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投稿日:2022年09月05日

投稿日:2022年09月05日

結局は計算通りの確率になるー『ビジネスで使える数学の基本が1冊でざっくりわかる本』

嶋田 毅
グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

今年7月発売の『ビジネスで使える数学の基本が1冊でざっくりわかる本』から「Chapter5 確率」の一部を紹介します。

よくプロ野球などで4月頃には4割の打率をキープする選手がいます。「春先は調子のいい選手が出やすい」「ピッチャーがまだ準備不足だから」などと言うファンもいますが、これは誤りです。現実は単に試行数が少ないが故の確率上のブレにすぎず、シーズンが深まり打数が増えていくと、結局は真の実力に近づいていきます。競馬で長く本命の馬券を買い続けると結局は25%負けるのも同様です。FX(外国為替証拠金取引)などのゼロサム(手数料を差し引けばマイナスサム)の投資も、長く続けると負けることになります。確率は試行回数が増えるほど実態に近づくという「大数の法則」は、ビジネスでも大事ですし、プライベートでも使えますからぜひ理解しておきたいものです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇    ◇    ◇

大数の法則を理解する

大数の法則とは、試行回数が増えるほど、本来の確率に近くなるということです。言い方を変えると、試行回数が少ないと、本来の確率とはかけ離れた結果が起こることもあるということです。

これは確率論の非常に大切な概念ですから、簡単に説明しましょう。

質問

シチュエーションA:あなたはプロバスケットボールチームのオーナー。プレーオフ1回戦は格下のZチーム相手。1試合のみで行われる。1試合ごとの勝率は58%と予想されている。

シチュエーションB:あなたはプロバスケットボールチームのオーナー。プレーオフ1回戦は格下のYチーム相手。5試合制で行われ、先に3勝した方が勝つ。1試合ごとの勝率は55%と予想されている。

皆さんがオーナーなら、どちらのシチュエーションが嬉しいでしょうか。なお、試合数が増えることの興行収入などはいったん無視し、純粋に勝ち進めるかということのみを考えてください。

考え方

1試合の勝率の高いシチュエーションAの方が好ましいように思えますが、本当でしょうか? 実際に計算してみましょう。

シチュエーションAは、計算は非常に単純で、あなたのチームは58%の確率で勝ち進めます。

問題はシチュエーションBです。シチュエーションBには、以下のようなパターンが考えられます。ここでは勝利を○、敗戦を●で表します。

○○○/●○○○/○●○○/○○●○/●○○●○/○●○●○/○○●●○/●○●○○/○●●○○/●●○○○

○○●●●/●○○●●/○●○●●/●●○○●/●○●○●/○●●○●/●●○●/●○●●/○●●●/●●●

前半10個のパターンはあなたのチームの勝利、後半10個のパターンは負けとなります。それぞれの確率を計算してみると以下のようになります。

<自チームが勝つパターン>
○○○ →16.64%
●○○○ /○●○○/○○●○ →各7.49%  (3勝1敗は7.49%×3=22.47%)
●○○●○/○●○●○/○○●●○/●○●○○/○●●○○/●●○○○ →各3.37% (3勝2敗は3.37%×6=20.22%)

<自チームが敗北するパターン>
○○●●●/●○○●●/○●○●●/●●○○●/●○●○●/○●●○● →各2.76% (2勝3敗は2.76%×6=16.56%)
●●○●/●○●●/○●●● →各5.01% (1勝3敗は5.01%×3=15.03%)
●●● →9.11%

自チームが勝つ最初の10パターンの合計は59.3%、自チームが負ける後の10パターンの合計は40.7%となります。

つまり、一発勝負ではなく、5試合制の方が、試行回数が増える結果、1試合の期待勝率が多少低かったとしても、より本来の実力差が反映されやすくなるのです。なお、試合数が増えると、それぞれの勝率は58%、55%に近づきますが、少ない試合数では番狂わせが起きやすいのです。

これは囲碁将棋のタイトル戦や棋戦でも同様です。一発勝負のトーナメント戦は意外な棋士が勝つことがある一方で、5番勝負や7番勝負のタイトル戦となると、結局は強い方が勝つことが多いことが経験上知られています。

試行数が増えるほど本来の確率に近くなるという大数の法則は、もちろんビジネスでも同様です。

たとえば出版社で、Aさんの担当する書籍のヒット率が3割、Bさんが1割だとします(実力が変わらないという前提で)。たまたまある1年をみればBさんの方がヒット作を出すことがあっても、数年のスパンでみれば、結局はAさんの方がBさんの3倍の確率でヒット作を出すことになるでしょう。

プラットフォーム企業のレコメンデーションなども、少ない回数の試行だけでみればそんなにヒットしなくても、試行数が増えれば当然確率の高いものが買われます。

ビジネスにはサイコロやコインのような不変の確率はなかなかないですが、こうした確率論の基本は理解しておきたいものです。

書籍:ビジネスで使える数学の基本が1冊でざっくりわかる本
著者:グロービス 執筆:嶋田毅 発行日:2022/7/29 価格:1,760円 発行元:東洋経済新報社

嶋田 毅

グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長