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投稿日:2022年02月24日
投稿日:2022年02月24日
【IPO記念インタビュー】CaSy(カジー) 「大切なことを、大切にする時間を創る」ミッションで乗り越えた組織拡大の壁
- 加茂 雄一
- 株式会社CaSy 代表取締役 CEO
- 池田 裕樹
- 株式会社CaSy 代表取締役 CFO
インタビュアー
- 山中 礼二
- KIBOW社会投資ファンド 代表パートナー/グロービス経営大学院 教員
2022年2月22日に上場を果たした株式会社CaSy。創業者の加茂雄一氏、池田裕樹氏、胡桃沢精一氏(現在は離職)の出会いは、2013年グロービス経営大学院の「ベンチャー・キャピタル&ファイナンス」のクラス。前編では、当時クラス担当講師だった山中礼二が、起業初期の最大の苦労やサービス品質について聞いた。後編では、組織拡大の難所や志についてインタビュー。(全2回、後編)前編はこちら
組織拡大の難所。退職率3割がつづいた2年
山中:3人で始められた会社が、今社員数36名までになっています。組織が拡大する中で、壁はありましたでしょうか。
加茂:2年位、退職率の3割超えが続いた時期がありました。上場が具体化してきて、暗黙の中でやっていたのがルールベース化されたり、CaSyの行動指針を定めたりして、「合わない」と考える方が去っていった。3分の1の方が退職しました。先輩経営者から「ベンチャーなら通る道」だと励ましていただいたりしたのですが、もっと成長できる組織にするにはどうしたらいいか考えていました。そこで株主の方に「加茂さん、社員のこと愛しているのか」ということを言われて、ハッとしました。
もちろん社員のことは大事にしているつもりでしたけれど、「自分の時間を社員のために費やしている」という思考で、「社員の人生のために私の時間を使わせてもらっている」というところまで至っていなかったなと反省しました。それ以降は社員と半年に1回は1on1をするなど、社員との時間の使い方も変わって、退職率も改善してきています。
山中:代表としての哲学を問われた瞬間だったんですね。
加茂:そうですね、本当にそのときは問われました。
山中:池田さんはいかがでしょうか。
池田:組織運営に近しいところでお伝えすると、グロービスで学んではいたつもりなんですけれども、ミッション、ビジョン、バリューを浸透させるような取り組みが課題でした。我々の目指す世界観は何で、CaSyの価値観は何かというものを、採用基準や人事評価制度といった組織人事まわりの仕組みにあまり反映できていなかったですね。
山中:退職者が多く出た時期があって、それを乗り越えて、ミッション・ビジョン・バリューを浸透させる施策をしっかり固めて乗り越えたんですね。具体的に浸透させる施策としては、どういうものをとりましたか。
池田: 2018年5月にCHROとして白坂(ゆき)が入社してくれています。そこから四半期ごとにキックオフをやるようになったり、毎週の全社集会で折に触れてミッション・ビジョン・バリューを伝えています。「CaSyの価値観に則った行動は例えばこういうもの」というのを発信したり、評価制度に組み込んだりしています。
山中:組織がボトルネックになって会社の成長が止まりかけるのは、スタートアップあるあるだと思います。CaSyもそれに直面しかけた。でも、非常にいいタイミングでCHROが入られたんですね。
(右からCHROの白坂ゆき氏、加茂雄一氏、池田裕樹氏)
加茂:そうですね、そこはマネーフォワード(CEOの)の辻(庸介)さんに「CHROは10人20人くらいの規模で入れておいたほうがいいよ」というアドバイスをいただいていたので、早めに入っていただきました。
IPOの狙いとは?家事代行業界への信頼を高める
山中:なぜ今このタイミングでIPOを目指されたのでしょうか。
池田:理由の1つは、家事代行というサービス自体がまだまだ浸透していないことがあります。IPOによって業界の認知度を上げたいと考えて目指しました。
もちろんCaSyという会社への信頼を高めたいという思いもあります。準備を始めて3年半くらい経ちますが、経験して思ったのは、まさに信頼されうる企業になるための仕組みをつくり続けたプロセスということです。IPOにより、家事代行サービスを利用することへの信頼が増し、ユーザーの心理的抵抗を和らげられたらと思います。
「時間の価値」を高める
山中:グロービス経営大学院では何回も何回も、受講生のみなさんに「あなたの志は何ですか。あなたの人生を使って何を成し遂げるんですか」ということを聞き続けるわけですが、今、お2人は、この問いに対してどういうふうに答えられますか。
加茂:CaSyのミッションである「大切なことを、大切にできる時間を創る。」が私の目指すところです。実は、このミッションもお客様の声をお伺いしながら培われてきたものなんです。
創業当時は、家事代行サービスは、富裕層向けのサービスかなと思っていたのですが、共働きのお客様から「仕事、育児、家事とかに追われて、くじけそうになっていた。だけど、CaSyのキャストが来てくれることで、もう一度頑張ろうという希望を持てました」という声をいただいたんです。
お客様は、本当に時間がなくて困っていらっしゃる。そういう方を助けられるんだということを気づかせていただきました。我々の事業は間違いなく世の中に貢献できるはずだと思って、今、「大切なことを、大切にできる時間を創る。」というミッションを掲げております。
池田:私も創業者なので、会社の志と個人の志が一体化しています。これまで約8年CaSyを運営してきて、CaSyの方向性や必要性は間違っていないと感じています。今後も「時間を創る」会社として「時間の価値」を、どんどん高めていきたいなと考えています。それによって、みなさんの暮らしを豊かにしたいと思っています。
