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投稿日:2022年06月16日

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HIPHOPカルチャーに学ぶビジネスパーソンの“成功の要諦”-反骨精神と“レぺゼン”

鎌原 光明
グロービス経営大学院 スチューデント・オフィス/研究員

HIPHOPカルチャーとビジネスパーソン

HIPHOP − この音楽ジャンルを聞いて、読者のみなさんはどんなイメージを抱くだろうか。

メジャーで活躍するHIPHOPアーティスト(例えば、RIP SLYMEなど)も多い今日、ひと昔前に比べたらだいぶ状況は変わってはきているが、それでも、「攻撃的」「アウトロー」「不良がする音楽」「薬物」……いまだにそうした悪いイメージが根強くまとわりつく音楽ジャンルであることは間違いない。読者の中には、眉をひそめる人もいるのではないだろうか?

しかし、HIPHOPという音楽の根っこにあるカルチャーを知ると、その実、我々ビジネスパーソンが仕事をするうえでも参考になるようなものがたくさんあるのだ。本稿では、そのうち2つを紹介する。

辛い現状でも諦めずに打破しようとする姿勢

「HIPHOPは反骨精神の音楽だ」とよく言われる。楽曲の中にも体制批判や自身の主義主張を高らかに叫ぶものが散見される。

それもそのはず、HIPHOPが生まれたのは、1970年代・ニューヨークの移民が集まる貧困街・ブロンクス区のブロック・パーティー。貧困に苦しみながらも、同じコミュニティの仲間達と「現状を打破しよう」と困難に挑み続け、互いに鼓舞し合う中で自然と生まれたもの。

自分たちが属するコミュニティに誇りを持ち、「自分たちを蔑み抑圧してきている者たちを、いつか必ず見返してみせる!」という、まさに反骨精神の中で生まれた音楽なのだ。

HIPHOPのミュージックビデオでお金や地位を得て豪遊するシーンがよく描かれる。しかしそれは、ただ単に成功をひけらかしている浅はかな描写などではない。これまで自分たちを軽んじ抑圧してきた者たちに対して、「抑圧からの開放」を象徴的に明示し正に見返さんとする反骨精神のあらわれなのである。

翻って我々に矢印を向けてみよう。この“辛い現状でも諦めずに打破しよう”とする反骨精神は、ビジネスパーソンにとって一番重要な姿勢ではないか。

辛い現状でも諦めずに打破しようとしなければ、決して大成はしない。逆に言えば、ビジョンを持ち、そうした挑戦を続けていけば、必ず自分自身が納得のいく仕事人生を歩んでいける。

これがHIPHOPからビジネスパーソンに示す成功の要諦の1つである。

自らのコミュニティに誇りを持つ

さきほど、HIPHOPはニューヨーク・ブロンクス区のブロックパーティーで生まれたと紹介した。

ブロックパーティーとは、文字通り区画(ブロック)ごとのパーティーのことだが、ニュアンスとしては街のパーティーというよりも“属するコミュニティのパーティー”という方が正しい。

貧困にも負けずに逞しく生きようとする人たちが、ブロックごとに互いに支え合いながら属するコミュニティに誇りを持ち、未来の成功のために奮闘している姿が目に浮かぶ。「自分は〇〇ブロックの■■だ」と自己紹介している映画の一場面を見たことのある読者も多いのではないか。

今でもHIPHOPシーンでは「レペゼン(represent):〜を代表する」という考えが根付いている。例えばライブなどで「レペゼン東京・渋谷!」とか「レペゼン神奈川!」と「自分は〇〇を代表して、このステージに立っている」と宣言する場面をよく見かけたりする、といった具合である。

「自分は一人ではない。」「自分は仲間たちの誇りも背負っている。」そう自分を奮い立たせ、先に紹介した反骨精神を胸に、アーティストとしての勝負の場に臨む訳だ。

この「自らのコミュニティに誇りを持つ」ということ。
これもビジネスパーソンにとっては重要な「成功の要諦」の1つだ。

ここでいうコミュニティは「会社」でも「家族」でも「故郷」でも構わない。自らを構成する重要なコミュニティであればなんでもいい。

挑戦を続けていれば、うまくいかない時もある。高い壁にぶつかり、一人では心が折れてしまいそうになるときだって少なくない。そんな時、自身を励まし、鼓舞し、奮い立たせてくれる仲間の存在はかけがえのないエネルギーとなるだろう。

逆に挑戦が本格的になってきたときも、本当に必要な情報や信頼できる人的リソースは仲間がもたらしてくれる。一人ではできないことも、仲間がいれば実現できることがたくさんある。否、一人で実現できることなんて、ほんの些細なことなのだろう。

あなたを構成するコミュニティは何だろうか。コミュニティを大切にすること、また、大切にしたいと思えるコミュニティをつくっていくことがビジネスパーソンにとっても重要だ。

後編に続く

鎌原 光明

グロービス経営大学院 スチューデント・オフィス/研究員