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投稿日:2020年12月14日
投稿日:2020年12月14日
いま、ビジネス書を読む意義とは?〜『ビジネスエリート必読の名著15』発刊記念対談〜
- 大賀 康史
- 株式会社フライヤー 代表取締役CEO
- 嶋田 毅
- グロービス電子出版発行人 兼 編集長、出版局 編集長
「人生100年時代」になって、私たちの「生き方・働き方」は今後どう変わるのでしょうか? そして、そうした生き方・働き方の変化を踏まえながら、いまビジネス書やリベラルアーツの書籍を読む意義とは何なのでしょうか?「読者が選ぶビジネス書グランプリ」過去5年分の受賞作など、優れたビジネス書を紹介する『ビジネスエリート必読の名著15』(グロービス監修)の発売を記念し、著者である フライヤー代表取締役CEOの大賀康史氏 とグロービス経営大学院教員の嶋田毅の対談部分をご紹介します。(*本記事は、『ビジネスエリート必読の名著15』より抜粋転載し、編集を加えたものです)
1つの仕事だけでキャリアをまっとうできない時代で、いかに情熱を持続させるのか?
嶋田:「人生100年時代」の生き方・働き方というと、まずは健康寿命が長くなり、これからは75歳くらいまで働くのが普通の世の中になるでしょう。そうなると、私たちの多くが、一社でのみ働き続けるのではなく、キャリアチェンジが求められます。
第2・第3のチャレンジをする際に問われるのは、個人として価値を出せるかどうか。副業も一般的な選択肢になってきている現在、20代のうちからインプットして自分を磨き、価値を出せている人は、一社目をやめた後もキャリアのチャンスが増えていく。今後は40代でセカンドキャリア、サードキャリアについて考えていく必要があると思っています。
大賀:なるほど。20代~70代まで働く世の中になれば、キャリアの後半戦が大きく変わると嶋田さんは見ているんですね。さらに、そのキャリアの後半戦に備えて、20代や30代の人の働き方も変わりそうです。市場価値を高めて価値を出し続けるには、どのようなマインドセットが求められるとお考えですか。
嶋田:大事なのは、専門の柱を複数かけ合わせていく「かけ算の発想」ではないでしょうか。T型人材・π字型人材をめざせといわれるようになって久しいですが、たとえばCFO的な経験の持ち主なら、その専門性を軸にしながらテクノロジーを勉強し、CTOに近い領域にも幅を広げていくとか。1つの分野で「1万分の1」をめざすのは難しいかもしれません。ですが、「10分の1」になれる分野を4つ育てていけば、「1万分の1の人材」に仲間入りすることができます。
大賀:「この人ならでは」の領域で才能を開花させ、活躍している方は共通して、並外れた情熱を持ち続けていると思っています。現在は働き方改革、新型コロナウィルスの蔓延に伴うニューノーマルなど、目まぐるしい変化への対応が求められています。業種・職種によっては、仕事の内容や働き方が変化し、情熱を維持し続けることが難しい場合もあると思います。
嶋田:そうですね。例えば営業職ならば、「人と対面して信頼関係を築く営業スタイル」を強みとし、そこにやりがいを感じていた人が、ニューノーマルへの対応でオンラインを通じて顧客との関係構築を求められることも多いでしょう。そうなると、その人なりの情熱の源泉が何なのかを理解し、それを保つために工夫が必要です。
情熱を維持するには、「社会は変わっていくもの」という前提で、変化を楽しめるかどうか。変化を恐れるのではなく、むしろ変化自体をチャンスにしようという、しなやかなマインドセットをもつ人が強いと考えています。いま自分の目の前の情熱だけでは、変化に乗り切れないと思ったら、情熱をもてる第2の選択肢を見つけ出していくという発想が大事になってくるのではないでしょうか。
大賀:たしかに「変化に振り回される側」なのか、「変化を楽しむ側」なのかという差は大きいですね。明らかに大変な壁にぶつかっていたとしても、前向きにとらえて柔軟に対応できる人になれれば、怖いものがなくなります。周囲に流されずに変化を楽しめるようになるためには、私は自己の基盤となるもの、すなわち自己肯定感が必要だと考えています。
この自己肯定感は、ビジネス書やリベラルアーツ、小説など色々な本を読むなかで培われていくものです。私たちは読書を通じて、自分とは異なる時代背景や状況に置かれた著者や登場人物の生き方や意思決定を追体験できます。それを自分の目の前に広がる世界でどう活かしていけるのか。その本による学びから、どのように世の中全体の理解を深めていくのか。こうしたことに思いを巡らせていくことで、応用のきく知恵が得られ、自己肯定感を高めることができるのではないでしょうか。
嶋田:マイナスの状況をいかにプラスにとらえるかという観点に立つと、 IQ(知能指数)、EQ(心の知能指数)と並んで、AQ(逆境指数)という指標が人材育成において注目されています。米国ハーバード・ビジネススクール客員教授のポール・G・ストルツ博士が提唱したもので、あらゆる逆境に対応するための行動パターンを意味します。現在のように変化が激しく先の読めない時代にこそ、AQを高めることが重要になるでしょう。そのためには、仕事でもスポーツでも、現状よりも大きな負荷を自分に課し、小さくてもいいから成功体験を積んでいく必要があります。
大賀:嶋田さんは普段、ビジネスパーソン向けに色々なテーマの著書を執筆・プロデュースされています。最近のトレンドをつかみたいとき、本からの学びをどのように活用しているのでしょうか。
嶋田:グロービスで経営者教育に携わってきているため、経営全般、経営に関連するリベラルアーツ、そしてSTEM(科学・技術・工学・数学)系の本は定点観測しています。そのうえで、DX(デジタルトランスフォーメーション)やブロックチェーンなど、あるテーマについて学びを深めたいときには、まずはその代表的な書籍や、自分で「面白そうだな」と思う本を読むようにしています。Amazonのレビューや本の目利きによるおすすめも参考になります。「その分野について詳しくなりたいなら10冊読めばだいたいのことがわかる」ともいわれます。しかし10冊を読む時間はなかなか取れないものです。現実的な目線として、代表的な本とその関連書籍をあわせて3冊読むことをおすすめしています。大賀さんはいかがですか?
