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投稿日:2022年08月12日

投稿日:2022年08月12日

夏休みに読みたいおすすめ書籍5選――2022

嶋田 毅
グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長
沼野 利和
グロービス経営大学院 教員/一般社団法人サステナブル・ビジネス・ハブ理事
星野 優
グロービス経営大学院 教員
梶井 麻未
グロービス経営大学院 教員
中村 直太
グロービス経営大学院 教員

まとまった時間がとれる夏休み。ビジネスパーソンとして一皮剥けるような本を読みませんか?グロービス経営大学院の教員が、この夏じっくり読んで欲しいおすすめ本を5冊ご紹介します。前回のゴールデンウィーク版はこちら

「最強企業」だった組織はどこで間違えたのか

推薦者:嶋田 毅

筆者のように90年頃以降経営学に携わるようになった人間にとって、GEはエクセレントカンパニーの代表であった。クロトンビルでの研修、よく練られたリーダー育成システム、「業界で1位か2位の企業を買収する」という戦略。一時期はダウ工業株30種平均(ダウ平均)のうち、GE自身を含め、3人がGE出身のCEOであった。そして時価総額も世界首位となり、ウォール街からも高く評価されていた。

しかし、その利益はかつてのエンロン張りの会計操作で生み出されたものであり、実態ではなかったというのは、多くの人を驚かせたのではないだろうか。そしてその中心となったのは、一時期はGEの強みの源泉とされたGEキャピタルの存在だったというのも興味深い。日本でもソニーグループのように金融事業を持つ製造業発のグループはなくはないが、GEキャピタルは存在の巨大さゆえ、そしてその実態の掴みにくさゆえにGEを衰退へと導いていったのである。

本書から学べることは多い。コングロマリット経営の難しさ、会計リテラシーの重要性、ガバナンスの在り方、巨大企業のDXの難しさなどである。日本企業がアメリカ企業に学ぶべき点は多いが、この失敗の歴史からもしっかり学ぶことが日本の経営者には求められるのではないだろうか。ページ数が多く、ある程度の会計リテラシーは必要になるが、読み応えのある1冊である。

GE帝国盛衰史 「最強企業」だった組織はどこで間違えたのか
著者:トーマス・グリタ、テッド・マン 訳者:御立 英史 発行日:2022/7/13 価格:2,200円 出版社:ダイヤモンド社

文化を基軸とした新しいラグジュアリーブランド論

推薦者:沼野 利和

旧来のラグジュアリーブランドの持つ時代遅れな側面

ラグジュアリーブランドというとLVMHやケリング、リシュモンといった3大コングロマリットのブランドやエルメス、シャネル、アルマーニなどの世界的なファッションブランドが頭に浮かぶだろう。その影響力と存在感は圧倒的だ。多くの人にとって憧れであり、いわゆるアブソリュート層にとってはプライスレスな価値をもつ、リスペクトすら払うべき存在だ。
このような旧来のラグジュアリー(本書では「旧型」と呼んでいる)は「魅惑的であり、豊かさの象徴であり、光り輝き、持つ者を輝かせる」絶対的な価値がある。一方で「排他性」「名声」「社会的クラスを与える力」といった時代遅れな側面、つまり富中心の格差がある社会でこそ成り立つ知覚価値でもあると本書では指摘している。

ラグジュアリースタートアップの誕生

こういった旧来のラグジュアリーに対して、世界各地で新しいラグジュアリー企業「ラグジュアリースタートアップ」が生まれている。ラグジュアリースタートアップは「ローカル文化の尊重」「素材から生産、販売までのバリューチェーンの透明化と短縮化」を特徴に持ち、さらにサブカルチャーやスポーツといった新たな文化を取り込んでいる。そこの世界観における「豊かさ」や「魅力的な美」はフェアで開かれた包摂性があり、人間尊厳や内発的な感情が大切にされているという。

