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投稿日:2022年03月01日

投稿日:2022年03月01日

4月からの東証市場再編 「攻めのダイバーシティ」が企業価値を向上させる

林 恭子
グロービス経営大学院 教員

いよいよ、2022年4月4日から東京証券取引所の市場区分が変わる。これまでの東証一部、二部…という4区分から、プライム、スタンダード、グロース市場の3つになる。最上位がプライム市場となるが、市場区分の変更により企業が求められる価値の基準は変わるのだろうか。最上位となるプライム市場に求められる項目からは、今後「ダイバーシティ」を重視した企業が投資家からの信頼を得ることが見えてきた。

企業の価値がわかりにくかった従来の日本市場

そもそもなぜ、東証は区分変更をするのだろう。

端的に言えば、それは、内外の投資家から投資マネーを引き寄せ易くするためだ。特に海外投資家から見れば、新規上場の際の基準を満たしていなくても下の市場から昇格できたり、上場廃止の基準が緩かったりなど、従来の日本市場では各企業の価値がわかりにくく、海外からの投資が進まない一因となっていた。そこで今後はそれぞれの市場の基準や特徴を明確にし、グローバルスタンダードな観点で、それぞれの企業が投資に資するのか、その魅力度に応じて分ける必要があったのだ。

改訂コーポレートガバナンスコードから紐解く、新しい企業像

市場区分変更に向け、東証は2021年6月にコーポレートガバナンスコード(上場企業が行うべき企業統治のガイドライン)を改訂した。

世界標準を強く意識したであろうこの改訂には、注目すべき以下3つの点がある。

  1. 取締役会の機能発揮
  2. 企業の中核人材における多様性の確保
  3. サステナビリティを巡る課題への取組み

3.は世界的に注視される気候変動問題等によるが、1.と2.には共通点がある。「1.取締役会の機能発揮」で求められることの中には、プライム市場では独立社外取締役を3分の1以上にすることや、各取締役のスキルを公表する(スキルマトリックスなどで)ことがある。つまり、同質化され、同じ経験・能力・観点でしか経営判断ができない人材の揃う取締役会では、投資家の信頼は得られないということだ。それは、「2.企業の中核人材における多様性の確保」にも通じる。ここでは、女性・外国人・中途採用者の登用についての考え方と測定可能な自主目標の設定や、多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とをあわせて公表することが求められている。

しかし、実態はどうか。デロイトトーマツグループと三井住友銀行が上場企業970社を対象に行った調査では、2021年度、取締役に女性が一人もいない企業は51%、女性も外国人もいない企業は48%に上った[1]。
2021年12月に東証が発表したコーポレートガバナンスコードへの対応状況結果でも、一部上場企業の67%しか、管理職人材の多様性についての考え方や目標の公表をしていない[2]。

なぜ経営にダイバーシティが必要なのか

では、企業の中核層に多様性が不足していることは、そんなに深刻なことだと受け取られるのだろうか?

答えは、イエスだ。日本市場への投資を助言する米グラスルイス社は、プライム市場で女性比率が10%に満たない企業には、2023年からトップ選任に原則反対推奨を出すという。りそなアセットマネジメントも同様に、23年から女性役員がいないプライム上場企業のトップ選任に反対するとのことだ。他にも大手運用会社や投資助言会社が同様の意向を示している。なぜか。

それは、企業がイノベーションを生み、将来的に新たな価値を創造し続けて行くために、多様な視点や経験、思考が必要なことが明らかだからだ。ビジネス市場のグローバル化は勿論のこと、購買意思決定をする層も、人々の価値観も多様化している。科学的調査でも、多様な人材の集団と同質化された集団とでは、問題解決力や創造性に違いがあることがわかっている。

更に気になる話がある。日本政府は今後、専門会議を開き、社員の多様性や人材教育などに対する企業の取り組み状況の情報開示指針を作るという[3]。人材を企業の発展に寄与する重要な投資対象である資本とみなす、「人的資本経営」推進の一端だ。

かつての労働集約型産業の時代と異なり、経済のデジタル化が進む現代では、個々人の持つアイディアの価値が高まっているという。
性別、国籍、年齢などの概念を取り去るメタバースも注目される現代、旧来の枠組みから抜け出せず同質化の続く企業は、今後も政府や市場の要請からその内情がどんどん可視化されることで、投資も集まらず、優秀な人材も集まらず、魅力的な製品も出せず顧客も離れ、経営に黄色信号が点滅することは想像に難くない。

多様性の実現は成長のための好材料

「多様性」の問題をいまだに「コーポレートガバナンスコードにあるから」「やらないと世間の目がうるさいから」としぶしぶ取り組む企業は、その認識を根本的に変えることから始める必要があるだろう。企業の中核層と、そこに続く社員達に多様性を求め、また多様性を増やすだけでなく、どうインクルージョンし真の価値を発揮してもらうか。多様性をむしろ成長のための好材料と捉え、「攻めのダイバーシティ経営」に転換できる企業こそが、東証新市場時代にも発展していけるだろう。

<参照文献>

[1]https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC216J0021122021000000/
[2]https://www.nikkei.com/article/DGKKZO79576120W2A120C2DTA000/
[3]https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB262M8026012022000000/

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00210/083000018/
https://www.jpx.co.jp/news/1020/20210611-01.html

林 恭子

グロービス経営大学院 教員

筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士課程前期修了(MBA)。米系電子機器メーカーのモトローラで、半導体、及び携帯電話端末のOEMに携わった後、ボストン・コンサルティング・グループへ。人事担当リーダーとしてプロフェッショナル・スタッフの採用、能力開発、リテンション・プログラム開発、ウィメンズ・イニシアチブ・コミッティ委員等、幅広く人材マネジメントを担当する。グロービスでは、人材・組織に関わる研究や教育プログラムの開発を担当した後、経営管理全般を統括。またリーダーシップ、人材マネジメント、ダイバーシティマネジメント、キャリア開発、パワーと影響力等の領域を中心に、グロービス経営大学院での講義、および、企業研修、講演などを多数務める。共著書に『【新版】グロービスMBAリーダーシップ 』(ダイヤモンド社)、『女性プロフェッショナルたちから学ぶキャリア形成』(ナカニシヤ出版)がある。経済同友会会員。組織学会、産業・組織心理学会、及び経営行動科学学会員。