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投稿日:2020年10月19日
投稿日:2020年10月19日
『謙虚なリーダーシップ』―チームメンバーの関係性を育て、未来の課題に挑む
- 中村 直太
- グロービス経営大学院 教員
謙虚なリーダーシップの核は「チームの関係性」
リーダーという単語から、どのような単語を連想するだろうか。「代表」「カリスマ」「才能」「牽引」「資質」--これらの単語は、リーダー個人にスポットライトをあてる。背景にあるのは、個人の力で状況を打開しようと孤軍奮闘するリーダー像だ。
本書が提唱する「謙虚なリーダーシップ」のリーダー像は、そうではない。むしろ、対極に位置する。集団主義で、チームの関係性を大切にする。部下とは業務上のつながりではなく、個人的なつながりを築く。チームとして成果を導くような、協調的なリーダー像だと言える。
謙虚なリーダーシップの核となるのは、ヒエラルキーにおける上下関係やカリスマ性ではなく、「チームの関係性」だ。なぜなら、心から信頼し合い、率直に話ができるグループのなかでこそ、真のリーダーシップは発揮できるからだ。本書は、国家・組織レベルの豊富な事例をあげ、そのようなグループでは、エンゲージメントが高まり、エンパワーメントが進み、アクションの機敏性があがり、創造的でイノベーションを導く活動を生むことができることを示している。
この先、なぜ謙虚なリーダーシップが必要か?
これからの時代の組織運営において、“謙虚なリーダーシップ”が必要な理由を3点あげたい。
1.リーダー1人では課題に対処できない
「英雄がリーダーとしてメンバーを率いる機械のような組織」は過去のものとなった。英雄は自力で問題解決の方法を示すが、複雑な課題を抱える現代においては、どんなに優れていても1人では対処しきれない。加えて不測の事態が連続すれば、なおさら手に負えない。リーダーには、個人的なつながりを介したメンバーから多様な意見を引き出すこと、さらには組織図やヒエラルキーを越境する協業体制を素早くコーディネートすることが求められる。皆さんの職場で一目置かれているリーダーは、既にこのような立ち振る舞いをし、他者の力を引き出しながら成果をあげているのではないか。
2.優秀なメンバーほど謙虚なリーダーシップを好む
キャリアを選べる優れたビジネスパーソンを中心に、自分の価値観を最優先して働く個人が増えている。価値観を蔑ろにしてまで組織や上司に従いたくない、強みに焦点をあて自分を活かしてほしい、職場に喜びや心理的安全性を求めたい。それらが叶わなければ、別の選択肢を考えられる流動性の高い社会になりつつある。有能なビジネスパーソンほど引く手あまたで、その選択を手札に持つ。そのような状況にあって、個々人に目を向け、それぞれの価値観や強みを理解することができるリーダーこそ、優秀なメンバーをチームに留め成果を上げることができるのではないだろうか。
3.分断されやすい環境が生まれている
国籍・年齢・性別・能力などが異なる個人がともに働くダイバーシティの拡がりや、働き方の多様化も見逃せない要素だ。新型コロナウイルスの影響を受け、強制的なリモートワークの浸透、メンバーシップ型からジョブ型へのシフトなど、急速に働き方が多様化している。これらを背景に文化的・空間的・業務的な分断が強まり、旧来の指示命令型組織が機能不全を起こしたとき、その潤滑油となり得るのは謙虚なリーダーシップが育むチームの関係性なのかもしれない。
優秀で個性的なメンバーの力を引き出す土壌をチーム内に育てながら、複雑な未来の課題に挑む。“謙虚なリーダーシップ”は、それを実現する大きなヒントになるだろう。
謙虚なリーダーシップとU理論
謙虚なリーダーシップに、U理論との重なりを見た。
U理論は、マサチューセッツ工科大学のC・オットー・シャーマー博士が提唱した「過去の延長線上にない変容やイノベーションを個人や組織で起こすための原理と実践的手法」を明示した理論だ。その理論の中枢には「ソーシャル・フィールド」という概念が示される。イノベーションの種が芽を出すかどうかは、博士がソーシャル・フィールドと呼ぶ、”社会的な土壌”の質にかかっているという。
謙虚なリーダーシップは、優れたリーダーシップの発現において、個人のリーダーではなく、個々人のつながりに支えられたチームの関係性に注目をする。一方のU理論は、イノベーションの実現において、イノベーションの種ではなく、種を育む土壌(ソーシャル・フィールド)を耕すことに注目をする。
種である「因」が、その発芽と成長を促す「縁」と相まって、「因縁」を結び創造されていく。物事の根本原理にも擬えることができる。
今、優れたリーダーに求められる最も重要な役割が社会にイノベーションをもたらすことだとすれば、この2つの理論が根本原理の上で重なりを持つことは必然なのかもしれない。
参考)『謙虚なコンサルティング』―人を支援するとはどういうことなのか?
『謙虚なリーダーシップ』
著者:エドガー・H・シャイン、ピーター・A・シャイン 翻訳:野津智子 発行日:2020/4/22 価格:1980円 発行元:英治出版社
中村 直太
グロービス経営大学院 教員
慶應義塾大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科修士課程(工学)修了。グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA)修了。
株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア)にて約1,000名のキャリアコンサルティングを経験した後、事業企画にてサービス企画、営業企画、BPRなどを担当。その後、グロービスに入社。経営大学院/グロービス・マネジメント・スクールのマーケティング(学生募集)企画、名古屋校の成長戦略の立案・実行や組織マネジメント、アルムナイ・キャリア・オフィス(卒業生向けサービス企画)や学生募集チームの責任者などを経て、現在は顧客コミュニケーション設計やセミナー開発・登壇、Webコンテンツ企画・執筆など様々な事業推進活動に従事。同時に個人としては、人生の本質的変化を導くパーソナルコーチとして活動。
グロービス経営大学院の専任教員としては、思考系科目『クリティカル・シンキング』、志系科目『リーダーシップ開発と倫理・価値観』に登壇。また、キャリア関連プログラムのコンテンツ開発及び講師を務める。