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投稿日:2022年10月12日

投稿日:2022年10月12日

テレワーク制度を継続すべきか否か?――GoogleやMetaなど、それぞれの立場の違いを決めるもの

太田 昂志
グロービス・デジタル・プラットフォーム マネージャー

新型コロナの感染収束に伴い、今後のテレワークの在り方を巡って各社の方針が分かれている。NTTグループは主要7社の従業員3万人に、原則テレワークとする新制度を導入することを決めた。一方で、テスラCEO:イーロン・マスク氏が社員に対して実質的な「テレワーク禁止令」を出したとの報道は記憶に新しい。
テレワーク制度を継続すべきか否か――今回はそれぞれの立場の論理構造を整理し、アフターコロナ時代におけるテレワークの在り方を考えていきたい。

各社の方針が分かれる「テレワーク制度」の現状

最初に、国内外の企業が「テレワーク制度」に対してどんな方針を取っているか確認していきたい。

国内上場企業の時価総額トップ5であるトヨタ自動車、NTTグループ、ソニーグループ、キーエンス、KDDI、そして米国経済を牽引するGAFA(Google、Apple、Meta(旧:Facebook)、Amazon)について、その公式発表や報道を整理してみた。

各社とも業界・規模が異なるため一概に比較はできないが、歴史ある国内大手はテレワークを継続する一方、先に挙げたテスラ含め先進的な米国テック企業はテレワークからの完全復帰を目指す方針を明確に示す企業も多く、対照的で面白い。なぜ各社には違いが出るのだろうか。テレワーク制度の継続可否について、それぞれの立場の論理構造を紐解くと、何か示唆があるかもしれない。

テレワークを継続すべきか否か――両者の論理構造を紐解く

テレワークを継続すべき派の論理

「テレワーク制度を継続すべき」の立場から見てみよう。各社の公表情報を見ると、イシューに対する枠組み※1として「人材獲得に寄与するか?」「人材定着に寄与するか?」が論点として設定されていることが多い。仮にこの2つを論点としたとき、その各論点に対する主張は以下の通りだ(図1参照)。

 ※1 GLOBIS学び放題「イシューと枠組み ~論理思考に必須の基本概念~

図1 「テレワークを継続すべき」の立場でのピラミッドストラクチャー

テレワークを継続しない派の論理

一方で、「テレワーク制度を継続すべきではない」の立場も見てみよう。枠組みを見ると、「チームワークへの影響は?」「生産性への影響は?」が論点設定されているようだ。各論点に対する主張は以下の通りだ(図2参照)。

図2 「テレワークを継続すべきではない」の立場でのピラミッドストラクチャー

あとは主張に対して十分な根拠を揃えるだけだ。さて、仮にそれぞれが説得力のある論理となっており、このテーマについて会議などで議論すればどうなるだろうか。おそらく、その議論は平行線を辿るのは目に見えている。

テレワーク制度を継続すべきか否か。このイシューにどう答えを出すべきか。何か見落としはないのだろうか。

テレワーク制度を継続すべきか否か――両者の立場の「隠れた前提」は?

それぞれの論理を今一度見直してみたい。両者の立場が成立するには、そもそもどんな前提が必要だろうか。

改めて「テレワーク制度を継続すべき」の立場から見てみよう。この論理の前提には、自社に必要な人材はテレワーク制度を強く求めており、その要件は他の施策では補えないという前提が存在していそうだ。これは本当なのだろうか(図3参照)

たしかにコロナ禍を経て、多くのビジネスパーソンの中で「働き方の自由度」の優先順位が上がった。しかし、会社選びのポイントは、それだけではないだろう。「経験やスキルが活かせる」「やりがいのある仕事に携われる」「会社に将来性がある」など、他にも会社選びのポイントは数多くあるだろう。この立場の論理を成立させるには、そうしたポイントに繋がる施策よりも「テレワーク制度」の方が人材獲得・定着に寄与することも示さなければならない。

図3 「テレワークを継続すべき」の立場における隠れた前提

他方で、「テレワーク制度を継続すべきではない」という立場の前提も見てみよう。この論理も、オフィスに出社さえすればコミュニケーションは活性化し、生産性が上がるということを前提としている(図4参照)。これも本当なのだろうか。

例えば、近年はフリーアドレスを導入する企業も多く、出社しても周囲と会話なく退勤することもしばしばある。オフィスに出社したとしても、必ずしもコミュニケーションが活性化するとは言い切れない。また、出社したからと言っても周囲からサポートを得るとは限らないし、そもそも生産性が低いのはテレワークだけの問題ではないかもしれない。もしオフィス出社を義務づけるなら、あわせてコミュニケーションを促す仕掛けを行ったり、業務の見直しもしたりする必要がある。そうした点は考慮されているのだろうか。

図4 「テレワークを継続すべきではない」の立場における隠れた前提

「テレワーク制度」は手段に過ぎない。大事なのはどんな組織文化を作りたいか

さて、ここまで「テレワーク制度を継続すべきか否か」というイシューに対して、両者の立場の論理構造を見てきた。一見、説得力のある論理でも、実は隠れた前提が存在している。そう考えると、いずれの論理も危うさを有していることが分かるだろう。今回は両者の立場において代表的な枠組みを設定したが、状況が変われば検討すべき論点のセットも変わる。どこまでいっても議論が尽きることはないのだ。だとしたら、どうすればよいか。

これまで論理の話ばかりしてきたが、答えの出ない問いに何かしら解を出そうとするなら、最後は意思を持って決めるしかない。では、何に対する意思を持てばいいのだろうか。

その答えは、どんな組織文化を作りたいか、だと思う。

テレワーク制度に限らず、フレックス制度や副業制度など、働き方に関する議論の大半は手段(How)に焦点が絞られがちだ。だが手段の前に、そもそも自社はどんな組織文化を作りたいのか(What)を考えるべきだ。なぜなら、ありたい姿なくして、手段の議論はできないのだから。

例えば、テレワーク制度の継続可否について、Googleは出社(週3日)とテレワーク(週2日)を組み合わせたハイブリッドワーク制を行うと発表している。この方針について、Google CEO:サンダー・ピチャイ氏はこう述べている――「オフィスでの3日間は社員の共同作業とコミュニティのために重要である」と。まさに、共同作業やコミュニティのための対面の交流がイノベーションを生み出す組織文化に寄与するとの明確な意思があるのだ(図5参照)。

図5 「ハイブリッドワーク制」の背景にあるGoogleの考え

もし完全なるテレワーク制度でも目指す組織文化が作れ、更にその他の面でもメリットが大きいのであれば、テレワーク制度は継続すべきだ。逆に、目指す組織文化が実際に対面で会い、言葉を交わさなければ醸成できないものなら、オフィス出社も取り入れるべきだろう。

テレワーク制度を継続すべきか否か――手段の前に、自社はどんな組織文化を作りたいか、言葉にして定める。これが出発点だ。

企業文化は戦略に勝る(Culture eats strategy for breakfast)

――ピーター・ドラッカー

太田 昂志

グロービス・デジタル・プラットフォーム マネージャー