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投稿日:2022年02月12日

投稿日:2022年02月12日

ハラスメントはマネジャーの無知や油断から

嶋田 毅
グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

昨年11月発売の『グロービスMBAミドルマネジメント』の「ミドルマネジャーのためのキーワード30」から「セクハラ」と「パワハラ」を紹介します。

近年、セクハラを嚆矢として、パワハラ、アルハラなど「○○ハラ」と命名される事柄が増えています。「ハラ」はハラスメント、すなわち嫌がらせを指します。これらは組織の生産性を落とすとともに、場合によっては訴訟事件、さらには企業ブランドの棄損につながりかねないため、企業にとってはぜひ防止したいものです。こうしたハラスメントは、往々にしてマネジャーの無知や油断(例:「このくらいは大丈夫だろう」という勝手な判断)から起こることが少なくありません。近年、コンプライアンスに対する社会の目は厳しくなっており、10年前には許容されたことが今はアウト、ということも多々あります。マネジャーとしては、基本的な知識を持つとともに、世間の常識に敏感になったうえで、自身の行動を振り返ったり、部署内にしっかり目配せすることが強く求められます。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

セクハラ

定義:セクシュアルハラスメント(性的な嫌がらせ)の略。職場において、性的な言動をとることによって相手に不快感を与えたり、降格や意にそぐわないアサインメントの変更をしたりする等、相手に不利益を与えること

セクハラが大きく取り上げられるようになったのは1980年代である。当初は男性から女性に対するセクハラが人権問題として問題視されたが、現在では性別に関係なく、女性から男性、あるいは同性間でもセクハラは成り立つものとされている。

セクハラは、大きく対価型セクハラと環境型セクハラに分類される。対価型セクハラとは、たとえば「自分と付き合わないと職場にいられないようにしてやる」といったように、性的な対価を求めるものである。往々にして立場の違いに起因することが多く(例:上司と部下、正社員と派遣社員など)、パワハラと同時並行的に起こることも多い。それに対して環境型セクハラとは、職場に水着モデル(男女関係なく)のポスターを飾る、大声で性的な話題を話し合う、結婚の意向をしつこく聞くなど、職場環境を悪化させ、人々の感情を害するタイプのものを指す。

2006年の法改正により、セクハラに関しては、事業主は雇用管理上の問題としてこれに適切に対処することが義務付けられるようになった。具体的には職務規定に明確にセクハラ禁止をうたい、啓蒙することでセクハラを未然に防ぐ、あるいは被害者が不利益を被ることなく相談できる窓口をつくり、加害者を適切に罰する必要がある。

特に環境型のセクハラについては「どこからがセクハラになるのかが曖昧」という指摘もある。これについては社会常識にもよるが、よく言及される、(男性から女性に対するケースであれば)「自分の妻や恋人、姉妹、娘にされて嫌と感じることは自分もしない」という考え方は理に適っていると言えるだろう。マネジャーは、自分自身がセクハラを行わないのは当然のこと、部下の言動にも注意することが求められる。

パワハラ

定義:パワーハラスメントの略。上司と部下など、職務上の有利な立場を利用して、相手に罵声を浴びせる、過剰に仕事を与えるなどして精神的苦痛を与えたり、場合によっては身体的な苦痛を与えたりすること

パワハラはセクハラに比べてもまだ新しい概念であり、企業においても十分な対策がなされていないケースが多い。その理由としては、もともといわゆる「体育会系」の組織文化などの場合、パワハラ的な指導が常態化していること、ノルマのきつい組織などではどうしても物言いがとげとげしくなりがちなこと、そしてセクハラとは異なり、雇用者にパワハラ防止を強制するような法律がないことなどが挙げられる。

ただし近年では、SNSの発達などもあって個人が情報発信しやすくなったなどの背景もあり、過度なパワハラは訴訟の対象になることも増えてきた。パワハラはメンタルヘルスに悪影響を及ばすことも多く(最悪のケースは自死)、それゆえ、企業としてもパワハラを看過すると、大きく企業イメージを損なう可能性がある。

企業としては、セクハラ同様、マネジャー等に対し、指導を行うことが望ましいが、一方で先述したように、ある程度部下にプレッシャーをかけざるを得ないケースもある。また、暴言を吐いたり極度の大声で罵ったり、「徹夜してでもやれ」といったパワハラが明確なケースばかりではなく、仮に訴えられても立証が難しいという問題もある。たとえば、能力が足りない部下のアサインメント変更はしばしば行われることであるが、それだけをもってパワハラと訴えられたら関係者も困るだろう。

こうした事態を避けるためにも、マネジャーは日頃から部下と密にコミュニケーションをとるとともに、自分のマネジメントスタイルを客観的に見つめる冷静な視点が必要となる。また、先輩から後輩に対する「イジメ」的な行為が行われていないかなど、チームの様子にも目を光らせることが必要だ。

グロービスMBAミドルマネジメント
著者:
グロービス経営大学院 監修:嶋田毅 発行日:2021/11/30 価格:3,080円 発行元:ダイヤモンド社

嶋田 毅

グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。

グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。