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投稿日:2022年05月30日

投稿日:2022年05月30日

社会人の「幸せな活躍」は、‟学び”と‟人間関係”にありーWellbeingと学びの関係

若杉 忠弘
グロービス経営大学院 教員

2022年2月末に「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査」(パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳氏)が発表されました。この調査の面白い点は、「学びに取り組んでいる若手社会人は、幸せな活躍をしている」という結果が出たところです。つまり、幸せと成功を得たければ学べ、という示唆があるわけです。このメッセージを分解していきながら、報告書を読み解いてみましょう。

幸せな活躍

みなさんは、「幸せな活躍」をしたいでしょうか?「活躍」とは、個人のジョブ・パフォーマンスが高いということです。具体的には、任された役割を果たしたり、期待以上の成果を出していたり、周囲からよい評価や評判を得ていることを意味します。

そして、本報告書では、単なる「活躍」ではなく、「幸せな活躍」を見ているところがポイントです。たとえば、一所懸命成果を出すために頑張っても、一向に幸せにならないとしたら、目指したくないですよね。「幸せな活躍」こそ、多くの人にとって目指したいゴールと言えます。

(出典: パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査」)

「学び」が「幸せな活躍」をもたらす―5つの学び

さて、「幸せな活躍」をもたらすものは何なのでしょうか。その答えが「学び」にあり、と報告書は示唆をしています。報告書では、幸せに結びつく5つの学びの特性―「ソーシャル・ラーニング」「ラーニング・レジリエンス」「ラーニング・ブリッジング」「ラーニング・グリット」「ラーニング・デジタル」(下図)を提示しています。

(出典: パーソル総合研究所・ベネッセ教育総合研究所・中原淳「若年就業者のウェルビーイングと学びに関する定量調査」)

5つの「学び」を実践すれば、幸せな活躍への道を歩んでいることになりますが、この中で最も「幸せな活躍」と関連があるのは、「ソーシャル・ラーニング」だということを本調査では明らかにしています。そう、幸せには、一緒に学び経験したり、フィードバックをもらったりする仲間がいるなど、人を巻き込んで学ぶことが最も大事だというのです。

しかも、これはどのようなタイプの人にとっても当てはまります。調査結果によれば、安定的な働き方をしたい人でも、バリバリ働きたい人も、縁の下的に活躍したい人も、社会課題に取り組みたい人も「ソーシャル・ラーニング」と「幸せな活躍」は関連をしているのです。

人を巻き込む「ソーシャル・ラーニング」の2つのメリット

それでは、「ソーシャル・ラーニング」にフォーカスしてみましょう。こう思った方はいませんか。「ソーシャル・ラーニング」って、面倒くさくない?

今は、一人で気軽に学びができる時代です。ビジネススキルを学ぶのに一人で本を読んでもいいし、YouTubeで動画を見ることもできる時代です。わかりやすい解説動画に簡単にアクセスできる、素晴らしい時代になりました。

それなのになぜ、「ソーシャル・ラーニング」が必要なのでしょうか。なぜ、「ソーシャル・ラーニング」が「幸せな活躍」とつながるのでしょうか。その理由は、2つ考えられます。

1.仲間がいると自分一人より、高い成果が出る

第一に、一人では得ることができないマインドセットスキルが身に付きます。

一人で学んでいると、「これでいいや」と思ってやめてしまうときでも、仲間と学んでいると簡単にあきらめることができません。一人ではとうてい到達できなかった学びが得ることができ、もっともっと学びたいと思うことでしょう。実際、本調査においても、「ソーシャル・ラーニング」は、先輩や同僚との切磋琢磨と関連性が高いという結果が出ています。

他の研究でも、仲間の重要性が指摘されています。たとえば、健康のために、ダイエットや運動をしないといけない心臓病患者のケースでは、なんと7人に1人しか、実際に食や運動の習慣を変えることができません (Kegan et al., 2009)。ところが、仲間のフィードバックやサポートがあるとがダイエットや運動は長続きすることが知られています (Sallis et al., 1987)。