山中:最近、『TIME SMART』(東洋経済新報社)という本を読みました。そこには、世界中どの国で働く人も時間不足に苦しんでいる、余裕のある時間をつくることが、個人の幸せや成長に直結すると。「タイムプア」から「タイムリッチ」になっていくのが大事なんだ、と書いてありました。本を読みながら、CaSyが成長するほど日本人は心豊かになる、と思いました。
ここでグロービス経営大学院について、ちょっと振り返っていただきます。グロービス経営大学院は、「学び」「志」「人的ネットワーク」を大事な価値としていますが、それらは起業をするうえで役に立っていますでしょうか。
加茂:役に立ったか立っていないかといわれたら、すごく役に立っております。グロービスで得たものは、志、ロジカルに考えられるスキル的なところ、そもそも創業メンバーもグロービスで一緒に学んでいた者なので、ネットワークというところ。この3つをフルでグロービスから得させていただいていると思います。
池田:私は経営の全体像が分かるというのが非常に役に立っていると思います。今はCFOですが、創業したときはCTOとしてプロダクトをつくる側にいまして、そこから上場準備のために、経理とか、財務とか、経営企画も含めたCFOと移っています。全く地図がない所に進んできたというよりは、おぼろげながら自分の中に地図がある中で進んでこられたなというのは、グロービスで学んできたおかげかなというふうに思います。もちろん学んだことと実際に起こることには乖離があるので、業務をしながら学んだり考えたりすることも必要です。
山中:池田さんもそうですし、i-plugの田中(伸明)さんもそうなんですが、もともと財務畑ではない方がグロービスでMBAを取って、スタートアップに入って最終的には株主とコミュニケーションをとるCFOのポジションに就かれるという、そういうケースが結構あるとお見受けしています。今後そういう方がますます増えて活躍していただきたいと思っています。
起業を目指す人へ「志が人を巻き込む」
山中:最後にこれから起業しようとしているグロービス生に、アドバイスをお願いいたします。
加茂:私が十分にできていなくて、もっとやっておけばよかったと思うのは、志について深く考えることです。在学中は、講師の方々や志を高めようと思っている仲間も多い環境なので、その環境を生かして存分に語り合っておけばよかったなと思います。
というのも、これも山中さんに紹介していただいた株主の前田ヒロさん(当時BEENOS株式会社・現在ALL STAR SAAS FUNDのマネジング・パートナー)から言われたことなのですが「経営の本質は人を巻きこむこと」だと私も思っているんですね。人を惹きつけるのは、志の深さ広さです。それを具体化して人に語れることが大事だと思っています。それが深いレベルでできていたら、より早く人を巻き込めて、CaSyを成長できたのかなと思っていますので、そういう時間を作ってもらえればと思います。
池田:私も似たような感じなんですけれど、一方で事業をやりながら志は育っていくかなとも思います。起業するための原体験は持っていましたが、その抽象度というかレイヤーが、創業して事業をしてお客様やキャストの声を聴くなかで、どんどん上がってきました。
なので、起業したいと思っているのであれば、してしまうのがいいと思います。グロービスで学んでいるのであれば、たとえ失敗したとしても、やり直すチャンスはいくらでもあると思いますので、それを自信に変えて起業したらいいのではないでしょうか。
山中:ありがとうございます。最後に何か、みなさんにお伝えしたいことはありますか。
加茂:ありがとうございます。2月22日に上場させていただきました。CaSyの社員、CaSyで働いてくれているキャストのみなさま、CaSyをご利用いただいているお客様、株主の方々、みなさまのご協力があって上場することができましたので、この場をお借りして、感謝を申し上げたいと思います。ありがとうございました。
上場は、あくまでスタートラインです。ここで勢いを止めずに、より多くの方を支えられるようなサービスにしていきたいと思っておりますので、これからもよろしくお願いいたします。
山中:本日はCaSy代表取締役CEOの加茂さんと、代表取締役CFOの池田さんにお話をお伺いしました。貴重な話を聞かせていただきまして、ありがとうございました。
加茂 雄一
株式会社CaSy 代表取締役 CEO
2005年 早稲田大学商学部卒業。
2005年 中央青山監査法人入所、 2007年 太陽ASG有限責任監査法人入所。
2014年 株式会社CaSy設立・代表取締役就任。
池田 裕樹
株式会社CaSy 代表取締役 CFO
2003年 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修了。2003年 エヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社入社。
2008年 株式会社エヌ・ティ・ティ・データ入社。
2014年 グロービス経営大学院経営研究科修了(MBA)。
2014年 株式会社CaSy設立・代表取締役就任。
インタビュアー
山中 礼二
KIBOW社会投資ファンド 代表パートナー/グロービス経営大学院 教員
一橋大学経済学部卒業。ハーバード・ビジネス・スクール修士課程修了(MBA)
キヤノン株式会社、グロービス・キャピタル・パートナーズ、ヘルスケア分野のベンチャー2社を経て、グロービス経営大学院(専任教員)。特に震災後、多くの社会起業家の育成と支援に携わる。