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投稿日:2022年09月13日

投稿日:2022年09月13日

未来の食はパーソナライズ化に向かう#3 ~食シーンはDXによってどう変わっていくのか?~

チームFDX(Food Digital Transformation)
吉田 和樹/宇田 のぞみ/北川 真也/小林 彩香/福野 伸也
垣岡 淳
グロービス経営大学院 教員

DXにより革新された未来の食のあるべき姿や、関わるプレイヤーの動きについて研究する連載。
第1回ではDXによって実現される未来の食のあるべき姿や、消費者が体験できるパーソナライズされた未来の食シーンについて考えました。次に第2回では、業界のプレイヤーたちが食のパーソナライズを実現するにあたっての「難所」について解説しました。
概略としてお送りしてきた第1回、第2回を踏まえ、ここからは各要素について更なる深掘りをしていきます。第3回となる本稿では、未来の食を実現するのに重要な、社会課題の解決を見据えたDXを活用しての「食の提供」について解説します。

※本稿は、グロービス経営大学院教員の垣岡淳の指導のもと、多様な業種で構成された5人の社会人大学院生(福野、宇田、北川、小林、吉田)が調査・研究を行った結果に基づいています。

そもそも、なぜ食のDXを推進すべきなのか

デジタル技術によって近年、業界の枠組みを超えた取り組みや、人々の多様な価値観へのきめ細やかな対応が容易になり、実行されています。こうした動きを通じた業界のDXはあらゆる業界で必要とされており、日常に密接に関わる「食」もまたDXを必要としています。第1回でも解説したように、「食」は飼育・運搬時に消費するエネルギーやそれらが引き起こす気候変動、フードロス問題、あるいは偏った食生活によるウェルビーイングにまつわる影響など、様々な課題をはらんでおり、その打破が求められているからです。加えて私たちが考えているのは、DXによる課題解決によって、人々の幸福につながる“地球と人々の健康”を守った“豊かで自由な食生活”が叶うとも考えています。

未来の食を実現する、新しい提供モデルの必要性

私たちは、このような「体」の健康や「心」の状態に対応し、かつ「地球」にも優しい結果となる食のパーソナライズにこそ、未来の食シーンにおける価値があると考えています。
「食のパーソナライズ」というと、単にデータ主導ですべての食材やメニューを最適化し自動で提供するだけの状態を指しているようなイメージを浮かべるかもしれません。しかし、第1回で示した例にあるように、私たちの考えはそういったイメージとは異なります。例えば「心」の状態に対応するためには、選択肢から選べるように候補をいくつか提供する自由度を残す必要があるのではないでしょうか。すると、毎日3回の食事の中で、食材や献立を選び考える・調理するなどの手間を解消する際の手助けとして、本人の好みなどをもとにした提案や、普段の思考では選ぶことのない食材や食事とも出会える提案を行う、といった範囲が「パーソナライズ」として適切であると想定できます。

では、そうした未来の食シーンを実現するには、どういった要素が必要なのでしょうか。
ここで私たちが提案するのは、DXによって構造そのものを見直す、新しい食の提供モデルである「ローカライズ・パーソナライゼーションモデル(LPM)」です。

ローカライズ・パーソナライゼーションモデル(LPM)とは

ローカライズ・パーソナライゼーションモデル(LPM)のイメージ(筆者作成)

LPMは、地域(都道府県よりも狭い生活圏エリアのレベル)での少量多品種生産でありながら、DXによって経済性を成立させるモデルのことです。現在、小売や外食における食の提供モデルの多くは、大量生産で経済性を成立させるマス・カスタマイゼーションモデルを前提としています。しかし大量生産はその分、予測された需要に実際の需要が見合わない場合の大量のロスや、広範囲への供給による輸送コストなどが発生します。そこでLPMでは、地域社会単位で食のエコシステムを再構築することで、大量生産だけでは補えない範囲の需要予測の精度を高め、地域内における地産地消の範囲を拡大していきます。

またLPMのメリットはロスの削減だけではありません。現在、技術進化によって、デリバリーだけに特化したダークストアやゴーストレストラン、様々な外食業者がキッチンをシェアするクラウドキッチン、調理ロボットの導入、仮想現実の中でのショッピング体験といった、既存のフードビジネスの効率化や利便性が図られた変革が進んでいます。こうしたデジタル化が進んでいくからこそ際立ってくるのが、リアルで食べる、集まる、話す、繋がるというアナログ的な価値です。既に食を提供しながらコミュニティの役割を担う、地域社会プラットフォームのような新しいビジネスモデルも生まれる中、LPMは拡大するリアルの場における食が担う役割と、その重要性の高まりに応えることができると考えられます。

ローカライズ・パーソナライゼーションモデル(LPM)の構造と生み出す価値(筆者作成)

LPMを選択すると、在庫・欠品はゼロに近づきます。また、食材の調達を地元で完結できる範囲が拡がるため物流コストも低下します。物流では、金銭コストのみならずエネルギーコストなども発生しているため、LPMは「地球」の存続にも大きく貢献することが可能になると考えます。

ローカライズ・パーソナライゼーションモデルによる「地球」への貢献(筆者作成)

データ活用を円滑に進めるための役割を担う「オーケストレーター」

このLPMを実現するために重要なのが、消費者の嗜好、行動データや、食に関わるプレイヤーである生産者、製造者、地域、行政、医療などのデータの蓄積・活用です。データ蓄積・活用を円滑に行っていくためには、プレイヤー間をつなぐ存在が必要になると考えられます。複数のプレイヤー間のデータをマッチングさせ、需給バランスを調整し、かつパーソナライズ精度の向上を担い、結果として消費者一人一人の期待に応える食の提供が可能となります。これを私たちは「オーケストレーター」と称します。

LPMにおけるデータの接続と流通の未来の姿(筆者作成)

LPMにおけるオーケストレーターの役割と担い手(筆者作成)

LPMは食のDXの姿のひとつです。こうした食のDXは食業界の構造を大きく変え、地球と人、両方の健康を実現させる可能性を持っていると考えます。

次回は、未来の食の提供モデルであるこのLPMの実現する世界について、より具体的に見ていきます。

チームFDX(Food Digital Transformation)

吉田 和樹/宇田 のぞみ/北川 真也/小林 彩香/福野 伸也

垣岡 淳

グロービス経営大学院 教員