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投稿日:2022年01月08日

投稿日:2022年01月08日

マネジャーのフェアな評価の敵を避ける鍵は知識と自問の姿勢

嶋田 毅
グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

2021年11月発売の『グロービスMBAミドルマネジメント』の第3章1節から「評価」の一部を紹介します。

人間の評価を行うのは難しいものだ。極端にいえば、それによって部下の人生を左右することにもなりかねないし、そこまで極端でなくとも、彼らのモチベーションを大きく左右してしまうからである。そこで注意したいのが、極力フェアであることだ。ただ、人間にはバイアスと呼ばれる思考のゆがみがあり、往々にしてそれに左右されてしまうことが少なくない。マネジャーも人間である以上、そうしたバイアスから完全に逃れることは不可能であるが、それでも意識しておくのとしないのでは、大きな差につながることは理解しておくべきと言えよう。一度立ち止まって冷静に「自分はバイアスで評価が曇っていないか?」を自問する機会を持つことが必要である。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇    ◇    ◇

先述したように、企業によって運用は大きく異なるが、評価の対象は主に業績、能力、態度の3つがある。人事考課上のバランスをどうするかは、マネジャーは基本的には企業の人事方針に従うことになる。

評価のポイントは、公平さ、正当性を意識することだ。特に数字で評価しにくい能力や態度の部分はそうである。業績についても、数値化しにくいものは同様である。人間は、自分がフェアに扱われていると感じられるかどうかを強く意識するものだ。「公平に扱われていない」と不満を持たれることは極力避けたい。えこひいきなどは論外である。マネジャーも人間である以上、完璧にフェアに人を評価することはできないが、それでも極力それに近づけることが期待される。

そこで意識したいこととして、バイアスを避けることと、最終的な評価結果だけではなく、そこに至るコミュニケーションのプロセスを重視することがある。ここでは前者の、評価につきもののバイアスについて紹介しよう。バイアスとは思考の歪みであり、意識しないと陥りがちな人間の思考の傾向である。意識するだけでも大きく避けられるものは多いので、代表的なものは知っておく必要がある。

好意

自分が好意を抱いている人間に対する評価は、どうしても甘めになるものだ。好意は、単純に接触する頻度が高いといった要素でも上がるし(単純接触効果)、自分と共通点が多いといった要素でも上がる。

たとえば自分と同じ県の出身者で高校・大学も同窓だとしたら、通常は好意のレベルは上がるだろう。褒めてくれる人に対しても、人は好意を持つ。上司に対して「すごいですね」などと言ってくれるような部下だ。それが評価を甘めにしてしまうことは起こりがちなのだ。あまりに好意が評価に影響を与えるようだと、えこひいきと見られ、部下の間の不公平感は増す。自分にとって耳の痛い正論を言ってくる部下に対して辛めの評価をするなども当然好ましいことではない。

近日効果

これは最近あった出来事に意識が引っ張られてしまうというバイアスである。1年であれば1年通じて評価をすべきなのに、最近数カ月の印象で評価しがちというのも、よく起こる現象だ。改善や悪化も含めて、評価対象期間にどのようなことがあったかをしっかり記録しておくとこうしたことは起きにくくなる。1年に1回、いきなり評価を行うのではなく、四半期ごとのMBOが推奨されるのもこうした理由からだ。

ハロー効果

何かの目立つ印象に全体の評価が引っ張られてしまうバイアスであり、非常に有名なものだ。たとえば「服装がちょっと派手だな」という印象が強いことに引っ張られ、仕事の評価が下がるなどがその典型である。逆に、1つだけでも目立つ仕事をすると、それに引っ張られ、他の仕事で結果が出ていなくても、甘めの評価になることもある。

中心化傾向

たとえば5点満点の人事考課を制度化している企業であれば、3点あたりに評価が集中してしまう傾向である。部下に極端な差はつけたくないという意識が働くと、この傾向が現れやすくなる。

寛大化傾向

人間は、自分が嫌われることを恐れ、本来低い点をつけるべき時でも甘めに評価してしまう傾向がある。特にその部下とこれからも長く仕事をすることが予想されると、この傾向が働きやすくなる。日本電産の創業者の永守重信は、「ダメな部下に(5点満点で)1をつけないようなマネジャーは失格」とコメントしているが、それは容易ではないのだ。日本電産のように、そうした評価をしてもいいということが組織文化として定着している場合はいいが、そうした組織文化がない企業で、辛めの評価を行うのは簡単ではない。

対比誤差

これは不適切な対象と比較することにより生じるバイアスである。かつて極めて優秀な部下がいたりすると、その人を基準としてしまい、辛めの評価になるというケースだ。自身がプレーヤーとして優秀なマネジャーは、自分と比較して辛めに評価を行うという現象も起きやすい。

グロービスMBAミドルマネジメント
著者:グロービス経営大学院 監修:嶋田毅 発行日:2021/11/30 価格:3,080円 発行元:ダイヤモンド社

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嶋田 毅

グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。

グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。