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投稿日:2021年02月19日
投稿日:2021年02月19日
脳科学を活かしたセルフマネジメント
- 木村 純子
- グロービス・コーポレート・エデュケーション シニアコンサルタント/研究員
リモートワーク下でのセルフマネジメント
コロナ禍により、働き方や仕事の進め方に影響を受けた人は多いだろう。私個人でいえば、リモートワークにシフトしたことで、これまで以上に、アウトプットの品質や生産性向上への意識と緊張感が高まった。マルチタスクをコントロールするためのスケジューリング、集中力を高めるための仕事前のマインドフルネス、1on1による対話と内省。自分なりに工夫はしているものの、もっと科学的なマネジメント方法はないだろうか?
本書は、集中力と生産性を高め、プレッシャー下でも冷静を保ち、会議時間を短縮し、困難な課題に取り組み、他者と協働するにはどうすればよいか?という疑問に、脳神経科学の観点から分かりやすく答えるものだ。脳の働きとビジネスを結び付けた解説は非常に面白く、示唆に富む。脳を適切に動かせていない場合(よくないケース)と、意識的にコントロールできている場合(よいケース)の対比は、脳の働きを意識するだけでこんなにも生産性が高まり、人間関係が良好になるのかという驚きまでも感じさせてくれる。
著者のデイビッド・ロック博士は、神経科学を活用したリーダーシップ開発を行うニューロリーダーシップ・インスティテュートの創設者兼コンサルタントであり、「ニューロリーダーシップ」という用語を作り出した。人材マネジメント協会SHRM(the Society for Human Resource Management)の年次総会でも、博士のセッションは人気が高い。
パフォーマンスを向上するために、脳を理解する
著者は、自分自身を変え、他者を変え、周りの世界を変える能力は、自分の脳をどれだけよく理解しているか、また無意識に働くプロセスにどれだけ意識的に介入できるかにかかっていると主張する。
例えば、脳のワーキングメモリは小さく、一度に頭の中に保持して処理できる情報量には限界がある。また人は一度に2つの認知課題に取り組むと、ハーバードのMBA取得者でも認知能力が8歳児並みに低下するという二重課題干渉が発生する。よってマルチタスクでは、①やっていることをできるだけ多く体に覚えさせて意識せずにできるようにする、②考えられる最適な順序で情報を処理・意思決定する、③注意を分散する時間を意識的に決め、それ以外の時間は1つのことに集中するとよいという。
プレッシャー下でも冷静を保つ
不安やプレッシャーのなかで情動を適切にコントロールする能力は、ニューノーマルの時代においてますます重要になってきている。脳には、「危険を最小化(回避反応)し、報酬を最大化(接近反応)する」という組織化原理が働く。現実あるいは想像上の危険によって大脳辺縁系が過度に興奮すると、様々な脳機能の低下を引き起こす。例えば、理解・判断・想起・記憶・抑制の5つの機能をもつ前頭前皮質に使えるリソースが低下する。プレッシャーにさらされているときは、適切な判断が一層重要になるが、その判断機能が働きにくくなるのだ。また大脳辺縁系が興奮すると、回避反応により防衛本能が働くため、マイナス面ばかりに目がいき、リスクを取らなくなってしまう。
そうした状態を解決するためには、短い言葉で情動のラベリングを行うと効果的だ。情動のラベリングとは、例えば「今ひどくプレッシャーを感じている」「イライラしている」等のように、自分の感情に名前をつけることだ。たったこれだけのこと?と思うかもしれない。情動のラベリングは大脳辺縁系の興奮を和らげるという性質があるのだ。
日々私たちはたくさんのストレスにさらされている。メール処理への忙殺、マルチタスク、不確実な状況による混乱、不公平さへの対処など、そのたびに状況をうまくコントロールできていない自分に落ち込んでしまうこともある。脳の働き、意識と情動をコントロールするメカニズムを知っていることは、ポジティブな精神状態を保ち、パフォーマンスを高め、ありたい自分に近づくことにつながるのだ。
『最高の脳で働く方法』
著者:デイビッド・ロック 翻訳:矢島麻里子 発行日:2019/5/25 価格:2750円 発行元:ディスカヴァー・トゥエンティワン
木村 純子
グロービス・コーポレート・エデュケーション シニアコンサルタント/研究員
早稲田大学第一文学部教育学専修卒業、グロービス・オリジナルMBAプログラム(GDBA)修了。大手教育会社にて法人営業、人事制度設計に従事した後、グロービスに参画。現在は企業向け人材育成・組織開発部門にて経営リーダー育成、アセスメント開発に従事。人事組織系領域の研究にも携わる。