「新ラグジュアリー」の再定義

このラグジュアリービジネスにおける地殻変動を踏まえて、本書ではラグジュアリービジネスはそもそも『さまざまな文化において、新しい時代の息吹きに敏感に反応し、これまでの文脈を活かせる新しいモデルをつくり表現する(本書から引用)』と定義する。この定義は、新しいラグジュアリーのあり方における文化の重要性を気づかせてくれる。

本書はForbes JAPANに連載された著者2人の往復書簡風の記事を元に書かれている。著者の1人、安西氏は僕も尊敬するラグジュアリーブランド研究の第一人者。中野氏は英国紳士文化とファッション史、国内外のモード事情、ラグジュアリー領域の専門家だ。彼らによってつづられるその内容は上記に留まらず、ラグジュアリーブランドに関して多岐にわたっている。すこしテーマをひろっても、「ラグジュアリーブランドの持つ崇高さ」「エレガンスは惰性的な権威主義への抵抗」「本物の意味」「日本のラグジュアリー」「ラグジュアリーマネジメント」「アートが持つ意味」「サステナビリティとラグジュアリー」等々、どれも興味深い。
ラグジュアリースタートアップを目指す方やラグジュアリーブランドに関わる方、更にはローカル文化を尊重したビジネスを考えている方にはぜひ読んでもらいたい内容だ。

新・ラグジュアリー ――文化が生み出す経済 10の講義
著者:安西洋之、中野香織 発行日:2022/3/28 価格:2,068円 出版社:クロスメディア・パブリッシング

おカネとの上手な付き合い方とは何か?

推薦者:星野 優

 知識<行動

これは、本書の裏表紙に書かれたシンプルなメッセージである。

本書はアメリカの著名なベンチャーキャピタリストが執筆した世界的ベストセラーだ。書籍タイトルの一部にある“マネー”という言葉から、ともすると「どの様にすれば株式投資で儲けることができるのか」と言う方法論に関するものかと連想させる。

ところが、上記メッセージからもわかる通り、「一生おカネに困らない」様にするためには、寧ろ、知識よりもおカネとの向き合い方、つまり行動が重要なのである。このことを豊富な事例と共に説いているのが本書なのだ。

また、それぞれの行動の背景になる考え方も同時に解説されており、その一つ一つが腑に落ちるものばかりである(“他人と収入を比較してもキリがない”、“私たちはウェルス(富)とリッチネス(物質的豊かさ)の違いを明確にしなければならない”、“どんなに勉強しても、どんなに想像力を膨らませても、直接体験した人と同じ恐怖、不安は体験できない”、など)。おカネの世界でトップに上り詰めた人物だからこそ語ることが出来る英知(wisdom)と言えよう。

原書のサブタイトル“Timeless Lessons on Wealth, Greed and Happiness”が示す通り、本書は20もの“永遠の教訓”を簡潔に、そしてテンポ良く紹介している。著者は株式投資のプロでありながら、実は貯蓄の大切さを強調している点も興味深い。

「おカネの話は自分には縁遠い……」と思っている人にこそ、手に取って欲しい一冊である。

サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット
著者:モーガン・ハウセル 訳者:児島 修 発行日:2021/12/8 価格:1,870円 出版社:ダイヤモンド社

プロダクトを造り・育てるにかかわる、すべての方に役立つ一冊

推薦者:梶井 麻未

世の中で成功したプロダクトの背後には、必ず優れたプロダクトマネージャーがいると言われる。
プロダクトマネージャーとは、方向性・ビジョンを示してエンジニアやデザイナー、マーケターといったプロフェッショナルをまとめあげ、ユーザーに使われ続けるプロダクトを創造し育てていくプロデューサーのような仕事である。中長期の戦略立案、ビジョンの構築、プロダクトのビジネス(いかに市場でユーザーを獲得し収益を上げるか)、UX(User Experience:ユーザー体験)、システム開発・運用まですべてのプロセスに携わり、ステークホルダーの承認を得たうえで意思決定に責任を持つ。もちろん一人ですべての意思決定をするのではなくチームメンバーに適宜権限移譲を行うものだが、そうした組織づくりそのものも重要な仕事である。