大賀:あるテーマの本をまとめて買うこともありますが、まずは1冊読んでみて、そこからまた新しいテーマに興味が湧き、別の本を手に取る……ということも多いですね。知的好奇心のおもむくままに読書をしていく中で、自然にその領域について詳しくなるというアプローチが、効率がよいように感じています。
嶋田:読書には色々な意義がありますが、「視座を高める機会になる」というのは、読書の大きな効用だと思っています。たとえば営業職ならば、最初は営業に関連したスキルや知識を蓄積するでしょう。そこから経営人材をめざしていくのなら、早くから経営者の視座を磨かないといけません。たとえば、目の前の業務は「いかに顧客を獲得し、売上を伸ばすか」であっても、「そもそもなぜ、売上目標をこのように設定しているのか?」、「営業部門の全社的な役割は何なのか?」といったことです。また、会社にとどまらず、「社会から見た自分の仕事の意義」を客観視するのもよいでしょう。このように、高い視座から自分の置かれている状況をメタ認知する力を養ううえでも、読書が役立ちます。
大賀:視座の高低にくわえて、歴史の流れという時系列のなかで物事をとらえる力も、読書を通じて養うことができますね。特にリベラルアーツの本を読むことの意義の1つはそうだと考えています。歴史や哲学、科学など、長いスパンをかけて積み上げられてきた学問にふれることで、自分の立場を相対化できるし、歴史の大きな流れのなかで目の前の課題や自分の仕事の意味を見出せるのではないかと思っています。
嶋田:それは非常に大事な読み方ですね。ファイナンスでもマーケティングでも、その起源から現在までの進化をたどっていくことで、思想の変遷が理解できます。さらには、「普遍的に大事とされる本質は何なのか」「どこに限界があるのか」ということが見えてきて、その領域をより立体的に理解することができるはずです。
また、歴史そのものを学ぶ効用として、「自身を鼓舞できる」というのも大きいと思っているんです。とりわけ近代史がそうです。ペリーの開国要求から明治維新という激動の時代を生き抜き、日本の礎を築いてきたイノベーターたち。今「失われた30年」といわれようとも、日本の私たちが経済的に恵まれた生活を享受できているのは、彼らの努力のおかげ。
これは政治にとどまらず学問の研究でもいえることです。過去の研究成果という巨人の肩の上に乗ることで、はるかに見通しがよくなるし、いまの私たちがゼロベースではたどり着けない領域にたどり着くことができる。こうした歴史に触れる際に私たちに必要なのは、先人たちへの敬意の念を抱いて終わりではなく、「では後世のために自分は何を遺せるだろうか?」と考え、アクションを起こすことではないでしょうか。
私は、未来のリーダーとなる学生や受講生に自らの志と生き方を見つけていただく一環として、次のような問いを投げかけることがあります。「将来、あなたは墓碑銘になんと書かれたいですか」。あり余る才能があったにもかかわらず、それを浪費して平々凡々に生きた人として記憶されたいのか。それとも、何らかの分野で果敢に挑戦して、何かを打ち立てた人として記憶されたいのか。もちろん一人の人間ができることは限られています。ですが、何かの分野で自分の旗を立てることなら可能だと考えています。
大賀:読書によって物事への理解が深まることも意味がありますが、最終的には行動が変容しないといけません。そうなると自分が「死ぬ瞬間」を想像し、そこから逆算して「ではいま、どんな一歩を踏み出すのか?」と考えることは、自分を変化させていくための究極的な方法ですね。
嶋田:そうですね。私の場合は、経営者に必要なマインドや知識・スキルを体系的に学べる場を提供することで、日本人の経営リテラシーを高めたいという思いがずっとありました。自分の人生の最後の日から逆算していったときに、まだまだやるべきことがあるなと思えますし、今後もこのミッションに情熱を傾けていきたいという思いを新たにしました。このように、歴史を学ぶことで、未来に目線を向け、自分自身を鼓舞できるのではないでしょうか。
大賀:フライヤーでは、「ヒラメキ溢れる世界をつくる」というミッションを掲げています。ヒラメキを得て、イノベーションにつなげていくために、ビジネスパーソンはどんな本を読み、どんな学びを実践していくとよいのか。嶋田さんの実践されていることをぜひ知りたいと思っていました。
