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投稿日:2022年11月23日

投稿日:2022年11月23日

ベンチャー関係者、起業志望者ならば読むべき1冊 ――『ベンチャーキャピタルの実務』

嶋田 毅
グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

本書は、1996年の設立以来、国内のハンズオン型ベンチャーキャピタルとしてリーダー的地位にあるグロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)のスタッフ陣が、その活動・実務の詳細についてまとめたものです。「はじめに」でも書かれているように、ベンチャーキャピタル(以下VC)にもいくつかのタイプがあるため、これが唯一のVC実務の在り方というわけではありませんが、リーダー的VCがどのように考え、日々活動しているかを知ることは、多くの関係者の参考になるでしょう。

多くの人にとっては謎に包まれたベンチャーキャピタルの仕事

さて、起業というものが身近になるにつれ、VCという言葉を見聞きする機会が増えたという方は多いでしょう。ただ、その仕事がどのようなものかを説明できる人は少ないはずです。

これが銀行の仕事であれば、バックヤードの仕事までは分からないまでも、いちユーザーとして預金や送金をするために銀行に訪れたことがない人はほとんどいないでしょうし、住宅ローンを借りる時に話をしたという人も多いでしょう。また、友人・知人に銀行員の方がいる人も多いでしょうし、小説やドラマなどでもしばしば銀行が舞台となるので比較的イメージしやすいはずです。

それに対して、ほとんどの人にとってVCやそこで勤務するキャピタリストの仕事は謎に包まれているでしょう。VCというものが、ベンチャー企業に投資をし、IPOや売却といったエグジットによってリターンを得ることくらいは知っているかもしれません。

しかし彼らがどのように投資先を見つけているのか、あるいは実際に投資するか否かをどう決めているのか、企業価値の算定をどのように行っているのか、投資先のベンチャー企業に具体的にどのような支援を行っているか、エグジットに際してベンチャー企業とどのような議論をしているのか、といったことに関する具体的なイメージはなかなか湧かないでしょう。ましてやファンドの運営についてのイメージが湧く人はほとんどいないはずです。こうしたことを丁寧に説明しているのが本書です。

6つの主要な活動、そしてベンチャーキャピタリスト12訓

さて、VCのバリューチェーンは下図のように示すことができます。

図からもわかる通り、VCには大きく6つの主要な活動があります。それぞれにさらに詳細にブレークダウンされた業務があり、ノウハウの蓄積がなされます。

本書ではまず、プロローグの「ベンチャーキャピタルとは」に続き、1つの主要活動ごとに1章(Chapter)、計6章を割いてそのポイントを解説しています。

適宜入るコラムも面白いです。「GCPのキャピタリストが<面白い>と感じる起業家とは」あるいは「なぜ業績よりも人を重視して投資すべきなのか」といったタイトルだけでも、読みたいと感じる人はいるのではないでしょうか。

また、過去にGCPが投資したベンチャー起業家(メルカリ会長の小泉文明氏など)へのインタビューや、箸休め的な「VCの1日」といったミニコラムなども、VCの活動を知る上で参考になります。

7章と8章ではさらに、VC業界に訪れている「新しい潮流」と、「ベンチャーキャピタリスト12訓」を紹介しています。特に興味深いのは8章の「ベンチャーキャピタリスト12訓」でしょう。これはオフサイトの合宿でGCPのメンバーが議論して作り上げた行動規範です。リーマンショック直後の2009年のVC冬の時代に策定されました。

どれも興味深いのですが、その1つ目を紹介しましょう。これはソーシング、すなわち投資先候補企業の発掘に関する行動規範です。

(一訓)優秀な人材のいる場所、時間、きっかけを探せ。そこに何度でも通って、一人一人と、仕事ではなく、しっかりと友人になれ。やがて自分自身が、人材の集まる場所となる。

これを読むだけでも、キャピタリストという仕事が単なる事務的な仕事ではなく、熱い想いを持った人材が、磨かれたスキルや人脈を駆使しながら挑む仕事であることが伝わるのではないでしょうか。

起業、ベンチャーに関わるあらゆる人へ

日本の経済の伸び悩みは叫ばれて久しいものがあります。その停滞を打ち破る1つの処方箋が、多くの起業家の登場であることは疑いようがありません。戦後日本が奇跡の復興を成し遂げられた大きな理由も、ソニーやホンダといった当時のベンチャーの台頭にあります。課題先進国である日本が抱える少子高齢化やSDGs対応といった社会課題の解決にも、起業家は大きな役割を果たすはずです。

本書は、起業を志す人々、さらには何らかの形でベンチャーを支援したい人にとって、VCが何を考え、具体的にどのような行動をしているのかを知る上で、格好の1冊と言えるでしょう。ますます多くの優秀な人材が起業やその支援に携わられる一助となるのではないでしょうか。

ベンチャーキャピタルの実務
著者:グロービス・キャピタル・パートナーズ 編著:福島 智史 発行日:2022/11/25 価格:3,740円 発行元:東洋経済新報社

嶋田 毅

グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長