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投稿日:2022年02月16日
投稿日:2022年02月16日
ビジネス書グランプリ2022 総合トップ10
- 難波 美帆
- グロービス経営大学院 教員
「読者が選ぶビジネス書グランプリ2022」(グロービス経営大学院、フライヤー共同開催)の結果が、2022年2月15日に発表されました。今回は過去最多のエントリー数となる126冊から「有益だった」 「実用的だった」と思うビジネス書を一般投票で決定(全6部門/グランプリ候補に分けての投票)。総合ランキングのトップ10冊からは、何が見えてくるのでしょうか。グロービス経営大学院教員の難波美帆に聞きました。
コロナ禍の中で、人々が日々のふるまいのよすがを求めた10冊
世界中の人間が、これまでの「ふるまい」を失った2年間だった。自宅を一歩出れば必ずマスクをつけ、人と会ったら手を洗う。口角泡を飛ばし、肩を組み、杯を酌み交わすことは憚られる。移動する、店に入るたびに消毒を求められ、他人と2メートル以内に近寄らないようにする。こんな生活の中で、自らと他人のふるまいに不安を感じない人はいるまい。我々は新しい生活様式=ふるまいを求められている。何が正しいのかは完全にはわからない。この生活がいつまで続くのかもわからない。
今年選ばれた10冊は、そんなビジネスマンが、日々のふるまいのよすがを求めた結果だったように読める。
もう一つ、グランプリ作品の本の作りから感じたのは、(私も含め)もうみんな長い本は読めなくなっているのではないかということだ。細切れに読める、どこからでも面白そうなところから読める、イラストで内容理解を助けるなどの工夫が施されている本が多く選ばれている。
10冊を3つのジャンルに分けてご紹介しよう。
■ふるまい系
各界の先導者たちのインタビューを掲載する雑誌『致知』から365人分。一日1人約1200字が抜粋(要約)されている。どの方も「一つ話すならこれ」と言う話だ。月刊誌『致知』の1万本以上に及ぶインタビューの中から「仕事の教科書」として選ばれるように厳選された方々だから、仕事術がすごいのは当たり前かもしれない。しかし本書には、仕事や自身の専門の話に限らず、本人の人生を通して最も印象深い逸話が書かれており、こういった話にこそ胸を打たれる。
成した後の結果ではなく、ふるまい(プロセス)自体が動画コンテンツとしてネットで消費される時代。ふるまいへの敬愛の気持ち、真似したい、技を盗みたいなど、消費者たちの動機は様々だが、人のふるまいを見たい人たちがいる。今この時を共有できる喜びかもしれない。
一方でアウトプットではなくプロセスを売るというのは、持っているもの全部を売ってしまうことのような気もする。しかし長く人気者でいる人たちは、自分を全部曝け出しているわけではないのだろう。消費し尽くされない(飽きられない)ないプロセスの見せ方という新しいふるまいが求められるが、それは心の持ち様の問題かもしれない。
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『ビジョナリー・カンパニーZERO ゼロから事業を生み出し、偉大で永続的な企業になる』
「偉大で永続的な企業になる」ための起業家のふるまい方を書いた本。世界中で1000万部以上売れている「ビジョナリー・カンパニー」シリーズの原点となる『Beyond Entreprenurship』(日本語未訳)が、1992年の刊行から30年、大幅に加筆され、邦訳の出版となった。主に成功した大企業を研究した成果が著された同シリーズと違い、アップデート版の本書は、起業家や中小企業家向けになっている。オリジナル版の部分はページの色を変えており、30年を経た著者の知見がどう広がったかも味わえる。
『稲盛和夫一日一言』
こちらは、京セラの設立者、稲盛和夫さんの語録から「一日一言」。本書のシリーズには、「論語」や「万葉集」、「釈迦」が並ぶ。本の紙カバーをはいで驚いた。表紙がビニールカバーになっている。つまり手帳のように肌身離さず持ち歩いて、金言を折に触れ紐解くようにデザインされているのだ。
著者である精神科医・樺沢紫苑さんに届いた1万件以上の日常生活の未病や相談の中から、ピックアップされた50個のテーマについて解決方法を紹介している。著者はYoutubeで6年間、毎日動画を配信しており、そこに来る相談メールの9割が重複した質問だと言う。これだけの量的エビデンスをもってすれば、我々ビジネスパーソンの悩みはこの本ですべて解決されるのではないかと思い、目次を眺めると、朝起きたときから寝るまでの1日の過ごし方、プレゼンの仕方、人間関係、資格試験の勉強法……、余すところなく整理されている。しかも、この本では最適化の方法がすべてイラストになっていて読みやすい。