少し別の切り口でもみてみます。「ソーシャル・ラーニング」では、必ず誰かと話す必要があります。グループの中で話すことは学びを深めると言われています。心理学者のペニーベイカーによると、自分が話せば話すほど、周りから多くのことを学んだ実感が得られるというのです (Pennebaker & Smyth, 2016)。自分が話し、アウトプットをすることで、学びが整理されていくと考えられます。

つまり、仲間と切磋琢磨することを通して、自分ひとりでは身に付けることができなかった、スキルやマインドセットを獲得できるといえます。このような人は、仕事においても、周囲とともにどんどん成長するので、結果的に仕事でも成果を出し、仕事においても大いに活躍することができるでしょう。

2.ポジティブな人間関係が幸せをもたらす

第二に、仲間とのつながりを通して、幸せになれることが挙げられます。

ポジティブな人間関係は、幸せに影響をおよぼす最も大事な要因のひとつと指摘されています (Seligman, 2018)。逆に、孤独は、心身にネガティブな影響を及ぼします。たとえば、ある研究では、孤独は、たばこを毎日吸うことに相当するネガティブな影響を体に及ぼすと報告されています(Holt-Lunstad et al., 2010)。それだけ人間関係は私たちの心身に影響を与えるわけですね。

「ソーシャル・ラーニング」はお互いの切磋琢磨を通して、まさに、ポジティブな人間関係を築いていることにほかなりません。この学びを通した人間関係が幸せをもたらしてくれるのです。

「成功するから幸せ」ではなく、「幸せな人が成功する」

じつは、心理学の研究によれば、幸せな人が成功すると言われています。成功するから幸せなのではなく、幸せだから成功するという証拠が多く出てきています。データによれば、幸せな人の方が、社交性が高く、周りを助けようとし、また、対立を解決するスキルも高い。その他にも、幸せな人の方が独創的なアイディアを提案するという研究もあります (Lyubomirsky et al., 2005)。つまり、幸せな人は活躍するのです。

以上より、仲間とのつながりから生まれる幸せが、成功し活躍するための素地をつくるといえそうです。

仲間とともに、自分の限界を超え、新しい学びをし、助け合う。「ソーシャル・ラーニング」はこんなことを可能にしてくれると言えそうです。

MBAで学ぶある学生が、仲間と学ぶことについて、このように話していました。「結局、“ちょうど良いうっとうしさ”があるんです」、と。「ちょうど良いうっとうしさ」とは、まさに言い得て妙です。単にお互いに心地がいい存在だけではなく、ほどほどなうっとうしさで、お互いにフィードバックし、切磋琢磨しあう存在。これが、「ちょうど良いうっとうしさ」なのでしょう。

ひとりで行う学びに加えて、「ちょうど良いうっとうしさ」を伴う「ソーシャル・ラーニング」も取り入れることで、「幸せな活躍」につながる豊かな学びを実現できるのではないでしょうか。

本調査を参考にされつつ、みなさんが、自分自身にあった学びを実践され、幸せな活躍への道を歩んでいただければ幸いです。

<参考文献>
Holt-Lunstad, J., Smith, T. B., & Layton, J. B. (2010). Social relationships and mortality risk: a meta-analytic review. PLoS Medicine, 7(7), e1000316.
Kegan, R., Kegan, L. L. L. R., & Lahey, L. L. (2009). Immunity to change: How to overcome it and unlock potential in yourself and your organization. Harvard Business Press.
Lyubomirsky, S., King, L., & Diener, E. (2005). The benefits of frequent positive affect: Does happiness lead to success? Psychological Bulletin, 131(6), 803–855.
Pennebaker, J. W., & Smyth, J. M. (2016). Opening up by writing it down: How expressive writing improves health and eases emotional pain. Guilford Publications.
Sallis, J. F., Grossman, R. M., Pinski, R. B., Patterson, T. L., & Nader, P. R. (1987). The development of scales to measure social support for diet and exercise behaviors. Preventive Medicine, 16(6), 825–836.
Seligman, M. (2018). PERMA and the building blocks of well-being. The Journal of Positive Psychology, 13(4), 333–335.

若杉 忠弘

グロービス経営大学院 教員