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投稿日:2021年12月18日

投稿日:2021年12月18日

デキるマネジャーがやっている「横展開と仕組み化」

嶋田 毅
グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

今年11月発売の『グロービスMBAミドルマネジメント』の第2章2節より「横展開と仕組み化」の一部を紹介します。

組織の生産性を大きく左右するのが「仕組み」の有無やその良し悪しである。たとえば翻訳会社であれば、「翻訳者(下訳者)のリスト(各人の得意分野付き)」「翻訳業務フロー」あるいは「翻訳チェックリスト」「FAQ」がしっかり作られているか否かで従業員の仕事のしやすさは大きく変わる。仮にこれらが無いとしたら、毎回従業員は一から考えたり人に聞かないと仕事が前に進まない。仕事のやり方もどんどん属人化してしまう。その結果、成果物のバラツキも大きくなり、顧客の期待にコンスタントに応えられなくなってしまう。こうしたことを避けるのもマネジャーの仕事である。仕組みを構築するとともに、良い知恵を他部署に横展開したり、導入して仕事に活用し、生産性を大きく上げられるマネジャーは非常に優秀と言えるだろう。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

横展開と仕組み化

1節ではしっかりPDCAを回して成果を出すことを強調したが、成果がしっかり出たら、その良い部分を組織で横展開していくこともマネジャーに求められる発想だ。特に良い結果が生まれた時にその結果をもたらした要因を探るために「なぜうまくいったのか?」と繰り返し問い、それを他部署に展開することは、組織全体の生産性向上に貢献し、一目置かれるきっかけにもなる。

たとえば商品開発担当者が大きなヒット商品を生み出したとする。そうした時に「なぜうまくいったのか?」を数回問いかけるのである。

「なぜこのような大きなヒット商品を生み出せたのか?」

→「ネットの情報にインスパイアされたから」

→「なぜネットの情報にインスパイアされたのか?」

→「事前にそれに関連する分野について、家人と話をしていたから」

→「なぜ事前にそれに関連する分野について、家人と話をしていたのか?」

→「家人が典型的なターゲット顧客のように思えたから」

ここからは、気の置けない想定顧客と話をすることの重要性、ネットで情報収集することの重要性、そしてそれらを組み合わせることの重要性などが導けるかもしれない。それを仮説検証しながら再現性のある方法論として固めていくと、非常に大きなパワーになる。

仕組み化も大切だ。そもそも「仕組み」とは、「再現性が高く、同じ成果が出せるための決めごと、構造、施策、工夫」などである。「仕組み」には多種多様なレイヤーがある。

特にマネジャーが期待されるのは、図表の下2つのオペレーションの仕組みや個人が働くうえでの仕事術の仕組みだ(もちろん、それ以上のレイヤーについて上司に提言することも望ましいことである)。たとえば新人営業担当者向けの模擬セールストークセッションによる指導をより効果的なものにできれば、新人の戦力化は早まるかもしれない。あるいは、それまでチャットアプリで管理していた情報をエクセルで管理するようにするだけで、その後の生産性が向上するかもしれないし、対外向けのメールの定型文のバリエーションを増やすだけで、スタッフの業務時間短縮ができるかもしれない。

これらはもちろん部下に任せることも可能だが、部下は往々にして視野が低くなりがちでそうした部分にまで意識がいかないことが多い。部下の働きぶりを観察し、マネジャーがそうした仕組み化を実現できれば、価値は大きい。あるいは、部下に任せきりにするのではなく、部下からの提案を促し、一緒に考えることも効果的だ。

仕組み作りの中でも特に「標準化」が実現できれば、組織としての規模化(スケール化)につながることになり、会社全体の成長に貢献できる可能性が増す。たとえばフランチャイズビジネスを展開する企業において、営業促進担当のマネジャーが「良いアルバイト採用時基準」や「良い接客マニュアル」を作ることができれば、サービス品質の向上と、そのばらつきの削減につながり、顧客満足度が増すことも期待できる。高速出店も容易になるだろう。

会社というものは、どこかに非合理的な仕組みや、仕組み同士の非整合(例:リモートワークを推進しているのにITサポートが脆弱)があるものだ。それを属人的対応で回すのではなく、仕組み化してどんどん解消することも、優れたマネジャーの要件である。

良き仕組みを作るポイントは、丁寧な対話と一人ひとりの当事者意識である。「仕組みを作るなんて、自分には関係ない」と考えているマネジャーは、会社に対して出せる付加価値が小さいということでもある。特にスピーディーな規模化を求められるIPOを目指す企業のマネジャーなどでは、これができるのとできないのでは、その差は非常に大きなものがある。論理思考と想像力を働かせ、対話を重ねながら仕組みに落とし込んでいくマインドセットを持つことが必要だ。

グロービスMBAミドルマネジメント
著者:グロービス経営大学院 監修:嶋田毅 発行日:2021/11/30 価格:3,080円 発行元:ダイヤモンド社

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嶋田 毅

グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。

グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。