本書はGoogle、Microsoftなどの企業ほか、日本やシリコンバレーなどのあらゆる知見を詰め込み、多岐に渡るプロダクトマネージャーの仕事の全体像について構造化してわかりやすく示した書籍である。更には重要な考え方や知識・フレームワーク、マインドセットも詳細に紹介されているのが特徴だ。ご自身がプロダクトマネージャーを目指すわけではなくとも、プロダクトを造り育て続けていくためには何を考え、実行していく必要があるか、を理解するためにも役立つだろう。なお、本書ではプロダクトの中でも主にIT領域におけるソフトウェアを活用したプロダクトが想定されているが、他の領域においても参考になるポイントにあふれた一冊だ。

プロダクトマネジメントのすべて 事業戦略・IT開発・UXデザイン・マーケティングからチーム・組織運営まで
著者:及川 卓也、曽根原 春樹、小城 久美子 発行日:2021/3/3 価格:2,970円 出版社:翔泳社

パーパスフルな人間らしい組織をつくる

推薦者:中村 直太

「『パーパス』と『人との深いつながり』こそが、ハート・オブ・ビジネス(ビジネスの核心)だ。」
「企業のパーパスは、公益に貢献し、調和した形ですべてのステークホルダー(利害関係者)に奉仕するものであるべきだ。」

本書は、人々が希望を寄せるこれらの仮説を証明した、ベスト・バイ(米・家電量販店)における経営再建の物語だ。主人公は本書の著者、2012年から約7年間、同社のCEOを務めたユベール・ジョリー氏である。

2012年当時、ベスト・バイの事業展望がどのようなものだったかを想像してほしい。この時期、アマゾンに代表されるオンライン小売業者が破壊的な存在感を高め、売れ筋商品を抱える各社メーカーは続々と直営店をオープンさせていた。同業大手も破産するような状況で、まさしく同社は難局にあったと言えよう。

結果はどうだったかというと、なんと6年連続で成長し、利益は3倍に伸び、株価は1桁台から75ドルにまで上昇した。ユベール氏は、どんな魔法を用いたのか。その正体が、彼の新しく経営に持ち込んだ「パーパスフルな人間らしい組織をつくる」という考え方なのだ。

言うは易く行うは難し。本書は、人とパーパスを重視する経営の「行うは難し」の実践ストーリーを鮮やかに描き出し、次のような興味深い問いに答えていく。

  • どのようにして、従業員をリソース(資源)ではなくソース(力の源泉)へと変えたのか。
  • 会社のパーパスと従業員の生きる(働く)意味を、どのように力強く結び付け、組織に命を吹き込んでいったのか。
  • これまでのリーダー像を塗り替える「パーパスフル・リーダー」のあり方とは?

「テクノロジーを通じて顧客の暮らしを豊かにする」がベスト・バイのパーパスだ。このパーパスがいかにして従業員を引き寄せ、顧客との関係を深め、経営の確たる指針となっていったかを、本書を通して追体験してほしい。

THE HEART OF BUSINESS(ハート・オブ・ビジネス)――「人とパーパス」を本気で大切にする新時代のリーダーシップ
著者:ベール・ジョリー、キャロライン・ランバート 序文:ビル・ジョージ、平井一夫 解説:矢野陽一朗 訳:樋口武志 発行日:2022/7/22 価格:2,420円 出版社:英治出版

嶋田 毅

グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

沼野 利和

グロービス経営大学院 教員/一般社団法人サステナブル・ビジネス・ハブ理事

星野 優

グロービス経営大学院 教員

梶井 麻未

グロービス経営大学院 教員

中村 直太

グロービス経営大学院 教員