用品の訴求の弱さについても改善されるのではないでしょうか。
加えて、扱っている商品が全て既存商品というのもポイントです。一般的に新しいターゲットを狙う際には、新商品開発を行うケースなどが多いものですが、無印良品500は既存のラインナップから一部の商品を切り出して並べているだけで新たな顧客が獲得できます。この点も経営資源を有効活用する優れた製品戦略だといえるでしょう。
無印良品500で扱っているのは食料品や日用品ですから、『われシイタケ』を販売した時代の無印良品に原点回帰しただけなのかもしれません。
今後、2023年2月末までに、都心部を中心に30店舗の出店を計画しているようです。今後の無印良品500の動向に注目したいと思います。
<参考>
2022年8月期 決算説明会プレゼンテーション|良品計画
山本 知子
グロービス・ファカルティ本部研究員