本の構成が、目次、イラスト、エビデンスと3パートに分かれていて、電子書籍版なら、目次から知りたいテーマにタッチでイラストページに飛び、一目で理解できる。著者が抜群に頭が良く、大量の事例を端的に整理する力をお持ちであることが、本の作りに現れている。悩みがあるときは頭の中がとっ散らかっていることが多いだろう。まずはこの本の作りを眺めて気持ちを整理するだけでも「最適化」に近づけそうだ。
我々のふるまい方は歳をとると変わる。本書では旅行記形式のストーリーとイラストで、認知機能の衰えによって生じる日常行動の変化を認知しやすく整理し、優しい色合いと木訥としたイラストで学べる。いつか自分にも訪れるその日が来たときに勇気を持って旅ができるよう、また、今その旅の途中の方を支援できる大変心強いガイドブック。
■発想法系
1秒を惜しんで、大きく、強くなることがそんなにいいことか。この本が問いかけているのはそんな現代資本主義社会へのアンチテーゼだ。著者の人生におけるパラダイムシフトが書かれている。花形CMプランナーの著者が、自分の才能の使い道をスライドさせ、自分の弱みを発想の起点にし、マスではなく1人のため、自分のためにクリエイティビティを使うプロセス、方法が書かれている。この本を福祉のデザインの本だと思って、「興味がない」と手に取らないのはもったいない。自分のクリエイティビティが秒単位の暇つぶしとして消費されてしまうことに悩んでいる人に。
著者は「創造とは、いったい何をすることなのか」という問いを立て、生物の進化こそが自然界における創造によく似た現象だと「ふと思いつき」、20年ちかくも考え続けた。本書では、その結果著者が目を止めた生き物の進化のパターンをメタファーに、創造的思考の発想法を解説する。大作ではあるがコンセプトを理解しやすく、ビジュアライズした写真などの図版が随所に挿入されており、上下に大きくマージンを取った版面のデザインも読みやすい。
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「進化思考」- 生物の進化から学ぶ、激動の時代を切り拓く創造的発想法~NOSIGNER太刀川英輔
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■傾聴系
『ABEMA Prime(アベプラ)』で進行役を務めるアナウンサー、平石直之氏が、2時間の生放送番組をどう進行し、どう議論をファシリテートしているのか、ノウハウをまとめた本。ファシリテーション(ひとのふるまいを促す)極意を、「準備力」「聞く力」「場を作る力」と示している。ファシリテーター、会議の進行役が苦手だなと感じているひとへの具体的なふるまいのアドバイスが詰まっている。特に4章「即使える!キラーフレーズ集」が使える!
皆が流行に乗り遅れまいと盛り上がり、数ヶ月で流行が下火になったClubhouseという音声SNSアプリ。2021年の初春のブームを覚えているだろうか。参加者が公平に話すようにデザインされていないので、多くの人にとっては「ただ聞くだけ」もしくは気心の知れた数人で映像なしで会話を楽しむツールだった。Clubhouseブームの短さは、我々の聞く力のなさを示していたのかも知れない。人の話を文意を捉えながら聞くという、視覚に頼らない認知は、意外と難しい。本書は、実は現代人が苦手な、聞く力を高め、それにより知性と教養を高めようと説く。本書の副題は「知性豊かで創造力がある人になれる」。まず聞く人になる、そうすれば、聞かれる人になれるということだ。
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難波 美帆
グロービス経営大学院 教員
大学卒業後、講談社に入社し若者向けエンターテインメント小説の編集者を務める。その後、フリーランスとなり主に科学や医療の書籍や雑誌の編集・記事執筆を行う。2005年より北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット特任准教授、早稲田大学大学院政治学研究科准教授、北海道大学URAステーション特任准教授、同高等教育推進機構大学院教育部特任准教授を経て、2016年よりグロービス経営大学院。この間、日本医療政策機構、国立開発研究法人科学技術振興機構、サイエンス・メディア・センターなど、大学やNPO、研究機関など非営利セクターの新規事業の立ち上げをやり続けている。科学技術コミュニケーション、対話によるイノベーション創発のデザインを研究・実践している。