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投稿日:2022年08月08日

投稿日:2022年08月08日

単純さが分析の「切れ」につながるー『ビジネスで使える数学の基本が1冊でざっくりわかる本』

嶋田 毅
グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

今年7月発売の『ビジネスで使える数学の基本が1冊でざっくりわかる本』から「Chaper2 相関係数」の一部を紹介します。

y=ax+bで表される1次関数はビジネスの様々な場面に登場します。一番有名なのは損益分岐点分析かもしれません。この分析では横軸に売上高、縦軸に売上高と費用を示します。そして45度の角度の売上高線と、売上げをxとした場合にy=ax+bで挙動する費用を分析することによって損益分岐点を求め、それをベースに意思決定を行うのです。

相関分析も1次関数で結果を示します。たとえば大学で卒業生の活躍度合と高い相関のある因子が発見出来たら(例:特定の科目の成績など)、大学としてはその科目の教育に力を入れることで、学生の活躍を後押しすることができるのです。1次関数は単純な関数ですが、単純であるからこそ分かりやすく、また「切れ」を生み出すことできるのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇    ◇    ◇

回帰分析

実際のビジネスでももちろんこの相関分析は役に立ちます。相関係数が0.7程度、すなわちR2が0.49以上となると、それは経営上、重要な「肝」の部分といえ、かなり役に立つことが多いです。たとえば以下のようなケースです。

①あるコンピテンシーが営業成績とR2=0.6の正の相関がある

②売上額と売上高営業利益率にR2=0.55の正の相関がある

③事業ごとのNPS(ネットプロモータースコア:顧客推奨意向)と売上高営業利益率にR2=0.7の正の相関がある

④従業員エングージメントと離職率の問にR2=0.5の負の相関がある

①のコンピテンシーとは「優れた成果を創出する個人の能力・行動特性」のことです。もしそうした要素(例:傾聴力)を1つ発見できたら、営業担当者の育成や採用の際の大きなヒントになるでしょう。

②はいわゆる規模の経済性が効いているビジネスと推察されます。このビジネスでは合併等の方法論も念頭に置きつつ規模を拡大することが非常に重要といえます。

③のNPS (ネットプロモータースコア:顧客推奨意向)は「自分の友人にこの製品やサービスをどの程度すすめるか」を10点満点で聞くものです。

6点以下はマイナス1(マイナス100%)、7と8は0、9と10は1(100%)とカウントして、平均を求めます。NPSは業績と非常に相関が高い指標といわれますが、もしある企業で実際にR2=0.7の正の相関がみられたならば、顧客満足を高いレベルで実現させる施策を徹底的に追求する必要性が高いといえるでしょう。

④の従業員エングージメントは、単なる満足度ではなく、会社に貢献したいという思いを示す指標です。これが高い部署で実際に離職率が低いなら、企業としてエングージメントの高い部署をベンチマークし、社内に横展開することが効果的であることが推察されます。

重回帰分析

一次関数で相関関係を導き出し、その一次関数から予測する方法は単回帰分析ともいいます。それに対し、

y=axl十bx2十cx3十dx4十……

のように、いくつもの変数(変化する数。ここではxl、x2、x3、x4……で表記)を使って予測精度の高い式を導き出すのが重回帰分析です。

予測という側面では重回帰分析の方が多くの変数を使っていることからR2は上がりますが、1つの変数で結果をかなりの部分説明できるというシャープさは失われます。

実務では、きめ細かな予測が必要な場合には重回帰分析が使われることが多いですが、コンサルタントが経営者に対して「このビジネスの肝はこれです」といったように核心に迫る際にはシンプルな単回帰分析≒相関分析が使われることが多くなります。単純かつわかりやすい一次関数の切れ味は意識したいものです。

書籍:ビジネスで使える数学の基本が1冊でざっくりわかる本
著者:グロービス 執筆:嶋田毅 発行日:2022/7/29 価格:1,760円 発行元:東洋経済新報社

嶋田 毅

グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長