嶋田:おすすめは、思い切って専門とはまったく異なる領域の本を読むことです。イノベーションはやはり「新結合」ですから。私はかつての専門の分子生物学に関する最新論文には、いまでも時々目を通しています。あとは小説などからもビジネスや人生に活かせる示唆を得ることができます。思い切って専門とは違う領域の「本物」にふれて、ぶっとんだインプットをしてみると、意外なヒラメキが生まれやすい。もちろん映画や演劇でもいいですし、大型書店で、自分の専門とは違う棚を見にいくという方法でもいい。大事なことは、固定観念にとらわれず好奇心や純粋な疑問をもち続けることです。大賀さんはいかがですか。
大賀:私が実践しているのは、「評価の高い本」「世の中で話題になっている本」を無心で手に取り、読むことです。読み始めると、やはり多くの人から支持されているだけのことはあって、面白い発見がたくさんあります。良書と呼ばれている本には、ものごとの本質をとらえている示唆が多いと考えています。
ビジネス書の良書にふれ、社会のトレンドを「線」で追う
嶋田:話題書にふれるという意味では、何らかの賞を受賞した本を読むというのはよいですね。たとえば、ビジネス書グランプリの場合は読者であるビジネスパーソンが審査員ですが、受賞作品というのは、その本を選定した人や団体が、「この本をぜひ読んでほしい」と考えて選んだものです。内容が濃密で、学びが多い書籍であることはまちがいありません。
ビジネス書グランプリは次で第6回目を迎えますが、過去の受賞作というのは社会の縮図ともいえます。さかのぼって読むと、「5年前はこういう本が売れていたのか」などと、社会のトレンドを「線」でとらえることもできますね。受賞作の参考文献などを芋づる式に読んで、興味の幅を広げていくのもよいでしょう。
大賀:そんなふうにビジネス書グランプリの受賞作品と向き合っていただけるといいなと思いました。ビジネス書グランプリで大事にしているのは、各部門の良書を通じて「多様性のある社会に対して広く処方箋を提供していく」ことです。ちょうど昨年、ビジネスパーソンに支持されたビジネス書のキーワードは、「多様性の理解」でした。
今の世の中を見渡して、政治や経済などの様々な場面で分断が起きているように感じている人は多いのではないでしょうか。さらには、AIやITの進化を活かして、今まで以上により富を手にする人や、革新的な事業を生み出す人が生まれています。その一方で、堅実に仕事をしている人には、光が当たりにくくなっています。
こうした進むべき方向性を見通しづらい不安定な社会において、自分自身が拠って立つものを本に求めるようになることは、自然な流れだといえます。同時に、人生を主体的に歩んでいくためには、さまざまな立場にある人の複雑性や多様性を理解することが欠かせません。そうした社会の実情・動向を知り、自分なりの人生の指針をつくるうえでも、その時代に選ばれた良質なビジネス書にふれることは、大いに意義があると考えています。
嶋田:各部門の受賞作品は、多くの方が読んでいる本であるため、その本をテーマにした読書会を開いてみるのも、身近な多様性にふれるよい機会になりますね。社内の同僚でも、異業種の知人でもいいので、「こういう気づきや疑問を抱いた」などと、互いの感想を気軽にシェアするだけでも、その本への理解が深まっていく。そうすることで、著者のいいたいことを学ぶだけでなく、自分の理解度や実力も客観的にわかります。さらには、人からも多様な解釈を学び、内省を深める機会が得られるはずです。
【参考サイト】
●ビジネスエリート必読の名著15 特設サイト(https://business-book.jp/meicho15)
●ビジネス書グランプリとは
「読者が選ぶビジネス書グランプリ」は、ビジネスパーソンが「読むべき本」を選出するコンテストで、フライヤーが主催し、グロービスが共催しています。「読者が選ぶビジネス書グランプリ」は、ビジネスパーソンの読書習慣を育てて出版業界を盛り上げたいという思いから創設され、今年度で6回目を迎えることとなりました。
●2021年度投票受付(https://business-book.jp/)
今年もビジネスパーソンが「読むべき」と思った書籍の投票を受け付けています。投票期間は、12月14日(月)~1月8日(金)となります。
大賀 康史
株式会社フライヤー 代表取締役CEO
早稲田大学大学院理工学研究科機械工学専攻修了。2003年にアクセンチュア(株)製造流通業本部に入社。 同戦略グループに転属後、フロンティア・マネジメント(株)を経て、2013年6月に株式会社フライヤーを設立。
著書に『最高の組織』(自由国民社)、共著に『7人のトップ起業家と28冊のビジネス名著に学ぶ起業の教科書』(ソシム)、『ターンアラウンド・マネージャーの実務』(商事法務)がある。
嶋田 毅
グロービス電子出版発行人 兼 編集長、出版局 編集長
東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。